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名古屋高等裁判所 昭和47年(ネ)181号 判決 1972年12月23日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は、左記を附加する外は原判決事実摘示に記載するとおりであるから、これをここに引用する。

一、控訴代理人の陳述

(一)  民法第七七〇条一項一号の離婚原因としての不貞の行為とは貞操義務違反行為を言うのである。即ち、配偶者ある者が配偶者以外の者と性的関係を結ぶことであつて、その肉体関係は内心的には自由意思を必要とするが故にこれを欠くときは不貞の行為とは言えない。本件の場合は控訴人の暴行による姦淫の場合であるから被害者側について言えば不貞の行為と解することはできない。

(二)  次に述べる控訴人が婦女子に対し暴行による姦淫等の行為に出でたについての事情及び控訴人が本訴を提起するに至つた事情等を考慮するときは同条第二項により被控訴人の本訴は棄却されるべきものである。

(1)  控訴人と被控訴人とは、恋愛によつて結ばれ、被控訴人の父の反対をおしきつて結婚し、その間に一子友栄までもうけている。控訴人は被控訴人と結婚後勤務先においても真面目に働き同僚の気受けよく、被控訴人との生活円満であつた。ところが、被控訴人は、友栄出生後控訴人の性的要求を拒否し続けてきたので、元気一杯の壮年である控訴人としては性的不満におち入り懊悩としていたところ、友人斎藤に誘惑され強姦を犯すに至つた。

(2)  控訴人が改悛を示すため上訴をとりやめ服役した当時は、被控訴人も控訴人に愛情を示していたが、時日の経過とともに局面は悲劇的に展開した。被控訴人が意外にもその父にそそのかされて離婚の訴を起したのを始め控訴人所有の郵便貯金、農協の預金を控訴人の同意を得ずして引出し、家財道具も持出して実家に帰つている。

(3)  控訴人は服役後業績があがり、近く仮釈放が許される見通しがついている。被控訴人も控訴人の更生した心境を認め翻意するならば、控訴人、被控訴人は一子友栄を中心にして明るい家庭を実現することは容易である。

二、被控訴代理人の陳述

控訴人主張の事実を否認する。

三、証拠(省略)

理由

当裁判所の判断によるも、被控訴人の離婚並びに慰藉料請求は全部正当として認容すべきものであり、又被控訴人と控訴人との間の長女松本友栄に対する親権者を被控訴人と定めるのが相当であると考える。その理由は、左記を附加する外は原判決理由に説示するとおりであるから、これをここに引用する。

一、民法第七七〇条第一項第一号に定める「配偶者に不貞の行為があつたとき」とは、配偶者ある者が配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうものと解する。そして右性的関係を結ぶについて自由な意思を欠如している場合には、その者について右不貞の行為があつたとはなし難いものと考えるが、本件においては前認定(原判決認定)のとおり控訴人は自己の自由意思にもとづいて配偶者である被控訴人以外の婦女と性的関係を結んだものであるから、控訴人に右にいう不貞の行為があつたこと明らかである。

二、控訴人は、被控訴人の本訴提起は被控訴人がその父にそそのかされたことによるものであり、被控訴人の本心にもとづくものでないと主張するが、原審における被控訴本人尋問の結果によると、被控訴人は控訴人の不貞行為により控訴人との婚姻生活継続に希望を失い控訴人と離婚することを決意するに至り本訴を提起したものであることが認められるから、控訴人の右主張は採用できない。

三、仮釈放を受けた後の控訴人の生活について被控訴人との夫婦生活の継続が望まれるとしても、控訴人の更生のために被控訴人に対しその望まないことを強いることはできないことであるから、本件について控訴人主張のように民法第七七〇条第二項を適用して被控訴人の本訴を棄却すべき事情があるものとは認め難い。

四、当審において控訴人が提出援用した全証拠によるも前記判断を左右できない。

よつて原判決は相当であつて、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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