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名古屋高等裁判所 昭和45年(ラ)144号 決定 1970年9月11日

抗告人 風岡利勝

相手方 昭和税務署長 外一名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人代理人は、「原決定を取り消す。相手方は本件更正処分をなす根拠となった書類一切を提出せよ」との趣旨の裁判を求め、その理由とするところは、別紙「抗告の理由」に記載するとおりである。

よって審究するに、抗告人が本件文書提出命令の申立により相手方らに対し提出を求めている文書が、「本件係争の更正処分をなす根拠となった書類一切」であることは本件申立の趣旨に徴し明らかである。しかしながら、民訴法三一三条に基づき文書提出の申立をなすについては同条一号、二号の明定するとおり文書の表示および趣旨を明らかにして文書を特定し、当該文書の内容の大綱を開示しなければならないものである。けだし、民訴法は、別に、三一六条において、「当事者が文書提出の命に従わざるときは、裁判所は文書に関する相手方の主張を事実と認むることを得る」旨の規定をおいているところ、もし文書提出命令の申立において文書の表示および趣旨が明らかにされていないときは右法条の運用が不可能になってしまうからである。それ故、文書の表示および趣旨を明らかにしない文書提出の申立は不適法なものというべきである。しかるところ、本件において抗告人が提出を求める文書は、本件係争の更正処分をなす根拠となった書類一切というのであって、これでは到底文書の表示、趣旨を開示したものとはいうことはできず、本件文書提出命令の申立は不適法である。それ故、本件申立を却下した原決定は相当で、本件抗告は理由がない。よって、民訴法四一四条、三八四条、九五条、八九条に従い主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤淳吉 宮本聖司 土田勇)

抗告の理由

第一点

一、行政不服審査法三三条二項は「審査請求人又は参加人は、審査庁に対し、処分庁から提出された書類その他の物件の閲覧を求めることができる」と規定する。

そして、ここに所謂、閲覧を請求しうる書類その他の物件とは「処分庁より審査庁に提出されたすべての書類、および物件でなく、当該処分の理由となった事実を証する証拠資料を意味する」ものと解せられているのである。

二、他方、現在の納税制度は、自主申告制度を採用しており賦課納税制度とは異なることはいうまでもない。自主申告制度を認める限り、更正処分を行なうには、自主申告を不当とし、更正処分を理由づける証拠資料がなければ、更正処分をなしえないことは自明の理である。けだし何ら根拠もなく更正処分を許すならば、自主申告制度の存立基盤を失なつてしまうからである。(質問検査権に関するものだが、東京地裁四四年六月二五日刑事判決)

三、ところで、本件更正処分取消訴訟においては相手方は更正処分当時の証拠資料を何ら提出していないのであるが、伊藤休治証人は、その資料名、内容は明らかでないが、「資料」の存在していたことを証言しているのである。

四、これらの証拠資料は、本件更正処分の理由となつた事実を証する証拠資料となりうる性質の書類であることは明白であり、抗告人として相手方に当然に閲覧を請求しうるものといわなければならない。このことは、又行政不服審査段階のものだけでなく、全不服の段階においても、自主申告制度を認め、自主申告を尊重する限り、不服人たる抗告人に保障されなければならない権利というべきである。

第二点

民訴法三一二条に所謂挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された文書とは「法律関係それ自体を記載した文書ばかりでなく、その法律関係に関係のある事項を記載した文書であればよい」とするのが判例である。

ところで前述したように、自主申告制度を認める限り、合理的な疑いと、それを証する資料の存在は更正処分を許す為の要件であり、その為に作成された文書は、原決定がいうように、単に「自己使用のために作成した」ものでなく、まさに、法律関係に関係のある事項を記載した文書というべきである。

以上要するに、原決定は民訴法三一二条の解釈を誤つたものであり、失当であるから本抗告に及んだ。

【参照】原決定 (昭和四五年六月二二日)

主文

本件申立を却下する。

理由

原告代理人阪本貞一は文書の趣旨本件更正処分の根拠を示すもの、文書の所持者被告、証すべき事実本件更正処分が何等根拠のない事実、文書提出の義務の原因民事訴訟法第三百十二条第二、第三号、文書を原処分庁が本件更正処分決定を理由づけた証拠書類一切と表示して同文書の提出の申立をなした。

案ずると行政不服審査法第三十三条第一項は処分庁は、当該処分の理由となつた事実を証する書類その他の物件を審査庁に提出することができる。と規定し、同条第二項は審査請求人又は参加人は、審査庁に対し、処分庁から提出された書類その他の物件の閲覧を求めることができる。この場合において、審査庁は、第三者の利益を害するおそれがあると認めるとき、その他正当な理由があるときでなければ、その閲覧を拒むことができない。と規定している。しかるに審査請求はその棄却の裁決により審査の段階を一応終了して審査庁の手を離れておる外審査庁たる被告名古屋国税局長に対する本訴は行政事件訴訟法第十条第二項により同被告の指摘する瑕疵を存する疑点を存し、同被告を外にして処分庁たる被告昭和税務署長に対し前記閲覧権を有する旨の規定もなく、更には右文書を所持する者も定かではなく、該文書も具体的に指摘されてもいない。又被告が所持し、本件更正処分の根拠を示し同処分決定を理由づけた証拠書類一切の文書により右更正処分が何等根拠のない事実を証するという原告の申立理由には矛盾を感ぜしめるものがあり、かかる文書があるとしてもそれは挙証者たる原告の利益のために作成せられたものとは言い難く、しかも同文書は挙証者と文書の所持者との間の法律関係に付作成せられたものではなくこれは右処分庁が原告の確定申告の当否の調査資料として一方的に自己使用のために作成したものであるので、原告の本文書提出命令の申立はいずれの点よりするも理由のないことが明らかであるからこれを却下する。

(裁判官 小沢三朗)

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