名古屋高等裁判所 昭和46年(ネ)142号 判決 1976年2月18日
控訴人 藤田盛明
右訴訟代理人弁護士 高野篤信
右同 上野芳朗
右同 清水英男
右同 関口宗男
被控訴人 山口進
右訴訟代理人弁護士 縣宏
主文
1 原判決を左のとおり変更する。
2 名古屋市緑区大高町字西丸根一〇三番山林と同所一〇二番山林との境界は、別紙図面記載のとおり同所九九番畑西端附近の石垣の南西角附近にあるコンクリート杭の中心をル点とし、右ル点より略北方に一九・八メートルの地点で前記石垣の北西角附近にあるコンクリート杭の中心をオ点とし、右オ、ル線の延長線が同所一〇五番、同所一〇六番の南側の道路に接する点をヘ′点とし、前記ル点よりル、ヘ′点方向に二三・一二メートルの距離で、訴外山盛操造方屋敷の南側及び東側を囲むブロック積土留めの南東角の地点をリ点とし、右リ点より、リ、ヘ′点方向に九・三五一メートル進んだ地点をチ点とするとき、右リ点チ点を直線で結ぶ線分であることを確定する。
3 名古屋市緑区大高町字西丸根一〇五番山林と同所一〇二番山林との境界は、前項記載のチ点よりチ、ヘ′点方向に一九・四八メートル進んだ点をト点とするとき、右チ点とト点とを直線で結ぶ線分であることを確定する。
4 被控訴人は控訴人に対し、金一九三万二、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年八月二三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
5 控訴人のその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余は被控訴人の負担とする。
事実
(申立)
控訴代理人は控訴の趣旨として、原判決を左のとおり変更する。
「控訴人所有の名古屋市緑区大高町字西丸根一〇三番山林と被控訴人所有の同町同字一〇二番山林との境界は、右一〇二番山林の北角の石標(原判決別紙第一図面ハ点)から東南へ二一・二七二七メートル(一一・七間)の点(同図面リ点)と、右リ点から南西ヘ九・七一六メートル(五・三四間)の点(右図面チ点)とを結ぶ直線であることを確認する。
控訴人所有の名古屋市緑区大高町字西丸根一〇五番山林と同字一〇二番山林との境界は、前項記載のチ点より南西へ二九・九六メートルの地点(同図面ト点)とを結ぶ直線であることを確認する。
被控訴人は控訴人に対し金二〇八万二、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年八月二三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」
旨の判決および第三項(金員支払請求の部分)に限り仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
≪以下事実省略≫
理由
一、1 控訴人所有の名古屋市緑区大高町字西丸根一〇三番山林一、〇二四平方メートル(三一〇坪)、同所一〇五番山林五一五平方メートル(一五六坪)の各西端と、被控訴人所有の同所一〇二番山林五九八平方メートル(一八七坪)の東端とが相隣接していることは当事者間に争いがない。
2 右一〇三番、一〇五番と一〇二番との境界線につき、控訴人は前出控訴の趣旨記載の線が境界である旨主張し、被控訴人は原判決主文第一、二項記載の線が境界である旨主張している。そこで右両者の各主張線の位置および相互の関係につき考えるに、≪証拠省略≫を総合すると、左のとおり認められる。
イ、先ず控訴人主張線は次のとおりである。
