名古屋高等裁判所 昭和46年(ネ)470号 判決 1972年7月13日
控訴人 青山洋平
右訴訟代理人弁護士 佐野公信
被控訴人 小西英俊
右訴訟代理人弁護士 伊藤宏行
同 青木俊二
同 岩瀬三郎
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。名古屋地方裁判所が昭和四六年三月一三日言渡した本件手形判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「控訴棄却」の判決を求めた。
当事者双方の事実上並びに法律上の主張は、左記のとおり附加するほかは、原判決(その引用にかかる手形判決を含む)事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
一、控訴人の主張
(一) 請求原因に対する認否 すべて認める。
(二) 抗弁
(1) 被控訴人所持の本件手形は、被控訴人において訴訟行為をなすことを目的として各手形の裏書譲渡を受けたものであって、この裏書は信託法第一一条に違反し無効である。
(2) 又右手形のうち後述の三通の手形は期限後の裏書に該るところ、控訴人は高島工業株式会社(以下高島工業という)に対しては建築工事金の前渡金として渡したのに工事をなさなかったから手形金の支払義務なきことをもって被控訴人に対抗しうるのである。
(3) 以上の事実は、(イ)甲第一号証の裏書欄に高島工業より裏書譲渡を受けた株式会社三河屋ブロックが、愛知信用金庫に取立委任し、同金庫は東海銀行に取立のための裏書をして不渡りになっているのに更に右三河屋ブロックより被控訴人に裏書の記載がなされていること、(ロ)甲第三号証の裏書欄に同様高島工業より中日本建材株式会社に、同会社は日豊サッシ工業株式会社に、同会社は三井銀行に、同銀行は名古屋相互銀行に取立委任して不渡りになっているのに右日豊サッシ工業より被控訴人に裏書していること、(ハ)甲第四号証の裏書欄に高島工業から重光電気商会こと重光正義に、同人より明興電気株式会社に、同会社は兵庫相互銀行に、同銀行は東海銀行に取立委任をして不渡りになっているのに、更に右明興電気が被控訴人に裏書していることでも明らかである。
二、被控訴人の主張
(一) 控訴人主張の抗弁は時機に後れたものであるから却下を求める。
(二) 右抗弁事実を争う。
証拠≪省略≫
理由
一、請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。
二、控訴人の抗弁に対し、被控訴人は時機に後れて提出したものであるとの理由でこれが却下を求めているのでこの点について判断する。
控訴人の抗弁は当審における第三回口頭弁論期日においてはじめて提出されたものであり、しかも控訴代理人は原審において単に「手形判決取消、請求棄却」の判決を求めたのみで請求原因に対する認否すらせず、更に当審における昭和四六年一〇月五日の最初の口頭弁論期日は同代理人の変更申立により同年一一月一一日に変更され、右第一回口頭弁論期日も期日変更の申立をなして欠席したため右期日は延期され、更に同年一二月九日の第二回口頭弁論期日にも期日変更の申立をなして欠席したが、右申立は却下となり口頭弁論が行なわれ、控訴状擬制陳述、被控訴人の答弁、並びに原審の口頭弁論の結果陳述にて弁論終結となり判決言渡期日を昭和四六年一二月二三日午後一時と指定されたところ昭和四六年一二月一八日に至り控訴代理人において抗弁を提出したいとの理由で口頭弁論再開申立書を提出し、これが容れられ昭和四七年二月八日に開かれた第三回口頭弁論期日において控訴人は抗弁を記載した準備書面を陳述し併せて証人等の申請をしてこれが採用となり証拠調並びに口頭弁論期日が同年三月二一日に続行され、同期日において右証人等の証拠調べを終了したが該第四回口頭弁論期日において当事者双方が更に書証を提出し、続行期日が同年五月一一日と定められ、同日の第五回口頭弁論期日に被控訴人は在廷証人の尋問を求め、これが取調べを終えた後弁論が終結されたことが記録上明らかである。
そこで右の訴訟経過に徴するときは、控訴代理人は全く故意又は重大な過失によって時機に後れて右抗弁を提出したものと認めるの外なく、又本件は請求原因事実に争いのない事案であるから、右抗弁提出により新たな証拠調べを必要とするものであり、それ故に証拠調並びに口頭弁論期日が続行され証拠調がなされている点よりみれば、これが訴訟の完結を遅延させるべきものと認められることも肯認せざるをえない。
そして、本件の如く新しい主張である抗弁の成否をめぐって証拠調の施行された後においても右の主張を時機に後れて提出されたものとして却下することができないわけではないと解されるけれども本件が新しい主張を直ちに却下せず更に期日を続行してこの点に関する証拠調べを終えており、しかも右再開直後の第三回口頭弁論期日から弁論終結に至る期間が僅々三ヵ月程度であるような審理経過に鑑みると、これを時機に後れたものとして右主張及び証拠調べの結果を参酌せず敢えて不完全な訴訟資料又は証拠資料に基づいて裁判することは訴訟経済にも反し、事案に即した適正な裁判を行なうとの観点からも相当とは認められないので、被控訴人の右申立を許さない。
三、そこで抗弁につき以下検討を加える。
(1) 被控訴人は訴訟行為をなすことを目的として本件各手形の譲渡を受けたもので信託法第一一条に違反するとの控訴人の主張は、これに副う≪証拠省略≫は措信できず、かえって、≪証拠省略≫によれば、本件各手形はいずれも控訴人の父親訴外青山半三郎が経営するホテル岩津の新築用木材の代金支払に関するものとして受取ったことが認められるから、控訴人の右主張は採用できない。
(2) 本件手形のうち甲第一号証、同第三、四号証の三通の手形は期限後裏書であって、これは工事施行の前渡金支払のため高島工業に振出された手形であるのに工事の施行がなされていないから、これをもって被控訴人に対抗できるとの点については≪証拠省略≫によれば、成程右手形は控訴人主張の如く期限後裏書により被控訴人がこれを所持するに至ったこと及び、新外青山半三郎が高島工業に対し、前記ホテルの請負代金支払のため振出したことが認められるが、これが工事の前渡金であって右工事が施行されていないとの控訴人の主張に副う証人青山半三郎の証言及び控訴本人尋問の結果の各一部は、証人小西與三郎の、本件手形は右工事中振出されたものであり又本件手形決済についての控訴人との折衝の過程でそのような申出がなかった旨の証言に照したやすく信用できないし、他に右主張を裏付けるに足る証拠はない。
よって、控訴人の右主張も採用できない。
四、されば、控訴人の本件控訴は理由がなく、被控訴人の本件手形金請求を認容した手形判決を認可した原判決は相当であるから本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西川力一 裁判官 菊地博 横山義夫)