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名古屋高等裁判所 昭和42年(く)29号 決定 1967年9月23日

少年 N・K(昭二三・九・七生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人弁護士来間隆平作成名義の抗告理由書に記載されたとおりであるから、ここに、これを引用するが、その要旨は、原決定の処分が著しく不当である、というのである。

そこで、案ずるに、本件少年保護事件記録および少年調査記録によれば、少年は、二輪免許、軽免許、普通免許を有し自動車の運転業務に従事していたものであるが、昭和四一年一一月○○日午後〇時一〇分ごろ自家用乗用自動車岐○△○○○○号を運転し、寝屋川市大字○○○×××番地先国道一号線路上を南から北に向い時速五〇粁の速度で進行中、左前方約二〇米を行く先行車が、その前にある横断歩道を西から東に向い手を上げて歩行横断している○中○一(当時五八年)を認め徐行停車したが、このような場合、これに追随する自動車運転者は、先行車の動向、ひいては横断歩道上の歩行者の動静等を注視し、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、漫然同一の高速度で進行したため、右横断中の同人を前方約一二米に接近して始めて発見し、直ちに急制動の措置をとつたが及ばず、自車の前部中央附近を同人に衝突させて同人をその場に転倒せしめ、因つて同人に対し骨盤骨折、左腓骨骨折、左脛骨亀裂骨折等により加療約六ヵ月を要する傷害を負わせたものであるというのであつて、その罪質は極めて悪質であるのみならず、少年は、右非行の以前にも(一)昭和四一年五月○日消音器不備軽二輪運転、(二)同年九月○日軽二輪追越違反、(三)同年一一月○○日普通乗用車駐車違反の非行を犯しているほか、その後にも、(四)同年一一月○○日軽四輪免許条件違反、(五)同年一二月○○日普通乗用車速度違反、(六)同四二年三月普通貨物速度違反の非行を犯し、(五)については罰金八、〇〇〇円、(六)については罰金七、〇〇〇円の処罰をうけているのであつて、右短期間内に少年が道路交通法違反の非行を反復累行している事跡に徴すれば、少年の非行化的傾向ないし反社会的性格が顕著に看取されるのである。加えて、鑑別の結果によれば、少年は、智能は準正常であるが、意志面の成熟度が低く、弱志、無気力、衝動性が強く、精神内容も責任観、道徳観に乏しいことが指摘されているので、後記不良交友にかんがみると、再非行に陥る虞れなしとしないことが窺われる。他方、少年は両親の養育の下に中学校を卒業後、名古屋市内の○○高校に進学したが、不良交友、盛り場徘徊などを覚え僅か二ヶ月で同校を退学し、その後、板金工場に住込工員として働いたが、昭和四〇年四月これを退職し、以後父が会社組織で営む広告マッチ、割箸販売の家業を手伝い今日に至つたものであるが、依然非行歴を有する者との交友が絶えず、父は、交通事犯の前科多数を有し、少年の育成についての見識を欠き、為すところなく、むしろ少年と共に放縦な生活に流れ、母は家事に忙しく少年の補導に手が廻らないので、これに少年の健全な保護、育成を期待することは困難であることが認められる。所論は原決定をなした裁判官の予断と悪感情に基く事実誤認を主張するが、これを認めるに足りる資料はない。そこで、以上、少年の資質、保護者の保護能力など諸般の事情に照らすと、この際少年を施設に収容保護して規律のある団体生活の下に強力な矯正教育を施し、その有する負因を除去して社会適応性を涵養することが、適切妥当な措置と認められる。しからば、これと同趣旨に出て、少年を特別少年院に送致する旨決定をした原裁判所の処分はまことに相当な措置であるというべく、それ故、論旨は、その理由がない。

よつて、本件抗告は理由がないから少年法第三三条第一項、少年審判規則五〇条によりこれを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 坂本収二 裁判官 藤本忠雄 裁判官 福田健次)

参考 原審決定(岐阜家裁 昭四二(少)三二六号 昭四二・八・一五決定)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

第一非行事実

昭和四二年一月二〇日付司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実のとおりであるから、これを引用する。

第二適用法令

刑法二一一条前段

第三要保護性

一 少年の当裁判所における非行処分歴は別紙一覧表記載のとおりであつて、すべて道路交通事犯である。

二 本件非行は、左前方走行の他車が横断歩道の手前で停車したのを現認しながら徐行もせず時速約五〇粁のまま横断歩道に突入し折から横断歩道の左から右へ手を挙げて横断中の歩行者をはねとばして六ヵ月の加療を要する骨盤骨折等の傷害を与えた、というのであつて、悪質かつ重大である。

三 かかる重大事犯を惹起しながら、なおも反省するところなく、短期間に別紙一覧表(4)ないし(6)の交通違反を累行したところからこれを見れば、少年には交通法規遵守の観念などいささかも存しないものの如く、もはや交通事犯の常習者と化した観があつて、その犯罪的傾向は顕著であるというべく、刑事処分をもつてしてもこれを阻止するのに何ら効果を期しえないものといわなければならない。