同所九九番西端附近にある石垣の南西角附近にある頂面型の鉄芯入りコンクリート杭の中心をル点とし、同所一〇六番、一〇五番両地とその南側道路との三者の接点附近で石垣の南端附近にあるコンクリート杭の中心点(共架丸根第一分六、放送局一三支二岐一分一電柱より略西方へ二二・三メートルで、一〇六番南方直近の電話線柱より東北方へ二七・九メートルの地点)をヘ点とし、前記ル点よりル、ヘ方向に二三・〇八八メートルの地点で、かつ、同所一〇一番の一、二、又はその附近の訴外山盛操造方屋敷の南側東側を囲むブロック積土留めの南東角のリ点から略西方へ一・二五メートルの地点で右南側ブロック積の外側まで〇・二七メートルの地点をリ′点とし、右リ′点ヘ点を結ぶ直線上でリ′点よりリ′、ヘ方向に九・七一六メートル進んだ点をチ′点とし、チ′点よりチ′、ヘ方向に一九・一八五メートル進んだ点をa点とするとき、控訴人主張の一〇三番と一〇二番との境界線は右リ′、チ′線であり、同主張の一〇五番と一〇二番との境界線は右チ′、a線である。
ロ、被控訴人主張線は次のとおりである。
前記ル点の略北方一九・八メートルの地点で、同所九九番西端附近にある石垣の北西角附近にある頂面型の鉄芯入りコンクリート杭の中心をオ点とし、オ、ル線の延長線が同所一〇五番、一〇六番の南側の道路に接する点(前記ヘ点より道路側溝に沿って略東方へ二・六五メートルの距離で、前記「共架丸根第一分六、放送局一三支二岐一分一」電柱より略西方へ一九・八メートルの距離の点)をヘ′点とし、前記ル点よりル、ヘ′方向へ二三・一二メートルの距離で、同所一〇一番の一、二及びその附近に所在する訴外山盛操造方屋敷の南側及び東側を囲むブロック積土留めの南東角の地点をリ点とし、右リ点よりリ、ヘ′方向に九・三五一メートル進んだ点をチ点とし、チ点よりチ、ヘ′方向に一九・四八メートル進んだ点をト点とするとき、被控訴人主張の一〇三番と一〇二番との境界線は、リ、チ線であり、同じく一〇五番と一〇二番との境界線はチ、ト線である。以上のとおりに認められる。
≪証拠省略≫中、右認定に牴触する部分は採用し難く、他にこれに反する証拠もない。
二、このように控訴人、被控訴人の間で境界に関し争いがあるので、以下双方の主張の当否につき考えることにする。
1 ≪証拠省略≫によると、
(イ) 本件係争地を含む前同所九一番ないし一〇六番の土地は、昭和二年ないし昭和一七年の間に耕地整理の行なわれた土地で、現在四囲を道路で囲まれた一団の土地になっているが、右一団の土地はその略中央を略南北にとおる線(以下「中央線」という。)で二分されており、右の線の東側には、北から南へ順に九三番、九四番、九八番の三、二、一、九九番、一〇三番及び一〇五番の各土地が並んでいるし、同西側には北から南へ順に九二番の二、四、五、九五番の二、九六番、九七番、一〇〇番の二、三、一、一〇一番の一、二、一〇二番及び一〇六番の各土地が並んでいること、
(ロ) 右耕地整理の際には、はじめに図面上で区画して後に現地を実測し、昭和八年ないし昭和一〇年頃に境界線上の要所要所に耕地整理組合が、頂面型の鉄芯入りコンクリート杭を打込む方法をとったこと、
が各認められ、他にこれに反する証拠もない。
そうだとすると、右一団の土地の一部をなす、同所九九番、一〇三番、一〇五番と同所一〇〇番の二、一、一〇一番の一、二、一〇二番、一〇六番との境界線も略一直線をなすはずであり、右境界線上の要所要所に、前出鉄芯入りコンクリート製の頂面型の杭がみられて然るべきことになる。
2 そこで被控訴人主張線を現地につき検討してみるに、≪証拠省略≫を総合すると、左記諸事実を認めることができる。
イ、被控訴人主張の境界点である別紙図面記載のリ、チ、ト点はいずれも同図面上のオ′点、オ点、ル点を結ぶ直線の延長線上に存在し、同図面上のヌ点も右直線に極めて近接した地点に存すること。
ロ、右オ点、ル点、ヌ点にはいずれも鉄芯入りのコンクリート杭が存在し、右各杭はいずれも耕地整理の際、耕地整理組合が入れたものであること。
ハ、右オ′点には(現在は確認できないが、)昭和四一年三月二〇日、加藤健一郎測量士が測量した当時にはコンクリート杭が存在したこと。
ニ、右オ点ならびにル点の各杭は、九九番に所在すると思われる控訴人方の屋敷の西側の石垣の底辺にそれぞれ接近した位置にあるので、右の各杭はいずれも控訴人所有の九九番とその西側に位置する一〇〇番の一、二との境界線上にあるものと推認されること。
