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名古屋高等裁判所 昭和47年(行ケ)1号 判決 1973年2月27日

原告 水島政雄

<ほか八名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 川村鈴次

同 福間昌作

被告 三重県選挙管理委員会

右代表者委員長 吉住慶之助

右指定代理人 田中功

<ほか四名>

主文

原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら代理人は、「(一)昭和四六年四月二五日施行の桑名市長選挙につき、その当選の効力に関し原告らからした審査申立に対し、被告が昭和四六年一二月二〇日になした裁決はこれを取消す。(二)前項の選挙における候補者水谷昇の当選を無効とする。(三)訴訟費用は被告の負担とする。」との裁判を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告らはいずれも昭和四六年四月二五日施行の桑名市長選挙(以下本件選挙という)の選挙人である。

二、本件選挙について、桑名市選挙管理委員会は候補者水谷昇の当選を告示したが、原告らは、その当選の効力に関し不服があり、同年五月七、八日の両日にわたり、右委員会に対し異議の申立をなしたところ、右委員会から同月二一日右異議申立を棄却する旨の決定を受けた。

三、原告らは、右決定に不服があったので、同月二四日被告委員会に対し、右決定を取消し、本件選挙の投票を再点検して投票の効力を再決定されたい旨審査申立(以下本件審査申立という)をなした。これに対し、被告委員会は同年一二月二〇日本件審査申立を棄却する旨の裁決(以下本件裁決という)をなし、同月二一日原告らに対し該裁決書を交付した。

四、本件審査申立の原因たる事実は、「市長は諏訪」またはこれと同趣旨の記載のあった投票が無効とされた点および開票手続に公正を疑う事実のあった点であったところ、本件裁決は前者をそのまま確認し、後者は認められないとして本件審査申立を棄却したものである。

五、しかし、原告らは本件審査申立に当り、被告委員会に対し、特に投票を再点検して投票の効力を再決定するよう求めたにもかかわらず、本裁決が、この手続を経ることなく、かつこの手続を排斥する理由を示すことなく本件審査申立を棄却したことは不当である。すなわち、

1  本件審査申立において、原告らは、(イ)投票箱のうち一個の鍵の所在が不明で他から持ってきたこと、(ロ)開票中、再々休憩し、その直後に水谷候補の得票が伸びたこと、(ハ)開票立会人が投票を点検する十分な時間がなかったこと、(ニ)開票所における現職の桑名市助役の行動が不可解であったことを指摘して、その公正を疑う根拠を示し、投票を再点検する必要の理由とした。

2  しかるに、本件裁決は、原告らの指摘した事実をただ現象的にのみとらえ、原告らの主張を潜在的選挙無効原因の主張と解し、右事実のうち(ロ)、(ハ)の各事実の不存在を認定し、その余の事実につきこれを認めるに足りる証拠がないとして選挙無効の原因がない旨説示しているが、これは本件審査申立の趣旨を誤って解釈したものである。

3  本件選挙は、昭和三四年五月一日桑名市長に就任して以来、三期連続して市長の職にあった水谷候補と、同人の長期にわたる首長在職による市政の悪弊を改善するため、その四選を阻止すべく選挙民に擁立された諏訪精一候補との対立した運動によって行われた。

4  しかして、投票日前においては一般に諏訪候補の優勢が予想され、かつ開票開始後の二時間目には同候補優勢の数字が集積されたところ、その後漸次頽勢となり、結局三一二票の差をもって水谷候補の当選が決定した。

5  民衆は、予想に反した右結果に対する疑いを、前記1の(イ)ないし(ニ)の現象に置いたのであるが、この現象により水谷候補の当選の効力を疑った根拠は次の点にある。すなわち、同候補の一二年間にわたる市長在職の事実と、その性格および利益関係から発生しうる市役所職員、市長において選任する桑名市選挙管理委員会委員ならびにその委員会が選任する選挙委員および中立立会人らの同候補に対する忠誠心の存在を推定し、この潜在意識からこれらの人々の行為に疑惑をもったのである。

