名古屋高等裁判所 昭和40年(ネ)425号 判決 1965年12月20日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張および立証関係は次に付加するほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
第一、控訴代理人の陳述
一、訴外黒きそに対し被控訴人が本件各根抵当権設定について代理権を授与していたことの証拠として乙第八号証の記載は重要な意味を有する。すなわち乙第八号証は本件の発端に被控訴人が発した通告書であつて、その中に「その大部分は私の承認なくして為したものであり云々」と記載してあることは、金額につき金一九〇万円も融資を受けるということについては承認していなかつたという意味であり、反面担保に供することは承認していたことを自認しているものというべきである。
二、表見代理の主張に関して。控訴人は本件各根抵当権設定契約当時は営業を始めて間もない頃であつたので、本件各根抵当権設定、同登記手続については、書類の作成その他一切を司法書士に委せていたのである。したがつて右根抵当権設定手続については控訴人には手落がなかつたのであるから、黒きそに代理権ありと信じたことについて過失はない。
第二、立証関係(省略)
理由
当裁判所は、当審における証拠調の結果を参酌し更に審究した結果、被控訴人の請求は原判決が認容した限度において理由があると判断する。その理由は次に付加するほか原判決に説示するところと同一であるからこれを引用する。当審証人林孫琪の証言および当審における控訴本人尋問の結果をもつてしても右心証を左右するにいたらない。
一、乙第八号証には控訴人主張のような文言が記載されているが、それを控訴人主張のような意味に解することは早計にすぎ、同号証全体の文面を検討するならば、結局本件各根抵当権設定が無効であることを通告している書面であるにすぎないことが判明する。したがつて、右文言のみをとらえて被控訴人が本件各根抵当権設定を承諾し、黒きそに右について代理権を授与していたと解することはできない。
二、控訴人は、本件各根抵当権設定手続はすべて司法書士に委せてあつたのであるから、手落ちはなく、黒きそに代理権ありと信じたことに過失はないと主張するのでこの点を検討してみる。黒きそに代理権ありと信じたことに過失あつたことは、単に司法書士が権利証のないのを看過したことのみによつて認定したのでなく、控訴人および控訴人の業務を補助していた訴外林孫琪の各手落ちを総合して控訴人に過失ありと認定したものであり、控訴人の該主張は的はずれといわなければならない。まして民法第一〇一条の趣旨から見て、控訴人の委任したる司法書士に過失がある場合には本人たる控訴人に過失ある場合と同一に論じて法律行為の効果を判断すべきなのであるから、前記主張の理由のないことは明白である。
よつて、右と同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。