名古屋高等裁判所 昭和48年(う)302号 判決 1974年6月27日
本籍
一宮市今伊勢町本神戸字北無量寺一、一三六番地
住居
名古屋市千種区堀割町二丁目二一番地
会社役員
成瀬洋三
大正八年三月一一日生
右の者に対する出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反所得税法違反被告事件について、昭和四八年五月一四日名古屋地方裁判所が言い渡した有罪判決に対し、被告人から適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は、検察官関口昌長出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人天羽智房作成名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用する。
控訴の趣意第一について。
所論の要旨は、(1)原判示第一の(二)の点につていは、原判示認定のごとく日歩三〇銭をこえる高金利を徴収するような出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の行為をしていない。(2)原判示第二の点については、原判示認定の数額を争い、少なくとも、昭和三〇年度分からは金四六七万二、四八三円を、昭和三一年度分からは金六四二万七四六円を、その所得金額から差し引かるべきである。以上の点につき、原判決には事実の誤認があり、破棄を免れたい、というのである。
所論にかんがみ、記録を調査し、検討するに、まず、論旨(1)については、原判示第一の(二)の各事実は、これに対応して原判決が挙示する各証拠により俊に認めることができる。すなわち、大蔵事務官谷高佐一作成の各手形整理カードのうち原判決別紙第六表記載のもの及び同表記載のその他の各証拠、原判決別紙第四表証拠欄記載の東京白煉瓦株式会社、株式会社藤田製作所、株式会社伊藤鋳造所に関する各証拠、押収してある代金取立通帳と題する手形明細帳一通(証九五号)、手形明細帳三通(証九六号、一三六号、一四一号)を子細に検討すれば、被告人は、原判決別紙犯罪一覧表記載のとおり前後七二回に亘り、いずれも手形割引を行うにあたり、その都度割引料に相当する金額(同表天引利息簿記載)を手形額面金額から天引して残額(同表交付簿記載)を原判示認定の割引依頼人らに交付した事実が認められ、貸付の期間は、割引年月日と手形の満期日によつて同表記載のとおり確定しうるものであるから、これによれば被告人は同表貸付日歩簿記載のとおり、日歩三〇銭をこえる利息の契約をしたものであることは計算上明白というべきである。もつとも、被告人は検察官及び検察事務官に対する各供述調書において、また、本件公判段階においても、右高金利貸付の事実を否認しているが、この点は、右認定の各証拠と対比して到底措信できない。のみならず、割引日歩そのものは、三〇銭をこえるものではないとしても、本件は、いわゆる手形の割引料名義をもつてする利息天引の方法による金銭の貸付であるから、その交付額を元本として計算すべきことは、法文上明らかであり、いずれにしても、右被告人の弁解するところは首肯しえない。
しかし、所論は、株式会社藤田製作所、東京白煉瓦株式会社、株式会社伊藤鋳造所の各割引依頼者側の作成した帳簿或いは伝票類等には実際よりも多額の金利を被告人に支払つたような過大な不実の記帳がなされており、他方被告人が更に割引を依頼した再割引先の作成した書類等には自己の利得を少なくするため割引日数、割引日歩を過小とする虚偽の記載がなされているとして、むしろ、これら証拠の信憑性を争うものであるが、本件高金利貸付の点については、割引依頼者と被告人との間の利息契約を問題とするものであつて、被告人と再割引先との取引は、これと別個のものであるから、問題とはなりえない。従つて、再割引先の作成にかかる書類は、高金利貸付の利息を認定する上で必要なものではないので、この点の所論の主張は当らないし、原判示認定の基礎となつた株式会社藤田製作所等割引依頼者側の作成にかかる帳簿或いは伝票類は、いずれも、法人が、その日常の業務の過程で作成したものであり、その内容は、証拠に現われた関係者の供述と相まつて本件高金利貸付の事実を裏付けるに足るものというべきである。その他、所論のいう割引依頼者側関係人へのリベート供与等の主張は、被告人の本件高金利貸付の事実を否定すべき事情とはなし難い。
