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名古屋高等裁判所 昭和44年(行コ)6号 判決 1970年2月04日

名古屋市東区新出来町一丁目三五番地

控訴人

尾関博

右訴訟代理人弁護士

太田耕治

名古屋市東区主税町三丁目一一番地

被控訴人

名古屋東税務署長

奥村謹一

右指定代理人検事

松沢智

法務事務官 山本忠範

国税訟務官 中原勇

大蔵事務官 坪川勉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は「原判決を取消す、被控訴人が昭和三七年八月二九日付で控訴人の昭和三六年度分所得につき所得税を三三三、一〇〇円、無申告加算税を七八、二五〇円とした決定を取消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、認否は、控訴人訴訟代理人が当番での控訴人本人尋問の結果を援用したほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は左に附加するところのほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

(一)  控訴人の昭和三六年度事業収入が九、三六四、〇二四円、その必要経費が少くとも七、五六三、二二四円、給与収入が一七五、〇〇〇円であつたことは当事者間に争がない。

(二)  控訴人は右年度中の営業必要経費として、右のほか借入金利息、割引料計八五四、二八二円、手形損失金一、二五二、八〇〇円の合計二、一〇七、〇八二円があると主張し、右借入や手形損金を生じた手形交換をするに至つた事情につき当番での本人尋問において次のように述べている。

すなわち、控訴人は大三商事株式会社の代表取締役をもしていたが、右会社が昭和三二年一月二、〇〇〇万円以上の債務を残して倒産した後、右会社債務について連帯保証をするなどしてその整理につとめ、その支払をしていた。その支払資金には、その経営する荷札店の資金や、売上金も一部充当したもののそれはいうにたりないほどの少額で、主としては他からの借金をあてていた。右荷札店の経営資金は大三商事倒産までは特に不足することはなかつたが、その後これが不足し、富士産業や桑原から借金したり大蔵昭二と融通手形を交換して入手せざるをえなくなつたのは、控訴人が前記大三商事の残債務整理に追われ、荷札店営業に力を注ぐことができなかつたことが主因であると。

しかし、右荷札店の営業資金不足が、控訴人においてその営業に専念しなかつたことによるものであること右供述のとおりであるとすれば、それはまず売上げの減少ないしその回収の遅延あるいは営業経費の増大(もつとも事業拡張による設備、仕入資金の増大はこの場合考えられないところであるが)に現れ、その結果経営資金の不足となるのであろうが、右供述はこれらの点について全く具体性を欠き、また成立に争のない乙第四号証中の大三商事株式会社債務を控訴人が個人保証したことによる支出は控訴人の営業所得に算入(控除)されるべきものとの控訴人の供述と対比し、経営資金不足するに至つた原因は専ら控訴人が荷札店経営に力を注げなかつたことにあるとする右供述部分はただちには措信しがたいものがある。控訴人の原審以来の主張も右会社債務を個人資産で支払つてきたため資力欠乏し、荷札店経営も困難になり、そのたてなおしのため、前記借入や手形交換をするに至つたというのであつて、右供述の如き主張はしていない。

すなわち、控訴人主張の借入金や手形交換による入手金が右荷札店の経営資金に使われたことその主張のとおりであつたとしても、その資金不足は、その営業上の売上金の減少や販売経費買入金の増加などによる営業自体からの原因であるよりは、控訴人の個人債務弁済のため荷札店収入の一部があてられたため生じたものと判断される。

そうだとすると、右借入金利息や交換手形不渡による損失は控訴人の右荷札店経営のための必要経費と目しがたいこと原判決理由説示の如くであるということになる。

すなわち、前示争のない控訴人の収入、支出から算定されたその所得額を基礎とし(なお、控訴人がその差引かるべくとして主張する一、七九〇、三〇〇円相当額の所得についてはその申告をしなかつたことは当事者間争のないところと解される)

被控訴人がした控訴人主張の所得税、加算税賦課決定に違法なところはないものというべきである。

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