6  そして、右民衆の疑惑は単なる法律的証拠の不存在をもって一蹴すべきものではない。すべて長期にわたり役職にとどまるときは悪弊の生じ易いことを慮って、これを異動して過誤なからしめることが管理者の責任である。選挙による地方自治体の首長においては選挙人の選択の外になく、その負託を受けた者として自戒するとともに、制度としても、その公正を監視点検することが必要なことは条理上明らかである。

7  このようにして、本件審査申立において原告らが指摘した前記事実を、本件裁決のごとく現象的にのみ解さず、前記のような根拠に基づく重大なる一連の開票行為の公正の問題として、投票の総点検によって明らかにすることこそ選挙の公正はもちろん、公正を信ぜしめるため設けられた民衆争訟たる選挙争訟の目的であり、特に長期在任の首長をもつ地方自治体においてその首長が立候補し、その結果に選挙人が不服をもったときにとるべき必要の措置である。

六、ところで、本件裁決は、職権をもって調査した結果、「水谷市長」またはこれと同趣旨の記載のある投票が数票(三ないし四票)存在したことを認めている。

1  右職権調査は水谷候補の有効投票を総点検した結果と判断すべきであるが、同候補の投票のみを総点検したのは不公平な措置である。

2  総点検したのでないとすれば、一部の点検により、右投票数を三ないし四票と断定し、その有効を決定することは、それが多数あった場合における問題価値を抹殺しようとするもので不当である。

3  調査の結果右投票数が三ないし四票であったと認めたことは、全体の調査の粗漏を証するもので、本件裁決全体が措信しえないものである。

七、また、本件裁決は「市長は諏訪」またはこれと同趣旨の記載の投票が三八票存在したことを認めている。

しかして、これは桑名市選挙管理委員会が新聞紙上に発表した「候補者の氏名の外他事を記載したもの・三八票」というのと同数である。しかし他事記載のすべてが「市長は諏訪」またはこれと同趣旨の記載であるとは経験則上考えられないから、本件裁決には全般的に投票の審査、判読に誤りがあることが推定しうる。

八、さらに、本件裁決は「市長は諏訪」またはこれと同趣旨の記載のある投票を他事記載と認定し、他方「水谷市長」またはこれと同趣旨の記載のある投票を、水谷候補はいわゆる現職の市長であり、「市長」は日常使用されている呼称を使用したものとして有効と判断した。

しかし、市長は公職選挙法第八九条但書に該当しないから、水谷市長は市長でなかったものと推定されるのであって、被告委員会の右判断は違法である。

そして、「市長は諏訪」の記載は諏訪候補を次期市長にしたいという選挙人の願望を表現したものでその意思が適格に表現されており、表現の自由を尊重して有効とすべきものである。これを無効とした本件裁決は法の解釈を誤ったものである。

なお、本件選挙において無効とされた投票中に「スク」、「スフ」と記載したものが存在したとの疑いがある。仮に、存在したとすれば、無効の判断は誤りで、選挙人は「スワ」の意思で記載したことが明らかであるから、これを有効とすべきである。

第一回

二五日二一時

第二回

二二時

第三回

二三時

第四回

二三時三〇分

第五回

二四時

第六回

二六日〇時三〇分

諏訪

二五〇

九、一五〇

一五、四五〇

一八、九〇〇

二二、二五〇

二二、四〇一

水谷

四〇〇

七、六五〇

一六、四〇〇

一九、六〇〇

二二、六五〇

二二、七一三

六五〇

一六、八〇〇

三一、八五〇

三八、五〇〇

四四、九〇〇

四五、一一四

(-)一五〇

(+)一、五〇〇

(-)九五〇

(-)七〇〇

(-)四〇〇

(-)三一二

九、前記開票発表の推移および開票立会人に投票を点検する十分な時間がなかった点を少しく敷衍するに次のとおりである。

1  諏訪、水外両候補の発表時間別得票数は右表のとおりである。

右表から明らかなように、第二回目の発表によれば、それまでの開票有効投票数一万六、八〇〇票のうちで一、五〇〇票諏訪候補が多かったのに、第三回目の発表によれば、第二回目から第三回目までの開票有効投票数一万五、〇五〇票のうちで一、六四五票水谷候補が多かったこととなるが、第二回目の発表直後の休憩時間中に開票管理者のうちの者のいかがわしい動きが表面化したのである。

