名古屋高等裁判所 昭和51年(ネ)103号 判決 1976年11月30日
控訴人
信用組合愛知商銀
右代表者
大山陽治
右訴訟代理人
桜川玄陽
被控訴人
辻良夫
右訴訟代理人
山岸越夫
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一被控訴人が本件手形を振出したことは被控訴人において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。
そして<証拠>によれば控訴人は裏書の連続した本件手形の所持人であること、控訴人は本件手形を支払期日に支払場所に呈示したことが認められる。
しかして控訴人において本件手形(甲第一号証)を本件の証拠に提出したこと及び弁論の全趣旨により控訴人は裏書の連続した本件手形の所持人として本訴請求に及んだものであることが明白であるから被控訴人の控訴人は本件手形の正当な所持人ではないとの抗弁は手形法七七条一六条二項但書の抗弁と解されるところ本件手形の控訴人の前主(訴外会社)が無権利者であること及び控訴人が本件手形を取得するに際し、右について悪意又は重過失があつたことを認めるに足る証拠はないから採用できない。
二そこで以下被控訴人のその余の抗弁について判断する。
(一) <証拠>を総合すると次の事実が認められる。
控訴人の一宮支店は訴外会社から金一、〇〇〇万円の融資の申込を受けて昭和四七年一二月五日、訴外会社に金一、六〇〇万円の手形貸付をなし、内金六〇〇万円は訴外会社の定期預金口座に残金一、〇〇〇万円から利息等を控除した金九四六万九、一五九円はその普通預金口座に入金した。しかるところ控訴人の専務理事(控訴人の代表者ではない)大倉正敬は訴外会社から事務の都合上必要であるとして日付欄及び金額欄が白地の普通預金払戻請求書(甲第四号証)に訴外会社名義の記名押印させたものを徴し、これを利用して訴外会社の同意を得ないで同社の右普通預金口座から金九四〇万円を引き出し、内金四四〇万円を自己の用途に費消し、残金五〇〇万円は三浦満太海に交付して同人が自己の用途に費消したのである。訴外会社の栗山は同月一四日頃に至つて右の事実をはじめて知り、大倉に右の金員を支払うよう要求したところ、大倉は自己の費消した分は、返済したが残金については返済できなかつた。そこで大倉は同月二九日頃、訴外会社に額面金二〇〇万円の手形を振出させ、昭和四八年一月一〇日までの間金二〇〇万円を訴外会社に貸付けることにして一時をしのぐことにした。訴外会社が受けた右の手形貸付は、訴外会社が控訴人から融資を受けた金一、〇〇〇万円を受領しておれば、その必要がないものであつた。一方三浦満太海は被控訴人から本件手形の割引を依頼されて預つていたところ大倉は三浦から昭和四八年一月一〇日頃割引の依頼を受けるその情を知りながら控訴人の一宮支店長を通じて訴外会社の栗山に本件手形に裏書をすれば残金を払出す旨を申し向けさせたので第一裏書欄に三浦の裏書のある本件手形の第二裏書欄に訴外会社の名義で裏書をして控訴人に交付した。訴外会社は三浦に本件手形の対価を支払つていないし、また訴外会社は本件手形について手形上の責任を負う意思も控訴人に本件手形を裏書譲渡する意思はなく、前記預金の残金の払出を受ける手段としてのみ右の裏書をしたのである。そして控訴人は本件手形により訴外会社に対する前記金二〇〇万円の手形貸付を決済し残金は利息等を控除して訴外会社の普通預金口座に入金した。
以上の事実が認められ、<る。>
(二) 右の認定事実によれば本件手形は被控訴人の三浦に対する融通手形ではなくして、割引のために被控訴人から右三浦に預けておいたものであるが同人は訴外会社から右手形の対価を受領することなく訴外会社に裏書をなしたものであつて、三浦もしくは訴外会社が被控訴人に対して本件手形金を請求すれば同人から割引金不交付の抗弁をもつて対抗されることを大倉は知つていたものであるところ控訴人の訴外会社に対する貸付の衝に当つていた者は右大倉にほかならないのであるから控訴人は本件手形を取得することにより、被控訴人を害することを知つて本件手形を取得したものといわなければならない。
そして被控訴人の「控訴人は悪意の所持人である。」との主張は手形法七七条一七条但書の抗弁と解されるから、結局被控訴人の右の抗弁は理由があり控訴人の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当である。
三以上の次第で控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきところ、これと同趣旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。
よつて民事訴訟法三八四条、八九条九五条を適用して主文のとおり判決する。
(丸山武夫 林倫正 高橋爽一郎)
別紙<省略>