大判例

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名古屋高等裁判所 昭和42年(う)10号 判決

判決理由〔抄録〕

そこで、叙上の事実関係に基づき、被告人の過失の有無について検討してみるのに、被告人が交通整理の行なわれていない、交通の頻繁な本件交差点において、右折の途中、交差点中央部で一旦停車した際には、左側方からくる直進(南進)車両の列が連続していたのであり、車道中央にある市電軌道寄りに進行してきた前記パブリカ車が被告人の車の斜め左前方に停止し、被告人に先に進行するよう合図した際にも、パブリカ車と東側歩道との間の車道上から比較的幅員の狭い車両が直進してくることは、十分に予想される状況であったところ、被告人の停車位置からは、斜め左前方に停止中のパブリカ車に視界を遮ぎられ、その蔭になって、交通の安全を確認することは、きわめて困難であったのであるから、かような場合、パブリカ車の合図により、再び発進し、同車の前面を通過して進行しようとする自動車運転者としては、同車の左側方(東側)から進出してくる車両とのいわゆる出会いがしらの衝突等の危険の発生を未然に防止するため、最徐行のうえ左方を注視し、安全を確認しつつ進出すべき注意義務があること、まさに原判決の判示するとおりである。被告人は、時速約二粁の低速で発進しているのであるから、右最徐行義務は、十分に尽くしているが、本件被害者の自動二輪車がパブリカ車の左側方から進行してくるのを、もっと早く、従ってもっと手前で発見することができたと思われる状況であるのに、接触寸前になるまでこれを発見することができなかった点から考えて、左方を注視し、安全を確認しつつ進行すべき義務を十分尽くさなかった過失があるものといわざるを得ない。原判決が被告人の過失と認定したのも、まさに、この点であって、時速約二粁の低速で進行したことをとらえて、弁護人の所論のごとく、最徐行義務違反の過失があると認定しているものでないことは、原判文に徴し、きわめて明白である。

弁護人は、被告人の自動車の南進車両(直進車)に対する優先通行権を主張するけれども、すでに認定した本件の具体的状況のもとにおいて被告人が自車に進路を譲るべく停止したパブリカ車及びその後方に続いて停車した他の車両に優先して、右折進行することができることはもちろんであるが、パブリカ車の左側方、東側歩道寄り車道を南進中の直進車両との関係において、右パブリカ車が被告人に進路を譲ってくれたからといって、被告人において直ちに優先通行権を取得するものと即断することはできないのみならず、仮りに、被告人に優先通行権があったとしても、自車の斜め左前方に停止したパブリカ車に視界を遮ぎられ、同車の左側方からくる他の直進車両の動静を確認することはできず、右直進車両の側でも、同様、右パブリカ車に視界を遮ぎられ、右折する被告人の自動車の動静を確認できない状態であったのであるから、相互に交通の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があることに変りはないものといわなければならない。

さらに、弁護人は信頼の原則の適用を主張するけれども、同原則は、自動車運転者がその遵守すべき注意義務を忠実に履行したことを前提とするものであって、本件被告人のように、自己にも右注意義務違背の過失があるような場合には、相手方に過失があるからといって、右原則の適用を主張して、過失責任を免れることはできないものと解するのが相当である。そして、前段認定の本件の事実関係に徴すれば、本件被害者の側にも、交差点における徐行義務及び右方の安全確認義務に違反して漫然進行した過失があることは明らかであるが、右のような不用意な南進車両が左方から進出してくることが十分に予想される状況であったことは、すでに説示したとおりであって、被告人にも徐行義務及び左方の安全確認義務があり、被告人に右後者の義務に違反した過失があること、前示のとおりである以上、本件に信頼の原則の適用を論ずる余地はないものといわなければならない。

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