そしてまた、諏訪候補の開票立会人のつかんだ各候補者の得票数と発表数とは時々異っていた。本件選挙の開票場における開陣投票数の集計とそれを発表する場所は開票立会人からも参観人からも見通しにくいところであり、右のように開票立会人または参観人による得票記録と発表得票数との間に差異が生じたのは、担当者において得票数を自由に区分操作することができるということを示す。

2  開票立会人による投票の点検は、選挙委員において有効投票と認定した票を各候補者別に五〇枚を一束として綴られたものの回付を受け、これを点検して印を押捺する方法で行われた。しかして、前掲発表時間別得票数の表に基づき各発表時間から次の発表時間までの開票有効投票数から五〇枚一束の個数を算出するに、第一回目から第二回目の間で三二三個、第二回目から第三回目の間で三〇一個、第三回目から第四回目の間で一三五個、第四回目から第五回目の間で一二八個となり、一束平均点検所要時間を算出するに順次一一秒、一二秒、一三秒、一四秒となる。このような短時間(実際には休憩がありさらに短時間となる。)では、開票立会人が各束の内容を厳密に点検することは不可能であり、事実開票立会人において少数の投票文字を読んだ程度で、枚数の計算は全く行われなかった。

一〇、よって、原告らは本件裁決を取消したうえ、本件選挙における候補者水谷昇の当選を無効とする裁判を求める。

被告代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

一、請求原因第一ないし第四は認める。

二、同第五中、原告らが1の(イ)ないし(ニ)の事実を本件審査申立の理由としたことおよび本件裁決において1の(ロ)、(ハ)の各事実の不存在を認定し、その余の事実につきこれを認めるに足りる証拠がないと説示したことは認める。その余は争う。

なお、投票の再点検は証拠方法であって、これが採否は審査庁たる被告委員会の専権に属し、原告ら主張のごとく審査手続の違法をもたらすものではない。

三、同第六中、本件裁決において原告ら主張のとおり「水谷市長」またはこれと同趣旨の記載のある投票の存在を認定していることは認める。その余は争う。

四、同第七中、本件裁決において「市長は諏訪」またはこれと同趣旨の記載の投票が三八票存在したことを認定していることは認める。その余は争う。

五、同第八中、本件裁決において、原告ら主張のとおり「市長は諏訪」またはこれと同趣旨の記載のある投票を無効とし、「水谷市長」またはこれと同趣旨の記載のある投票を有効とする判断を示していることは認める。その余は争う。

なお、市長の地位が立候補によって消長をきたすものでないことは、公職選挙法第八九条第二項後段、第三項に照らせば明らかである。

六、同第九中、諏訪、水谷両候補の発表時間別得票数および五〇枚一束当りの平均点検所要時間が原告ら主張のとおりであることは認める。その余は争う。

証拠≪省略≫

理由

一、原告らが昭和四六年四月二五日施行された本件選挙の選挙人であること、本件選挙について、桑名市選挙管理委員会が候補者水谷昇の当選を告示したが、原告らが、その当選の効力を不服として、同年五月七、八日の両日にわたり右委員会に対し異議の申立をなしたところ、右委員会から同月二一日右異議申立棄却の決定を受けたことおよび原告らが、右決定を不服として、同月二四日被告委員会に対し、本件審査申立をなしたところ、被告委員会が同年一二月二〇日本件審査申立棄却の本件裁決をなし、同月二一日原告らに対し該裁決書を交付したことはいずれも当事者間に争いがない。

二、原告らが本件選挙における候補者水谷昇の当選無効の原因すなわち本件選挙執行機関の右当選人決定の判断内容の誤りとして主張するところは、本件選挙において水谷昇および諏訪精一の両名が立候補したが、本件選挙の投票中「市長は諏訪」またはこれと同趣旨の記載のある投票が無効とされ、「水谷市長」またはこれと同趣旨の記載のある投票が有効とされたという点および右のほかに無効とされた投票中に諏訪候補に対する投票とみるべき「スク」、「スフ」と記載されたものが存在したとの疑いがあるという点に尽きる。

