名古屋高等裁判所 昭和48年(ネ)483号 判決 1978年2月16日
控訴人
新田良造
右訴訟代理人
田中成吾
外一人
被控訴人
山鉄興業株式会社
右代表者
山本保一
右訴訟代理人
伏見禮次郎
外二名
主文
原判決を取消す。
別紙物件目録記載の各不動産はいずれも控訴人の所有であることを確認する。
被控訴人は、控訴人に対し別紙物件目録記載の各不動産につきなされた津地方法務局名張出張所昭和四二年一一月六日受付第四四四五号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一 控訴代理人は。
一 原判決を取消す。
二1 主位的請求
(一) 別紙物件目録記載の各不動産はいずれも控訴人の所有であることを確認する。
(二) 被控訴人は、控訴人に対し、別紙物件目録記載の各不動産につきなされた津地方法務局名張出張所昭和四二年一一月六日受付第四四四五号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
2 予備的請求
被控訴人は、控訴人に対し、別紙物件目録記載の各不動産につき、所有権移転登記手続をせよ。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、
被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
第二 当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、採用および書証の認否は左記のほか原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。<中略>
理由
主位的請求について
一本件土地につき控訴人主張のような所有権移転登記手続がなされていることは当事者間に争いがないが、同当事者間において本件土地の所有権の帰属について争いがあることは訴訟の経過に照らして明らかである。
二ところで、控訴人は本件土地の所有権を被控訴人に移転する旨の契約は、債務を担保するためになされたと主張し、被控訴人は売買契約であると主張するので検討する。
(一) 控訴人が訴外中村農協に対する借受金を返済するために、被控訴人から金二、二〇〇万円を借受けたこと。
<書証>が作成された経緯についての原審の認定は、当審における控訴本人尋問の結果を加えて行つた当裁判所の認定と同じであるから、原判決七枚目表一〇行から九枚目裏一〇行目までを引用する。<証拠>中右認定に反する部分は、<証拠>に対比して措置し難い。
(二) 被控訴人は、被控訴会社は、本来鉄工築と不動産売買を営業目的とする株式会社であつて、金融業を営むものではないこと、本件取引も、被控訴会社が控訴人から本件土地を再売買予約の特約を付したうえで、代金二、二〇〇万円にで買受けて、その旨の所有権移転登記をなしたものであつて、控訴人に対して本件土地を担保に右金員を貸付けたものではない旨主張し、<証拠>中、被控訴人の右主張に副う部分があるが、後叙(三)に認定の諸事実に対比して右<証拠>は、にわかに措信し難く、又<証拠>によつても直ちに本件取引当時被控訴会社において貸金業をしていなかつたと認めることはできない。
(三) <証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。
すなわち、被控訴会社が定款を変更して営業目的に貸金業を加えたのは、昭和四三年一一月三〇日であるが、昭和四三年九月三〇日現在、同会社の貸付金累計額は、約金九、〇〇〇万円余の多額にのぼり、かつ受取利息は約金八五〇万円余を計上し、貸付金による利益が被控訴会社の営業利益の主たる内容をなしていた。控訴人から融資の依頼を受けた花田昌三は中山正雄から元金二、〇〇〇万円(もつとも前認定のように中山から金融の仲介料として金二〇〇万円の要求があつたため、結局控訴人が被控訴会社から借受けた金員は合計二、二〇〇万円となつた)、利息月三分の割合による複利計算、返済期間は一年とする旨の指示があつたので、その旨を控訴人に伝えたことから控訴人と被控訴会社との間において前認定のように乙第一号証とともに、これと一体をなすものとして甲第一号証が作成された。普通不動産売買による所有権移転登記手続をなす際の登録税は買主が負担する慣習があることは当裁判所に顕著な事実であるところ、本件土地の被控訴会社に対する所有権移転登記手続にかかる登録税は控訴人において負担した。控訴人は被控訴会社との本件契約の約三年以前である昭和三九年二月当時本件土地の道路用地として本件土地の隣接地三筆合計五〇〇坪の山林を金五九〇、〇〇〇円で買受けているので、該土地の坪当り単価は金一、一八〇円となるが、右三筆の土地は道路用地として買受けたため時価よりも比較的安く買受けた。本件土地の実測面積は208,197.943平方メートル(62,979.877坪)である。被控訴会社は昭和四二年一〇月三一日三菱銀行の口座から金二、二〇〇万円を前払金として支出し、出金伝票の上ではその事由を名張山林買付金と記載処理していたが同四三年四月二〇日に至つて本件土地の譲渡担保による貸付金に振替記帳した。控訴人から本件土地の売却方を依質されていた駒柵良信は、控訴人が右借入金の弁済期日の昭和四三年一〇月末日に、いまだその返済をしていないことを聞知し、中山正雄方を訪れて、同人にその事情を確認したところ、同人は、右駒柵に対し被控訴会社に損害金をとられるかも知れないが、早く右借入金の返済をした方がよいと回答した。
