名古屋高等裁判所 昭和42年(行コ)6号 判決 1971年10月28日
名古屋市中区新栄町七丁目一番地
控訴人
染木木材株式会社
右代表者代表取締役
染木正夫
右訴訟代理人弁護士
花村美樹
同
森洋一
名古屋市熱田区花表町一番地
被控訴人
熱田税務署長
右指定代理人検事
服部勝彦
同
法務事務官 印部久男
同
大蔵事務官 和田眞
同
下畑治展
同
国税訟務官 天池武文
右当事者間の昭和四二年(行コ)第六号更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和三六年六月三〇日第六六〇号をもつてなした昭和三三年七月一日より昭和三四年六月三〇日にいたる事業年度の控訴人所得金額を金三四、二二七、九五一円と更正した処分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用および認否は左記のとおり附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
控訴代理人の陳述
一、控訴人はその有する工場敷地の大半が名古屋市の都市計画事業の遂行により道路となり、そうなると、事業の遂行が不可能となるので、その移転先を求めて本件交換をなしたものである。従つて、本件交換はもともと控訴人が交換により取得する土地の投機的商品価値に着目し、これを取得後処分して利益を得る目的でなされたものではなく、交換によつて取得した土地は自己の企業資本の中に組み入れ、これを固定資産として運用するためなされたものである。そして、もとより交換である以上、交換に供される土地は共に等価であることを要するのは当然であるから、控訴人は本件交換に際しこのことを確かめ、交換に供された土地は等価であることを確認しているのである。右確認をするについての主要な資料は、名古屋国税局長が発表した昭和三三年路線価額と名古屋市長の定めた昭和三三年度固定資産税評価額であつた。その計算は別紙(一)の内「控訴人の計算」のとおりである。かような等価交換により控訴人がいわゆる所得を得る筈はない。換言すれば、本件交換によつては単に企業を構成する具体的資本の間に交替があつたというのに止まり、その間にいわゆる所得の発生する余地は全くないから、控訴人がこれを取得する筈もないのである。
二、のみならず、本件交換当時には、法人税法に交換に関する規定が存在せず、僅かに国税庁長官が下級官庁に対してなした訓令中に交換に対する取扱を定めたものが存したのみであるが(法人税法基本通達二五五ないし二五七)、これによれば、「交換は種類を同じくする特定固定資産と特定固定資産の交換をいう」(右基本通達二五七)、「固定資産のうち土地、建物、機械、装置、船舶及び自動車は、その種類を同じくするものと交換(買換は含まない)した場合、その取得資産の価額を、交換した資産の帳簿価額を下らない価額を附してもこれを認める」(右基本通達二五五)、「交換差益に課税しない特別の交換とは、形式的には交換であつても、金銭、有価証券で決済される部分が交換資産の交換の時の時価の二割以上を占めない場合をいうのであつて、二割をこえる場合は買換と認められる」(右基本通達二六五)とされているから、この通達を本件交換に適用してみても、これによりいわゆる所得の発生する余地のないことが明らかであり、従つて、控訴人が本件交換によりこれを取得していないことも又多言を要しないところである。
三、控訴人は控訴人の法人税を不当に免れるため本件交換をしたものではない。従つて、本件交換には法人税法第三一条の三第一項を適用すべき筋合ではない。
控訴人が染木建設株式会社(以下染木建設と称する)との間に本件交換をなすに至つた経緯は前記のとおりであり、控訴人は勿論染木建設においても本件交換をなすべき実質的な事情が充分に存したのである。又右交換に供された物件が実質的に等価であることも既に控訴人が仔細にこれを述べたとおりである。殊に、右交換に供された物件が等価であることは、昭和四四年法律第四九号地価公示法により同年四月一日公示された名古屋市における基準地公示価額を基礎に算定すれば、控訴人が交換に供した物件の価額は合計金一五、三〇八、八二四円であり、又染木建設から取得した物件の価額は合計金一五、二四〇、四七一円であつて、その差額は比率にして〇、四五%にすぎないので、これによりいよいよ明白である。しかるに、被控訴人がこれらを殊更に否認し、本件は控訴人が不当に買替による課税を免れるため交換の形式を偽装したものと主張するのは、それこそいわれのない言いがかりをつけるものと解するほかないのである。
四、以上の次第で被控訴人のした更正決定は何んら存在しない所得について課税する誤りを犯しているから、これが取消を求めるものである。
