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名古屋高等裁判所 昭和50年(行コ)13号 判決 1976年3月30日

控訴人(原告) 平野義雄

被控訴人(被告) 愛知県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が原判決添付目録記載の土地について昭和四六年一〇月八日付指令海農第五一―六三九号をもつてした農地法第五条第一項第三号による農地転用届出を受理した行政処分は、これを取消す。訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の陳述)

一  被控訴人は、昭和四六年八月三〇日付転用届出書については、添付書類として、一七番の三および四の「土地の位置を示す地図および土地の登記簿謄本」「土地改良区に対し届出をする旨の通知をしたことを証する書面」など、通達により定められた「届出書に添付すべき書類の添付がない場合」にあたるので、これを不受理・処分とすべきであつた。そして、平野武雄らが一七番の三および四の登記簿謄本を農業委員会に提出した昭和四六年九月二七日の時点において、はじめて本件土地に対する転用届出がなされたものとすべきであるが、この届出は、工事着工の予定日(同年一〇月二〇日)の五〇日前になされたものではないから、農地法施行規則第六条の二第二項に定める届出手続の要件を充たしたものではなく、受理処分は違法である。すなわち、

二  「農地法施行規則の一部を改正する省令について」と題する昭和四四年一〇月二二日農林事務次官通達の示すところによれば、「市街化区域内の農地の転用および転用のためにする農地の権利の取得については、それぞれ適法な届出が行われてはじめて法第四条または第五条の許可を受けることを要しないこととなるのであるから、適法な届出を行わずにした農地の転用および転用のための農地等の権利の取得は、その権利の取得の効力を生じない」とされ、

1  届出の手続

2  届出書の添付書類

3  届出の受理・不受理

等が併せて定められている。

三  そして、届出の手続については、まず、届出書を都道府県知事に提出するにあたつては、原則として、農業委員会を経由させるとともに、この場合における農業委員会への届出書の提出は、転用行為に着手しようとする日の五〇日前までにこれをしなければならないとし、ついで、農業委員会は、届出書の提出があつたときは、その届出にかかる農地が賃貸借の目的となつているかどうかを確認し、すみやかに届出書を都道府県知事に進達するものとするとされている。

そして、届出書の添付書類としては、土地の位置を示す地図および土地の登記簿の謄本、土地改良区に対し届出をする旨の通知をしたことを証する書面等を添付するものとされ、都道府県知事は、届出書の提出があつた場合には、すみやかに形式上の審査を行つて適法なものは受理し、適法でないものは不受理とする旨が定められている。

四  以上によつて明らかなように、届出にかかる農地の所在地およびその農地に関する権利関係等の真否は、これらの書類によつて確認できるのであり、さればこそ、届出書に添付すべき書類の添付がない場合には、都道府県知事は、前述の不受理とする処分を行うべきものとされているのであり、法第五条第一項第三号の届出にあつては、届出が権利移動の効力要件であり、受理通知書の添付が不動産登記の要件とされているのである。

五  ところで、本件の昭和四六年八月三〇日付転用届出書には、原判決も判示されるように、津島市東中地町二丁目一七番三、同一七番四として、被控訴人が同年一〇月八日付四六指令海農第五一―六三九号をもつて受理した「届出書の添付書類」がない。すなわち、前記の「土地の位置を示す地図および土地の登記簿の謄本」の提出がないのであるから知事としては、「届出書に添付すべき書類の添付がない場合」として不受理処分をなすべきものであつた。

六  もつとも、被控訴人は、このことについて、右届出当時未だ一七番の三および四についての分筆登記は未了であつたことを認めながら、土地の地番が錯誤により誤つて記載されたにすぎないとし、改めて平野武雄らが同四六年九月二七日にした転用届出については、土地の地番の誤記を訂正したにすぎず、同四六年八月三〇日付をもつて提出された本件転用届出書を届出書としての基本的な要件をすべて充たした有効なものであるとして、この八月三〇日の時点で本件土地につき届出の効力は生じていたと主張する。