ホ、すくなくとも控訴人は右オ、ル線をその西側の境界として同所九九番を支配していること。
ヘ、同所一〇一番の一、二の所有者訴外山盛操造は別紙図面ヌ、リ線を右土地の東側境界として現実に支配していること。
以上の事実が各認められてこれに反する証拠もなく、これらの諸事実を総合するときには、右オ、ル線は「中央線」の一部分を構成していると認められるので、控訴人所有の一〇三番及び一〇五番と、被控訴人所有の一〇二番との境界も右オ、ル線の延長線上に求めるのが相当であると思料される。
3 ≪証拠省略≫によると、一〇二番の北境い及び南境いの線については、被控訴人と各隣地所有者との間に争いがなく、被控訴人と山盛操造とは別紙図面記載のハ、リ線を、被控訴人と山口兼一とは同図面記載のロ、a線を互いに境界線として守っていることが認められるから、同所一〇二番の東北端、東南端を南北の右各境界線と前記「中央線」との交点に求めると、前者は別紙図面記載のリ点となり、後者は同図面のト点となる訳である。
上記を総合すると、一〇三番と一〇二番との境界線は、リ、チ線であり、同所一〇五番と一〇二番との境界線はチ、ト線となる訳である。
≪証拠省略≫によると、別紙図面記載のリ、ル線(被控訴人主張線)の延長線の両端は、本件団地の南北両端にある境界杭(甲第三五号証のホ点およびA点)からそれぞれ二メートル以上それることを認めることができる。控訴人は右は被控訴人主張線の誤っている証拠であると主張するが、右ホ点(別紙図面記載ヘ点)の杭が耕地整理組合の杭であるか否か、およびその現在位置が正確なものであるか否か疑問であることについては後に説示するとおりである。A点の杭についても≪証拠省略≫によると頂面型の杭と認められるので、≪証拠省略≫にてらし、その形状からして耕地整理組合設置の杭とは認め難く、他に右A点の杭が正確に「中央線」上に設置せられていることを確認し得るような資料はない。それゆえ、被控訴人主張線が右A、ホ線からそれるからといって、そのために被控訴人主張線を誤りと解することはできない。
三、1 これに対して控訴人の主張線は、前記ル点から別紙図面記載のヘ点のコンクリート杭を見透す線を以てル点以南の「中央線」と解し、右線上のリ′、チ′、a線を以て係争地の正しい境界線であるとなすものである。
しかしながら≪証拠省略≫により明らかなように右控訴人主張にしたがうときには「中央線」がル点で屈折して、ル点以南の「中央線」が同点以北の「中央線(オ′、オ、ル線)」と方向を稍異にすることになり、≪証拠省略≫上、「中央線」が一直線を以て表示せられているのとそごすることになるが、右は控訴人の主張の大きな欠陥といわなければならない。
2 控訴人は公図上の「中央線」が一直線なのに、杭が一直線にならなかったのは、本件土地一帯が山林で傾斜の高低や樹木のため見透し困難であったためで、附近に同様の例も多い旨主張する。
しかしながら同じ「中央線」の一部をなすオ′、オ、ル点の各杭が整然と一直線をなして打たれているのに、これと地形その他の条件を格別異にしたとも思われぬル点以南に限り見透し困難のため屈曲して杭が打たれたというのも理解し難いところであり、控訴人の右主張は採用し難いところである。
3 控訴人の主張線は別紙図面記載のヘ点のコンクリート杭を境界標識として重視するものである。
イ、右杭は≪証拠省略≫によると、鉄芯の入っていることは認められるけれども、他方≪証拠省略≫によると頂面型のものである点においてオ、ル、ヌ点の各杭と相違することも認められるので、果して耕地整理組合の入れた杭であるか否かは疑問といわなければならない(≪証拠判断省略≫)。