五、控訴人と染木建設が同族会社であることは認める。
被控訴代理人の陳述
一、本件は控訴人の主張するようにいわゆる交換ではない。それはいわゆる買替である。このことは、控訴人が譲渡した土地と取得した土地とは等価ではないことから明らかである。すなわち、
(一) 本件交換契約時における控訴人の提供物件(原判決添付目録記載の(イ)の(1)、(2)の土地、以下(イ)の(1)、(2)の土地という)および取得物件(同目録記載の(ロ)の(1)ないし(8)の土地、以下(ロ)の(1)ないし(8)の土地という)の時価は、当該土地について控訴人および被控訴人間に争いのない売買価額等にもとづけば次のとおりとなる。
(1) (イ)の(1)の土地の時価は金三〇、〇〇〇、〇〇〇円、(イ)の(2)の土地の時価は金四、六三七、八五〇円で合計金三四、六三七、八五〇円。
(2) (ロ)の(3)の土地の時価は金三、六七二、〇〇〇円、(ロ)の(4)ないし(8)の土地の時価は金八、〇三五、二〇〇円となる。
(ロ)の(1)、(2)の土地の時価については控訴人および被控訴人の主張によつて明らかにならないから、被控訴人が売買実例精通者意見等を参照した結果にもとづく坪当り金二一、〇〇〇円の価額が時価として相当と考える。従つて、(ロ)の(1)、(2)の時価は合計で金一一、八四四、〇〇〇円であり、(ロ)の(1)ないし(8)の時価は全部で金二三、五五一、二〇〇円となる。右によれば、控訴人は、交換により時価金三四、六三七、八五〇円の(イ)の(1)、(2)の土地を提供し、時価金二三、五五一、二〇〇円の(ロ)の(1)ないし(8)の土地を取得したことになる。通常の経済人ならば、右のような時価に著しい格差のある物件を等価として交換行為を行なうことは極めて不自然不合理なことである。
(二) 控訴人は、その主張の路線価額と固定資産税評価額にもとづいて(イ)の(1)、(2)土地および(ロ)の(1)ないし(8)の土地の時価を計算すれば別紙(一)の控訴人の計算のとおりとなり、(イ)の(1)、(2)の土地と(ロ)の(1)ないし(8)の土地の各時価は等価となると言うが、別紙(一)の控訴人の計算によつて明らかなように、控訴人の計算は、路線価方式による場合においても固定資産税の評価額にもとづく比較においても、(ロ)の(3)の土地については路線価が存在しなかつたこと、(ロ)の(4)ないし(8)の土地については現況が宅地であるにもかかわらず、固定資産税の評価が農地であつたこと等を理由に、それぞれの土地について取得価額で評価算定している。これは、比較すべき(イ)の(1)、(2)土地と(ロ)の(1)ないし(8)の土地についてそれぞれ異質の基準で評価した結果を招き、交換物件の等価性を判断するについて妥当な方法ではない。若し、控訴人の主張する評価方法によつて等価性を合理的に評価し比較するものとすれば、別紙(一)の内「被控訴人の計算」によるべきである((ロ)の(4)ないし(8)の土地については路線価が存在しており、他の物件の路線価を調査すると同様の努力を払えば容易に判明した筈である)。
二、なお、本件当時法人税法には交換に関する規定が存在せず、国税庁長官が下級官庁に対してなした訓令中に交換に対する取扱を定めたものが存し、その内容が控訴人主張のとおりであつたことは認める。しかし、右通達を本件に適用するのは誤りである。すなわち、右通達の趣旨は、その後昭和三四年四月一日施行の法人税法施行規則第一三条の六に引き継がれ(昭和三四年政令第八六号)、更に昭和四〇年度法律第三四号法人税法の改正により同法第五〇条に明文化され現在に至つているものであるが、これらによれば、交換により取得した資産の圧縮額の損金算入の要件として、イ、交換により譲渡する物件は一年以上有しているものであること、ロ、交換により取得した物件は、譲渡物件と種類を同じくする資産で、交換のため取得したものであること、ハ、交換により取得した物件は交換により譲渡した物件の譲渡直前の用途と同一の用途に供する場合であること、ニ、交換により取得する物件も他の者が一年以上有していたものであること等が定められており、仮に、本件が控訴人主張の通りいわゆる交換であるとしても、交換に供された土地はいずれも右の要件を満たすものではないから、これを適用するに由がないものである。従つて、控訴人の主張は失当である。
三、仮に本件が控訴人主張の通り交換であるとすれば、被控訴人は法人税法第三一条の三第一項の規定により控訴人の行為、計算を否認するものであることは既に原審において述べたとおりであるが、更にこれを以下に附陳する。
