名古屋高等裁判所 昭和48年(う)151号 判決 1974年2月26日
本店所在地
岐阜市金宝町三丁目八番地
株式会社内一
(起訴当時有限会社内一商会)
右代表者代表取締役
竹嶋可ず江
右代表者代表取締役
竹嶋武男
本籍
岐阜市弥生町一四番地
住居
同市金宝町三丁目八番地
会社役員
竹嶋武男
昭和二年七月三〇日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、昭和四八年二月八日岐阜地方裁判所が言い渡した有罪判決に対し、被告人株式会社内一および同竹嶋武男から適法な控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官高田秀穂出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
本件各控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人江口三五作成名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用する。
控訴趣意第一点の一について。
所論の要旨は、(一)本件指定金銭信託預金五、五九〇万円のうち三、〇一〇万円は、竹嶋可ず江のものであるのに、これを被告人会社に帰属する旨認定した原判決は事実を誤認したものである。(二)仮に右金銭信託預金が被告人会社のものだとしても、同族会社に対しては、旧法人税法三一条の三の規定により、認定賞与として個人に帰属させる取扱をなすべきであると主張したが、原判決は、この点に対する判断を逋脱した。(三)次に、仮りに右指定金銭信託預金が被告人会社に帰属するとしても、同金額の社長借入金を認め、これに指定金銭信託預金の受益と同率の利息相当額を社長預り金として認みるべきであると主張したが、これを否定した原判決は事実を誤認したものである、というのである。
しかしながら、原判決挙示の関係各証言によれば、検察官作成にかかる昭和三六年七月一三日付被告人会社外一名に対する法人税法違反被告事件の犯則所得及び税額計算書記載の第二の一の(4)の指定金銭信託明細表23(原判決に28とあるのは23の誤記と認める。)ないし38に掲記の、十六銀行柳ケ瀬支店関係指定金銭信託預金元本合計金二、二一〇万円および同明細表番号1ないし8(原判決に9とあるのは誤記と認められる。)に掲記の、株式会社東海銀行岐阜駅前支店関係指定金銭信託預金元本合計金八〇〇万円(以上合計金三、〇一〇万円)は、簿外預金であり、被告人会社の営業活動による利益によって発生したことが明らかであること、右指定金銭信託設定に際し、契約別に被告人会社分と竹嶋可ず江分とを区別して取扱った事実がないこと、被告人会社は、昭和二六年から同二九年頃にかけて取扱商品なるモケット類の好況により、業績が急上昇し、営業の伸長に伴い資金の多額化とその欠乏を来したため、当時被告人会社の代表者竹嶋可ず江(養母)から経営一切を任されていた被告人竹嶋武男が、右可ず江に対し金員の支出方を申込み、その応諾を受けて、同女所有の商品を換価処分し、また同女がその所有の書画骨陶や貴金属類を処分した代金合計金一、四四七万七、二五〇円の出資を受けたこと、竹嶋可ず江は、昭和三五年一一月一一日検察官の取調べに対し前記指定金銭信託預金については知らない旨供述し、同じく同月一六日の取調べに対し前記出損金はまだ返して貰っていない旨の供述をしていること等の事実が認められ、右認定に反する被告人会社代表者竹嶋可ず江の原審における供述ならびに被告人竹嶋武男の原審および当審における各供述中右認定事実に反する部分は信用できない。右事実に徴すると、前記指定金銭信託元本合計三、〇一〇万円は、すべて被告人会社に帰属するものと認定するのが相当である。されば、原判決には、所論のような事実誤認のかどは認められない。