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名古屋高等裁判所 昭和45年(行コ)14号 判決 1976年4月28日

控訴人

左藤保

右訴訟代理人

鈴木匡

<外四名>

控訴人補助参加人

豊田市給与所得者連合会

右代表者会長

矢頭辰巳

右訴訟代理人

鶴見恒夫

<外一名>

被控訴人

渡久地政司

右訴訟代理人

尾関闘士雄

<外四名>

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用(参加により生じた分を含む。)は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人は、議員は地方自治法第二四二条の二の住民訴訟の原告となり得る資格を有しないとの見解の下に、本件訴の原告適格を争つているが、控訴人の右の主張が理由がなく、本件訴の適法であることは原判決書理由冒頭の項(被告の本案前の主張に対する判断)記載のとおりであるから、右記載(原判決書一二枚目表九行目ないし一三枚目表一行目)をここに引用する。

二(一) 本案につき考えるに、被控訴人が豊田市の住民であり、控訴人は昭和三九年二月以来豊田市長の職にあつたものであるところ、控訴人が豊田市長として、給連に対し、昭和四一年七月二六日に金一二〇万円を、同四二年二月一〇日に金一二〇万円を、それぞれ地方自治法第二三二条の二による補助金として支出した(右支出補助金合計二四〇万円を以下「本件補助金」という。)ことは当事者間に争いのないところである。

(二) 本件訴の骨子は政治的団体に対する補助金の支出はすべて違法であるとの基本見解を前提として、給連は政治的団体であるから、これに対する本件補助金支出は違法である、と結論するにあると解せられるが、その場合に、被控訴人のいう「政治的団体」とは政治資金規正法第三条第二項(昭和二三年七月二九日法律第一九四号による。以下同じ。)にいう「協会その他の団体」すなわち「政党以外の団体で、政治上の主義若しくは施策を支持し、若しくはこれに反対し、又は公職の候補者を推薦し、支持し、若しくはこれに反対する目的を有するもの」を指称することは、弁論の全趣旨(被控訴人の主張・態度)から明らかである。

そこで、本判決でも前記「協会その他の団体」の意味で、「政治的団体」という用語を使用することにする(なお給連が政治資金規正法三条一項(昭和二三年七月二九日法律第一九四号による。)に該当するような団体でないことは、後に認定する給連の公益活動の状況およびその政治活動の程度にてらし明らかである。)。

三被控訴人は、特定の政治的団体に対する補助金の支出は、無条件で当然に違法となる旨主張するが、右の見解にはにわかに賛同し難いものである。

形式的にみても、右のような趣旨の明文の禁止規定の存在しないことは被控訴人も自認するところであるし、被控訴人が利益に援用する諸々の規定を参酌してもそのような趣旨を推認することさえ困難である。

まず憲法八九条前段は、政教分離の原則にもとづくもので、政治団体への公金支出とは無関係であるし、同条後段は、公金の濫費を慮つた規定かと解されるが、対象となるのは慈善、教育、博愛の事実でかつそれが公の監督に服しない場合に限られているので、その他の政治的団体等への公金支出の無条件禁止の趣旨を推知させるには足らぬものである。

改正前の公職選挙法第一九九条第二項(昭和三七年五月一〇日法律第一一二号による。)は、補助金が直ちに選挙資金に流入することによる弊害を防止しようとする規定と考えられるが、右規定自体が全面的な禁止規定になつていない点から推しても、政治的団体に対する公金支出を無条件で当然に違法視しなければならぬとは考え難いものである。

改正前の政治資金規正法第二二条第一項(昭和三〇年一月二八日法律第四号による。)も同じ趣旨の規定と思われるが、これまた「選挙に関」する場合に限つての禁止規定であり、右以外の場合に政治団体、政治的団体に公金が流入することまでも禁止する趣旨を含むものとは解し難いものである。

上記のように被控訴人援用の各規定からは、政治的団体に対する公金の流入一般を当然に違法視する考え方は窺い難いものであり、他に右の趣旨を窺うに足るような法規範はこれを見出し難いものである。

実質的にみても、政治的団体への公金支出一般を全面的に違法視して禁止するのが相当であるとは考え難いものである。なるほど公金の政治的団体への流入を許すとこれによつて公の財産が私物化されるおそれがあると共に、公金による与党の強化、反対党の慰撫買収等により、政治(的)団体間の自由公正な競争が妨げられ、民主制社会における自己調整的機能がそこなわれるおそれなしとしないので、このような弊害の防止については十分、配慮されねばならぬと思われる。

