名古屋高等裁判所 昭和45年(行コ)19号 判決 1971年6月16日
控訴人
脇田勝重
代理人
佐治良三
外三名
被控訴人
昭和税務署長
在間尚志
指定代理人
服部勝彦
外三名
主文
原判決を取り消す。
本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。
事実《省略》
理由
一控訴人が、被控訴人に対し昭和三九年分の所得について原判決添付別表(一)の一記載のとおり、昭和四〇年分の所得について同別表(二)の一記載のとおりそれぞれ修正申告をなしたところ、被控訴人において昭和四二年九月二五日付をもつて昭和三九年分所得については同別表(一)の二記載のとおり、昭和四〇年分所得については同別表(二)の二記載のとおりそれぞれ更正ならびに重加算税の賦課決定をなしたこと、そこで、控訴人は、右各更正ならびに賦課決定に対し、昭和四二年一〇月二四日被控訴人に異議申立をなしたが同四三年一月二三日棄却決定がなされたので、同年二月二二日名古屋国税局長に対し審査請求をなし、これまた同年一一月二七日棄却の裁決を受けたが、その間被控訴人は昭和四三年三月二日右各年分の所得につき再更正ならびに重加算税賦課決定をなしていたこと、右審査請求棄却の裁決後控訴人は昭和四四年二月一〇日前記昭和四二年九月二五日付の更正ならびに賦課決定の取消しを求めて名古屋地方裁判所に被控訴人を相手方とする行政訴訟を提起したが、右訴提起に先立つ昭和四四年一月二七日被控訴人において昭和三九年分の所得につき原判決添付別表(三)の二のとおり、昭和四〇年分所得につき同別表(四)の二のとおりそれぞれ再々更正ならびに重加算税賦課決定をなし、これに対し後記のように異議申立、審査請求がなされたため控訴人は昭和四四年八月一一日右訴を取り下げたこと、しかして、控訴人は右再々更正等に対し同年二月二六日異議申立をなし、同年五月八日これが棄却されるや、さらに同年六月六日審査の請求をなしたが、同年一〇月二〇日同請求を棄却する裁決を受けたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
二控訴人が、本件訴状を昭和四四年一二月一一日名古屋地方裁判所に提出し、その請求の趣旨および原因が原判決事実摘示のとおり(原判決一枚目裏一〇行目から同三枚目表九行目まで)であつたこと、次いで昭和四五年三月二四日午前一〇時の原審第三回口頭弁論期日において訴状訂正の申立書と題する書面に基づき前記訴状における請求の趣旨および原因に訂正を加える陳述をなし、その内容が原判決事実摘示のとおり(原判決三枚目表末行から四枚目表九行目まで)であつたことは本件記録上明らかなところである。
控訴人は、訴状において昭和四二年九月二五日付更正ならびに賦課決定を取り消すとの裁判を求めていたところ、後に昭和四四年一月二七日付再々更正ならびに賦課決定の取消しを求めることに変更したのは、訴状の記載を訂正したものにすぎない旨主張するけれども、前段認定事実および右本件訴状の記載内容を綜合すれば、控訴人は本訴提起にあたり名古屋国税局長のなした再々更正等に対する昭和四四年一〇月二〇日付裁決があつた後三カ月の出訴期間内に当初の更正等に対し取消を訴求すれば所期の救済を得られるものと誤解し、本件訴状の請求の趣旨に昭和四二年九月二五日付更正ならびに賦課決定を表示したが、後日その誤りに気付き訴状訂正の申立をなしたものと推認することができる。してみると、控訴人の本訴において取消しを求める行政処分は、訴状訂正の前後において別個のものであり、訂正申立前の請求の趣旨を訂正後のもののたんなる誤記と解することはできず、右変更は行政処分の表示の訂正の限度を超えたものであり、訴の交替的変更と目すべきものである。したがつて、控訴人の前記主張は採用することができない。
三次に、控訴人は右訴状訂正申立は交替的に訴を変更したものであると主張するところ、上記認定の事実関係によれば、控訴人は右訴状訂正申立により昭和四五年三月二四日において昭和四二年九月二五日付更正等取消しの訴(前訴)を取り下げ、昭和四四年一月二七日付再々更正等取消しの訴(後訴)を提起したものと認められ、これが訴変更の要件を充足していることは多言を要しない。
被控訴人は、右後訴は出訴期間経過後に提起されているから不適法であると主張し、右訴の変更が前記再々更正等についての審査請求に対する裁決が控訴人に送達された昭和四四年一〇月二〇日頃から出訴期間たる三カ月を遙かに経過した同四五年三月二四日になされたものであることはさきに述べたとおりである。しかしながら、本件更正、再更正および再々更正の各処分は一応は別個独立の処分ではあるが、元来は全く無関係なものということはできず、課税庁の調査の進行に伴い、後行処分が前行処分を消滅させつつ新たな課税標準を決定してゆくもので、前行処分は後行処分の中に吸収され、一たんは消滅しながらも後行処分の中にいわば復活するという特殊の関係に立つものである。しかして、本件においては控訴人が前記更正および再々更正につき違法原因としているところが全く同一の事由(訴状請求原因第二項すなわち原判決二枚目裏七行目から三枚目表六行目までの事実が存在することを課税庁が認定したことであること)は前記のとおりであるから、その限りにおいて、更正に対する取消しの前訴というも、再々更正に対する取消しの後訴というもその実質は同一の訴であるといつて何ら妨げないのである。されば、更正に対する取消しの訴が再々更正に対する取消しの訴についての出訴期間内に提起されている以上、これによつてその時点において控訴人の再々更正の違法を争う意思が明確にあらわされているから、たとえ、訴変更による後訴の提起が出訴期間経過後であつても右後訴は適法というべきである。すなわち、控訴人は右再々更正についての審査請求に対する裁決があつた後三カ月内に右更正等取消しの訴(前訴)を提起しているのであつて、これにより後訴の出訴期間が遵守されたものということができるのである。被控訴人は、本件前訴はその提起の時において既に訴の対象を欠き出訴期間を経過した不適法な訴であり、かかる不適法な前訴の提起された時に後訴が提起されたものとして取り扱うことは許されないと主張し、前訴が被控訴人主張のとおり不適法であることは前記認定から明白であるけれども、前訴の不適法はこれにおいて控訴人が前後訴を貫通し両者を実質的に同一の訴たらしめている違法原因を主張した事実を何らそこなうものではないから、それだけで右結論を動かし得るものではない。被控訴人の右主張は採用できない。よつて、本件後訴は適法に提起せられたものというべきである。
四以上説示のとおりであるから右と異なる原判決を取り消し、本件を第一審裁判所たる名古屋地方裁判所に差し戻すこととし、民訴法三八八条に従い主文のとおり判決する。
(伊藤淳吉 宮本聖司 菊地博)