大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和51年(ネ)274号 判決 1976年10月28日

控訴人

株式会社大黒商事

右代表者

近藤勲美

右訴訟代理人

冨田博

被控訴人

株式会社 鈴木薄荷

右代表者

鈴木マサ子

右訴訟代理人

中尾成

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

二、当事者双方の事実上法律上の主張並びに証拠関係は左に付加するものの他は原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

(一)  控訴代理人は次のとおり述べた。

1  債務者が債権者に対して約束手形を振出して金員を借り受けることは、世情一般のことであり、この場合、債務者は手形金債務を負担すると同時に貸金債務をも負担するものであることは学説判例の認めるところである。したがつて本件において控訴人と被控訴人との間に消費貸借が成立しており、控訴人は被控訴人に対して貸金債権を有しているものである。

2  そして控訴人が昭和四八年一一月二六日被控訴人を相手方として原判決の別紙目録(二)記載の不動産(以下本件不動産という)について原判決の別紙目録(三)記載の根抵当権(以下本件根抵当権という)にもとづき不動産競売の申立をした時、控訴人は競売の原因たる理由として「債権者は債務者に対して前記金額を貸付け、その弁済期日が来ても、その支払もなくかつ債権者より、再三の請求にも言を左右にして支払に応じません。従つて前記金額の弁済を得るには抵当権にもとづいて前記不動産の競売によるよりすべがないので本件申立に及ぶ次第であります。」と述べており添付書類として根抵当権認定契約書二通を添付している。これをみても、右競売申立の原因債権は貸金債権であつたことは明白である。ただ貸金債権の証拠として約束手形五通が振出されていたので金一七〇万円約束手形金と書いたが、約束手形金と書かれたからといつて、競売の原因債権が約束手形金であるというわけではない。原判決は競売開始決定に「約束手形金」と書かれているから、原因債権は約束手形金に限定さるべきものであると認定したが、これは理由不備あるいは理由そごであると思料する。

3  控訴人は被控訴人に対して昭和四八年一一月二一日書留内容証明郵便で本件根抵当権設定契約による将来の取引を解除したうえ、原判決の別紙目録(四)記載の貸金債権(以下本件貸金債権という)にもとづき昭和四八年一一月二七日に競売申立をしたものであるから、貸金債権の消滅時効は中断しているものである。原判決は「本件競売開始決定は約束手形金債権であるから貸金債権の時効中断にならない。」と判断しているが、これも誤つた判断であるというべきである。

4  次に控訴人は、届出の受理された貸金業者であるけれども、商法五〇二条八号の銀行取引をしているわけではなく、金融行為自体は商行為ではないから、本件貸金債権の消滅時効は五年ではなく一〇年である。したがつて原判決が本件貸金債権が昭和四九年一二月二〇日で時効消滅をしたとの理由で本件根抵当権設定登記を命じたのは理由不備ないし理由そごがあるものであつて取消されるべきものである。

(二)  立証として<省略>

理由

一当裁判所も被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものと判断するがその理由は左に付加訂正する他は原判決の理由と同一であるからここにこれを引用する。

(一)  原判決四枚目裏六行目の「……あるから」とあるのを「……あり、」と訂正し、その次に「原告が本訴において右の債務の消滅時効を援用していることは記録上明白であるから、」を挿入する。

(二)  原判決六枚目裏六行目の「本件の」から七枚目表二行目までを削除し、次のように改める。

1 右に認定したように原判決の別紙目録(一)記載の約束手形(以下本件手形という)は被控訴人の控訴人に対する本件貸金債務の支払のために被控訴人に対して振出したものである。

しかして本件競売開始決定(差押の効力がある)において認定された債権は本件手形債権であつて本件貸金債権ではない。そして手形債権とその原因債権とは法律上別個の債権であるから、控訴人において本件手形金債権が時効によつて消滅した後に右手形金債権を請求債権として本件不動産に対する競売開始決定(甲第一三号証)を得ても、右競売開始決定に請求債権として表示されていない本件手形の原因債権である本件貸金債権について消滅時効中断の効力を生ずるいわれはない。

2  ところで控訴人は本件貸金債権の消滅時効期間は一〇年であると主張するのでこの点について検討する。

弁論の全趣旨によれば控訴人は届出を受理された貸金業者(出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律七条)であることが明白であるから、その金融行為自体は商行為といえないというべきであるが本件貸金債権の債務者である被控訴人は株式会社であつて、商人であり、他に特段の事由の認められない本件においては被控訴人の本件の借受行為は商法五〇三条二項により商行為と推定されるものであるから、控訴人の本件貸付行為についても同法三条によつて商法が適用されるものといわなければならない。

そうすると、本件貸金債権は商事債権であるから、その消滅時効期間は五年である。

そして本件貸金債権の最後の弁済期である昭和四四年一二月二〇日から、同四九年一二月二〇日までの間に本件貸金債権につき消滅時効が中断していることについて控訴人は前記競売開始決定を得たことの他に何らの主張立証をしていないのである。

そうすると本件貸金債権は昭和四九年一二月二〇日の経過とともに時効により消滅したものというべきであり、被控訴人が本訴において右時効を援用していることは記録上明白である。

二以上の次第で被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(丸山武夫 林倫正 高橋爽一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例