七  しかしながら、すでに述べたように、届出書に添付すべき書類の添付がない場合には、都道府県知事は、届出を適法でないとして不受理処分をすべきことが前記通達に明記されているのであり、被控訴人の主張するように、八月三〇日付をもつて提出された転用届出書にはその添付がなかつたのにかかわらず、これを不受理とすることなく、基本的な要件をすべて充たしたというがごとく解するにおいては、まさに、右通達は空文に帰せしめられたといわざるを得ない。

八  もつとも、平野武雄らは、昭和四六年九月二七日ごろ、訂正してほしいという申出をし、その登記簿の謄本を提出して、追完処理がされたのであるが(原審証人横井一郎の証言)、右通達にいう添付書類は、この時点においてはじめて提出されたのであるから、本来は、八月三〇日の届出書は、これを不受理とし、あとの九月二七日付のそれをまつて事を処理しなければならない筋合である。ところが、被控訴人は、右八月三〇日の時点で適法な要件がすべて充たされたとして届出の効力が前記一七番三および四について生じているとしているのであつて、その誤りであること明白といわねばならない。

九  してみれば、本件の土地に対する転用届出は、昭和四六年九月二七日にいたつてようやくこれがなされたものであり、工事着工予定日が同年一〇月二〇日であつた本件においては、農地法施行規則第六条の二第二項所定の五〇日の要件を充たしていると解することはできない。証人横井一郎は、同証人のいう「追完処理」をしたと述べるのであるが、議事録にはなんらその旨の記載はなく、「五〇七号」という受付番号を削除して、「五九三号」なる番号を甲第三号証に書き加える処置をとつたことも、当を得ない処置であつたといわざるを得ない。

一〇  同様のことは、海部土地改良区が昭和四六年八月三一日にした協議意見書の記載についてもいい得ることで、これによれば、前記の「土地改良区に対し届出をする旨の通知をしたことを証する書面」の添付も適法になされたということを得ない。すなわち、八月三〇日付転用届出を、すべての要件が備わつていると解することはとうていできない筋合である。

(証拠)<省略>

理由

当裁判所も、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決理由説示と同じであるから、これを引用する。

一  控訴人は、当審において、昭和四四年一〇月二二日付農林事務次官通達を引用し、本件の昭和四六年八月三〇日付転用届出書については、「届出書に添付すべき書類の添付がない場合」として、被控訴人は不受理処分をなすべきであり、かつ、昭和四六年九月二七日になされた届出は、農地法施行規則第六条の二第二項違反の違法があると主張するが、当裁判所に顕著な事実である右通達によれば、届出書の提出があつたときは、すみやかに形式上の審査を行つて、適法なものは受理し、適法でないものは不受理の処分をすることとし、届出書の添付書類については、「土地の位置を示す地図および土地の登記簿の謄本」は、届出が適法であるために必ずしも絶対的に必要な書類としているものではなく、その提出を要しない例外の場合のあることが示されているものというべきである。すなわち、右通達の2の(1)の項によれば、「届出に係る農地等の所在地およびその農地等に関する権利関係の真否等は、これらの図書によつて確認できるのが通常であるが、………」とあり、たとえば、届出者が相続による権利移転登記が未了のため登記簿謄本によつて届出者が真正な権利者であることを確認できない場合には戸籍謄本その他の書類の提出を求めて確認を行う、としているところからもこれを窺うことができる。そこで、これを本件についてみるに、その事実関係は前記引用の原判決理由中(本案についての判断)一に記載のとおりであり、これに関する当裁判所の判断は右理由中の原審の判断と全く同じであるから、本件の昭和四六年八月三〇日付転用届出は適法な届出というべきである。

二  また、控訴人は、「土地改良区に対し届出をする旨の通知をしたことを証する書面」および海部土地改良区の昭和四六年八月三一日付協議意見書についても、適法な添付書類の添付とはなし得ない旨主張するが、成立に争いのない甲第九、一〇号証、乙第一号証および原審における証人横井一郎の証言によると、日光川西悪水土地改良区の昭和四六年八月三一日付受理証明書(甲第九、一〇号証)および海部土地改良区の右同日付協議意見書(乙第一号証)は、いずれも当初対象物件として、津島市東中地町二丁目一五番の二および三と記載されていたが、後日昭和四六年九月二七日頃平野武雄が右改良区の了解を得て一七番の三および四と訂正したものであり、その経緯は、右に引用の原判決理由部分の記載のとおり、平野武雄らが右改良区に転用届出の通知等をした当時は、分筆後の予定地番である一五番の二および三として通知等をしたが、分筆後の地番は一五番の二および三でなく一七番の三および四と表示されて昭和四六年九月二二日に登記された結果によるものであることが認められ、原審における控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定に反する証拠はない。これによれば、前同様違法な届出の添付書類の添付があつたものとしてなんら差し支えないものである。

