名古屋高等裁判所 昭和41年(う)644号 判決
判決理由〔抄録〕
所論にかんがみ、本件記録を精査し、さらに、当審における事実調べの結果をも参酌して検討すると、原判決挙示の各証拠によれば、本件事故は、被告人の業務上の過失により惹起されたものであって、決して、被害車両の一方的過失のみによって発生したものではないことを明認することができる。すなわち、原判決挙示の各証拠を総合すれば、被告人は昭和四〇年一一月二三日午前二時四〇分ごろ原判示のごとき大型貨物自動車を運転し、原判示の速度で、原判示の道路を東進中、本件事故現場の交差点(同所において東西、南北に交差する各道路は、それぞれ巾員約五〇米の舗装道路である。)にさしかかったが、このとき、自己進路の信号は、黄色点滅であったから、該交差点に進入して同所を通過するに際しては、同所附近の交通、特に該交差点に進入する南進車、北進車の有無と、その動静につき終始充分な注意を払うべき(当時、南北進路の信号は赤色点滅であったが、しかし、このことの故に、南進車、北進車の有無とその動静を充分に注意すべき被告人の注意義務が阻却されるものではないことは、多言を要しない。)はもちろんのこと、もし、かくのごとき車両のある場合には、これら車両との接触、衝突等の事故が発生するのを未然に防止するため、いつでも停止、避譲の措置を講ずることができるよう、適宜その速度を減速して進行すべき業務上の注意義務(なお、原判決は、さらに、この減速義務の程度について敷衍し、これが時速二〇粁位である旨を具体的に明示しているが、そもそも、かかる減速の程度は、自車の交差点進入前後における四囲の交通状況に応じて考慮せらるべきものであって、ひっきょう、危険防止のために、必要かつ充分な程度でなければならないのはもとよりであるが、これを一律かつ固定的に、時速二〇粁位として、具体的数値をもって指摘することは、もとより正当ではない。)があること明らかであるのに、右交差点直前において、自車の速度を時速約四〇粁に減速するとともに、当時同交差点に進入せんとしていた北進車が、その直前において一時停止するのを確認したのみで、自車が該交差点に進入してからは、前記のごとき注意義務を懈怠し、特に右方から進行してくる北進車の有無とその動静には、ほとんど注意を払うことなく、漫然前記四〇粁の時速で進行を継続した過失により、自車が同交差点中央附近に至った際、右方より時速七〇粁ないし八〇粁の速度で北進してきた原判示の軽四輪自動車を、自車の右前方約五米の至近距離において始めて発見し、急きょ停止しようとしたが及ばず、自車右側前部を、前記軽四輪車に激突させ、よって原判示のごとく前記軽四輪車の運転者兼子栄誠、並びに、その同乗者三名を全員死亡するに至らしめたこと、右交差点は夜間でも交通量の多い市街地に位置し、同交差点の各隅にはそれぞれ二基の街路灯が附近を照明しており、被告人において、右交差点に進入することあるべき北進車その他の車両との衝突を回避、防止するため、これら車両の有無や動静を望見、明認するのには何らの妨げもない明るさであったのみならず、被告人の前記進路からみれば、同交差点の南側を見とおすのに、特段の障碍のなかったことも明らかであるから、もし、被告人が、前記のごとき注意義務を充分に尽くし、同交差点に進入することあるべき北進車の有無、動静を終始注視していたとすれば、被告人は、前記被害車両との接触の危険性を、遅くとも、該車両が、同交差点手前の横断歩道を越え該交差点への進入を開始せんとした時期において予見しうべきものであったということができ、しかも、被告人が、このとき直ちに自車を制動、避譲するなど事故防止のための措置を講じていたとすれば、同交差点の南北、東西の各道路の有効巾員及び被害車両の進行速度、位置等に照らして、本件のごとき衝突事故の発生を未然に防止しうべきものであったことは、極めて明らかであることが認められ、本件記録を精査し、当審における事実調べの結果を検討しても、以上のごとき各認定を覆えすべき証拠は存在しない。
されば、本件事故が、被告人の業務上過失によって発生したものであることは、まことに明らかであって疑を容れないところというべきである。もっとも、原判決挙示の各証拠によれば、本件被害車両の運転者は、その進行方向の信号が赤色点滅であったにもかかわらず、これを無視し、交差点の直前においてなすべき一時停止の義務を怠り、かつ、時速七〇粁ないし八〇粁の高速度で、同交差点に突入し、北進したものであって、被告人車両の動静に対する注視をも怠ったことなど非常に高度な過失をおかしたものであることが認められるが、被害車両の側に、かくのごとき過失の存在することの故をもって、被告人の前示過失を否定すべき根拠となしえないことは、極めて明らかといわなければならない。