名古屋高等裁判所 昭和40年(ネ)288号 判決 1965年11月30日
控訴人(原告)
清水清明
代理人
江谷英男・外二名
被控訴人(被告)
三桝紡績株式会社
代理人
長井源・外四名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴会社の昭和三八年一一月二九日の第三一期定時株主総会における上田九一を被控訴会社の取締役に選任する旨の決議を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決をもとめ、被控訴代理人は、主文と同旨の判決をもとめた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用ならびに書証の認否≪省略≫
理由
当裁判所の判断によるも、控訴人の請求は失当として棄却すべきものと考える。その理由については、左のとおり附加補正するほか、原判決の説示するところと同じであるから、原判決の理由記載をここに引用する。
一、亡清水千代二郎のなした財団法人清水育英会の設立を目的とする寄附行為についての遺言の効力が、右遺言後になした三桝育英会設立を目的とする生前寄附行為によつて失効させられたかどうかについて考えてみるに、財団法人の設立者の寄附行為は法人を設立しようとする効果意思と、一定の財産をこれに帰属させようとする効果意思とを内容とする相手方なき単独行為であつて、一定の財産の出捐と寄附行為書の作成によつてなされるが、それだけでは、その法律効果を生ずるものではなく、主務官庁の許可をもつて財団法人の設立という効果が発生するものであるから、右許可は寄附行為のいわば法定条件をなすものといえる。しかして、この場合、右のような停止条件附処分行為はたとえ遺言と抵触していても、そのままでは民法第一〇二三条二項の処分行為には当らない――条件が成就してはじめて遺言失効の効果を生ずる――と解すべきである。本件について、これをみれば、生前処分たる亡清水千代二郎のなした前記財団法人三桝育英会設立許可申請については主務官庁の許可がないことは弁論の全趣旨に徴し当事者間に争いのないところであるから、本件遺言は取消されたことにはならず、現在もなお有効に存続しているものというべきである。≪後略≫(成田 薫 神谷敏夫 辻下文雄)