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名古屋高等裁判所 昭和40年(う)11号 判決 1965年3月18日

被告人 水野令子

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金一、〇〇〇円に処する。

被告人が右罰金を完納することができないときは、金二五〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は名右屋地方検察庁検察官検事築信夫名義の控訴趣意書に記載されているとおりであり、これに対する答弁は弁護人長尾潤名義の答弁書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、これに対し、当裁判所は、つぎのように判断する。

一、控訴の趣意について、

所論は、原判決が本件公訴事実のとおりの事実を認定しながら、被告人の本件所為は未成年者喫煙禁止法(以下喫煙禁止法と略称)第四条にいわゆる「販売」に該当しないから、罪とならないとして、被告人に対し無罪の言い渡しをしたのは、法律の解釈適用を誤つたものであつて、その誤が判決に影響を及ぼすことが明かであるから破棄を免れないというのである。

原判決は被告人の本件所為が喫煙禁止法第四条にいわゆる「販売」に該当しない理由として、「喫煙禁止法第四条を同法第三条並びに未成年者飲酒禁止法(以下飲酒禁止法と略称)等の類似法規の規定と比較検討すると、その重罰の根拠を営業者に対する警告、禁止にあると見るのが妥当であり、従つて同条に使用されている販売なる用語は、少くとも自己の計算において有償譲渡する行為を指称するものと解すべきであり、同条は、被告人に対する右認定にかかる事実の如きをその処罰対象としていないものと解するのが相当であると判示している。

ところで喫煙禁止法の目的は、その第一条に「満二十年ニ至ラサル者ハ煙草ヲ喫スルコトヲ得ス」と規定している如く、未成年者を喫煙の害から保護することに存し、又同法が未成年者保護法規であることは、未成年者に対する罰則がないことからも明らかである。これと同様に、飲酒禁止法の立法目的が、未成年者を飲酒の害から保護することに存し、又同法が未成年者保護法規であることは、同法第一条第一項が「満二十年ニ至ラサル者ハ酒類ヲ飲用スルコトヲ得ス」と規定し、同じく未成年者に対する罰則がないことにより明らかである。すなわち、喫煙禁止法と飲酒禁止法は、その立法目的において、対象こそ喫煙、飲酒とそれぞれ異なるにせよ、未成年者保護法規である点では、全く軌を一にするのである。

然るにその罰則の規定に関し、前者が、その第四条において「満二十年ニ至ラサル者ニ其ノ自用ニ供スルモノナルコトヲ知リテ煙草又ハ器具ヲ販売シタル者ハ十円以下ノ罰金ニ処ス」と規定している点につき、後者が、その第一条第三項において「営業者ニシテ其ノ業務上酒類ヲ販売又ハ供与スル者ハ満二十年ニ至ラサル者ノ飲用ニ供スルコトヲ知リテ酒類ヲ販売又ハ供与スルコトヲ得ス」と、更にその第四条第二項において「営業者ハ其ノ代理人、同居者、雇人其ノ他ノ従業者ニシテ其ノ業務ニ関シ本法ニ違反シタルトキハ自己ノ指揮ニ出テサルノ故ヲ以テ処罰ヲ免ルルコトヲ得ス」とそれぞれ規定して、専ら営業者を処罰の対象としていること並びに前者の第三条第一項において親権者に対する罰則を規定していることからして、前者の第四条の処罰規定に関する趣旨が、後者と同様に専ら営業者に対する警告、禁止にあると見るのは早計であるといわねばならない。けだし一定の立法目的を達成するために、如何なる人、あるいは如何なる行為を処罰規定の対象とするかは、立法政策上及び立法技術上の問題に帰するからである。而して原判決の如く喫煙禁止法第四条の規定による処罰の根拠が、飲酒禁止法第一条第三項、第四条第二項と同様に、営業者に対する未成年者への煙草又は器具の販売の警告、禁止にあり従つて喫煙禁止法第四条にいわゆる「販売」という用語を、「少くとも自己の計算において有償譲渡する行為」を指称すると解することは、同条文の文理解釈としても、首肯しがたいのである。若し夫れ喫煙禁止法第四条にいわゆる「販売」という用語を、原判決の如く解するにおいては、営業者以外の者、すなわち、営業者の代理人、同居者、雇人その他の従業者が、その営業者の営業を補助するために行つた有償譲渡行為は、すべて喫煙禁止法第四条の適用を受けないこととなり、これがため前同営業者以外の者の右行為を規制する方法がなく、ひいては前叙の如き未成年者保護法規としての喫煙禁止法の機能に重大な支障を来すというが如き不合理な結果を醸成するに至るのである。従つて右のいずれの点からしても、喫煙禁止法第四条に関する原判決の前掲解釈には賛同しがたく、同条の法意は、字義どおりに、満二十年に至らない者に、その自用に供することを知りながら、煙草又は器具を販売したものである以上、その営業者であると、将又同営業者の代理人、同居者、雇人、その他いずれの者であるとを問うことなく刑事責任能力がある限り、何人といえども、これを処罰の対象としているものと解するのが相当である。

上来説明のとおりであるから、原判決が本件公訴事実について喫煙禁止法第四条の犯罪を構成しないとして、無罪を言い渡したのは、同条の解釈適用を誤つたものであつて、その誤は判決に影響を及ぼすことが明かであるから、論旨は理由がある。そこで刑訴第三九七条第一項第三八〇条により、原判決を破棄するが、本件は、本訴訟記録及び原裁判所が取調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認めるから、同法第四〇〇条但書により、当裁判所において、更に判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は昭和三九年三月六日頃名右屋市北区金城町二丁目五〇番地富士喫茶店において、金○裕(昭和二三年六月四日生)、○瀬○男(昭和二四年五月二七日生)の両名に対し、夫々同両名がいずれも、満二十年に至らないものであつて、しかもその自用に供するものであることを知りながら、煙草ピースを、右金○裕に対しては一個を、右○瀬○男に対しては二個を、夫々代金一個につき金四〇円の割合で販売したものである。

(証拠の種目)

一、○瀬○男、金○裕、及び水野喜美子の各司法警察員に対する供述調書(ただし金○裕の分は昭和三九年五月二九日附)

一、東区長及び北区長作成の各身上調査照会回答書謄本

一、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書

(法令の適用)

被告人の判示所為は判示金○裕、同○瀬○男毎に喫煙禁止法第四条、罰金等臨時措置法第四条第一項本文に該当し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四八条第二項により、右各罪につき定められた罰金の合算額の範囲内で、被告人を罰金一、〇〇〇円に処し、被告人が右罰金を完納することができないときは刑法第一八条により金二五〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置し、当審における訴訟費用は、刑訴第一八一条第一項但書を適用して、被告人に、これを負担させないこととする。

以上の理由によつて、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 上田孝造 判事 西川力一 判事 斎藤寿)

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