よつて、右と同旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 植村秀三 西川豊長 寺本栄一)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

被告が別紙物件目録記載の土地について昭和四六年一〇月八日付指令海農第五一―六三九号をもつてした農地法第五条第一項第三号による農地転用届出を受理した行政処分は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

一、本案前の答弁

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、本案についての答弁

主文同旨。

第二、当事者の主張

(請求原因)

一、別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という)はもと原告の父訴外平野耕造の所有であつたところ、同訴外人は昭和四五年一二月ごろ原告に対しこれを贈与して引渡したので、原告は昭和四六年四月一七日に本件土地の宅地造成に着手し、同年九月二八日にそれを完成させた。

二、しかるに、本件土地は農地であるため、原告が完全な所有権を取得するには農地法五条一項三号の規定による農地転用届出(以下、単に転用届出という)が必要であるところ、原告がその手続を経ていない間に、右訴外平野耕造と訴外平野武雄外三名(外三名は同訴外人の妻子)が本件土地について昭和四六年八月三〇日付で津島市農業委員会を経由して被告に対し転用届出をなし、被告は昭和四六年一〇月八日付四六指令海農第五一―六三九号をもつてこれを受理し(以下、本件受理処分という)、同月一六日付で受理通知書を右届出人らに交付した。

三、しかし、本件受理処分は次の理由により取消されるべきである。すなわち、

1 訴外平野耕造と平野武雄外三名が昭和四六年八月三〇日に転用届出をした目的物件は、津島市東中地町二丁目所在の一五番の二および三の畑であり、右届出は津島市農業委員会において受付番号第五〇七号をもつて受付けられている。

2 ところが、本件土地は、右届出当時分筆前であり、その表示は津島市東中地町二丁目一七番の一であつたところ、昭和四六年九月二二日に訴外平野耕造と平野武雄において右土地を同町二丁目一七番の三と四とに分筆したものである。

3 従つて、右分筆以前である昭和四六年八月三〇日に転用届出のあつた農地は、本件土地とは異なる土地であるのに、これを本件土地についての届出であるとして受理した本件受理処分は明らかに違法であり、取消されるべきである。

四、ところで、本件土地についての転用届出手続は、真実は、訴外平野耕造と平野武雄において、昭和四六年九月二七日、津島市農業委員会に対し分筆後の本件土地につき改めて届出をなしたものであり、被告はこれをあたかも昭和四六年八月三〇日受付番号第五九三号をもつて受付けた如く虚偽の書類を作成しているのである。従つて、訴外平野耕造と平野武雄外三名の共同申請にかかる本件転用届出は、昭和四六年九月二七日になされたものであるが、この届出には左記1、2の如き違法があるので、この違法を看過してなされた本件受理処分も違法であつて取消をまぬかれないものである。

1 農地法施行規則六条の二第二項によれば、転用届出書はその届出にかかる権利を取得しようとする日前であつて、かつ、その取得しようとする権利にかかる農地を農地以外のものにする行為に着手しようとする日の五〇日前までに農業委員会に提出しなければならないことになつている。しかるに、本件転用届出は、前記のとおり昭和四六年九月二七日になされたものであるから、工事着工予定日は昭和四六年一〇月二〇日としているので、その間二三日間しかなく、前記「五〇日前」の要件を具備しない違法な届出である。従つて、右違法を看過してなした被告の受理処分は違法である。

2 また、転用届出書には、農地法施行規則六条の二第一項、四条一項六号により、転用することによつて生ずる附近の土地、作物、家畜等の被害の防除施設の概要を記載しなければならないのに、前記訴外人らの提出した転用届出書には右記載がない違法がある。従つて、右違法を看過してなして被告の受理処分は違法である。