なお、所論は、原判決別紙犯罪一覧表番号6ないし8.10.11.13.14.18.19.25.28.29.36.ないし38.40.49.ないし56.62.63.65.68.69.は足立由光に、同12.15.ないし17.21.ないし23.30.39.71.は林茂に、同20.57.58.70.は岡地中道に、同67は近藤増三に、それぞれ被告人は無報酬で金融の取次斡旋をしただけで自ら手形割引をしたものではないと主張するが、右以外の分については、被告人は直接割引又は再割引をした点を自認しているものであり、しかも、被告人の自認する再割引分の手形とその主張する取次斡旋した手形とを区別すべき合理的模 は全く見出しえず、証拠上認められる取引状況からみれば、右取次斡旋したとの手形は、いずれも被告人自身が一旦手形割引に応じた後更に再割引に回したものであることは明白というべきである。従つて、所論の右主張は、被告人の単なる弁解に基づくものというのほかなく、是認できない。
しかして、原審並びに当審において取り調べた全ての証拠を検討しても原判示第一の(二)の認定を かすに足る証拠はなく、この点の論旨は採用できない。
次に、論旨(2)については、原判示第二の各事実は、これに対応して原判決が挙示する各証拠により十分これを認めることができるものである。所論は、原判示認定の昭和三〇年度分及び昭和三一年度分の所得金につき、被告人は更に取引関係者らにリベート等を支払つているので、これを右所得金額から差し引くべきであるというのであるが、関係各証拠を子細に検討し、原判決別紙第五表割引料収支明細表の昭和三〇年度及び昭和三一年度分の認定金額を個別的に吟味すると、証拠によつて所得金額から差し引くのが相当と認められる分については、同表備考(認定理由)欄において説示する如く、既に差し引くなどして適正な所得金額を算出していることが明らかであるし、それ以上更に大幅な控除を求める所論は原審並びに当審において取り調べた全ての証拠資料によつても、首肯すべき合理的な理由があるものとは到底認められず、従つて、右論旨も採用できない、
以上の次第であるから、所論指摘の原判示認定には、何ら事実誤認のかどは認められない、論旨は理由がない。
控訴の趣意第二について。
所論の要旨は、原判決の最刑が、重さに過ぎて不当である、というのである。
所論にかんがみ、更に記録を調査し、検討するに、証拠に現われた被告人の経歴、境遇を初め、本件各犯行の動機、態様、罪質等、とくに、原判示第二の所得税法違反の点は、昭和三〇年度及び昭和三一年度の二か年度分で少なくとも合計金二、六〇三万九、八〇九円の総所得金額があつたにもかかわらず、これを秘匿して合計金一、五五四万三六〇円の多額の所得税を不正に逋脱したもので、その犯情は軽視できないこと、これに、原判示第一の(二)の出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の点の期間、回数、超過利息額、その他諸般の情状を考慮すると、原判決の量刑は相当として是認すべきである。所論のうち肯認しうる被告人に有利な諸事情を十分斟酌しても、右量刑が重過ぎるものとはいえない。論旨は理由がない。
よつて、刑事訴訟法三九六条に則り、本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用について、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して、全部被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小淵連 裁判官 伊沢行夫 裁判官 横山義夫)
昭和四八年(う)第三〇二号
控訴趣意書
所得税法違反等、被告人成瀬洋三右刑事事件に付、茲に控訴趣意書を提出します。
昭和四八年八月三〇日
右弁護人 天羽智房
名古屋高等裁判所
刑事第二部 御中
控訴理由
原判決は、公訴事実を殆ど全面的に認容し、被告人に対し有罪判決の言渡をしたが、該判決は、一件記録に徴し次の如き破棄事由あるものと思料する。
第一 原判決は、判決に影響を及ぼすべき事実誤認の違法がある。
甲 高金利関係違反部分に付
一 原判決認定の第一の(二)の所謂高金利違反の点に付ては、原審に於て被告人の陳述に代へ被告人側から、昭和四六年 八月三一日附補充認否申立書
同 四七年一一月二一日附上申書
同 四八年 一月二三日附上申書