なお、所論は、原判決には、旧法人税法三一条の三の規定による指定贈与の取扱いに関する判断の遺贈がある旨主張するが、前記認定のごとく、本件指定金銭信託預金三、〇一〇万円は、被告人会社に帰属するものであるから、これを所論のように認定賞与として取扱うことはできないものというべく、原判決が、この点につき特に判断を示さなかったのは当然であり、所論のように不当であるとはいえない。更に、所論の本件指定金銭信託預金三、〇一〇万円が被告人会社のものとしても、同金額を社長借入金と認め、同時にこれに対する指定金銭信託預金の受益と同率の利息相当額を社長預り金として、認むべきであるとの点について案ずるに、原判決が、その指示する関係各証拠により認定した前記竹嶋可ず江が提供した金一、四四七万七、二五〇円の出損の態様にかんがみ、右提供金の性質を、代表者が個人資産を自ら経営する会社の企業資金に繰入するだけの隠れた出資形態によるとでもいうべき特殊の出損であって、その使用収益処分の権限は、挙げて被告人会社に託されるのであり、受領する被告人会社の資金化こそすれ、明示もしくは黙示の約諾がない以上は利息金も発生しないものであると判断した理由は是肯するに足る。従って、右提供金は社長借入金として暫定的に処理されるべき性質のものとはいえず、また、右提供金につき利息の約諾がなかったことは前記関係証拠により明らかであるから、右提供金に対する所論のような利息相当額を社長預り金として認めることは相当でないというべきである。されば、原判決には所論のような事実誤認は認められない。論旨は理由がない。
控訴趣意第一点の二について。
所論の要旨は、原判決が、各期首期末の商品在庫高について、公表、簿外を併せ、昭和三一年九月末総額金二、五〇〇万円、同三二年九月末総額金一、五〇〇万円、同三三年九月末総額金一、四〇〇万円と認定したが、右認定額は、証人の供述および被告人竹嶋武男の検察官に対する供述等に基づいているのであるが、右供述は記憶違いが多く、各人の立場、棚卸調べの関係度合等によって推定を誤っているものがあり、不当である。被告人会社は、物的裏付のない記憶は信憑性にとぼしいものと判断し、昭和三四年三月一一日に行った実地棚卸高を基礎とし、過去の売上高、差益率等の実数をもって逆算により推計した各期首期末の商品在庫高、すなわち昭和三一年九月末金二、五三七万三、〇〇〇円、同三二年九月末金一、四八〇万三、〇〇〇円、同三三年九月末一、二三三万七、〇〇〇円がその実数に近いものである。というのである。
しかしながら、原判決は、関係証拠に徴し、各期首期末の在庫高は昭和三一年九月末総額金二、五〇〇万円、同三二年九月末総額金一、五〇〇万円、同三三年九月末総額金一、四〇〇万円とするのが相当であるとしたのであって、右原審の措置は合理的であり、原判決の右認定は相当として是認すべきである。これに反する所論は、その主張の実地棚卸高から逆算するために供せられる売上高および仕入高は主として簿外預金の出入により算出したというのであるが、その根拠となる簿外預金の種類、出入金の年月日、金額等を証明する資料がないので推計の過程を知るに由なく、到底これを採用することはできない。論旨は理由がない。
控訴趣意第一点の三の(1)について。
所論は、要するに、原判決が、昭和三三年九月末日における売掛金中、金沢上田工業(株)につき金一〇、〇〇〇円、高岡丸市家具につき金一、三五〇円、名古屋(株)光洋につき金四、五八七円、大阪大和商事(株)につき金一万四、五一五円の各値引に基づく売掛金の損失の確定は証拠上認めるに足りないと認定したが、当該企業の責任者から「値引確定してありましたので、当方は値引処理済であり、従って代金は支払っていない」旨の証明書の提出があり、損失の発生が確定しているのにもかかわらず、経理処理を誤って、売掛元帳残高の修正を怠ったものである。従って、原判決には、この点において判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのである。