五、さらに、本件受理処分には次の如き違法があつて取消されるべきである。

すなわち、農業委員会は、転用届出書の提出があつたときは、届出にかかる農地が賃貸借の目的となつているかどうかを確認し、かつ被害の防除が十分でないときは、関係者間において調整が図られるよう指導しなければならないのに、津島市農業委員会は、本件転用届出受理手続に際し、原告が実父から本件土地の贈与を受け、これを宅地造成して占有していることを十分承知しながら、何らの指導をしなかつたのみか、届出人らと通謀して、前記のとおり届出の目的物件を差し替え、受付日をずらすなど虚偽の受付けをした違法がある。被告がこれらの違法を看過して受理処分をなしたのは違法であり、本件受理処分は取消されるべきである。

(本案前の抗弁)

一、本件訴は農地法五条一項三号の規定による転用届出の受理行為の取消を求めるものであるが、右転用届出受理行為は抗告訴訟の対象となる行政処分ではないから、本件訴は却下されるべきである。すなわち、農地法五条一項により、市街化区域内の農地の権利移転は適式の届出が都道府県知事に到達すればその時にこれが効力を生じ、何らの行政庁の公権的な判断作用を必要としないものである。従つて、転用届出受理行為は、許可処分と違つて単なる事実行為であつて、適式な届出がなされたことにつき公定力を有する処分ではないから、抗告訴訟の対象とならないものである。

二、また、本件訴は、原告適格ないし訴の利益を欠き不適法であるから、却下されるべきである。すなわち、原告は、訴外平野耕造外四名の転用届出に対して被告のした届出受理行為の取消を求め、その前提として、原告が本件土地の所有権を父より贈与を受けたと主張するのである。しかし、原告は農地である本件土地について農地法所定の手続を経ていないものであるから、本件土地について所有権その他の有効な権利を有しないものである。従つて、原告は本件土地についてなされた転用届出の受理行為の違法を争う法律上の利益を有しないものである。

(請求原因に対する被告の認否)

一、請求原因一の事実のうち、本件土地がもと原告の父平野耕造の所有であつたことは認めるが、その余の事実は不知。

二、同二の事実は認める。

三、同三の1および2の事実は認めるが、3の事実は否認する。

四、同四および五の事実はすべて否認する。

(被告の主張)

一、本件土地についての転用届出書は、昭和四六年八月三〇日、津島市農業委員会に提出されたものであつて、原告主張の昭和四六年九月二七日ではない。すなわち、転用目的物件の表示として、本件土地は津島市中地町二丁目一七番の三および四と記載されるべきところ、昭和四六年八月三〇日に提出された本件届出書には当初、津島市東中地町二丁目一五番の二および三と記載されていたものであり、また右届出当時未だ一七番の三および四の分筆登記が未了であつたものではあるけれども、右届出の折にはすでに実際上分筆に必要な測量等が完了しており、右届出書にはその添付図面により目的物件の農地は本件土地と特定されていたものである。ただ、土地の地番が錯誤により誤つて記載されていたため、昭和四六年九月二七日土地の地番の誤記の訂正をしたにすぎないのであつて、昭和四六年八月三〇日提出された本件転用届出書は届出書としての基本的な要件をすべて充たした有効なものであり、その時点で本件土地につき届出の効力は生じていたものである。

従つて、本件転用届出は昭和四六年八月三〇日になされ、転用工事着手予定日が同年一〇月二〇日となつているのであるから、右届出は農地法施行規則六条の二第二項に違反するとの原告の主張も失当である。

二、仮に原告主張の如く昭和四六年九月二七日に本件の転用届出がなされたとしても、転用工事着手まで五〇日間の期間を定めた農地法施行規則六条の二第二項の規定は訓示規定と解すべきであるから、一旦受理行為がなされた以上は右規定に違反しても当該受理の効力に何らの影響も与えないものである。

三、原告は、本件転用届出書には隣接農地等に対する被害防除施設の記載がない旨主張するけれども、右の記載は必要的記載事項ではなく、その記載を欠いたとしても転用届出としての効力に影響を与えるものではない。従つて、被告の本件受理行為には何らの違法もない。

