名古屋高等裁判所 昭和42年(ラ)163号 決定 1968年1月25日
抗告人(債務者)
株式会社鈴木守雄商店
代理人
田島好博
相手方(申立人)
真柄株式会社
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告代理人は、「原決定を取消す。相手方の破産申立を棄却する。破産申立費用並びに抗告費用は相手方の負担とする。」との裁判を求め、抗告理由として別紙のとおり述べた。
よつて案ずるに、本件記録によれば、相手方の破産申立債権は金四三万一、〇〇六円及び内金一四万七、〇〇〇円に対する昭和四二年六月二二日以降、金二八万四、〇〇六円に対する同年八月二二日以降各完済に至るまでの年六分の割合による遅延損害金であることが明らかである。
ところで抗告代理人提出にかかる疏明と原審並びに当審における抗告会社代表者審問の結果によれば、つぎの事実が認められる。すなわち
相手方の右破産申立債権のうち金三二万一、〇〇六円は昭和四二年三月二三日相手方より申立外マルナン株式会社に債権譲渡され、抗告会社と申立外会社との間において相殺決済され、残額一一万円については相手方よりシャルマン株式会社に債権譲渡がなされたものの、右契約は解除され、抗告会社の経理担当者竹中裕において抗告会社代表者に無断で昭和四二年九月二八日名古屋法務局一宮支局に金一一万円及びこれに対する同年八月二三日より同月三〇日まで年六分の割合による損害金一四五円を抗告人の名において弁済供託した。しかるにこの事実を知らなかつた抗告会社代表者は原審における審問に際しこれを否定したが、その後の調査により右のような実状が判明したのでその無権代理行為を追認することとし、昭和四二年一〇月三一日付内容証明郵便で相手方に対し右供託を追認する旨の意思表示をなし、右郵便は翌一一月一日相手方に到達したのである。
右事実によれば、本件破産申立の基本債権は金一一万円残存していたところ、申立外竹中裕の無権代理行為による供託を抗告会社において追認したことにより、右債務は消滅したものというべきである。
抗告代理人は、右抗告会社の追認により債務弁済の効力が供託時に遡及する旨主張するが、破産宣告後追認がなされても、その債務消滅の効力は破産宣告前に遡及し得ないものと解しなければならない。けだし無権代理行為追認の遡及効は第三者の権利を害することを得ない(民法第一一六条但書)ことよりみるも、すでは総債権者のためになされる破産宣告を失効せしめるがごとき追認の遡及効は否定さるべきであるからである。
もつとも、破産宣告後と雖もその確定前においては破産申立債権が弁済されることによつて破産申立は失当に帰する筋合であるが、それは他に破産債権の届出がない場合に限ると解しなければならない。してみると本件においては他に破産債権の届出がなされており右届出が撤回されたことの疏明の提出がないから、破産宣告を取消し得ないものというべきである。
よつて本件抗告は理由がないから、民事訴訟法第四一四条、第三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり決定する。(成田薫 布谷憲治 黒木美朝)