名古屋高等裁判所 昭和41年(ネ)700号 判決 1967年7月21日
控訴人 各務米次郎
被控訴人 国
代理人 松沢智 外一名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴人の仮差押解除通知懈怠に基づく損害賠償の請求を棄却する。
控訴費用及び前項の訴に関する訴訟費用は控訴人の負担とする。
事 実<省略>
理由
一、控訴人が別紙目録記載の物件に対し昭和三八年五月一五日仮差押の執行をなし、次いで同年七月三日同物件に対し仮差押の照査手続をなしたこと、及び執行吏樋口次郎が昭和三八年七月二九日右照査手続及び別紙目録番号一五の物件を除くその余の物件に対する仮差押執行を解除したことは、いずれも当事者間に争いがない。
二、(証拠省略)を総合すれば、控訴人は右仮差押及び照査手続をなした後、右仮差押物件が工場抵当権の客体となつていることを発見したので、第二回仮差押申請の保証金を取戻すため昭和三八年七月二二日頃執行吏樋口次郎に対し照査手続の解除を申請したところ、同執行吏は右申請に基づき照査手続を解除すると共に、右仮差押は工場抵当法第七条第二項に違反して無効であると解釈し、右仮差押についても控訴人の解除申請があつたものとして、別紙目録記載の番号一五の物体を除くその余の物件に対する仮差押を解除したことが認められる。右証人樋口次郎の証言中右認定に反する部分は措信しない。
してみれば、右仮差押の解除は控訴人の申請に基づかずして同執行吏が職権を以つてこれをなしたものと解せざるを得ない。
三、工場抵当権の客体となつている機械器具に対する仮差押は、土地又は建物と共でなければこれをなすことを得ないことは工場抵当法第七条第二項によつて明らかであるけれども、右規定に反してなした仮差押も当然に無効ではなく、工場抵当権者から執行方法に関する異議の申立又は第三者異議の訴を提起し、これに基づいて裁判所が右仮差押執行不許の裁判をなしたとき、初めてこれを取消すことができるものである。従つて執行吏樋口次郎が右裁判を俟たずして職権を以つて右仮差押を解除したことは違法であるというべきである。
四、然し(証拠省略)によれば右仮差押物件(但し別紙目録番号一五の物件を除く)は訴外伊藤天祐の所有にして訴外舘辰雄のために昭和三八年五月六日設定された工場抵当権の客体となつていることが認められるから、右訴外人等より右物件に対する強制執行に対し異議が申立てられることは当然予想できることであり、従つて仮りに樋口次郎が右仮差押の解除をなさなかつたとしても、脱退原告においてこれを競売し、その競売売得金を取得し得られたか否かは甚だ疑問である。又仮りに右訴外人等より異議申立がなく、競売手続が完結し脱退原告において競売々得金を取得したとしても、それは第三者の所者にして且つ第三者が抵当権を有する物件を競売して得た弁済であるから、右訴外人等より不当利得としてその返還を請求せられる危険が多分にある。してみれば脱退原告は本来右仮差押物件から弁済を受けることのできない立場にあるものであるから、右仮差押が不当に解除されたとしても法律的には脱退原告に何等損害がないものといわなければならない。
よつて右仮差押が不当に解除されたことを原因とする控訴人の本件損害賠償の請求は理由がない。
五、控訴人は、執行吏樋口次郎が右仮差押解除の通知を懈怠したため、脱退原告各務幾子において金五〇万円の損害を被り、被控訴人に対し同額の損害賠償債権を取得したので、同脱退原告は右債権を控訴人に譲渡し、その旨を被控訴人に通知したと主張するが、右債権譲渡の通知がなされたことを認めるに足る証拠はない。してみれば仮りに控訴人主張の損害賠償債権が発生し、控訴人がこれを譲受けたとしても、控訴人はその債権譲受を以つて被控訴人に対抗することができないから、その余の請求原因事実を要接するまでもなく、控訴人の右損害賠償の請求はこれを採用することができない。
六、以上の理由により控訴人の仮差押不当解除に基づく損害賠償の請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴は理由がない。よつて民事訴訟法第三八四条に則り本件控訴を棄却すべきものとする。
又控訴人が当審において主張した仮差押解除通知懈怠に基づく損害賠償の請求も失当であるからこれを棄却すべきものとする。
よつて控訴費用及び当審における右請求に関する訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 神谷敏夫 松本重美 大和勇美)
別紙目録(省略)