(本案前の抗弁に対する原告の反論)

一、被告は、転用届出受理行為は単なる事実行為であつて取消訴訟の対象とならない旨主張する。しかし、転用届出はこれが受理されることによつて私法上権利移転の効果を与えられているものであるところ、「都道府県知事は、農業委員会の進達により届出書が到達したときは、すみやかにその届出が適法であるかどうかを審査して、その受理または不受理を決定するものとする」(昭和四六年四月二六日農地局長通達)とされている。従つて、転用届出の受理行為は知事の一方的な意思決定にもとづいて、特定の行政目的のために国民の財産である農地の権利移転について行政上必要な状態を実現させようとする権力的行為であるから、それは公権力の行使に当る行為ということができ、取消訴訟の対象となるものである。

二、原告は、本件訴につき原告適格ないし訴の利益を有するものである。すなわち、

1 本件土地は所有者であつた訴外平野耕造から、外形上、原告と訴外平野武雄外三名に二重譲渡されており、現在原告は、右訴外平野武雄外三名から土地明渡の訴を提起されている。そこで、適法な実体に合う登記の有無が右訴訟の勝敗を決する結果になると思料されるところ、訴外平野武雄外三名に対する所有権移転登記は適法な転用届出が前提となつており、これが違法に受理されたとして取消されれば、右訴外人らは適法な登記を経ていないこととなる結果、右訴訟は棄却され、原告が勝訴することとなる。従つて、原告は本件転用届出受理処分の取消を求める法律上の利益があるものである。

2 また、違法な本件転用届出受理処分により、訴外平野武雄外三名が外形上本件土地の所有権を取得しているため、原告は同訴外人らからいわれなき訴訟を提起され、多大の損害を蒙つている。これは被告の違法な本件受理処分がなされたことに基因するものであるから、原告は右違法を理由に国家賠償を求める地位にあるものであり、そのためにも本件訴を提起し、勝訴する必要がある。よつて、原告は本件訴の利益を有するものである。

(被告の主張に対する原告の認否)

被告の主張をすべて争う。

第三、証拠<省略>

理由

本件土地がもと原告の父平野耕造の所有農地であつたところ、譲渡人平野耕造・譲受人平野武雄外三名々義で本件土地について農地法五条一項三号の規定による農地転用届出がなされ、被告が昭和四六年一〇月八日付でこれを受理し、同月一六日付で右届出人らにその旨通知したことは当事者間に争がない。

(本案前の抗弁についての判断)

そこで、被告の本案前の抗弁について判断するに、

一、先ず、被告は、原告が取消を求める転用届出受理行為は単なる事実行為であつて取消訴訟の対象となるべき行政処分ではない旨主張する。しかしながら、転用届出の受理は、都道府県知事が当該届出を有効な行為として受領する受動的な意思行為であり、その対象たる私法上の法律行為を有効ならしめるものであるから、右受理行為が違法な場合には、これによつて利益を侵害されたものはその取消を求めることができると解すべきである。

二、そして、原告が本件転用届出の受理処分について、右処分が違法であるとして、その取消を求める法律上の利益を有するかどうか考えるに、原告は本件土地を譲り受けたとして現にこれを占有している者であることが原告本人尋問の結果により認められるのであるから、原告は本件転用届出受理処分の取消判決をうることにより、結局、その障害となる訴外平野武雄らの私法上の法律行為の効力を否定することができるのであつて、本件受理処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有するものということができる。よつて、被告の本案前の抗弁はいずれも理由がない。

(本案についての判断)

