名古屋高等裁判所 昭和42年(行コ)5号 判決 1967年6月29日
控訴人(原告) カスミ自動車合資会社
被控訴人(被告) 名古屋陸運局長
訴訟代理人 川本権祐 外四名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が訴外株式会社富士交通に対し昭和四一年四月五日認証番号第二八六七号をもつてなした自動車分解整備事業の認証は、これを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張は、控訴人において、「本件認証は控訴人がその自動車分解整備事業の事業場として認証を受けた本件土地およびその地上家屋を更に訴外会社に対し同会社の事業場として二重に認証をした違法がある。」と附加して陳述したほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
(証拠省略)
理由
一、行政処分の取消訴訟においても本案審理の前提要件として訴の利益があることが必要であるし、更に訴の利益がある場合でも、原告は自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として行政処分の取消を求めることができないことは、行政事件訴訟法第一〇条第一項の明定するところである。従つて若し被控訴人が訴外株式会社富士交通に対してなした本件認証によつて控訴人が何等不利益を被らないならば、控訴人は本件取消訴訟について訴の利益を有しないものというべく、又仮りに右認証の存在によつて控訴人が不利益を受けるとしても、その認証に内在する違法が控訴人の法律上の利益に関係のない違法であるならば、本件取消しの訴は行政事件訴訟法第一〇条第一項により棄却されることになるから、右いずれの場合にも裁判所は右認証の適否について判断をすることができない。
二、そこで先ず控訴人が本件取消しの訴につき訴の利益を有するか否かについて判断する。
(一) 控訴人は本件土地及びその地上の建物における自動車分解整備事業につき既に認証を受けていると主張するのであるから、仮りにそれが真実であるならば、その同一土地における同一事業につき重ねて右訴外会社に対して認証がなされても、それがため控訴人に対する認証が消滅するものでもなければまた制限を受けるものでもない。控訴人は右訴外会社に対する認証があつてもそれを無視して自己の有する認証に基づいて事業を継続すれば足りるのである。
(二) 自動車分解整備事業の認証は、事業設備である土地建物等に対する使用権を創設し或は確認するものではないから、右訴外会社に対して認証がなされても、それによつて右訴外会社が本件土地の使用権を取得するものではないし、又控訴人が本件土地に対して有する使用権が消滅し或は制限されるものでもない。
かように考えれば、本件認証が存在していても、控訴人の実体法上の権利が消滅し或は制限されるものではないから、控訴人は本件取消しの訴につき訴の利益を有しないようにも見える。
然し、控訴人の主張によれば、控訴人は昭和二七年本件土地外一筆を事業場として自動車分解整備事業の認証を受けたところ、昭和三六年一〇月三日認証に関する書類切替のため被控訴人に自動車分解整備事業廃止届を提出し、同年一二月一六日改めて第一一六一号を以つて右事業の認証を受けたが、その事業場に本件土地を包含することが明記してなかつたので、昭和三八年五月一〇日被控訴人に対し右認証の事業場中に本件土地が包含されることの証明願を提出したところ、被控訴人はその証明をなすことなく、右訴外会社に対し本件土地を事業場として本件認証を与えたため、右訴外会社は右認証を口実として本件土地を不法占有するに至つたというのであるから、一見本件土地には右訴外会社に対する認証のみが存在し、控訴人に対する認証が存在しないかの如き外観を生じていることが明らかである。そしてかように控訴人に対する認証が存否不明の状態に陥つたのは、被控訴人が右訴外会社のために本件認証をなしたからに外ならない。よつて控訴人は右行政処分によつて法律上保護せらるべき認証を侵害された(存否不明の状態に陥れられた)かの如き不利益を蒙るに至つたものというべきであるから、右行政処分の取消を求めるにつき法律上の利益(訴の利益)を有するものというべきである。
三、よつて進んで控訴人の主張する違法が控訴人の法律上の利益に関係のある違法であるかどうかについて案ずるに、仮りに被控訴人が右訴外会社に本件土地を使用する権利があると誤認し、それを前提として本件認証をなしたことが違法であるとしても、それは法定の設備を有しないものに認証を与えてはならないという新たに認証を受けるもの(本件では右訴外会社)の資格に関する法規違反であつて、その法規は既に認証を受けている控訴人自身の権利、利益を保護するために設けられた規定ではない。又仮りに本件認証が同一事業場における同一事業につき別人のために重複してなされたという点に違法があるとしても、それも後に認証を受けたもの(本件では右訴外会社)が法定の設備を有しないのに認証を与えたという前記と同様の法規違反であつて、控訴人自身の権利、利益を保護するために設けられた法規に違反したというものではない。かように考えれば控訴人主張の違法事由はいずれも控訴人自身の権利、利益を保護する趣旨で設けられた法規に違反したという行政事件訴訟法第一〇条第一項所定の適法な取消事由に該当しないから、控訴人が右違法を理由として本件認証の取消を求めることは、右法条により許されないものというべきである。
四、以上の理由により原判決が控訴人に訴の利益なきものとして本件訴を却下したことは失当であるが、右認定の如く控訴人は行政事件訴訟法第一〇条第一項の規定により本件認証の取消を求める権利を有しないのであるから、原判決が訴却下の判決をしたことによつて控訴人は何等不利益を受けるものではない。蓋し訴却下の判決は請求棄却の判決より確定力の範囲が狭いからである。よつて本件控訴は理由がない。なお本件については附帯控訴がないので訴却下の原判決を取消して請求棄却の判決をすることは民事訴訟法第三八五条によつて許されないので原判決を取消すことなく、本件控訴を棄却することにする。
よつて民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 神谷敏夫 松本重美 大和勇美)