等を以て上申した通り被告人は、原判決摘示の別紙犯罪一覧表1乃至72記載のやうに日歩三〇銭以上の高金利を徴取するやうな所謂高金利違反の行為はしていない。
其のことは、被告人としては公判の当初から終始一貫して、公訴事実を否定し続けて来た処である。
二 右上申書等で明らかにした通り右別表中
(一) (1)進行番号6乃至8、10、11、13、14、18、19、25、28、29、36乃至38、40、49乃至56、62、63、65、68、69は足立由光に
(2)同12、15乃至17、21乃至23、30、39、71は林茂に
(3)同20、57、58、70は岡地中道に
(4)同67は、近藤増三に
夫々被告人は、無報酬で金融の取次斡旋をした丈で、自ら手形割引をしたものではなく、且つ、其の分の金利も日歩一七銭乃至最高二〇銭迄で、所謂高金利違反の事実はない(此の口計四四個)
(二) 其の他の同別表記載の分(計二八個)に付ては、被告人は直接割引(同1、4、5、35、41乃至46)又は、再割引をしたが夫等の金利は何れも日歩一二銭乃至二〇銭迄であつたから、之又所謂高金利違反の事実はない。
三 被告人が右の如く無報酬で取次又は、紹介をしたのは割引依頼先から一通又は数通の手形で割引依頼を受けた際、被告人に手許資金がないときは其の割引申出を断ると、後日客が寄り付がなくなるので夫れを避ける為、客に事情を告げて前示のやうに無報酬で取次紹介をしたものである。
従つて此の分には、被告人は全然裏書をしていない。
被告人に自己資金のあつたときは、自ら直接割引に応じ自己の変名又は、従業員名を以て支払銀行に直接取立をしたり、又は他の金融業者に裏書の上再割引に出したりした。
取次又は、再割引先の林茂の上申書にも成瀬は、取扱手形中裏書をしないものもあり、夫れに付、不渡に為つても責任を持たないものもあつた旨の上申書を以て上申していることは、右の事情を裏書きするものである。
四 事実関係の真相は、右の通りであるが、夫れが原判決認定のやうに誤解された理由を考へてみると
捜査当局が、被告人の顧客先の藤田製作所等への査察関係から被告人の所得税法違反事実等を明らかにしようとして、被告人の身柄を拘束する手段として所謂高金利違反関係の容疑を以て、先づ被告人の身柄を拘束したことによるものと思料される。夫れと言うのも
(一) 被告人に、割引依頼に来た客の側では、交際費、リベート等を捻出する為、架空な物品を購入したり他の金融機関等へ金利を支払つたやうな虚偽の記帳をしたり、或は、又被告人が不当に多額な天引利息を取つたやうに不当に金利の水増をして実際よりも多額な金利を被告人に支払つたやうな不実の記帳をしたりしたこと。
(二) 被告人の取次紹介乃至再割引先の足立由光、佐藤佐市郎、岡地中道、林茂等は、国税局の査察調査の手が、這入ることを恐れ同人等が自己の利得を少くする為、割引日歩を実際より高くしたり割引期間を実際より短くしたりして虚偽の記帳をしたり、虚偽の説明上申をしたりして実際との差額を不法にも被告人の所得に転嫁して主張説明したこと
等により誤判を受ける結果と為つたものと思料される。
五 右のことは、昭和四七年一一月二一日付被告人側上申書別表に「高金利非該当理由」として記載してある通りである。即ち
(1) 藤田製作所関係では、同社取締役川村一男の公判の証言調書等に「同社が、被告人に割つてもらつた手形の割引日歩は最低八銭乃至最高二〇銭位で、自己振出手形は一五銭乃至一八銭最高二〇銭であつた。」との証言乃至供述記載
(2) 東京白煉瓦関係では、其の割引担当者の小室秀弥の証言等によつても
「右会社が、被告人に割つてもらつた自己振出手形にて日歩は二〇銭止まりであつた。
又、右会社の諸経費は被告人との取引における割引日歩を水増して捻出したこともあり、更に、同社の株式公募の運動資金や常務取締役花村欽二の個人経費等に、右水増分を相当額振向けた」旨や、「自分も「リベート」を二回位受取つた」等の証言や供述記載
(3) 伊藤鋳造所関係では、割引仲介人の証人高木清の証言等によつても
「本件取引には、自己の外、高須恒雄、山田清、加藤有三等のブローカーも介在して居たこと、又被告人の割引利息は月換算五%、日歩一七銭位であつた旨等」証言等の外、右高木、高須等は、全くの金融ブローカーで本件手形割引後間もなく別件の手形詐欺事件で、実刑判決により数年間服罪したものであること等からしても無報酬で手形割引に関与するものではないことは推認出来る外、殊に本件割引に付ては、被告人と右関係者の間で被告人が高額の日歩を徴したやうに思はれる計算関係の書類が作られたが、夫れは右関係者等から同人等の仲介手数料を最初の依頼者に隠して其の天引予定金額を控除した。伊藤鋳造所の現実の手取金額に合はしたものにした書類を作つて、呉れとのことであつた為に被告人に一切の責任をかぶらされる結果と為つたことである。