≪証拠省略≫を綜合すれば、本件選挙において桑名市長の職にあった水谷昇と諏訪精一の両名が立候補したこと、本件選挙の投票中無効として処理された候補者の氏名のほか他事を記載した投票は三八票あったこと、そのうち「市長は諏訪」ないし「市長諏訪」と記載された投票が三、四票あったこと、他方「水谷市長」と記載された投票が三、四票あったが、有効として処理されたこと、なお本件選挙は任期満了による選挙で桑名市議会議員選挙と同時に施行されたものであることがそれぞれ認められ、これを覆えすに足る証拠はない。

しかして、地方公共団体の長の任期満了による選挙には、当該長は在職のままその選挙における候補者となることができることは公職選挙法第八九条第二項に明記されているところであるから、右によれば、水谷候補が本件選挙当時桑名市長の職にあったことは明らかである。そうとすれば、右「水谷市長」と記載された投票は、水谷候補の氏のほか同法第六八条第五号但書にいう「職業、身分……または敬称の類を記入したもの」に該当するというべきこと多言を要しないから、これは水谷候補に対する有効な投票と認められる。また右「市長は諏訪」および「市長諏訪」と記載された投票は、右のように本件選挙と同時に施行された市議会議員選挙における投票と区別するため、他意なく選挙すべき公職を附記したものと認められるから、これをもって無効となすべき意識的な他事記載に該当すると解するのは相当でない。

次に、原告ら主張の「スク」および「スフ」と記載された投票については、本件選挙において無効として処理された投票中に右各記載のなされた投票が存在したことを認めるに足る証拠がない。かえって、≪証拠省略≫によれば、本件選挙の投票中に右各記載のなされた投票が何票か存在したが、それはいずれも諏訪候補に対する有効投票として処理されたことが認められる。証人伊藤明は、本件選挙の投票中「スク」と記載された投票はなかった旨供述するが、右証拠と対比して信用できない。

三、上述したところによれば、本件選挙における諏訪候補の得票は、本件選挙執行機関の計算したところより、三、四票増加することとなる。しかし、本件選挙において同候補の得票が二万二、四〇一票、水谷候補のそれが二万二、七一三票と計算されて、前示当選決定がなされたことは当事者間に争いがないから、右諏訪候補の得票の増加によっては前示当選決定に影響を及ぼさないことが明らかである。

四、原告らは、本件裁決には、被告委員会において、原告らが求めたにもかかわらず投票全部の再点検をしなかった点、水谷候補の投票のみその全部または一部を点検した点および全体的に調査が粗漏であった点において手続上違法の瑕疵がある趣旨の主張をする。

原告らが本件審査申立に当り本件選挙の投票の再点検を求めたことは当事者間に争いがないとともに、被告委員会が右投票の再点検を全く行っていないことは弁論の全趣旨により認められる。ところで、公職選挙法第二一六条第一項は選挙および当選の効力に関する異議の申出について行政不服審査法第二八条を準用する。同条によれば、被告委員会は審査申立人の申立によりまたは職権で、書類その他の物件の所持人に対し、その提出を求めることができるのであるが、同条による被告委員会の審査申立人の申立についての採否は、その性質上、被告委員会において物件の提出を求めることが審査申立に対する裁決のため必要かどうか自由に判断したところにより決することができるものと解すべきである。そうとすれば、たとえ、原告らの本件選挙の投票再点検の申立が、右規定にいう物件に該当すると認められる本件選挙の投票の提出をその管理者から求める趣旨も含むものと解すべきものとしても、被告委員会がこれを容れることなく、本件選挙の投票を再点検しなかったことをもって、違法と目することはできない。

そして、被告委員会は右のように投票の再点検を全く行わなかったのであり、水谷候補に対する投票のみを再点検したことはなく、また本件裁決において「水谷市長」と記載した投票が三、四票存在したと認定したということから、被告委員会の調査が粗漏であるという結論を導きうるものではない。また、本件裁決が「市長は諏訪」またはこれと同趣旨の記載の投票が三八票存在したと認定していることは当事者間に争いないところ、右被告委員会の認定が誤りであることは先に説示したところに照らし明らかであるが、そのことが直ちに本件裁決に手続上の違法があることを意味するとはいいえない。

