名古屋高等裁判所 昭和45年(行コ)17号 判決 1971年4月08日
名古屋市中村区納屋町二丁目五番地
控訴人
田嶋正道
右訴訟代理人弁護士
奥村仁三
同市中区三の丸三丁目三番二号
被控訴人
名古屋国税局長
同市中村区牧野町六丁目三番地
同
名古屋中村税務署長
右被控訴人両名指定代理人
中村盛雄
同
横井芳夫
同
井原光雄
同
須山米一
右当事者間の所得税更正処分等取消請求控訴事件につき当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を取消す。被控訴人名古屋国税局長が控訴人に対してなした控訴人の昭和四二年分所得税の更正決定、過少申告加算税賦課決定に対する審査請求を却下した裁決を取消す。被控訴人名古屋中村税務署長が昭和四四年四月二一日付で控訴人に対してなした昭和四二年分所得税の更正決定及び過少申告加算税賦課決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする」との判決を求め、被控訴人らは主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張、証拠関係は次のものを付加するほか原判決事実摘示のとおり(但し原判決二枚目表七行目の「(二)」を削る)であるからそれをここに引用する。
控訴人の主張
被控訴人名古屋中村税務署長の控訴人に対する異議申立棄却決定を受取つた田嶋儀兵衛は、控訴人と世帯を別にし、偶々同一会社に勤めていたに過ぎず、しかも同人は、控訴人が北海道旅行中であるから帰宅後控訴人に交付して欲しいと強く申出たに拘らず、無理矢理に交付していつたのであるから適法な送達とはいえない。
仮にこの送達が適法であつたとしても控訴人が現実にこれを受取つたのは控訴人が北海道の農業視察から帰つた昭和四四年八月二五日以後であるから、法定期間内に不服申立が出来なかつたのはやむを得ない理由によるものである。従つて被控訴人らは控訴人の審査請求を受理し実質的審査をするのが親切な取扱いというべきである。
証拠
控訴人は甲四号証を提出し、証人生田謙一、同三輪ひな子、控訴本人の各尋問を求め、被控訴人らは証人生田謙一の尋問を求め、甲四号証の成立は不知と述べた。
理由
本件に対する原審の事実認定(擬制自白を含む)と判断は原判決掲記の証拠に当審における証人生田謙一、同三輪ひな子の各証言、控訴本人の供述を加えて行つた当裁判所の事実認定、判断と一致し、本件控訴は理由がないと認めるので、原判決の理由全部(但し、原判決七枚目表七行目の「適格を」とあるのを「適確に」と改める)を引用し、次の説明を加える。
1. 当裁判所の引用する原判決は、控訴人が北海道から控訴人が異議申立その他について控訴人の住所と表示している名古屋市中村区納屋町二丁目五番地に帰来したのが何時であつたか正確な証明がないといい、当裁判所も右と同様に考えるが、当審における控訴本人の供述および甲四号証が真正に成立したものと仮定し、仮に控訴人の帰来した日が昭和四四年八月二五日であつたとしても、成立に争のない乙一号証、原審並に当審における証人生田謙一の証言によれば、同年八月一六日控訴人の父である田嶋儀兵衛は本件異議申立の棄却決定書の騰本を送達に来た生田謙一に対し、控訴人が主張する本件譲渡所得のことは一切儀兵衛がやつているといつて、右の騰本を受取つたこと、同人が受取を拒み出したのはこれを開封して中身を見た上でのことであり、それからこんな決定は不服だから受取れないといいだしたこと、しかし結局同人が控訴人の代人として、受領の拇印を押したことが認められるので、たとえ控訴人が不在であつても控訴人に代つて右決定書の騰本を受領する権限を有したと認められる儀兵衛によつて受取られ、控訴人においてこれを了知しうべき状態に入つたというのを相当とするので、前記八月一六日の送達を以て、適法な送達でないという控訴人の不服は理由がない。
2. 控訴人は又、右の送達が適法であつたとしても右のような事情があるから控訴人が法定期間経過後の同年九月二二日になした本件不服申立は国税通則法七九条五項にいうやむを得ない事由に基づくものであると主張しているが、前記八月二五日から同年九月一六日までには二二日間もあつて、不服申立の調査、手続をするのにこと欠くものと解することはできず、その他これを以て到底やむを得ない事由にるよものと認めることはできないので、この点に関する控訴人の主張も採用できない。
されば原審が控訴人の請求を容れなかつたのは相当であるから控訴人の本件控訴を棄却し控訴費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 布谷憲治 裁判官 福田健次 裁判官 菊地博)