しかしながら、右の弊害の防止のため、政治的団体への補助金の支出を全面的に禁止してしまうことも考えものであり、右のような処置をとるときには、別の弊害の生じることが予想されるものである。何となれば、現代においては福祉国家の理念の下に国家および地方公共団体の機能は極めて広範囲にわたつており、国家および地方公共団体は、その包摂する個人および団体の殆んどのすべての活動部門にわたつて、保護干渉の手を差しのべざるを得なくなつているが、補助金行政は、右の行政目的実現のために必要不可決の手段となつているものである。

一方、このような行政目的の多様化に対応して、個人ならびに団体の側でも、自己の存在を維持し、その本来の存在目的を達成するためには、好むと好まざるとに拘わらず、国家および地方公共団体とかゝわりを持たざるを得なくなつているので、よりよく存在し、自己の存在目的を積極的に達成しようとする個人ならびに団体が、国家および地方公共団体の政策決定過程に影響を与えようとして行動(政治活動)し、本来の目的の外に、右政治活動をする目的をも併せ持たうとするのは、けだし自然の成り行きといわなければならない。そうして民主主義の政治理念の下では、すべての個人又は団体が、政治活動をなし、政治目的をも併せ持つことは(他の弊害の発生しない限り)、本来は推奨さるべきこととされているのである。

右のような状況の下で、政治的団体への公金支出を全面的に禁止するときにはそれによる弊害の生ずることもありうるといわなければならない。

四上述した次第で、当審としては政治的団体に対する補助金の支出を全面的に違法とする見解はとり難いものであり、このような団体に対する補助金の支出を規整する根拠規定としては、地方自治法第二三二条の二にいう「公益上の必要」という辞句以外には存しないものと考える。

そうして右の条文の解釈として、「公益上の必要」という表現は、極めて抽象的で外延の広い概念であるから、特定の補助金の支出が「公益上の必要」によるものといゝ得ないか否かの判定は、諸般の事情を参酌し、利害得失を総合して判断すべく、従つて、本件で問題になつているような政治的団体に対する補助金支出の適否を判定するにあたつては、当該地方公共団体の補助金支出の目的、趣旨ならびに当該政治的団体の目的、構成員、幹部、資産、財政、活動状況、他の団体との関係、特に過去における公益活動の実績、公益活動計画、同団体のなす政治活動の程度等を検討した上で、当該補助金が右団体の公益活動にどの程度役立つか、同団体の政治活動資金に流れるおそれがないか等の利害得失を比較総合して判断するのが相当であると解する。」

そこで、以下順次考察することとする。

(一)  <証拠>を総合すれば、給連は前年の例にならい、昭和四一年三月一〇日頃豊田市長宛に、同年度の本部関係及び支部関係の事業計画書及び収支予算書を添付した申請金額六〇〇万円の補助金付交申請書(乙第四号証の一、二)を提出したので、これを調査の上、同市長(控訴人)は、右申請書記載の事業計画は、公益上の必要がある場合に該当すると認めて給連に対し、前記の通りの補助金を支出するに至つたことが認められる。

(二)  つぎに、給連の起源、会則、法的性格、構成員、幹部等につき考えるに、証拠を総合すると、左記の諸事実を認めることができ他にこれに反する<証拠>もない。すなわち、

1  昭和二五年ないし三〇年当時、愛知県挙母市(現豊田市)地方の労働者は困難な情勢の下にあり、労働者の生活を守るためには企業別の労組の組織のみでは不十分で、労働者の地域的組織が必要であるとの認識が生まれた。そこでトヨタ労組をはじめとする同地方の単位労組の指導支援により、挙母給与者同盟が昭和三〇年一〇月三〇日に設立され、これが後に改称されて給連となつた。(同じ頃、愛知県下の他の多くの市町村において、同じような労働者の地域組織が生まれている。)

2  会則によると、給連は豊田市存在の給与所得者により、各支部単位をもつて組織され(第二条)、会員の親睦と相互扶助をはかり、社会的経済的地位の向上に努め、併せて豊田市の振興発展に寄与することを目的とする(第三条)ことになつている。