(4) 又、最初の第一審の証人、亡足立由光(再割引乃至取次先)の証言等によつても
「被告人との再割引等の際の自己の受取利息は、(株)足立商店の帳簿には実際より安く小額に記載した外、被告人よりの割引分は、最初は自己個人にて大体市場相場で割引き其の後、相当日数を経て個人資金繰関係上右会社で再々割引をし、其の日歩は五、六銭位であつた旨」等の証言等
(5) 同七佐藤佐市郎の同証言調書等によつても、「被告人持参の藤田東白、伊藤鋳造所等の手形割引に付ては、最初は自己個人で割引き、其の後相当の日数後に佐藤佐(株)にて再割引きをした旨」等の証言等
等によつても判る通り被告人は、最初の割引依頼人と最后の手形持込先の双方の間に狭まれて、割引日歩に付前者には過大に水増され、後者には過少に削減された、何れも虚偽の記帳をなされ洵に不利な地位に立たされて本件起訴を受ける結果と為つたものである。
六 以上の結果を被告人側提出の「関係者各主張の対比表」及び、検察官提出の「手形整理カード」により本件高金利割引当時の同種又は、同程度の他の手形の被告人割引状況を見ると
(1) 東京白煉瓦(株)関係
起訴状進行番号44、手形整理カード差戻前のNo.1733振出人、新報国製鉄手形昭和三〇年四月三〇日割引分の金利二五銭とあるが
(イ) 昭和三〇年二月一六日割引分の手形整理カードNo.1717愛知製鋼分の日歩は一〇銭
(ロ) 同年五月九日割引分の同カードNo.1740日本鋳造関係分の日歩は一四銭五厘
(ハ) 東京白煉瓦(株)振出、信陽工業裏書の差戻後検察官提出の手形整理カードNo.345の同年七月二二日割引分は日歩二二銭、又同カードNo.346の同年八月八日割引分は日歩二二銭
等との記載があり
(2) 藤田製作所関係
起訴状進行番号1、手形整理カード差戻前のNo.1888の三立興産振出手形昭和三〇年九月二一日割引分の金利三一銭とあるが
(イ) 昭和三〇年九月一六日割引分の手形整理カードNo.1887の須田賀機械振出分は日歩一〇銭
(ロ) 同年八月一五日割引分のカードNo.1881の振出人山内ゴム工業関係分は、日歩一五銭等との記載があり、
(3) 伊藤鋳造所関係
起訴状進行番号72、同カードNo.2881振出人伊藤鋳造所分の昭和三一年六月三〇日割引分の金利は、日歩三〇銭とあるが
(イ) 同年九月七日、割引分の差戻後の同カードNo.572,573
(ロ) 同年同月一〇日、割引分の同No.574の各振出人保谷化学の分に付ては、割引日歩は何れも一一銭との記載がある。
一般に金融業者としては、自己のみ一般市場の金利より甚しく高い日歩を取るやうなことをすれば客は逃げて了ひ、又反対に割引を受ける側としても支払金利は与う限り少くするように努力して金利の低い処で、融資を受けるようにするのが常道である。
之等のことから考へても亦、前示のように手形整理カード等から検討しても判る通り被告人は、公訴事実記載のやうな高金利の手形割引をしたものではない
七 又、本件高金利関係の起訴には全体で七二個あるが其の中
(1) 起訴状進行番号12、56、71の三口は、手形整理カードには全然記載されていない。
何れも無報酬取次口である。
(2) 又、差戻前に提出の手形整理カードに記載された分は二八個口ある。
(3) 差戻後に、提出の手形整理カードに記載された分は四一個ある。
(4) そして、公訴事実第三の所得税法違反の口に組入れられたのは、右(2)の分丈である。
其のこと自体捜査当局に於ても、関係の手形割引依頼人側、再割引先其の他の関係人の供述に疑念を持つていた為と思料される。
八 以上と綜合するに被告人に対する高金利関係の有罪の確証はなく、全く犯罪の証明はないものと思料される。従つて、此の点に付ては無罪の御判決を求める。
九 尚、本件高金利関係中公訴事実第三の所得税違反の口に組入れられた分として
(1) 東京白煉瓦関係
差戻前の手形整理カード分
昭和三〇年度分(三口)金一〇一、〇三四円
同 三一年度分(七口)金三四一、〇三一円
(2) 藤田製作所関係
昭和三〇年度分(一口)金 三五、六二五円
同三一年度分(一六口)金九九一、三〇四円
(3) 伊藤鋳造所分
