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名古屋高等裁判所 昭和46年(ツ)21号 判決 1972年6月08日

上告人 車天福

右訴訟代理人弁護士 尾関闘士雄

同 恒川雅光

被上告人 近藤政雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人尾関闘士雄の上告理由について。

原判決によれば、被上告人が請求原因として主張するところは、(一)本件土地(原判決添付別紙第一目録記載の土地)は被上告人の所有に属すること、(二)上告人は昭和四三年七月頃以来本件建物(原判決添付別紙第二目録記載の建物)に居住してその敷地である本件土地を占有していること、(三)被上告人は本件土地の所有権にもとづき上告人に対し本件建物より退去して本件土地を明け渡すこと及び昭和四三年一一月一七日から右明渡済まで賃料相当の損害金を求める、というものであり、これに対し上告人は、本件土地が被上告人の所有に属することを認めた上で、(一)上告人は本件土地につき被上告人に対抗できる賃借権(昭和三七年三月三一日被上告人と訴外渡会好文との間に本件土地につき成立した賃貸借契約によって賃借権者となった同訴外人は、その賃借権にもとづき本件土地上に本件建物を建築したが、昭和四三年八月頃上告人に対し本件建物を譲り渡すと同時に本件土地についての賃借権も譲り渡し、右賃借権の譲渡については被上告人の承諾がある)を有するから本件土地につき占有権原を有する、(二)仮に右賃借権の譲渡につき被上告人の承諾が得られなかったとしても、上告人は本件建物の譲渡人である訴外渡会に代位して昭和四五年一一月六日名古屋地方裁判所に対し借地法第九条の二による土地賃貸人の承諾に代わる許可の申立をしたものであるから、右申立ての事件係属中は、土地賃貸人たる被上告人において本件建物の譲受人である上告人に対し右承諾がないことを理由に本件土地の明渡を請求することができないものであると抗争したものであること明らかである。しこうして、原審は、原判決挙示の証拠により上告人主張の頃訴外渡会が上告人に対し本件土地上に築造された本件建物を譲り渡すと同時に本件土地につき有する賃借権(同訴外人が右賃借権を有することは被上告人において争っていない)を譲り渡し、本件建物の引渡を了したことを認めたが、右賃借権の譲渡につき被上告人が承諾を与えた事実についてはこれを認めるに足る証拠がないと判断して上告人の前記抗弁(一)を採用せず、次いで所論のような理由で前記抗弁(二)を排斥したのである。そもそも、借地法第九条の二第一項による承諾に代わる許可の裁判は、賃貸人の承諾のない賃借土地の無断の譲渡、転貸による紛争を防止し、賃借土地の譲渡、転貸前に得べき賃貸人の承諾を裁判によって形成することの途を開かんとする趣旨より設けられたものであって、賃借土地上の建物の譲渡及びこれに伴う賃借土地についての賃借権の譲渡、転貸が賃貸人の承諾なくしてなされた後において事後的ないし遡及的に右譲渡、転貸につき賃貸人の承諾に代わる許可をするものでないと解するのが相当である。原審が適法に確定した事実及び上告人の主張を併せ考えると、上告人主張の前記法条による申立は、訴外渡会より上告人に対し本件建物及び本件土地の賃借権が賃貸人たる被上告人の承諾を得ないで譲渡された後になされたものであること明らかであるから、右申立がなされたところで本件訴訟には何ら影響がなく(右申立は不適法のものとして却下されるべきものであるが、仮に誤って右申立にもとづき許可の裁判がなされたとしても、前説示のとおり、右裁判により既になされた本件土地の賃借権の無断譲渡につき事後的ないし遡及的に承諾に代わる許可の効力が与えられるものでない)、上告人主張の右申立による事件が係属中であることをもって本件土地明渡訴訟の抗弁となし得ないものといわなければならない。原判決は、右と同旨の理由をもって上告人の前記抗弁(二)を排斥したものであるから、原判決には同法条の解釈を誤った違法はなく、ひっきょう所論は同法条につき右と異った解釈に立脚するものというべく採用することができない。

よって、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 布谷憲治 裁判官 福田健次 豊島利夫)

<以下省略>

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