控訴人は染木建設とその代表取締役が同一であるなど法人税法の規定するいわゆる同族会社であり、本件は控訴人が染木建設と右のように同族会社であるところから、本来控訴人の利益となるべきものを交換の形式によりこれを染木建設に帰属させることによつて、控訴人の負担すべき法人税を不当に減少させて免れようとしたものである。控訴人は本件交換に供された物件は等価であり、その評価方法に誤りはない旨主張するが、その然らざることは前記のとおりであつて、本件交換に供された物件は等価ではなく、控訴人が交換に供した物件の価額は染木建設から取得した物件の価額を著しく上廻るものである。そして右交換差金について、控訴人はこれを染木建設から徴収していないのであるから、被控訴人は法人税法第三一条の三により控訴人が右差金相当額を染木建設に対し贈与したものと認めるものである。そうすると、右差金相当額は交換資産の交換の時の価額の二割を超えることとなるので、前記通達二五六により法人税法上は売買があつたものと看做し圧縮記帳を認めないでこれに課税を行なうものである。そこで、控訴人は交換により譲渡した物件の価額合計金三四、六三七、八五〇円からその物件の帳簿価額金二五三、〇三一円を控除した差額金三四、三八四、八一九円の所得計上漏れを生ずるものであり、そうすると、原判決が判示するところと同一の結果となるのである。なお、この場合、控訴人が交換により取得した物件と譲渡した物件との差額相当金は前記のように控訴人が染木建設に贈与したものと看做することにより、法人税法第九条第三項により寄附金の限度計算をすることとなるが、控訴人の本件所得の計算上既に金一九八、二五二円の損金算入限度超過があることは争いのない事実であるので、贈与とみなされる金額の全額が損金不算入となり、いずれにしろ課税所得には変動を来たさないものである。
四、なお、附言すれば、前記通達二五六を考慮しないとしても、そもそも税法上その所得を判定するにあたつては、単に当事者によつて選択された法律的形式だけではなく、その経済的実質をも検討してなすべきが当然であり、当事者によつて選択された法律的形式が経済的実質からみて通常採らるべき法律的形式と一致しない異常なものであり、かつそのような法律的形式を選択するについてこれを正当化する特段の事情がない限り、租税負担公平の見地から当事者によつて選択された法律的形式に拘束されないでこれを判定し得るものと解するのが相当であるから、本件の交換については、控訴人が交換の形式で買替をしたものとして法人税法第三一条の三を適用し、その経済的実質に適合してこれを計算すれば、控訴人の本件の譲渡益は本件譲渡物件の時価金三四、六三七、八五〇円からその帳簿価額金二五三、〇三一円を控除した差額金三四、三八四、八一九円となり、被控訴人のなした原処分と同額となるから、本件処分には何らの違法がないのである。
証拠関係
控訴代理人は甲第一五ないし一九号証、第二一号証、第二二号証の一ないし一六、第二三号証の一ないし四を提出し、乙第一三号証、第一八ないし三七号証の各成立は認める、第一五号証のうち官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知、第一四号証の一ないし三、第一六、一七号証の各成立は不知と述べ、
被控訴代理人は乙第一三号証、第一四号証の一ないし三、第一五ないし三七号証を提出し、甲第一五ないし一七号証、第二一号証、第二二号証の一ないし一六、第二三号証の一ないし四の各成立は認める、第一八、一九号証の各成立は不知と述べた。
なお、当裁判所は職権により控訴会社代表者本人を尋問した。
理由
控訴人がその主張のとおり木材の製造販売業を営むものであり、昭和三四年八月三一日その昭和三三年七月一日から昭和三四年六月三〇日に至る事業年度(以下本件事業年度という)の法人税の課税所得金額を金四一、三八四円として所轄税務署長に確定申告をし、その後控訴人の所轄税務署が被控訴人となり、被控訴人は右申告を是認できないものとして昭和三六年六月三〇日控訴人の所得金額は金三四、二二七、九五一円とする更正決定をしたこと、控訴人が昭和三六年七月三一日右更正決定に対し被控訴人に再調査の請求をしたところ、 右請求は同年一〇月二八日棄却されたので、更に同年一一月二八日名古屋国税局長に対し審査請求をしたが、右請求も又同三八年七月一七日棄却され、翌一八日控訴人にその旨通知されたことは当事者間に争いがなく、原審における証人下山善孝、同服部和郎、同近藤寿の各証言によれば、被控訴人が右更正決定をした理由は被控訴人の主張するとおりであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