以上の事実が認められる。
(四) 右の事実によれば、本件土地の坪当り単価も前記三筆合計五〇〇坪の山林の単価と同じ程度かもしくはそれ以上であると推認されるので、本件契約がなされた昭和四二年一〇月末日当時および昭和四三年一〇月三一日当時における本件土地の時価は金七四、三一五、二二〇円かこれを上廻るものであつたと認められるから、右金二、二〇〇万円と本件土地の右時価との間には著しい不均衡があるものと考えられるそして右事実就中本件契約を締結するに至つた控訴人側の動機、乙第一号証、甲第一号証が作成された経緯、被控訴会社が右契約を締結した頃、他に対し多額の貸付金債権を有していたこと、控訴人が被控訴会社から交付を受けた金二、二〇〇万円の被控訴会社の合計帳簿上の処理も貸付金で、しかも本件土地の譲渡担保によるものとして処理されていること等の事実に徴すれば、本件契約は売買の形式をとつてはいるが、その実質は、元本債権二、二〇〇万円、弁済期昭和四三年一〇月三一日、右期間中の利息金八四〇万円(この金額は控訴人が提供すべき金額と右元本額との差額であつて、元本債権金二、二〇〇万円に対する月三分の割合による複利計算の利息に既ね一致する。)とする貸付金債権を担保するため売買形式のもとに土地所有権を移転したいわゆる清算型の譲渡担保契約と解するのが相当である。
被控訴人は、かりに本件契約が譲渡担保であるとしても、それは内外部ともに所有権が移転する型のもので、債務の履行遅滞とともに本件土地の所有権を取得するというか、譲渡担保の担保的機能ならびに担保権設定の趣旨からすれば、外部的にのみ移転する型か担保の目的を達成するに必要にして十分なものであるから、清算不要の特約があり、かつその特約が利息制限法や民法九〇条に照らしてもなお有効であると認められる等の特別の事情がない限り、常に清算を要すべきものというべきである。
してみれば、被控訴会社の再売買予約の特約を付した売買契約であるとする主張は理由がなく、本件土地代金三、〇四〇万円は、本件土地の価額の一年間の上昇予定分を加算して定められた金額であるという主張も、前叙認定判断に比照して採用し難いものである。なお、被控訴人は、再売買の予約完結権を中山正雄に譲渡したから、控訴人の右予約完結権は消滅したと主張し、<証拠>中には右主張に副う如き部分があるが、<証拠>によれば、控訴人は右中山正雄より金三〇〇万円を借受け、同金員の返済については控訴人が本件土地を被控訴会社より取得してこれを売却し、その代金をもつて支払う旨約束し、その証として甲第一号証の原本を右中山に預けたにすぎないことが認められ、さらに進んで同人において予約完結権を行使して控訴人に対する右貸付金の回収等の方法を講じたとか、当該予約完結権(一種の条件付権利と解される)について右中山正雄のために登記がなされたことを証する証拠は、存在しないのであるから、被控訴会社の右主張は採用することができない。
かくして、債権者である被控訴人は債務者である控訴人に対し、右譲渡担保契約の趣旨に従つて清算義務を負担すべきものであるから、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の本件契約は暴利行為にあたり無効であるとする主張は理由がないものというべきである。
(五) 次に控訴人は前記元利金全額を弁済供託したから被控訴人は控訴人に対して担保の目的物たる本件土地を返還すべきであると主張するので判断する。
<証拠>によれば、控訴人は、昭和四八年一一月二〇日被控訴人を被供託者として控訴人主張の内訳により本件元利金全額並びに本件土地にかかる昭和四三年度以降同四八年度までの固定資産税分を加算した合計金五、八七四万〇、四四六円を、昭和五一年二月二日には、昭和四九、五〇各年度の固定資産税分合計金七万一、三一〇円を昭和五二年五月一七日には、同五一、五二各年度の固定資産税分合計金八万〇、六〇〇円を、それぞれ大阪法務局に弁済供託したことが認められる。
しかして、被控訴人が右貸付金債権の満足をはかるために、譲渡担保の目的たる本件土地を他に処分し、又は適正に評価して、右元利金に充当した旨の主張立証のない本件にあつては、被控訴人はいまだ債権者としての権利を実行していないものというべきところ、債務者たる控訴人において、前叙認定のとおり本件消費貸借契約の弁済期日の昭和四三年一〇月三一日に弁済をしていないことは明らかであるが、譲渡担保の内容とするところは、債権者が、目的物件を他に処分し又は適正評価して、これにより具体化する目的物件価額から、自己の債権額を控除して、その残額に相当する金員をいわば清算金として債務者に支払うべきものであるから、債務者が履行遅滞に陥つても、債権者が権利を実行する以前においては、なお元利金を提供して目的物を取戻すことができるものと解するのを相当とする。
従つて、債務者たる控訴人において本件貸付金債務の全額を弁済した以上は、本件土地についての被控訴人の権利は消滅し、右担保のためになされた本件土地は控訴人の所有に帰し、本件土地につき被控訴人のため津地方法務局名張出張所昭和四二年一一月六日受付第四四五号をもつてなされた所有権移転登記は抹消されるべきものである。
三以上の次第で、控訴人の主位的請求は、結局理由があるので、これを認容すべきである。
よつて、右と結論を異にした原判決は、民訴法三八六条によりこれを取消し、控訴人の主位的請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。
(丸山武夫 林倫正 上本公康)
物件目録<省略>