しかしながら、記録および証拠を調査検討するも、弁護人主張のような当該企業責任者の証明書は見当らず、従って、所論のいうような値引確定の事実は肯認するに由ないものというのほかはない。されば、原判決には所論のごとき事実誤認のかどがあるとは認められない。論旨は理由がない。
控訴趣意第一点の三の(2)について。
所論は要するに、原判決が、昭和三三年九月末日現在における仮払金中、斉藤につき金二、〇〇〇円、福井木工丸山につき金六、〇〇〇円の損金発生の事実を否定したが、右斉藤の金二、〇〇〇円は、昭和三一年八月七日商品取引上発生した債権であって、発生後二年以上経過しており、民法一七三条による消滅時効の完成により損金発生が確定しているものであり、福井木工丸山の金六、〇〇〇円は、昭和三〇年一二月一四日同人接待のため持出した交際費で、損金発生が確定しているのにもかかわらず、経理処理を誤って振替整理を怠ったものである。仮りに仮払金としても時効完成により損金発生が確定している。原判決には、この点において判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのである。
しかしながら、原審第一六回公判調書中の証人杉田文治の供述記載によれば、弁護人主張のごとき氏名別の使途による仮払金の各支出がなされたことは認められるけれども、損金発生が確定しているのにもかかわらず、経理処理を誤ったため、貸倒金又は交際費への振替手続が逸脱されたとの事由も証拠上これを認めるに足りない。所論は、本件につき消滅時効の完成により損金発生が確定していると主張するが、債務者の時効提出の事実は証拠上認められないから、これを認定することはできない。論旨は理由がない。
控訴趣意第二点について。
所論は、要するに、原判決の量刑が重きに過ぎて不当であるというのであるが、記録を調査して検討するに、本件は、原判示第一の事実年度において金二九二万二、五六〇円、同第二の事業年度において金五一八万三、一二〇円、合計八一〇万五、六八〇円にのぼる法人税を逋脱した事犯であり、その犯行の動機、態様、罪質等本件に現われた諸般の事情を勘案すると、その犯情は軽視するを許されず、原判決の被告人会社および被告人竹嶋武男に対する量刑は相当として是認すべきであり、所論のうち肯認しうる被告人らに有利な事情を十分に参酌しても、右量刑が重きに過ぎて不当であるとは認められない。論旨は理由がない。
よって、刑事訴訟法三九六条に則り、本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小淵連 裁判官 寺島常久 裁判官 横山義夫)
昭和四八年(う)第一五一号
控訴趣意書
法人税法違反 被告人 株式会社 内一
外一名
右被告事件につき次のとおり控訴の趣意をのべる
郵便提出
昭和四八年五月七日
右弁護人 江口三五
名古屋高等裁判所
刑事第二部 御中
第一点 事実誤認等
原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認と法律の判断を誤った違法があるのみならず、被告人の主張した重要な点につき判断を遺脱した違法がある。
一、指定金銭信託預入金について(原判決第三)
(1) 東海銀行信託部長の証明書(証拠標目書番号三五)及び十六銀行信託部長の証明書(証拠標目書番号三四)に記載する指定金銭信託予金(仮装名義で被告会社の名義にも、竹嶋可ず江名義にもなっていない。従ってその全額が会社のものとの証明とはなっていない。)五、五九〇万円のうち、三、〇一〇万円は竹嶋可ず江のものであるとの被告人の主張に対し、原判決は、竹嶋可ず江の検察官に対する第二回供述調書において同女が「指定金銭信託預金につき、当時全く知らなかった」と述べたことを指摘し、「竹嶋武男の検察官に対する昭和三五年一一月一八日付供述調書によれば、被告会社は右年次項、前記指定金銭信託預金中約三、五〇〇万円(注、収益分を加算した)を更めて竹嶋可ず江名義に移したことを認められるが、その時期は同年春とされているのであり、右時期が本件逋脱に関する査察后であることはいうを待たないから、右事実そのものは、前記竹嶋可ず江の当時の不知であった事実を裏書しているものと解することができる」と認定しているが、前者の竹嶋可ず江の不知ということについては、第二十五回公判において同女が、記憶を呼び起し被告会社への貸付金約三、〇〇〇万円を同女の指定金銭信託預金として預け入れたことを供述している。