ロ、又、同杭の位置については、≪証拠省略≫によると、戦時中海軍施設部が右杭の附近に宿舎を建設するため整地作業をしたことが認められる(≪証拠判断省略≫)ので、このためにこの附近の境界杭の動かされた疑いもないではないし、≪証拠省略≫によると、ヘ点の杭の現在位置は公図上より割出した一〇五番、一〇六番、道路の接点のあるべき位置より西方に少なくとも一メートルはずれていることが認められるので、これらの点を考え合せると、ヘ点の杭が当初設置せられたときのままの正確な位置にあるものか否かの点につき疑いを挾み得るものといわなければならない。
ハ、≪証拠省略≫によると、隣地である同所一〇六番の地主山口兼一が控訴人に対し、右ヘ点の杭を境界とすることを承認したことは認められる。しかしながら≪証拠省略≫によると、山口兼一は右ヘ点を正確な境界点と信じている訳ではなく、むしろ正しい境界点は別紙図面記載のオ、ル線の延長線上にあると考えているものであるが、ヘ点を境界点とした場合でも、自分の所有地の同所一〇六番の実測坪数が、公簿面積だけはあるので、敢えて控訴人の主張を争わなかったことが認められる次第である。それゆえ、山口兼一がヘ点を争わぬからといって、同点が客観的に正確な境界点であることの証拠とはなし難いものである。
4イ、控訴人は同所一〇一番の二の東南角はリ点にあるべきではなく、リ′点にあるべきである。同地の地主山盛操造が現在リ点まで支配占有しているのは、最初に山盛の依頼した丹波測量士が、同番の西南角がハ点にあるべきなのに誤ってこれより東方約五〇センチメートルの地点のハ′点の杭の個所を西南角と誤認し、そこを基点として同番の東南角を測り出したためである旨主張する。
ロ、≪証拠省略≫を総合すると、公図上一〇二番、一〇一番の一、二の西端は一直線をなしているから、別紙図面記載のロ点(一〇二番西南角)、ニ点(一〇一番の一西北角)間も一直線をなしているはずであり、したがって一〇一番の二の西南角はロ、ニ線上に求めるべきところ、これより略東方約〇・五メートルのところにハ′点の杭の存在することが認められる。
ハ、しかしながら山盛操造の依頼した丹波測量士がハ′点を基点にして一〇一番の二の東北角を測り出したことを認めるに足る証拠はない。≪証拠省略≫中これを肯定する趣旨の部分は、その根拠が不明確で単なる推測に過ぎぬと思われるので措信し難く、他に右事実を認むべき証拠はない。
ニ、又、仮に右事実が認められたとしても、公図上の一〇一番の二の南辺の長さを一一・七間(二一・二七二七メートル)と読解すべきだとする趣旨の≪証拠省略≫は、≪証拠省略≫にてらしにわかに措信できぬものであり、他に右事実を認めるに足るような証拠もない。
そうだとすると、ハ′点の杭が道路の線(ロ、ハ、ニ線)から東に入っているからといって、これを根拠にリ点が東方の控訴人所有地に侵入していると推認する訳にはゆかない。
ホ、そればかりか、前示のように右リ点が耕地整理組合の杭のオ点、ル点を結んだ線の延長線上にある点からみると、丹波測量士が右の各杭を結ぶ線の延長線上にリ点を求めたことも考えられぬではない。
ヘ、又、≪証拠省略≫によると、別紙図面記載のハ、リ間の距離は二一・九メートルと実測されるところ、公図上の同所一〇一番の二の南辺の長さも二一・九メートルと読解されぬでもないので、リ点の位置が東により過ぎているとする控訴人の主張はにわかに採用し難いものである。
ト、又、≪証拠省略≫によると、リ、ヌ線を一〇一番の一、二と控訴人所有地との境界線とした場合でも、控訴人所有の九九番、一〇三番の実測坪数(三〇九坪七九)は公簿面積合計(三一〇坪)に〇坪二一欠けるのみであることが認められるから、地積の面からみても、必ずしも不当な境界決定ということはできぬものである。
チ、控訴人は、山盛操造が別紙図面記載のリ′点を同人所有地と控訴人所有地との境界点として承認した旨主張するが、≪証拠省略≫中、右主張事実にそう如き部分はにわかに措信し難く、他に右事実を認めるに足る証拠もない。
5イ、なお≪証拠省略≫によると、控訴人主張線にしたがった場合でも一〇一番の一、二、一〇二番、一〇六番の実測坪数は公簿面積に欠けることはないし、被控訴人主張線をとった場合にも、控訴人所有の九九番、一〇三番、一〇五番の実測坪数合計は公簿面積を下廻ることはなく、唯、反対側に約一五坪程の縄延びを生じるだけであることが認められる。
