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名古屋高等裁判所 昭和47年(ラ)187号 決定 1973年2月05日

抗告人 林正次

抗告人 鬼頭純三

抗告人 堀口春江

右三名代理人弁護士 山内甲子男

相手方 山田裕

相手方 株式会社三木組

右代表者代表取締役 三木道夫

右両名代理人弁護士 小倉紀彦

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

抗告人らの新申請をいずれも却下する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

抗告人ら代理人は、「一、原決定を取消す。二、抗告人らとの関係において相手方らは別紙物件目録(一)記載の土地上に建築予定の別紙物件目録(二)記載の建物の基礎を抗告人らの土地との境界より〇、五メートル以上離し、かつ四階を越える部分の建築工事をしてはならない。三、右建物の北側および西側の抗告人らの家屋を見おろす窓および通路には目隠しを設けよ。四、執行官は前二項の命令の趣旨を公示するために適当な方法をとらなければならない。」との裁判を求め、その理由とするところは別紙抗告理由書のとおりである。

よって審案するに、疎明によると相手方山田裕は別紙物件目録(一)記載の土地を所有し、同地上に同目録(二)記載の鉄筋コンクリート造六階建一部機械室塔屋付事務所付共同住宅を相手方株式会社三木組にその工事を請負わせて現在建築中であること、右建物は事務所付共同住宅(貸マンション)であって建築完成後は最高の高さ一七・一〇メートル(一部機械室塔屋部分の高さは二二・七五メートル)であること、抗告人林正次(六九才)は昭和一二年ごろから本件土地の北東側に土地を所有し同地上に昭和三七年一二月ごろから鉄筋コンクリート造二階建の建物を建築所有し、その一階には抗告人林正次夫婦がその二階には抗告人鬼頭純三が昭和三九年ごろから妻永子と子供一人と共に居住していること、抗告人堀口春江(五九才)は昭和二八年ごろから本件土地の北西側にある土地上の木造二階建建物に居住し息子(二六才)娘(二八才)と同居していることが一応認められる。

先ず相手方らに対し本件建物の基礎を抗告人らの土地との境界より〇・五メートル以上離すことの命令を求める抗告人らの申請について按ずるに、疎明によれば、本件建物の建築予定地は概要原決定添付図面のとおりであるが、本件建物は抗告人林正次方の敷地との境界より六八・六センチメートル、抗告人堀口春江方の土地の境界より一番近いところでも五三センチメートル離れていることが一応認められ、右事実をくつがえすに足る疎明資料はないから、抗告人らは相手方らに対し民法第二三四条第一、二項による建築変更を求める請求権を有しないといわなければならない。

次に抗告人らの本件建物の四階を越える部分の建築工事をしてはならないとの命令を求める申請について判断する。

疎明によると、本件建物の一階は事務所一部屋のほかは駐車場に充てられ二階以上は貸マンションとされる予定で建築面積は二五一・五八八平方メートル、延べ面積一、三九八、二六六平方メートルで完成時の高さは前示のとおりであるが、本件土地の南東部の空地を駐車場とする予定であるため北西部に寄っているため後記のように抗告人ら方の日照に影響があるが、建ぺい率も守られており、昭和四七年七月一八日建築確認をうけているもので建築基準法に適合するものであること、しかし、本件建物が完成すると前記のような高さとなるため、抗告人林正次方および同鬼頭純三方においては冬至の日には午前一〇時三〇分ごろまでと午後二時三五分以後の日照があるだけとなるがその間取り(原決定添付第三図面のとおり)上各窓から充分採光でき日中から電灯をつけなければならない程ではないこと、抗告人林および同鬼頭方は南側境界まで前示のように六メートル余あって植木を植え枯沢の池のある庭となっている東側は小林商店の古鉄置場西側は田中某所有の畑があるため通風は左程妨げられないこと、また抗告人堀口春江方の間取りは原決定添付第四図面のとおりであるが、冬至の日には午後二時以降にははじめて南部西部から日照を受けるにとどまり階下の六畳の間、三畳の間、食堂などは日中から電灯をつけなければならないことが予想されること、通風については南側は幅員七・三メートルの公道で西側北側は畑があって通風は左程防げられないこと、が一応認められる。

以上のとおり、本件建物が完成すると抗告人はその生活がある程度防害されることは一応認められるけれども、その程度がいまだ社会生活上受忍すべき限度を著るしくこえるものとはとうてい認め難いから、抗告人らは相手方らに対して本件建物の建築を四階を越える部分について差止めを求める権利を有するものとは認められない。

次に本件建物の北側および西側の窓および通路に目隠しを設けることの命令を求める抗告人らの新申請について判断する。疎明によると、本件建物の当初の設計によると本件建物の二階以上の各階の北側と西側は通路として使用することが予定され目隠しとなるようなものはなかったが、相手方らはその後その設計を変更し、本件建物の各室の窓には網入りすりガラスをはめることとし窓の下部を外部に押し出して開く構造としこれを開けても建物の真下が見える程度のものとしたこと、また各室の北側と西側の廊下には床から高さ一・八メートルの枠を組み床から九〇センチメートルの高さのところから上部に網入りすりガラスをはめて通常居住者が立って歩いても抗告人ら方を見おろせないようにしたことが一応認められるので、右事実によれば抗告人らの新申請はその必要性に乏しいといわなければならない。

以上の次第で抗告人らの原審でした申請はいずれも被保全権利について疎明がないことに帰着し、また保証をもってこれに代えることも相当でないものと認められ、また当審での新申請はその必要性について疎明がないことに帰着する。

よって原決定は相当で本件抗告は理由がないからこれを棄却すべく、また抗告人らの当審での新申請は却下すべきものである。よって抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第九三条第一項本文、第八九条を適用の上、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡本元夫 裁判官 丸山武夫 土井俊文)

<以下省略>

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