后者の竹嶋武男の昭和三十五年春頃、前記指定金銭信託預金を竹嶋可ず江名義に移したということは、同指定金銭信託預金の当初預け入れの大部分が昭和三十年春頃であり、当該指定金銭信託預金の契約期間五年(会社の金ならば、こんなに長い期間にしない)の満期日に当該指定金銭信託預金の支払を受け竹嶋可ず江の名義に移し、被告会社の借入金としたもので、このことをもって「竹嶋可ず江の当時の不知であった事実を裏書しているものと解する」との認定は妥当でない。
(2) 更に原判決は指定金銭信託預金の仮装名義が「外部から指摘されれば、むしろなかば防衛的に相互に知らしめ合う場合が考えられるのに、逋脱犯として捜査の対象とされながら、なお相当長期間にわたって、かような事がなかったというのは余りにも不合理」として「指定金銭信託預金のうち被告人等の主張する金三、〇一〇万円の資金帰属性についての抗争は全部理由がないと認められる」と判示しているが、被告人らは抗争中であり、かつ、指定金銭信託預金の契約期間中に現状を変更することは如何かと思い、そのまゝとしていたまでで、このことをもって当該指定金銭信託預金の帰属性を云々することは当らない。
(3) 次に、仮りに、指定金銭信託預金の全部が被告会社のものだとしても、同族会社に対しては旧法人税第三一条の三(当時の税法)の規定により、同族会社の行為又は計算を否認する場合があるので、この規定の適用により表面上帰属不明の財産に対して税務署長は会社のものと認定し、納税者は個人のものと主張した場合、税務署長は当該財産を個人に贈与したものと認定し、会社の益金に加算、課税すると共に、個人に対しては所得税を課するのでなければ課税の公平をそこなうこととなる。すなわち、本件の場合、認定賞与として個人に帰属させることが、一般税務取扱であり、昭和二五、五、四横浜裁判所判例(四四、四、一九付被告人の事実認否書一三頁六行目以下)もこの取扱の正当性を立証している。
原処分が同条の適用を殊更に回避したことは違法と云うべきであるが、原判決はこの点について判断を下していない。(事実認否書十二頁一〇行目以下)若し国税当局が一般税務取り扱いによって虚心に認定賞与として処理すれば、経緯はとも角、結果的には被告会社の主張と完全に一致し、争いの問題はないのである。
(4) 次に被告会社は仮装名義の指定金銭信託預金の帰属性について当該指定金銭信託預金の契約期限の到来した昭和三十五年春頃受益を含め三、五〇〇万円(原判決の社長借入金一、四四七万七、二五〇円を是とした場合、当然これに含まれる)として、竹嶋可ず江に名義を移し同人からの借入金として公表貸借対照表に表示し、これに日歩二銭の割の利子を支払っており形式上も事実上も竹嶋可ず江のものとなったが原判決の論理をもってすれば、この貸借は信憑するに足りるものと認められるべきである。
(5) 次に仮りに指定金銭信託預金中の三、〇一〇万円が竹嶋可ず江に帰属しないとしても、同金額を社長借入金と認められれば、竹嶋可ず江は債権として三、〇一〇万円が確保されるので、争う実益はないこととなる。
(6) 要は元本が被告会社の主張する三、〇一〇万円が正しいか、原判決が採用した検察官の主張する一、四四七万七、二五〇円が妥当かの問題となるが、検察官の認定した一、四四七万七、二五〇円(竹嶋可ず江所有資産の処分代金、疎開商品九三二万七、二五〇円書画骨董等五一五万円)は、その根拠として竹嶋可ず江の検察官に対する供述調書を採用している。しかしながら検察官の上記の認定は専ら竹嶋可ず江が記憶に基づいて供述した、品目、数量、単価に従い、その処分換価金を推定したものであるが、竹嶋可ず江はその処分を、竹嶋武男に包括的に委任したもので同女が当該資産の品目、数量単価等の内容を遂一記憶していたとは思えない。
