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名古屋高等裁判所 昭和45年(行ス)5号 決定 1971年1月19日

抗告人(申立人) 川島高一 外八名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

(抗告の趣旨)

抗告人らは「原決定を取消す、冒頭掲記の事件において抗告人らが申立てた同事件の被告を名古屋市長から名古屋市中川区長に変更することを許可する」旨の裁判を求める。

(抗告の理由と当裁判所の判断)

(1)  抗告代理人は「行訴法一五条の被告変更の制度は出訴期間の関係で原告が被告を誤つたため被る不利益を救済するための制度であるから、訴訟代理人に過失があつても本人に故意又は過失がなければ原則としてその変更を許すべきであり、その終局判決において請求の当否を判断するのが取消訴訟に適し訴訟経済に適う」と主張しているので案ずるに、訴訟代理人というのは訴訟上当該事件に関する限り本人より全面的に事件処理を委任され代理権を与えられているものであるから、積極面において代理人の行為の効果が本人に及ぶのと同様消極面においても代理人の行為の効果が本人に及ぶのは避けられないものというべく、本件において被告を誤つたのは本人というより訴訟代理人の研究不十分、不注意に基づくものではあるがその不利益が当事者本人に及ぶのは当然であつて、この点に関する被告人らの不服は理由がなく、又原則としてその変更を許して終局判決で請求の当否を判断するのが取消訴訟に適し訴訟経済に適うという主張は全く逆であり、当事者の変更はそれが故意又は重大な過失によらない場合に限りこれを許すという行訴法一五条は、その変更申立があつた時点で判断すべきものと解釈するのが当然であり、それが訴訟経済に適する所以であるからこの点に関する抗告人らの主張は採用できない。

(2)  抗告人らは「行政庁の本件参加差押は抗告人らの権利を侵害するものであるからその取消を終局的には参加差押登記の撤廃若しくは抹消を求めて本訴を提起したのであるが、荒川文一の場合は、参加差押えをすると処分庁は国税徴収法八六条一項により滞納処分をした行政機関に参加差押書を交付し、滞納者に対しては、準用される同法五五条でその通知をするので被告とすべき行政庁の判断は容易であるが、抗告人らの場合は処分庁なるものがないので被告を中川区長とすべきか名古屋市長とすべきは問題であつて弁護士だからといつて容易に決することはできない。しかも中川区長或は名古屋市長は国税徴収法付則一一条により利害関係人たる抗告人らに参加差押の通知をすべきなのにそれをしなかつたから被告とすべき行政庁の判断を困難にした、民事訴訟の場合と異り行政事件訴訟の当事者は必ずしも権利主体たることを要せず、反対の利益を代表する立場で自己の行政法規の適用の誤りのないことを弁明し、以て裁判の正確と公正を確保するため意見を主張する手続上の当事者に過ぎないから名古屋市長を中川区長に変更したところで著しい影響はない」と主張しているので案ずるに、本件記録によると、抗告人らは訴外熱田社会保険出張所長が荒川文一に対する滞納処分として昭和三四年六月四日に差押えその後の同四一年一一月一七日名古屋市中川区長が固定資産税等の滞納を理由として参加差押をした名古屋市中川区石場町一丁目一八番の宅地三〇五、六一平方米外六筆の土地が抗告人らの所有であるとして前記参加差押処分の取消を訴求しているのであるから、直接抗告人らを相手とする行政処分が存在しないことは事の性質上当然であるとはいえ、抗告人らが取消を求めている参加差押の処分者が中川区長であることは抗告人ら提出の甲二号証に明記されており、抗告人らが請求した審査請求書である甲三号証やその裁決書たる甲四号証にも右参加差押の処分庁が中川区長であることを明記しているのであるから、その処分の取消を求める訴訟の被告はその処分庁たる中川区長とすべきは容易に判断できることといわねばならずしかく困難なものでもない。又参加差押者は国税徴収法付則一一条により利害関係人たる抗告人らに参加差押の通知をすべきなのにそれをしなかつたから被告とすべき行政庁の判断を困難にしたという主張は、移転登記を受けず登記面に全然表われていない抗告人らに対し利害関係人としての通知をせよというのは不能を強うるに近く、これも首肯できる主張ではない。抗告人らの主張する当事者を変更しても本件訴訟に影響はないという主張は応訴する相手方の負担や訴訟経済を考えない独自の見解に過ぎない。