四 少年のこのような犯罪的傾向は、対人関係において共感性や思いやりに欠けて冷く、その思考は視野狭く弾力性・細心さに欠けて反省心乏しく、忍耐力にも欠けるというその資質に起因することは多言を要しないところであるが、同時にまた、そのおかれた環境がこれを支持し助長し来つたことを看過してはならない。すなわち、少年は昭和三九年六月高校一年中退後名古屋市内の自動車鈑金工場に工員として住込み稼働し、同四〇年四月退職して、父Hの営む広告マッチ・割箸等の販売を手伝うことになつて現在に至つたものであるが、その得意先が喫茶店・バー・キャバレー等のいわゆる水商売に多いところから、父Hは生来我ままで派手好きなこともあつて、これらの関係者と享楽にふける遊び人で、交通事犯の前科多数あり、この父と行を共にする少年が派手で享楽的な生活になじみ、責任観念を失つて即時的に欲求の充足を求めていくのはむしろ自然の成行きであつたというべく、このような生活態度が自動車運転にあらわれるとき、それがいかなる結果をもたらすかは推測に難くないところであろう。

五 このように見てくると、少年が父Hとともに家業に従事する限り、少年の前記のような犯罪的傾向を矯正し除去することはとうてい不可能であると思料されるところ、父Hは本件審判廷において誓約書なる書面(調査記録に編綴)を提出して、その監督不行届きを反省し、少年に対しては今後事務および内部作業に従事させ、成年に達する迄決して自動車を運転させない旨誓約するのであるが、この言は全く信用に値しない。なぜなら、少年が自動車を運転して配達・集金等にあたるのでなければその業務に支障を来すことは父Hの認めるところであるし、なによりも、父とともに病的な自動車狂とも見える少年が自らまたは父の言に従つて自動車の運転を止めるとはとうてい考えられないし、成年に達する迄運転しなければよいというものでもないのであつて、このような言辞を弄するところに、むしろ保護者としての無自覚・無責任な心情がうかがえるものというべく、父Hが知合いの当裁判所家事調停委員○田○三を介して担当調査官に対し少年の身柄釈放方を求め、拒否されるや少年係書記官に対して執拗に同旨の陳情を続けたことを併せ考えると、右書面の提出は右○田の示唆により専ら収容処分を免れようとの意図に出でたものにすぎないと思料されるからである。

六 以上の次第で、少年に対してはこの際施設に収容して規律ある団体生活と強力な矯正教育を施し、もつてその責任観念を喚起して社会人としての自覚を促す必要があるので、少年法二四条一項三号・少年審判規則三七条一項・少年院法二条により、少年を特別少年院に送致することとして主文のとおり決定する。

(裁判官 金野俊雄)

別紙

非行処分歴一覧表

非行年月日

非行

処分年月日

処分

備考

(1)

四一・五・〇

軽二輪消音器不備

四一・六・四

審判不開始

(2)

九・〇

軽二輪追越違反

一二・二四

同右

訓戒

(3)

一一・〇〇

普通乗用車駐車違反

四二・二・二八

同右

講習

(4)

一一・△△

軽四輪免許条件違反

同右

同右

(3)に併合

(5)

一二・〇〇

普通乗用車速度違反

四二・二・一七

検察官送致

罰金 八、〇〇〇円

(6)

四二・三

普通貨物速度違反

五・三〇

同右

罰金 七、〇〇〇円

参考 昭和四二年一月二〇日付司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実

被疑者は自動車運転者であるが、昭和四一年一一月○○日午後零時一〇分ごろ、自家用普通乗用自動車岐○△○○○○号を運転し、寝屋川市大字○○○×××番地先国道一号線の交通整理の行われていない交差点付近第二通行帯を南から北に向い時速約五〇キロメートルで進行中、左前方約二〇メートルの地点を徐行して進行する車両を認め、その直後、同車両が横断歩道の手前で停車したが、このような場合自動車運転者としては前車が横断歩道の手前で停車した際は歩行者が横断歩道を通行していることが当然予想出来るから先行車に追従停車するかまたは徐行して歩行者の動静に充分注意し事故の発生を未然に防止しなければならない業務上の注意義務があるのに之を怠り、歩行者が横断していないものと軽信し漫然とその儘の速度で進行した過失により折から横断歩道上を西から東に向い、手をあげて横断中の○中○一(五八歳)を左前方約一二メートルに近接して始めて気付き、危険を感じ直ちに急制動の措置をとつたが及ばず自車の前部中央を被害者に接触転倒せしめ、よつて同人に骨盤骨折、左腓骨骨折、左脛骨亀裂骨折等に依り、治療約六ヵ月間を要する傷害を負わせたものである。

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