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名古屋高等裁判所 昭和42年(う)566号 判決 1968年4月11日

本店所在地

名古屋市中村区鷹羽町一丁目二三番地

医療用及び家庭用薬品類、化粧品等販売業

マツオカ薬品株式会社

右代表者代表取締役

松岡政勝こと

劉鎬

本籍

韓国慶尚南道咸安郡法守面大松里一一三九

住居

名古屋市昭和区山里町一一〇番地

会社役員

松岡政勝こと

劉鎬

昭和五年八月一二日生

右両名に対する各昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法違反被告事件につき、昭和四二年九月一四日名古屋地方栽判所が言い渡した有罪判決に対し、被告人両名よりそれぞれ適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は検察官船越信勝関与の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人石原金三名義の控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここに、これを引用するが、その要旨は、原判決の量刑は重きに過ぎ不当である、というのである。

よつて、本件記録を精査し、証拠により認め得る本件犯行の動機、態様、被告人会社の経営規模及び業態、脱税金額等諸般の情状を勘案すると、犯情は決して軽くないのであるから、原判決の量刑(被告人会社に対し罰金三〇〇万円、被告人劉鎬に対し懲役一年(執行猶予三年)及び罰金一〇〇万円)は相当というほかはない。所論にかんがみ本件後重加算税等すべて完納したこと。その他被告人らの利益の情状と認め得るものをすべて斟酌しても、右量刑に重すぎるとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三九六条に則り、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小淵連 裁判官 村上悦雄 裁判官 西村哲夫)

昭和四二年(う)第五六六号

控訴趣意書

法人税法違反

被告人 マツオカ薬品株式会社

同 松岡政勝こと

劉鎬

頭書被告事件について、左の通り控訴趣意を提出します。

昭和四二年一一月二七日

右弁護人 石原金三

名古屋高等裁判所刑事等二部 御中

原判決は刑の量定が著しく重きに失して不当であり、破棄されるのが相当である。

原判決は被告人劉鎬が被告人マツオカ薬品株式会社の業務に関し、昭和三七年七月一日より同三八年六月三〇日までの事業年度において、その法人所得を隠匿し、過少申告をして金六七七万二、一七〇円の法人税を免がれた事実を認定して、被告人劉に対し、懲役一年(三年間刑執行猶予)及び罰金一〇〇万円也に処し、被告人マツオカ薬品株式会社に対して、罰金三〇〇万円也を科する言渡をなしたが、右量刑は左記理由により著しく重きに失するというべく、その理由を次の通り主張する。

(一) 被告人劉の所為により、被告人会社が金六七七万円余の法人税逋脱をするに至つたが、刑罰をもつて臨むこの種事件としては、その逋脱額において金額一、〇〇〇万円を遥かに下廻るもので、必ずも多額の事件とはいえず、むしろ少額の部に属するものといえる。

(二) 而して国税逋脱犯罪については、国税当局の長期間にわたるきびしい査察調査により、その逋脱の実態が悉く究明され、(関係個人の衣服、娯楽品等の購入等まで当然調査せられた)所得の認められる限り、厳密な課税を受け、且つ重加算税の罰則を適用せられること当然である。

しかし本件では、すでに昭和三八年一一月、名古屋西税務署の特別調査を受け、多額の更正決定を受け、本税・加算税を納付済みのものであつたのにかかわらず、昭和四〇年の査察調査の結果、さらに前記の更生を洩れた所得があつたために、ここに当初の確定申告を基準としてさきに更生せられた分をも含め、本件告発訴追を受けるに至つたものであつて、このような場合、本件税度の金額であれば、あえて訴追を加えなくても行政上の再更正処分で徴税加罰すれば十分でなかつたかと思料されるのである。

(三) 本件逋脱事犯は被告人劉が企業意欲にもえ、ひたすら店舗をふやし会社基礎を確立する意図の行き過ぎに原因があるのであり。(被告人の昭和四〇年一〇月六日付質問てんまつ書末尾部分)直接的には個人営業を会社にした後間がなく、経理・税務の事務的整備の不安全と軽視や、業界の取引慣行(いわゆるバツタ売りなど)や、父親喜三郎の管理する駅西店の掌握ができなかつたことや、等々の理由があつたことと同時に、一方急速に売上が伸び、被告人をして一層営業のみに駆り立てたことが相まつて、この誤りを犯かさせたと認められるが、被告人は率直に事実を認め、この事犯を通じ深く反省し、被告人会社をして人員を充実し、組織を整備して二度とかかる脱税が行われないような仕組みにしたものと思料される。(被告人の公判廷における供述)

被告人としては、自己の全身全霊・全財産を企業発展に打込み、今日の盛業を招いたが、記録にみられる通り、被告人若しくは、会長の父喜三郎・常務取締役の弟秀男等が、いずれも未だみるべき個人資産もない程で、これを一面よりみれば、被告人会社が発展し、利潤を挙げることは、将来その営業・納税を通じ、国家社会に貢献するところ大きいものがあるといえるのである。

(四) しかも原判決では、検察官求刑通りの量刑をしているが、被告人等に対し、前記各情状を考慮し、且つ特に次の事情を斟酌すれば、少くとも検察官の求刑に対し、これを減刑した量刑がなされなければ、到底首肯し得ない。

すなわち、原審は弁護人が主張した。栄町店の賃借にかかる東洋観光株式会社に対する権利金の償却を、五年間より二年間に改め、正当な認定をし、その結果所得金額において金一八〇万円、税額において金六八万四、〇〇〇円、すなわち、それぞれ約一〇パーセントの減額を認めたのである。従つて、この償却の認定に関する限り、検察官はその判断を誤つていたのであつて、求刑が逋脱額を重要な基準としている限り、誤つた数額を前提として不当に重くなされたものというべく、原審がこれを黙過し。漫然求刑通りの量刑をなしたのは、公判廷において被告人等が、殊更事実を否認し、反省の態度がみられないとか、その他特別悪質な犯情があらはれたとかの事情があれば格別、そうでなくて被告人等は率直に事実を認め、反省悔悟している本件としては、被告人等に

とつてまことに苛酷に過ぎるのであり、被告人等に対する犯情を酌量すべきものがあると思料する。

以上、各諸点を綜合考慮すれば、被告人等に対し、少くとも原判決の量刑を訂正し、その罰金額はこれを減刑するのが相当であるから、須らく原判決破棄の上、更に適正な御判決を仰ぐ次第である。 以上

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