そこで、本件転用届出受理処分の取消を求める本案について検討する。

原告は、先ず、本件土地についての転用届出が津島市農業委員会に提出されたのは、昭和四六年八月三〇日ではなく同年九月二七日であるから、その届出には農地法施行規則六条の二第二項違反の違法があると主張する。そして、訴外平野耕造外四名が昭和四六年八月三〇日に提出した転用届出書には、その目的物件として津島市東中地町二丁目一五番の二および三と記載されていたこと、本件土地のもとの地番は津島市東中地町二丁目一七番の一であつて、右届出当時は未だ一七番の三と四に分筆登記がなされていなかつたことは当事者間に争がない。しかしながら、いずれも成立に争のない甲第二号証の一、二、甲第三、第七、第八、第一四ないし第一六号証、乙第二、第三号証、証人横井一郎および同平野武雄の各証言によれば、昭和四六年八月三〇日の届出当時、訴外平野耕造外四名において本件土地を一五番の二および三に分筆して転用届出することとし、その測量もして分筆登記手続を進めると同時に本件転用届出手続をなしたものであること、その届出書には分筆後の図面を添付して本件土地を表示し、その地番も分筆後の予定地番である一五番の二および三と記載して提出したものであること、ところが、分筆後の本件土地の地番は一五番の二および三でなく、一七番の三および四と表示されて昭和四六年九月二二日に登記されたため、同年九月二七日に改めて右新地番での届出がなされたこと、津島市農業委員会においては、当初、本件土地が分筆登記未了土地であることを了承し、これを分筆後の予定地番である一五番の二および三の土地として転用届出受理手続を進め、昭和四六年九月六日には津島市農業委員会農地部会で転用承認決議をなしたが、分筆登記が未了のため知事への進達手続を留保していたところ、届出人らから同年九月二七日に分筆登記後の新地番で届出がなされたので、同年一〇月五日に改めて右農地部会の転用承認決議を経、同年八月三〇日付届出書について、知事への進達手続を行つたものであることが認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右事実によれば、昭和四六年八月三〇日に提出された届出書は、その目的物件として津島市東中地町二丁目一五番の二および三と記載されていたものの、これは当時存在しない地番であつたが、その所在町名、面積、所有者名および届出書の添付図面によつて、目的物件は本件土地と特定されていたものとみることができる。ただ、土地の地番の表示が錯誤により誤つて記載されていたため、津島市農業委員会としては後に提出された届出によりその誤記が訂正されたとして取扱つたものである。従つて、昭和四六年八月三〇日の時点で本件土地についての転用届出書が提出されたということができる。もつとも、昭和四六年九月六日と一〇月五日の二度に亘り農地部会の承認決議がなされているが、右再度の決議は手続を慎重になしたものといいえても、最初の届出による承認決議のあつたことに何等消長をきたすものでない。結局、本件受理処分は、昭和四六年八月三〇日に届出があり、同年九月二七日に訂正された転用届出書を受理したものであるから、転用届出が同年九月二七日になされたことを前提とする原告の農地法施行規則六条の二第二項違反の主張は、その前提事実を誤るものであり、その余の点について判断するまでもなく失当である。

二、次に、原告は、本件転用届出書には隣接農地等に対する被害防除施設の記載がない旨農地法施行規則六条の二第一項(四条一項六号)違反を主張する。しかし、右被害防除施設の記載は被害発生のおそれがある場合にのみ記載されればよいと解されるところ、原告において右被害発生のおそれの存在について何ら主張するところがなく、却つて、成立に争のない甲第三号証によれば、本件届出書の被害防除施設概要記載欄には、「隣地農地に被害のないよう工事を行ないます。万一被害をおよぼした場合は自己の責任で処理いたします。」との記載がなされていることが認められるのであつて、本件転用届出書には何ら右規則違反の点が存しない。従つて、右規則違反をいう原告の主張は失当である。

三、さらに、原告は、農業委員会は転用届出書の提出があつたときは届出にかかる農地が賃貸借の目的となつているか否かを確認し、かつ被害の防除が十分でないときは関係者において調整が図られるよう指導しなければならないのに、本件転用届出書を受付けた津島市農業委員会は、原告が本件土地の贈与を受け、これを宅地造成して占有していることを十分承知のうえで何らの指導をしなかつたのみか、届出人らと通謀して、届出の目的物件を差し替え、受付日をずらすなど虚偽の受付けをした違法があると主張する。しかしながら、成立に争のない甲第一一号証によれば、津島市農業委員会は本件土地が賃貸借の目的となつていないことを確認していることが認められ、また、目的物件差し替え云々の主張の理由のないことは前叙のとおりであり、その他津島市農業委員会が届出人らと通謀して不正に届出受理手続を行なつたとの原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。従つて、原告の右主張も失当である。

以上の次第であつて、原告の本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙省略)

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