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名古屋高等裁判所 昭和50年(ネ)382号 判決 1976年10月27日

控訴人

亡成田政春遺言執行者

岡田介一

右訴訟代理人

石丸勘三郎

被控訴人

日比野明子

右訴訟代理人

高井貫之

外一名

被控訴人

右代表者法務大臣

稲葉修

右指定代理人

伊藤賢一

外三名

主文

控訴人の当審における請求はいずれもこれを棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一昭和三〇年二月九日成田政春が死亡し、控訴人がその遺言執行者に就職して任務の遂行中であること、昭和二六年九月六日成田政春が西村義太郎からその所有にかかる本件土地を買い受け、右土地につき当時未成年者であつた養子成田一男名義をもつて所有権移転登記を経由したこと、そこで、右政春は本件土地につき名古屋地方裁判所の仮登記仮処分命令を得て、同人のため本件仮登記(登記原因昭和二七年二月二二日付売買)を了したこと、昭和三一年四月一一日右仮登記が抹消されたこと、本件土地は片山喜一郎に譲渡されてその旨の登記が経由されたこと、次いで、同人は日比野清秀から融資を受けるに当り本件土地を担保に供し、売買予約を原因とする所有権移転の仮登記がなされたが、その後抵当権に切替えられたこと、日比野清秀は、本件土地に設定された抵当権の実行を申し立ててこれを競落し、名古屋法務局広路出張所昭和四一年二月二三日受付第四三一一号をもつて同人のため所有権移転登記がなされたが、同人は昭和四七年九月一一日死亡したので、同出張所昭和四八年七月三一日受付第二七七五三号をもつてその相続人である被控訴人日比野明子のため所有権移転登記(登記原因相続)がなされ、さらに同出張所同年八月三〇日受付第三一三九四号をもつて大蔵省を抵当権者とする抵当権設定登記が経由されたこと、以上の事実は当事者間に争いがない(なお、控訴人の成田一男に対する本件仮登記の回復登記請求については同人との間の認諾調書(甲第三号証)が存し、日比野清秀に対する右回復登記手続の承諾請求についてはこれを認容した勝訴判決(乙第四号証)がすでに確定している。)。

右事実によれば、控訴人が本件土地につき本件仮登記に基づく本登記手続をなすについて、被控訴人らは登記上利害関係を有する第三者ということができる。

二被控訴人国は、控訴人の主張する本件仮登記は登記原因を欠く無効なものである旨主張するので、まず、この点について検討するに、不動産登記法二条によれば、所有権移転の仮登記が許されるのは、所有権移転の物権変動がすでに発生しているか、あるいは物権変動がいまだ生じていなくとも、当該物権変動が条件または期限にかかるなど将来において確定的に生ずべき場合であつて、現在もしくは将来の物権変動が前提となつている場合に限られるのである。そして、このことはもとより仮登記仮処分命令による仮登記の場合であつても何ら異なるところがない。ところで<証拠>に弁論の全趣旨をあわせると、本件仮登記は、成田政春が成田一男との間で、昭和二七年二月二二日、本件土地につき売買契約が締結されたものとして、同人を相手方として名古屋地方裁判所へ仮登記仮処分命令の申請をなし、その仮処分命令を得てこれが経由されたものであることが認められるが、右当事者間において、本件土地につき売買契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はなく、しかも、控訴人の主張によると、しよせん、本件仮登記によつて保全される権利関係は、成田政春が本件土地の真正な所有者として成田一男に対して有する登記名義の回復請求権であるというのである。してみると、本件土地につき、成田政春と成田一男との間において、現在すでに物権変動が生じ、あるいは将来確定的に生ずべきものとは認め難いところであり、したがつて、本件仮登記は、本件土地についての物権変動を前提として経由されたものでないことが明らかであつて、その登記原因を欠く無効なものといわなければならない(そうするとこれが本登記手続の承諾を求める請求の成り立ついわれはない。)。

三なお、仮に、成田政春のため設定された本件仮登記が有効であるとしても、所有権に関する仮登記は、順位保全の効力を有するにすぎず、したがつて、保全されるべき所有権が登記上利害関係を有する第三者に対抗することができないときは、所有権者は、仮登記に基づく本登記手続をなすについて、右第三者に対し、右手続の承諾を請求する権利を有しないものと解するを相当とする。そして、<証拠>によると、控訴人は、成田政春が昭和二六年九月六日西村義太郎からその所有にかかる本件土地を買い受け、その所有名義を成田一男とする虚偽の所有権移転登記を経由したものであり、本件土地所有権は右政春に帰属するものとして、当時登記簿上本件土地の所有名義人であつた日比野清秀を相手に、名古屋地方裁判所へ本件土地の所有権が右日比野清秀に帰属しないことの確認を求める訴訟―同庁昭和四一年(ワ)第二五二一号―を提起したところ、同裁判所において、日比野清秀は成田政春のなした成田一男名義の所有権移転登記が虚偽のものであることにつき善意であつたから、民法九四条二項の類推適用により、政春は右日比野に対し、成田一男名義の所有権移転登記が無効であつて、本件土地が自己の所有に属するものであることを対抗することができないとの理由で右請求を棄却する旨の判決が言い渡され、これを不服とした控訴人は、右判決に対し相ついで控訴、上告の申立てをした――控訴審当庁昭和四三年(オ)第四二九号上告審昭和四七年(オ)第二一九号。なお、控訴審で仮登記の本登記申請に承諾を求める請求が追加された。――が、いずれも前同理由に基づき棄却され、右判決は昭和四七年一二月二二日確定したことが認められる。

そうすると、控訴人は、日比野清秀、したがつてその相続人であつて本件土地につき相続を原因とする所有権移転登記を経由した被控訴人日比野明子および同被控訴人から抵当権の設定登記を受けた被控訴人国に対し、本件土地所有権の取得をもつて対抗することができないことは明らかである。よつて、控訴人は、被控訴人らに対し、本件仮登記に基づく本登記手続をなすについて、その承諾を請求する権利を有しないといわなければならない。

この点につき、控訴人は、仮登記は順位保金の効力を有する結果、右仮登記に基づく本登記が経由されると、仮登記によつて保全された権利は遡及的にその効力を生じ、これと相容れない仮登記後の登記は、その善意悪意を問わず、すべて抹消される運命にあるのであるから、被控訴人らは民法九四条二項の類推適用により保護されるいわれがない旨主張するが、右は独自の見解であつて採用することはできない(ちなみに、控訴人が成田一男に対し、本件土地につき本件仮登記に基づく本登記手続を求める訴訟を提起したところ、原審において、右請求を認容する旨の判決が言い渡され、右判決がすでに確定していることは、本件記録上明らかである。しかしながら、控訴人は、本件仮登記に基づく本登記手続をなすについて、登記上利害関係を有する被控訴人らの承諾を得ていないのであるから、成田一男に対する右確定判決をもつて、本件土地につき控訴人のため本登記手続をなし得ないことは不動産登記法一〇五条に徴し明白である。)。

四以上の次第で、本件土地につき控訴人のためになされた本件仮登記は無効であり、仮に有効であるとしても、控訴人は、本件仮登記に基づく本登記手続をなすについて、被控訴人らに対し、その承諾を求める請求権を有しないのであるから、控訴人の本訴請求は、爾余の点の判断をまたず、しよせん、いずれも失当として棄却を免れない。

なお、控訴人の従前の請求―旧訴―は控訴と同時になされた訴の変更―交替的―により当然に終了した。

よつて民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(三和田大士 鹿山春男 新田誠志)

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