3  同会は法人格はないが、総会、役員会、会長と意思決定機関および代表者の定めを持ち権利能力なき社団であると解せられる。

4  同会の会員は、トヨタ労組をはじめとする地域内の単位労働組合の組合員がそのまゝ組織に編入された者が多かつたと思われるが、豊田市の産業の発展と市域の拡大とにともない会員数が年々増加し、本件補助金申請当時の昭和四一年当初には、傘下七五支部に、会員二万一、一八二名を擁し、豊田市内で最大の組織といわれていた。

5  そうして豊田市内における産業構成を反映して、会員の少なくとも半数以上は、トヨタ自工又はその系列企業の社員(その大部分はトヨタ労組員であり、昭和三八年当時でトヨタ自工社員が五割五分。)で占められ、本部役員、支部長などの幹部に至つては、二、三の例外を除いて、殆んどすべてがトヨタ自工の社員(トヨタ労組員)を以て占められていた。

(三)  次に本件補助金申請当時の同会の組織および活動状況を概観するに、<証拠>によると、同会本部は専従職員は置かず、資産も殆んど持たないが、事業所を設置し、本部役員、支部長等の確固たる組織を有し、定期的に機関紙を発行する外、会則所定の目的を達するため後記のような本部活動を行なつていたが、支部の活動状況は地域によつてまちまちであつたことが認められる(それゆえ、給連は選挙以外には活動しない有名無実の団体であるということはできない。)。

<証拠>を総合すると、給連本部は総会、会員慰安会(劇場を借切つての映画会等)の開催、機関紙(「豊田給連」「給連たより」)の定期発行等の組織活動の外に、組織を背景として、物価問題、流通対策、住宅問題、交通安全対策等をテーマに、豊田市当局等の関係官庁、地域選出の市議、国会議員等との懇談会、市商工会議所、商店街協同組合等各種団体との懇談会を、昭和四〇年度もふくめて例年持つた外、豊田市の物価調査も行なつてきたことが認められ、他にこれに反する証拠もない。

さらに、<証拠>によると、給連の支部活動は、前記のように、支部によつてまちまちではあるが、各支部合同の野球大会の外、ソフトボール大会、バレーボール大会、運動会、ハイキング、海水浴等の体育活動を行なう支部は多く、映画会(文化活動)、どぶさらい、蚊、蠅の駆除(衛生活動)をしたり、敬老会(福祉活動)、遊園地児童館等の整備補修(施設事業)に協力する支部もあつた。以上のとおり認められる。

(四)  給連の政治活動

1  本件補助金支出当時、給連につき政治資金規正法第三条第二項該当団体として届出が、豊田市選挙管理委員会になされていたことは、当事者間に争いがない。

控訴人(補助参加人)は、右届出は給連がしたものでない旨反駁するけれども、<証拠>によると、昭和四二年三月一四日の豊田市議会で、給連に対する本件補助金の適否が問題となつた際、豊田市長佐藤保(控訴人)が「さき程、給連会長に政治団体としての届出の有無を電話照会したところ、会長の答弁として『市会議員の選挙等については、(中略)政治に参与させて頂く意味で届出をしたが、(中略)さつそく撤回させていただく、』旨の回答があつた。」旨答弁していること、および同日付で、給連会長矢頭辰巳より豊田市選管に対し、給連が同日政治資金規正法第三条の目的を有しなくなつたことを理由に、同法に基づく「団体の解消届」がなされ、同月二七日に受付けられていること、右解消届と同日付で、給連会計責任者永田忍から、同選管に、収支決算報告書が提出されているが、その中に「昭和三四年四月豊田市会議員選挙に会員中より候補者が立候補し、そのポスターに給与所得者連合会推せんと書入れるに、政治団体の届けを出さねば書くことはできないとのことで届けを出し、推せんと書きました。」旨の記載のあることが各認められる。而して、右各事実と後記認定のように、給連が右昭和三四年四月の豊田市議選等で、立候補者の推せんをしている事実とを総合するときには、右甲第二号証の三記載の豊田市長の答弁内容、右乙第七号証の一、二の各記載内容はいずれも真実に合致するものであり、前記政治資金規正法三条団体の届出は、給連によりなされたものと認めるのが相当である。