その他本件記録によつても、これが重大な過失によらずして、被告とすべき者を誤つた場合と、考えることはできず、この申立を却下した、原裁判所の判断はやむを得ざるものといわざるを得ない。

よつて抗告人らの本件即時抗告を棄却し抗告費用は抗告人らの負担として主文のとおり決定する。

(裁判官 布谷憲治 福田健次 菊地博)

原審決定の主文及び理由

主文

申立人らの申立を却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

理由

申立人(原告)らの申立の趣旨は原告申立人ら、被告名古屋市長間の昭和四四年(行ウ)第四六号第三者異議訴訟事件の被告名古屋市長を名古屋市中川区長に変更することを許可する。との決定を求めるというにあり、その理由の要旨は(一)右第三者の参加差押処分取消請求事件につき被告を名古屋市長としたのは誤りである。(二)(1)申立人らの右参加差押処分に対する審査請求書(甲第三号証)には処分庁を名古屋市中川区長と明記し名古屋市長の右審査請求に対する裁決を得た。しかるに(2)名古屋市中川区役所は名古屋市長の連絡所に過ぎないとの報告があり、(3)甲第二号証の右参加差押調書欄外には連絡先名古屋市中川区役所云々との附記があつた。又(4)行政不服審査法第五七条第一項により当然附記されている筈の不服申立のできる旨およびその期間、不服申立をすべき行政庁が教示されていなかつた。(5)また事実権利を侵害された第三者が権利を侵害した処分庁を正確に知ることは極めて困難であること、(6)故意等のなかつた事情を具し、行政事件訴訟法第一五条第一項により右当事者変更の許容を申請する。というにある。

よつて案ずると右(一)の点は申立人らの自ら認めるところであり、右(二)(1)の点は記録添付の甲第三、第四号証により、同(3)の点は同甲第二号証によりこれを認めうべく、同(4)の点については同甲第一号証によると申立人らは右参加差押処分当時登記簿上処分の相手方たる地位にあつたことは処分庁においてこれを諒知しがたかつたことと右甲第二号証により申立人ら所説の教示が申立人らになされなかつたことは十分にこれを覗いうべく、同(5)の点も諒知しうるところである。しかるに右甲第一、第二号証登記簿謄本、参加差押調書(謄本)の記載によると右参加差押処分をなしたのは名古屋市中川区長であること明らかであり、また右申立人(原告)ら訴訟代理人たる弁護士自身の作成にかかる名古屋市長に対する右審査請求書(控)の審査請求の趣旨及び理由欄にはわずかに名古屋市長が右参加差押をしたかの如き旨の記載があるもののその審査請求に係る処分の処分庁欄には処分庁として名古屋市中川区長と明記されていることが明らかに認められ、又右甲第四号証の審査庁たる名古屋市長の右審査請求に対する裁決書(写)を一覧すれば右参加差押の処分庁が名古屋市中川区長でありその審査庁が名古屋市長であることが明白に謳われており、その謄本は一件記録により明らかなように本件申立人らが審査請求人であり、これら審査請求乃至申立の各代理人にして右第三者異議訴訟事件の訴訟代理人でもある弁護士中條政好に送付せられていたのであるから右第三者異議訴訟事件の提起にあたり原告らの訴訟代理人たる中條忠直は弁護士として何等労することなく右処分庁が中川区長であることを十分に諒知していた筈であるのにどうしたことかまことに迂濶にも右審査庁たる名古屋市長を処分庁と誤り被告となしたもので、どうしてかかるしなくてもよい過失を犯したものであるかを全く理解しえないところであり、かかる過失は重過失であると断ずる外はない。抑々行政事件訴訟法第一五条第一項の規定は民事訴訟法の原則にも拘らず出訴期間の定めのある取消訴訟につき被告たるべき行政庁を把握することが困難であることが屡々あることを考慮した救済規定であることはその立法の趣旨よりも明らかなところであり、これを本件の如き場合にまで及ぼしてこれを救済するが如きは到底許されず救済しようにも救済しえないものとしなければならない。右(二)(2)乃至(3)の弁疏如きは遁辞たるに過ぎなく顧慮に値しない。結局申立人(原告)らの本件被告変更の申立は理由のないことが明らかであるのでこれを却下し、民事訴訟法第九五条により主文のとおり決定する。

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