次に、当裁判所もまた控訴人はその所有する(イ)の(1)、(2)の土地を染木建設所有の(ロ)の(1)ないし(8)の土地と交換したものであると認めるが、その理由は、左記のとおり附加するほか、原判決がその「理由」中の(二)(原判決二〇枚目表八行目から二四枚目裏一〇行目まで)において説示しているところと同一であるから、ここにこれを引用する。
原審および当審における控訴会社代表者本人尋問の結果によれば、染木建設が昭和三三年一一月(ロ)の(3)の土地を野田九一郎から、又(ロ)の(4)ないし(8)の土地を星上水産合資会社からそれぞれ買受けたのは、いずれも材料置場として使用するためであつたが、その後これらの土地は材料置場として使用する必要がなくなると共に、染木建設が使用する工事材料等は控訴人からその供給をうけることが経営上も便宜であることなどに鑑み、これらの土地を(ロ)の(1)、(2)の土地と共に前(原判決)認定のように控訴人所有の(イ)の(1)、(2)の土地と交換をすることにしたものであること、そして、右交換に供された控訴人および染木建設の土地の価額はいずれも後記のとおりであつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
ところで、本件当時施行の法人税法第八条によれば「法人税の課税標準は各事業年度の所得及び精算所得による」とされ、又同法第九条によれば「その各事業年度の所得は各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による」とされているところ、法人の資産が有償譲渡された場合の益金又は損金は、譲渡物件の対価と当該物件の取得価額(帳簿価額)との差額により計算(前者が後者より上廻るときは益金、反対に前者が後者に満たないときは損金)されるべきものと解するを相当とする。そこで、控訴人が本件交換について右の意味における益金を取得したかどうかについて考えるに、当時法人の資産の交換による損益の計算については法人税法にこれに関する定めが存在せず、これに関しては控訴人主張のとおりの国税庁長官が下級官庁に対してなした訓令である「法人税法基本通達二五五ないし二五七」が存していたものであることは当事者間に争いがなく、右事実によれば、当時税務署長は法人の資産の交換による損益の計算については右通達を適用して処理していたものと推認されるから、特段の事情の認められない本件交換についても、右通達を適用してこれを処理するのが相当であると認められる。そして、右通達二五五、二五七によれば、控訴人が本件交換により取得した土地につき、交換に供した土地の帳簿価額を下らない価額を附したとしても、これを認めなければならないものである。
してみると、控訴人が本件交換により取得した土地と交換に供した土地との時価が後記のとおりであつて、その間に金一一、〇八六、六五〇円の差額が存すること明らかであるが、なお、被控訴人は前記通達により控訴人が本件交換により取得した土地の価額は控訴人が本件申告に附した本件交換に供した土地の帳簿価額として当事者間に争いのない金二五三、〇三一円と同額と認めなければならないから、本件交換によつては、控訴人が前記の意味における益金(所得)を取得したものとなすことはできないものである。
そうすると、本件が交換であつてもなお控訴人はこれにより益金を取得したものとして被控訴人がなした本件賦課処分は適法であるとする被控訴人の主張は理由がないものといわねばならない。
次に、被控訴人は控訴人の本件交換は法人税法第三一条の三第一項に該当するから、控訴人の行為、計算を否認する旨主張するので検討するに、控訴人と染木建設とがいわゆる同族会社であることは当事者間に争いのないところである。
そこで、次に、控訴人および染木建設が本件交換に供した物件の価額について考えるに、控訴人が本件交換に供した(イ)の(1)の土地の右交換当時における時価は金三〇、〇〇〇、〇〇〇円、および(イ)の(2)の土地のそれは金四、六三七、八五〇円であることは当事者間に争いがない。又前(原判決)認定のように控訴人は(ロ)の(4)ないし(8)の土地を昭和三三年一一月末星上水産合資会社から金五、八〇三、二〇〇円で買受けたが、その後同三四年八月一四日右代金を金八、〇三五、二〇〇円に増額していることが認められるので、右土地の本件交換当時における時価は金八、〇三五、二〇〇円と認められ、更に成立に争いのない乙第六号証、原審における控訴会社代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一三号証の一、乙第七号証、右本人尋問の結果を綜合すれば、控訴人は昭和三三年一一月一日野田九一郎から(ロ)の(3)の土地を代金三、六七二、〇〇〇円で買受けたことが認められるから、これによれば、本件交換当時における右土地の時価も右価額と同