もつとも<証拠>によると、給連からの三条団体該当届書および収支決算報告書(乙第七号証の一を除く)が豊田市選管に現存しないことは認められるが、右証言の一部によると、昭和三五年以前の政治資金規正法関係の書類は、給連関係のみなに限らず、一切現存しないこと、収支決算報告書の提出も怠る団体の多かつたことが各認められるから、給連につき、これらの書類が現存しないからといつて、給連から政治団体の届出がなかつたと推認することはできない。他に前記認定に反するような証拠はない。

2  次に給連の政治活動につき考えるに、被控訴人は、昭和三三年挙母市が豊田市と市名を変更するにつき、市民の間で賛否両論を生じ、市長市議のリコール運動に迄発展した際、給連は賛成派の中心となつてリコール運動切崩しに活躍した旨主張している。しかしながら、<証拠>はにわかに措信し難いものがある。<証拠>によると、賛成派から給連に働きかけがあり、給連関係者が賛成派の中に入つて活動したことは窺われるが、給連が組織として賛成運動に携つたことは、右甲号各証によるもこれを認め難く、他に右事実を認むべき証拠がないのみか、却つて<証拠>によると、右賛成運動において給連の名は使われていなかつたことが認められるので、これらの点を考え合わせると、右市名変更に際し、給連関係者の中で賛成運動をした者はあつたが、給連の組織としての活動はなかつたものと推認するのが相当である。

3  次に給連の公職候補者の推せん活動について考える。

(1) 先ず、昭和三九年度の豊田市長選挙において、給連が、控訴人(佐藤保)を推せんしたことは、当事者間に争いがない。

(なお、補助参加人は右自白を撤回して、右推せんの事実を争うもののようであるが、右自白が真実に反することを認め得るような証拠はない。<証拠>を総合すると、給連が衆議員選挙については、候補者の推せんをしないが、豊田市選挙については、佐藤保候補を推せんする旨の態度をとつたことを窺い得るから、補助参加人の右主張を支持するには足らず、他に同人の右主張を支持し得るような証拠はない。)

(2) <証拠>を総合すると、給連が左記の地方選挙において、それぞれ拡大役員会(本部役員と支部長との会合)の決定にもとづき、左記の候補者を推せんしたことが認められる。

(イ) 昭和三四年度豊田市議会員選挙において

秋本正太郎、大川敏一、佐野貞雄

(ロ) 同三八年度豊田市議会議員選挙において

大川敏一、細野修三、秋本正太郎、北川吉久、佐野貞雄

(ハ) 同四二年度豊田市議会議員選挙において

秋本正太郎、北川吉久

(ニ) 昭和三九年度愛知県会議員補欠選挙において

佐藤保

(ホ) 同四二年度同県会議員選挙において

中根盂

ちなみに、右各候補者は、いずれもトヨタ自工の現職員、又は、旧職員で、トヨタ労組の推せんをも受けていたものである。

(3) 控訴人らは、右認定に援用の各書証の証明力を争つているが、控訴人らの各反駁の趣旨は、いずれも首肯し難いものである。前出甲第二七、六三号証によると、前出甲第一三号証の一ないし三の各記載内容は、公職選挙法一四九条一項による新聞広告であつて、候補者作成の原稿通り掲載せらそれはずのものであることが認められるから、これを掲載した新聞に対する信頼度とは無関係に信頼してよいものと思われる。

同じく甲第一二号証の一ないし三は、同号証の一によると、加茂タイムス社から候補者に対し発せられたアンケートに対する回答であることが認められるから、前同様、右新聞社に対する信頼度とは無関係に信頼を措いて支障ないものと考える。

なお、甲第一二号証の二のうち「推せん豊田市給連中村寅雄」との記載は、中村寅雄が当時の給連会長であつたとすれば、給連が大川敏一を推せんした趣旨に解するのが自然であり、控訴人のいうように給連会長の肩書を持つ中村寅雄個人が推せんした趣旨には解し難いものである。

(4) 甲第八、第九号証の各一、二は、いずれも地方新聞社の取材した選挙情報ではあるが、甲第五四号証の一、二は右内容を裏付けるものであり、他方、秋本正太郎、北川吉久は前記のように、前回の三八年選挙にも給連の推せんを受けて当選していること、給連は同四二年の県議選に候補者中根盂を推せんしていることを考え合せると、右第八、第九号証の一、二、の記載どおり、給連が四二年度市議選で秋本、北川の両名を推せんしたのは事実であると認むべききである。