(7) 被告会社は当該資産の処分に当った竹嶋武男の記憶と当時の市価を調べた上で、その換価金総額は、三、〇三九万五千円になること(事実認否書二三頁以下)を主張し、また、検察官調書中の品名、数量を基とし単価について当時の市場価額(証拠八号)により評価し、記憶との誤差を修正すれば当該資産の換価金総額は、三、四二八万二、一二八円(弁護人の弁論要旨二三頁四行目以下)となることを主張したが、原判決はこれを斥けた理由を明らかにしていない。
(8) 因に竹嶋可ず江は、同供述調書で、被告会社に融資した資金の総額は「わたくしの腹勘定では、およそ三、〇〇〇万円である」と述べているが、竹嶋可ず江の一身上の事情を併せ考えれば、この記憶の方が遙かに信憑性がある。
(9) 次に、被告会社は前記、指定金銭信託預金の帰属が、立証不充分のため、認められないとしても、同金額の社長借入金を認め、これに通常の利息年七分乃至七分五里(指定金銭信託預金の受益と同率)の利息を付せば、ほ脱所得に及ぼす影警はないので利息相当額を預り金として認められたいことを主張した。(事実認否書二八頁一〇行以下、弁論要旨二二頁二行以下)これに対し原判決は「代表者が個人資産を自ら経営する会社の企業資産に編入するだけの隠れた出資形態によるとでもいうべき特殊の出損であって、その使用収益処分の権限は挙げて被告会社に託されるのであり、受領する被告会社の資金化こそすれ、明示もしくは黙示の約諾がない以上は、利息金も発生しないと解する」とあるが、およそ、経済人が金銭の貸借において収益を無視することはあり得ない。本件は書面上明示はされていないが、口頭での約諾のあることは第二四回、公判調書における竹嶋武男の供述、第二五公判調書における竹嶋可ず江の供述により明かにされている。現に税法では、租税法定主義(従来の取扱通達を可能な限り法制化した)の下に改正された新法人税法第三四条の第二項の債務の免除による利益その他の経済的な利益(注給与とみなす)の解釈として同法基本通達九-二-一〇に次のように規定している。
役員に対して金銭を無償または通常の利率よりも低い利率で貸付けをした場合における通常取得すべき利率により計算した利息の額と実際徴収した利息の額との差額に相当する額(注、経済的利益を認定賞与とする)
旧所得税法第六七条、新所得税法第三六条にも右法人税法と同様に規定され、その解釈も右の法人税法基本通達と同様に解釈されている。税法の上記の規定は金銭の貸借には当然に利子が付せられるべきもので、利子のない金銭貸借は課税の公平を犯すものとの見解に基づくものである。
本件は指定金銭信託預金及びその資金源泉の一部となっている社長借入金が共に簿外となっているところ、指定金銭信託預金は、次期以降毎期増加しているが、この増加額のうちには、同預金の収益分が含まれている。従って社長借入金についても、利息相当額を社長勘定(社長よりの預り金)として増加させるべきである。
二、各期首期末の商品在庫高について(原判決第四)
(1) 公表、簿外を併せた総在庫について、原判決は次表上欄の通り認定し、被告会社は次表下欄の通り主張している。
<省略>
原判決の認定額は次の証人の証言、被告人竹嶋武男の検察官に対する供述等に基づいている。
<省略>
(2) 右、証人の証言、被告人の供述等は何れも、記憶に基づいたものであるが、棚卸日(昭和三十一年九月末乃至同三十三年九月末)から供述、証言等の行われた時期(昭和三十五年十一月乃至同四十年七月)まで相当期間経過しているので記憶違いが多く、また、各人の立場、棚卸調べの関係度合等によって推定を誤っているものがある。