額すなわち金三、六七二、〇〇〇円であつたものと認められ、最後に成立に争いのない乙第一三号証、第一八号証、第二一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一四号証の一ないし三、登記官署作成部分の成立につき争いがなく、その余の部分が弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第一五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一六、第一七号証を綜合すれば、(ロ)の(1)、(2)の土地の本件交換当時の時価は金一一、八四四、〇〇〇円(坪当り金二一、〇〇〇円)と認められ、従つて(ロ)の(1)ないし(8)の土地の当時の時価は合計金二三、五五一、二〇〇円であつたことが計算上明らかである。
右によれば、控訴人は時価金三四、六三七、八五〇円の(イ)の(1)、(2)の土地を時価金二三、五五一、二〇〇円の(ロ)の(1)ないし(8)の土地と交換したものであることが認められ、しかも、控訴人は右両者の差額を染木建設からこれが支払をうけたものと認めるに足りる証拠もないのであつて、控訴人が右のような交換を敢えてなした理由は、前記のように控訴人が本件交換をなすに至つた経緯、殊に控訴人と染木建設はいずれもその代表取締役を同一にする同族会社であつたが、控訴人はその経営が比較的良好であつたのに比し染木建設のそれは必ずしも良好でなくて赤字を出していたこと、および染木建設は本件交換により取得した(イ)の(1)の土地を取得後いくばくもなくしてこれを大久保に売却していること、染木建設が本件交換に供した(ロ)の(4)ないし(8)の土地は当時未だ染木建設がその所有権を取得していなかつたことなどを考えると、控訴人はその経営の良好な控訴人が右(イ)の(1)の土地を直接大久保に売却するとその譲渡所得に対し多額な課税をされるが、同族会社である経営状態の不良な染木建設を通ずれば右課税の減免を得られるところから、経済的活動を目的とする者の間においては通常行なわれないような不等価交換をなし、これにより右課税の減免を得ようとしたところにあつたものと認められるのである。してみると、被控訴人は控訴人の右交換による行為及び計算を容認した場合においては法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものとしてこれを否認し、その上に立つて新たに控訴人に対する法人税額を定めることができるものといわねばならない。
そこで、右否認による控訴人の所得を考えるに、控訴人が右譲渡した(イ)の(1)、(2)の当時の時価は前記のように金三四、六三七、八五〇円であり、これから当事者間に争いのない右土地の帳簿価額金二五三、〇三一円を控除するとその差額は金三四、三八四、八一九円となるが、右金員は控訴人が本件交換により取得した譲渡益金といわねばならない。
してみると、右金額に当事者間に争いのない土地もれ金二五、〇〇〇円、仮払金もれ金一〇〇、〇〇〇円、贈与金額一九八、二五二円、現金計上もれ金一、七七八、四九六円を加算すれば金三六、四八六、五六七円となり、これに控訴人申告の所得金四一、三八四円を加算し、更にこれから当事者間に争いのない仮受金もれ金二、三〇〇、〇〇〇円を減じると控訴人の本件係争年度中の総所得金額は金三四、二二七、九五一円となる。
右によれば、被控訴人が控訴人の本件係争年度における法人税の課税標準として所得金額を金三四、二二七、九五一円と確定したのは違法ではなく適法と認められるから、本件賦課処分には取消される理由がないものといわねばならない。
よつて、これと結論を同じくする原判決は相当であつて、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 布谷憲治 裁判官 福田健次 裁判長裁判官赤間鎮雄は退官のため署名押印することができない。裁判官 布谷憲治)
交換物件の等価性検討表 (昭和33年度 路線価および固定資産税の評価額を基礎とする。)
<省略>
被控訴人の計算についての説明である。
注1……本件土地には路線価が存在しないため賃貸価額倍数方式によつて算定した結果、たまたま控訴人の主張される取得価額と一致した。
注2……本件土地は昭和33年11月4日畑から宅地に地目変更された。そのため昭和33年の固定資産税の評価額は畑地で379,662円であつたので翌昭和34年の宅地評価額を採用した。
注3……本件土地は昭和34年8月15日畑から民地に地目変更された。そのため昭和33年の固定資産税の評価額は畑地で94,554円であつたので昭和35年の宅地評価額を採用した。