ロ、控訴人は右縄延びは山側の控訴人所有地につけるのが常識に合致する旨主張するが、≪証拠省略≫にみるとおり、係争地附近は低地に接し四囲を道路に囲まれた低平な丘陵に過ぎず、「中央線」を境にして被控訴人所有地側と控訴人所有地側とで地形的にそれ程差があったとも思われぬので、右縄延びを控訴人側につけねば不合理になるとも解し難いものである。よって実測坪数の検討は本件境界を決定するにつき余り大きな意味を持ち得ないものと考える。
四、1 次に控訴人の損害金請求につき考えるに、≪証拠省略≫を総合すると、左記諸事実を認めることができる。すなわち、
昭和三九年九月、控訴人は当時傾斜地になっていた係争地内を、控訴人主張線ヘ、リ′線を底辺として五〇センチメートルの深さに掘り込んで土留めのための石垣を積みにかかったところ、被控訴人はその西側の一〇二番地内にブルドーザーを入れて整地作業を行ない、同月一八日には控訴人の依頼した石垣工事の作業員の制止を押切ってa、リ′線より西側に二〇ないし三〇センチメートルの距離のところ迄、約一・八メートルの深さに略垂直に掘り下げ壁面には何の手当も施さなかった。そのため同月二五日にこの地方を襲った台風の際、右石垣は崩れ落ち土砂が崩壊し、その後は控訴人の切込んだ跡とあいまって高さ四メートルにも及ぶ崖となり、係争地は勿論その東側の争いない控訴人所有地までも崩壊の危険にさらされる状態となっており、右崩壊防止のための石垣土留工事費用は一九三万二、〇〇〇円を要するものと見積られている。
以上のとおり認められる。≪証拠判断省略≫
右認定事実によると、係争地附近はもともと傾斜地であったから整地するについては石垣その他の土留め工事が必要であり、そのためにこそ控訴人も石垣造成工事をはじめたものと思料されるところ、右の石垣より二〇ないし三〇センチメートルしか隔たぬところまで深さ一・八メートル、幅二〇数メートルにわたって略垂直に切り込んだまま、擁壁工事等も施さず、放置するときには、出水等により壁面が崩壊に至るべきこと、および奥行二メートル足らずの係争地は勿論、その東側の争いない控訴人所有地にまで崩壊の危険を生ぜしめることは容易に予見し得るところであり、被控訴人のなした右整地作業は争いない控訴人所有地に対する不法行為たるを免れぬから、被控訴人は控訴人に対し控訴人所有地の崩壊防止のために必要な土留工事費用相当額である一九三万二、〇〇〇円の損害賠償義務および右金員に対する本件不法行為成立の日以後の日である昭和四二年八月二三日以降完済迄民事法定利率による遅延損害金支払義務をそれぞれ負わなければならない。
2 控訴人は前記崩壊により枯死した松の損害や残りの松の植替費用相当の損害の賠償も求めているが、控訴人の主張する右の松が係争地内の控訴人主張線附近に生えていたものであることは弁論の全趣旨により明らかである。そうだとすると控訴人が権原によりこれを植栽したことの立証のない本件では、右の松は係争地所有者である被控訴人の所有に属するものとみる外はないから、これが控訴人所有に属することを前提とする控訴人の損害金請求は失当として排斥を免れない。
五、上記を総合するに、控訴人の本訴請求のうち境界確定請求の部分については主文第二項のとおり判決すべきであるし、損害金支払請求については同第四項の限度で正当としてこれを認容すべきであるが、これをこえる部分は失当として排斥すべきである。よってこれと一部結論を異にする原判決は主文のとおり変更することとし(境界確定請求に関する原判決主文は当審と結論を同じくするものであるが、更に表示を明確にするために主文第二、第三項のとおり変更する。)、民訴法三八六条、九六条、八九条、九二条本文を適用し、仮執行宣言の申立は不相当としてこれを却下し主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 柏木賢吉 裁判官 夏目仲次 菅本宣太郎)