被告会社は物的裏付けのない記憶は信憑性に乏しいものと判断し、昭和三四年三月十一日に行った実地卸高を基礎とし、過去の売上高、差益率等の実数をもって逆算の方法により推計したものが商品在庫高の実数に近いものとして主張したのに対し、原判決は、「所得額の算出に財産法、損益(計算)法のいずれを適用するも誤っていないことは一般に承認されたところで、財産法といっても期首期末の対照による増差をもって当該年度中科目ごとの変動を評定するものであり、個別の勘定の流動の過程そのものはそれにより表示されないが、年度を基準にして益金の額から預金の額を控除して所得金額を算出し、これを課税標準とする法人税徴収の基本の建前には些かでも外れることがないのはいうまでもないことである。」とし「検察官が本件公訴事実の立証につき財産法を選んだとして何の違法事由もなく、これに更に損益法を加味して弁護人主張の逆算を施すのでなければ、判示認定事実に関する正確な資料が出揃わないというべきものではない。」として被告会社の主張を斥けているが、これは財産法、損益法の問題ではない。
(3) 被告会社が事実認否書一九頁一行目以下に述べたことは財産法の場合は、実数(原則として物的証拠あるもの)を補捉していることを要件とする。中に想定したものがあり、その想定に誤りあれば直ちに損益に影響するという欠陥を指摘したまでである。
検察官調書の各期首期末の資産、負債中商品以外は何れも実数に基づいているので、その実数の性格の当否は別として計算上の問題はないが、商品については証人、被告人等の記憶に基く証言、供述のみにより想定したものである。従って記憶に違いがあれば直ちに損益に影響する。被告会社は、この欠陥を補正するため、昭和三四年三月一一日現在の棚卸商品の実数を求め、これを基礎として前記の方法により各期首期末の商品在庫高を把握したのである。
三、昭和三三年九月末日における受取手形、売掛金、仮払金、商品勘定について(原判決第六)
(1) 原判決第六の(二)の売掛金中損金発生の有無について
被告会社が、売掛金中値引、返品等により昭和三三年九月以前に損失の確定したものとして金一六一万七、〇七六円損金算入を主張したのに対し、原判決は証人尋問により確認したもの、昭和ドレープ(株)、外三件の値引額合計六五一、四二六円以外は「証拠上認めるに足りない」としているが、金沢上田工業(株)一〇、〇〇〇円、高岡丸市家具一、三五〇円、名古屋(株)光洋四、五八七円及び大阪大和商事(株)一四、五一五円合計三〇、四五二円については夫々、当該企業の責任者から「値引確定してありましたので、当方は値引処理済であり、従って代金は支払っていない」要旨の証明書の提出(事実認否書中争う事項についての証拠についての四五・六・一一付被告人の上申書七頁証拠第三号)があり、損失の発生が確定しているのにも拘らず経理処理を誤って、売掛元帳残高の修正を怠ったものである。
(2) 原判決第六の(三)の仮払金の損金発生について
原判決は「使途の性質と損金経理に関する前の(一)項に説示の解釈(注、損金発生が確定しているにも拘らず経理処理を誤ったとか、又はこれに類する手続き上の過誤で登載されたのならともかく云々)に基き、いまだ認めるに足りる十分の理由を備えていないと考える」として、斉藤二、〇〇〇円、福井木工丸山六、〇〇〇円を否認しているが、斉藤二、〇〇〇円は、昭和三一年八月七日商取引上発生した債権であって、発生后二年以上経過しており民法第一七三条による消滅時効の完成により損金発生が確定したものである。
福井木工丸山六、〇〇〇円は昭和三〇年一二月一四日同人接待のため持出した交際費で損金発生が確定しているのにも拘らず経理処理を誤って振替整理を怠ったものである。仮りに仮払金としても時効完成により損金発生が確定している。
第二点 量刑不当
原判決は、刑の量定が重きにすぎて不当であるから、昭和四四年四月一九日付被告人(弁護人提出)の冒頭陳述書に対する事実認否書末項の「情状について」及び昭和四七年二月二九日付、弁護人の弁論要旨第三「情状について」においてのべた各情状をごしんしゃくのうえ、罰金刑については、更に軽減されたく体刑については、更に減刑のうえ執行猶予の期間を短縮されたい。