昭和三一年度分(一口)金一〇八、二五三円
以上合計金一、五七七、二四七円也
がある。之等も後記の通り公訴事実第三の所得税法違反の被告人の所得により、差引かるべきである。
乙 所得税法違反の点に付
一 被告人は、この点に付ては数額を争つている。
即ち、昭和三〇年度分からは、少くとも合計金四、六七二、四八三円也を差引かるべきである。
内訳
(一) 東京白煉瓦関係
(1) 昭和二九年度末経過割引差額金五四、〇五七円
(2) 被告人の直割引分の日歩の差額金三、〇〇〇、五九〇円
(3) 林関係での再割引分の差額金一七一、七六〇円
(4) 佐藤関係での同差額金一五五、七九四円
(二) 横井建設関係
(1) 被告人の直接割引分の割引料差額金九三、一七二円
(2) 昭和二九年度末経過割引料差額金二八、二九六円
(三) 佐藤佐市郎関係
前示以外の再割引料差額金七一、三三四円
(四) 足立由光関係
再割引料差額金一、〇九七、四八〇円
二 昭和三一年度分からは、少くとも合計金六、四二〇、七四六円也を差引かるべきである。
内訳
(一) 東京白煉瓦(株)関係
(1) 被告人直接割引分の割引料差額金一、〇九三、九三四円
(2) 林関係の再割引分の同差額金六三五、六七四円
(3) 佐藤佐市郎関係の再割引分の円差額金七二六、一二五円
(二) 横井建設関係の
被告人直接割引料差額金一一五、三三〇円
(三) 森タオル関係の
被告人直接割引料差額金八二、五一二円
(四) 佐藤佐市郎関係の
伊藤鋳造振出手形の再割引料差額金七五八、九八五円
(五) 藤田製作所関係の
(1) 被告人直接割引料の差額金九四八、七八八円
(2) 愛商での再割引分の割引料差額金二一七、四一四円
(3) 佐藤佐市郎関係の前示以上の再割引料差額金一八六、三三五円
(六) 伊藤鋳造所関係の
(1) 林関係再割引料差額金八一七、八五八円
(2) 右に関連する仲介人高木清等の仲介手数料等金八三七、七九一円
三 右の如く差引かるべき理由は
高金利関係の点に於て、引用した足立由光、佐藤佐市郎、小室秀弥、藤田敏一、伊藤清等の証言等の外、横井建設関係の会計主任加藤勝次郎、森タオルの仲介人河合栄吉等が、夫々若干宛リベート等を受領していることが、差戻前の公判廷の証言等に徴して明らかに認められる。
四 以上の諸点に鑑み、夫等の分が被告人の所得から差引かるべきに拘らず、原判決第二事実認定では夫等を控除せず被告人の所得に算入していることは、全く事実誤認があるものと思料する。
第二 原判決は、其の量刑が著しく重きに失し不当であると思料される。
一 被告人としては本件の
無届金融業の営業の点と所得税法違反の点(前示分減額の上)の二点に付、有罪を免れるものではない。
然し、高金利違反の点に付ては、被告人には之を有罪にする確証はなく無罪の御判決を賜りたい。
二 右、有罪の点に付ては次のことを御考慮賜りたい
(一) 被告人は、既に本件に付本税並びに重加算税、無申告加算税、利子税等として一旦一億三百五十万円を支払つたが、国税局は本税を約金二百五十万円位の取り過ぎを自認して夫れと夫れに関連する返還利子等を含めて、約金八百参拾七万円余を返還して精算を完了している。
之等に関連する地方税も完納している。
(二) 国税局関係の被告人の昭和三〇年度と同三一年度の所得に付ては、其の告発分の本件起訴分は、右税徴収入の内数に止めているが夫れは、前示の通り関係者等の供述に水増等の不正のあることに気付き、被告人の所得に不当に背負ひ込ませていることを、察知し乍らも、徴税丈は右双方のどちらかから徴収すればよいとの考へのもとに徴収したものと思料され甚しく、被告人は不利益を蒙つている。
(三) 本件裁判に付ては、被告人に対する最初の起訴は、昭和三三年三月八日で本日迄に既に満十五箇年以上を過ぎている。
如何にも、長期に亘り其の間重要関係人の死亡、行方不明の外、証人の記憶等も失はれ被告人は甚しく不利益は立場に追ひやられた。其の反面、被告人は金融関係から全然手を引き、専らアパート経営等の会社の取締役として専念し、全くの初犯者で衷心より悔悟している上前示のやうな長期裁判を通じ、色々と苦労して充分な実質上の充分な制裁を受けている。
(四) 原判決は、被告人に対し
徴役一年二月(三年間執行猶予) 罰金二万円、八〇万円、二五〇万円の計三三二万円
に処したが、前示諸般の事情に鑑み其の量刑は著しく重きに失すると思料されるので、何卒大巾に御減刑の上、御寛大なる御判決を賜るやう御願ひする次第である。