(5) 控訴人らは右推せんの事実を争い、右は給連関係者が個人として推せんしたに過ぎぬとか、トヨタ労組から推せんを求められたが拒絶したとか反駁するが、右反駁の趣旨に沿つて前記認定に牴触する<証拠>は前記認定に援用の諸証拠に照らし、措信し難く、他に前記認定に反する証拠もない。

(6) 控訴人らは、単に公職候補者を推せんするのみでは、選挙運動にはならず、政治活動にもならぬ旨反駁するが、推せん行為は公職選挙法上の選挙運動にならぬ場合でも、政治活動と認められるものであり、公職候補者の推せんを目的とする団体が政治資金規正法の対象とされることは、同法第三条第二項の文言上明白なところである。

4  次に給連が各種選挙に際し、どの程度の選挙運動をおこなつていたかを考えることにする。

(1) <証拠>によると、昭和三九年度の豊田市長選挙における佐藤保候補については、給連は選挙の三ケ月も以前に、同候補の顔写真入り四段抜きの推せん記事を、機関紙「給連たより」に掲載し、これを当時の五二支部、会員総数一万名以上に配布してその選挙支援活動をしたこと、他の推せん候補についても機関紙等により会員に周知させる方法をとつていたことが認められる。

(2) 被控訴人は、給連が推せん候補のため、戸別訪問その他あらゆる集票活動をした旨主張し、<証拠>中には、その趣旨の部分もある。

しかしながら、右各供述は、<証拠>に牴触するうえ、前に認定したように、給連がトヨタ労組員を主力とするとはいえ、企業別組合をこえた各種給与所得者の地域的組織であり、さして強い統卒力を持つとも思われない点を考え合せると、前掲各供述はにわかに措信し難いところといわなければならない。

もつとも、<証拠>によると、トヨタ労組が各種選挙にあたり、給連組織を中心に運動を推進しようとした事跡は認められるが、そこに認められるのは飽く迄トヨタ労組のフラクシヨン活動であり、これを以て給連の活動と解することはできない。

(3) なお<証拠>によると、給連が佐藤保候補を推せんした昭和三九年の豊田市長選挙の期間中に、給連東支部で、会員に石けん、石けん入れ等を無償配布して問題になつたことは認められるが、<証拠>によると、右は、同支部の慣例にしたがい、同支部定期総会の記念品として配布されたものであることが認められるので、そのこと自体の当否を別として、買収その他選挙運動を以て目すべき限りではない。

5  <証拠>によると豊田市会議員選挙において、給連又はその支部が、それぞれ役員会の決定にしたがつて、主として給連推せん候補者を対象として、次のような金品を寄附していることが認められる。

(1) 昭和三四年四月選挙において、候補者大川敏一に、給連より酒二升(見積金額一、〇〇〇円相当)、同秋本正太郎に、給連山之手支部より三ツ満多会、山ノ手会と共同にて現金五、〇〇〇円(なお原審証人矢頭辰巳の証言によると、三ツ満多会というのは給連丸山東支部の対象区域の部落会であつて、構成員は両者相互に共通する者が多いが、給連とは別個の団体であることが認められる。)。

(2) 昭和三八年四月選挙において、候補者秋本正太郎、同北川吉久、同細野修三に給連より各金一、〇〇〇円宛、同大川敏一に、給連二区支部より金一、〇〇〇円、同石川佐一に、給連豊田地区の支部より金一、〇〇〇円。

6  <証拠>によると、昭和四二年四月の豊田市会議員選挙に際し、候補者可知功、同北川吉久、同秋本正太郎に対し、矢頭辰巳(当時の給連会長)より、各金二、〇〇〇円宛の寄附のなされていることは認められるが、右金員が給連会計より支出されたことを認めるに足る証拠は存しない。

なお候補者細野修三に丸山会より見積額六、九〇〇円相当の便宜の供与されていることは、<証拠>によつて認められるが、<証拠>によると、丸山会は給連丸山西支部と管轄区域を同じくする部落会であつて、構成員は相互に共通するものが多く、丸山会副会長の一人は、給連支部長が就任し、給連丸山西支部が受けた本件補助金が、丸山会にそのまゝ交付されるなど両者は密接な関係にあるが、団体としてはそれぞれ別個の存在であることが認められる。

