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名古屋高等裁判所 昭和48年(う)667号 判決 1974年3月26日

被告人 越賀昶

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人富岡健一、同国政道明共同名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨第一点(事実誤認)について。

所論にかんがみ、記録を調査し、原判決挙示の証拠を総合して判断すれば、原判示事実は十分認定し得るのである。所論は、原判示の横断歩道直前に停止していた自動車は、一時停止していたものではなく、「駐車」していたものであるから、本件において、被告人は、道路交通法三八条二項にいう「その前方に出る前に一時停止しなければならない」義務を負わないのに、その義務があるとした原判決の認定は失当であると主張する。しかし、被告人の立会のもとに作成された実況見分調書によつて明らかなとおり、原判示道路は、道路標識等によつて駐車が禁止されているし、原判示自動車の停止位置は、道路交通法四四条二号、三号によつても停車及び駐車が禁止されている場所であるから、かかる場所に敢えて駐車するが如きことは通常考えられない事柄であるのみならず、同法三八条二項にいう「横断歩道の直前で停止している車両等」とは、その停止している原因、理由を問わず、ともかく横断歩道の直前で停止している一切の車両を意味するものと解すべきであるから、本件の場合、被告人の進路前方の横断歩道直前の道路左側寄りに停止していた自動車が、一時停止による場合であると停車或いは駐車による場合であるとにかかわりなく、被告人としては、右停止車両の側方を通過してその前方に出ようとするときは、出る前に一時停止しなければならないのである。従つて、右措置をとらないまま横断歩道に進入した被告人に過失があるとした原判決に誤りはない。論旨は理由がない。

論旨第二点(量刑不当)について。

所論にかんがみ、更に記録を調査して、原判決の量刑の当否を検討するに、本件人身事故は、歩行者の保護を優先すべき横断歩道上において、被告人が、厳に守らなければならない一時停止の義務を怠つた結果により発生したものであるから、被告人の過失は、その程度が重く、それによつて、格別落度の認められない被害者に右大腿骨々折等の重傷を負わせ、今なお治ゆしていない状況であり、被告人の責任は重大である。原判決が被告人を禁錮五月に処した措置は相当というべきである。被告人が、これまでに被害者に対し七〇余万円の損害賠償金を支払い、将来正式に示談を成立させる意図のあることなど被告人の利益となる情状を考慮しても、右量刑が重きに失するとはいえない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条に則り、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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