そもそも、本訴は本件裁決の効力のほか前示当選の効力をも対象とし、それについて判断がなされる以上、当選の効力についての判断の当否とは別に本件裁決をその手続上の瑕疵によって取消し、裁決をやり直させる必要ないし利益は見出せないものである。

五、以上のとおり本件選挙における水谷候補の当選につき無効原因はなく、右当選は有効で、本件審査申立を棄却した本件裁決は相当であってその手続上もこれを取消すべき瑕疵は存在しないというべきであるから、原告らの本訴請求はすべて理由がない。

六、ところで、原告らの主張中には本件選挙の開票手続に違法ないし不正行為が介在したかのような主張がみられるので、念のため検討することとする。

まず、投票箱の鍵の点は、≪証拠省略≫を綜合すれば、本件選挙の投票の開票に先立ち、開票所に右投票所から錠をかけて持ち込まれた各投票箱を並べ、その前に封筒入りのそれぞれの鍵を置き、開票立会人の点検を受けたうえ、各投票箱を開けようとしたところ、二投票区の投票所から持ち込まれた投票箱がその前に置かれた鍵では開かなかったこと、それは、前認定のように本件選挙と同時に市議会議員選挙が施行されたため、各投票所に主として市議会議員選挙用のものと主として市長選挙用のものとの二個の投票箱が設置されたが、該投票所の担当者において鍵を封入する際市議会議員選挙用のものと市長選挙用のものとを取り違えたことによるものであり、なんら不正行為の介在を疑う余地はないことが認められる。

七、次に、開票立会人において投票を点検する十分な時間がなかったとの点については、本件選挙における各候補者の開票発表時間別得票数およびそれを基に割り出した開票立会人の投票点検所要時間が原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがないが、≪証拠省略≫を綜合すれば、本件選挙において開票された投票は、まず明らかに有効なもの、無効なものおよび有効無効の判定を要するもの(疑問票)に区分され、明らかに有効な票は直ちに候補者別に五〇票ずつの束に纒められて開票立会人に回付され、無効票および疑問票は担当の開票係主任の確認判定を経たうえ、二〇票ずつの束に纒められて開票立会人に回付されたものであるが、右のような措置により投票点検の便がはかられ、開票立会人が投票の点検を前示所要時間中に行いえたこと(もとより選挙執行機関その他において開票立会人の投票点検時間を制限するような措置がとられたことを窺える事情はない。)が認められ、これを左右するに足る証拠はない。

八、開票発表の推移と桑名市助役の行動の点であるが、本件選挙の開票発表状況は前示のとおりであって、第二回目の発表では一、五〇〇票水谷候補のそれより多かった諏訪候補の得票数が、第三回目の発表では水谷候補の得票数を九五〇票下回っており、また、≪証拠省略≫によれば、桑名市の助役が本件選挙の開票所において開票事務の休憩時間中開票所内に設置された電話を掛け、あるいは他の者と私語する等のことがあったことおよび諏訪候補の開票立会人の計算による同候補の得票数と発表されたそれとが一致しなかった場合があったことがそれぞれ認められる。しかし、≪証拠省略≫によれば、桑名市助役は同市の選挙管理委員会の委員を兼ねており、本件選挙の開票所監視員に任命されて開票所に入っていたものであること、および開票事務処理上、最終発表の場合を除き、必ずしも開票発表までに開票立会人の点検した有効票が各候補者の得票として計算発表されることなく、その間に多少のずれが生ずることはままありうることがそれぞれ認められるのであって、原告ら主張のように、桑名市助役が本件選挙の開票事務に不正に介入し、あるいは開票事務に不正があったことを直接認めるに足る証拠はもとより、これを疑わせる事情を認めるに足る証拠はない。

九、その他本件において、本件選挙を無効と判断すべき資料は存在しない。

一〇、以上の次第で、原告らの請求はいずれもこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 布谷憲治 裁判官 福田健次 豊島利夫)

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