その他給連丸山西支部が丸山会の行動を左右していることを認め得るような証拠もない。

それゆえ、丸山会のなした寄附金を以て給連丸山西支部のなした寄附金と同一視することはできない。

7  控訴人らは、右記各寄附金は給連の構成員が個人としてしたもので、給連としてなしたものでない旨反駁するが、<証拠>中右反駁の趣旨に副つて、前記認定に牴触する部分は、前記認定に援用の諸証拠にてらし措信し難く、他にこれに反する証拠もない。

8  上来認定にかかる給連の選挙活動を総合して考えるに、給連は相当長期間にわたり、地方選挙の際に相当数の立候補者を推せんおよび支持してきたことが認められるものであり、右の状況に照らすと、給連の前記各選挙活動をその時々の偶発的な行動と解することは困難であり、むしろ前に認定した会則所定の給連の目的「会員の社会的経済的地位の向上」達成のための一手段として、継続的に選挙活動をしてきたものと解するのが相当である。

そうだとすると、給連は、公職の候補者を推せんし、支持する目的をも有するところの政治資金規正第三条第二項に該当する団体というべきである。

五結論

(一)  上記を総合するに、本件補助金は、主として給連の各支部がなす公益(文化、体育、衛生、福祉等)活動を対象にして支出せられたものであるところ、上記のとおり各支部によりその活動の程度は区々であるけれども、総体において、上記認定のような支部活動が認められるものである。これらのうち衛生、福祉活動は問題なく公益に関するものであるし、文化、体育等の諸活動が、仮りにその対象者を会員又はその家族のみに限つていたとしても、前出の丙第二号証の二により認め得る給連会員(昭和四一年当時約二万一〇〇〇人)およびその家族の数が、豊田市総人口(当時約一〇万人)の中に占める割合を考えると、給連会員およびその家族の心身両面における向上は、単に同人らの利益のみにとどまるものではなく、豊田市民全体の利益につながるものというべきである。

なお上記によると、支部会費を石けん等記念品代につかつた支部もないではないが、認定し得るのは東部支部等の少数例によとどまるものである。

又、本件補助金が給連本部から同支部へ交付されるとき、支部より本部に上納すべき本部会費と相殺されたところが多いので、本件補助金の一部が実質給連本経部費にあてられていたのではないかとの疑いもないではない。しかしながら仮りにそうであつたとしても、前に認定した給連本部の活動(給連自体のための組織活動を除く)は、単に会員の利益擁護のみにとどまらず、広く豊田市民一般の利益につながるものであり、その成果の点では種々の評価はあり得ようが、豊田市内の給与所得者(消費者)を豊田市最大の組織にまとめてこれを背景とした活動には期待をよせられて然るべきものがあり、公益に資するものといつて支障ないと思われる。

他方、給連が公職候補者の推せんの目的をも有する団体であり、若干の政治活動もあつたことは認められるが、上記のとおり、その政治活動の大部分は地方選挙の際の候補者の推せんの程度にとどまり、それ以上の積極的な選挙運動又は政治行動の行なわれた形跡はこれを見出すことが困難である。

又、選挙運動又は政治活動のための金品の支出として認め得るものも前記認定の程度であり、個々の支出の金額は一口一、〇〇〇円程度にとどまるし、その総合計額も本件補助金の額と対比して僅少度にとどまるものといつて支障がない。

これらの点を考え合せると、仮りに本件補助金の一部が給連の政治資金、選挙資金に流れ込むことがあつたとしても、その量は微々たるものであり、これによつて生じる実害は乏しいものと思われる。

(二) 以上の点を彼此総合するならば、給連に対する本件補助金支出を以て、公益上の必要にもとづかぬ違法な支出とは判定し難く、これを肯定する被控訴人の本件主張は理由なきものといわなければならない。

このように本件補助金支出を以て違法な支出と認め難い以上、その他の点につき考えるまでもなく、被控訴人の本件損害賠償請求は失当として棄却すべきところ、これを認容した原判決は不当であるから取消すべきものである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九四条後段を適用し、主文のとおり判決する。

(柏木賢吉 夏目仲次 管本宣太郎)

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