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名古屋高等裁判所 昭和48年(ラ)66号 決定 1973年5月04日

抗告人 牧谷良生(仮名)

相手方 畑ふみ子(仮名)

事件本人 牧谷俊夫(仮名) 外一名

主文

本件各即時抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、抗告人は、各抗告事件につき、いずれも「原審判を取消す」との裁判を求めたが、その理由として、(ラ)第六六号事件につき、「一、原審が抗告人を審問することなくして決定したのは、審理不十分である。二、原審判は、抗告人が事件本人牧谷俊夫の監護養育を怠つた旨を認定したが、相手方が昭和四四年四月頃、事件本人牧谷俊夫を強引に自宅へ連れ去つた結果、抗告人において監護養育できなかつたものであつて、右認定は事実に反する。三、相手方は、離婚の際の約旨に反して事件本人を強引に連れ去つたり、年若い男と生活を共にするなどしており、親権者としては不適当である。」と述べ、(ラ)第六七号事件につき、「原審は、抗告人に対し、昭和四八年(家)第七七号事件の告知および審問期日の呼出をすることなくして審判をしたから、無効である。仮りに無効でなくても、(ラ)第六六号事件で述べた理由により原審判は不相当である。」と述べた。

二、当裁判所の判断

(ラ)第六六号事件の抗告理由第一点について

家庭裁判所が審判をなすにあたつては、当該事件に必要な事実関係につき、適当と認める方法で、審理すれば足るものである。したがつて、抗告人が審問期日に欠席した場合でも、申立人等から提出された書類、あるいは、出頭した関係人の審問の結果によつて、申立の事実が認められ、これを相当とするときは、直ちに審判をなすべきである。本件申立書に添付の戸籍謄本、住民票、証明書および原審における相手方の審問の結果によれば、申立の事実が充分肯認できるのであるから、原審が、欠席した抗告人の審問をすることなく審理を了し、本件審判をなしたことは、なんら違法でなく、これをもつて審理不十分ということはできない。

同第二点について

仮りに、抗告人主張のように、相手方が事件本人牧谷俊夫を強引に連れ去つたような事実があつたとしても、その後において、抗告人がみずから右本人を監護養育するために、何らかの手段を講ずる途が塞がれたとみるべき情況は存しない。却つて、抗告人が、長期にわたつて、無為に、右本人の監護養育を相手方に委ねていたことが、原審における調査の結果により明らかである。よつて、抗告人の主張は理由がない。

同第三点について

原審における相手方の審問の結果によれば、そもそも、抗告人を事件本人牧谷俊夫及び畑薫の親権者としたことについては、必ずしも申立人が同意したものではなく、夫婦間では、未だ確たる合意が成立していなかつたのではないかとみるべき事情も窺われ、また、昭和四三年より現在に至るまで、相手方が引続き事件本人を養育してきたことを考えれば、仮りに抗告人主張の事実が、あつたとしても、その一事をもつて、相手方が事件本人の親権者として不適当であるということはできない。

(ラ)第六七号事件の抗告理由について

抗告人が事件の告知を受けていないと主張する趣旨は、必ずしも明かではないが、審判申立書の送達などにより、本件申立があつたことの通知がなされなかつた事実をいうものと解される。本件記録によれば、その主張の如く、抗告人に対し、本件審判の申立があつたことの通知がなされなかつたこと、および、抗告人に対する審問手続がなされなかつたことが認められる。しかしながら、家事審判事件にあつては、民事訴訟事件と異なり、その性質上、申立の事実を特に相手方に告知する必要がないものである。また、家庭裁判所が審判をなすに当つては、適当とする方法で審理すれば足ることは、前示のとおりである。原審において、抗告人の審問手続をしなかつたのは、事件本人を畑薫(昭和三〇年八月一五日生)とする本件では、同人が自ら「親権者を牧谷良生から母畑ふみ子に変更していただくことを心から希望しております」旨を、書面で申述しているという事情の存すること、および同本人審問の結果によつても、事件本人が右希望を有し、かつ、自らの意思で、その氏を畑姓に変更し、申立人の戸籍に入籍していることが明らかなこと等から、申立の事実を十分に認定し得ると判断したからであると考えられる。原決定には、なんら違法の点はない。更に、抗告人が(ラ)第六六号事件において主張する抗告理由については、その理由のないことは、右事件について説示したとおりである。抗告人の主張はすべて採用できない。

その他、原決定にはこれを取消すべきかしは存しない。

よつて、本件各即時抗告をいずれも棄却することとし、抗告費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山口正夫 裁判官 土井俊文 新村正人)

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