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名古屋高等裁判所 昭和54年(ネ)98号 判決

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人加藤がその余の被控訴人らを代理人として本件土地を時効取得した旨を主張して、控訴人小幡に対しては本件土地の所有権について、同鈴木に対しては本件土地の所有権の持分二分の一についての仮登記によつて表示された権利について、それぞれ処分禁止の仮処分を昭和五〇年五月六日名古屋地方裁判所に申請し、その頃同旨の仮処分決定を得てその執行をしたことは当事者間に争いがない。

二控訴人小幡は、被控訴人らは協議のうえ被控訴人加藤が被保全権利を有しないにもかかわらず本件仮処分決定を得てその執行をしたと主張するのでまずこの点について判断する。

(一)  本件土地がもと控訴人小幡の所有であつたこと、国が昭和二三年一〇月二日自作農創設特別措置法にもとづき本件土地について買収処分をしたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によると、被控訴人加藤は国から昭和三〇年一一月一日本件土地について売渡処分を受けたことが認められる。

また、控訴人小幡が昭和三七年六月国及び被控訴人加藤を被告として本件土地について買収無効確認及び所有権移転登記抹消登記手続請求の訴(以下前訴という)を提起し、同四八年四月右事件について最高裁判所は右買収処分を無効であるとしたが、なお被控訴人加藤の主張する時効取得の点について審理すべきものとして事件を名古屋高等裁判所に差戻す旨の判決を言渡したこと、同裁判所は審理の結果、被控訴人加藤の主張する時効取得の抗弁は採用できないと判断した上、控訴人小幡の請求を認容する旨の判決を言渡したこと、右判決は昭和五〇年一月一三日確定し、同年二月一七日執行され、本件土地についての控訴人小幡の所有名義が復活したことはいずれも当事者間に争いがない。

(二)  控訴人らは、まず本件仮処分は右確定判決の既判力に抵触するものであると主張するが、<証拠>によれば、右確定判決にかかる事件は本件土地に対する控訴人小幡の所有権を訴訟物とするものではなく、判決主文において右の所有権が確認されているものではないことが明白であるから、控訴人らの右の主張はその前提を欠くものであつて採用できない。

(三)  しかしながら、被控訴人加藤が本件仮処分申請に際し名古屋地方裁判所に前記確定判決の存在を明らかにせず、同裁判所が相手方である控訴人らを審尋することなく仮処分を発令したことは弁論の全趣旨により明らかである。そして<証拠>によると、右の仮処分決定は控訴人らの異議申立により、前記確定判決と同一の理由で取消され、右の取消判決は昭和五二年六月頃確定したことが認められる。

そうすると、被控訴人加藤は前訴において取調べられた証拠のほかには格別自己に有利な証拠もなかつたのであるから、本件仮処分申請にあたり相手方に弁明の機会が与えられた場合には仮処分命令をえることが困難であることを知つていたか、もしくはこれを知らなかつたことにつき過失があつたものといわざるをえない。

(四)  右の点について被控訴人らは右の前訴及び仮処分異議訴訟の時点と現時点では、証拠関係が異なる旨を主張するので検討を加える。

<証拠>によれば、前訴確定判決は、愛知県知事が昭和二三年一〇月二日付で作成し遅くとも昭和二五年三月三一日までに被控訴人加藤に交付した売渡通知書には、売渡すべき農地として名古屋市中村区鈍池町三丁目四二番の土地が表示され本件土地が表示されていなかつたこと、しかし、同被控訴人は従前から鈍池町で小作していた土地は本件土地以外にはなかつたので、本件土地の売渡しを受けたものと信じてその占有を続けたこと、このように所轄農業委員会においては本件土地について売渡計画も定めず売渡通知書も作成しないままで時が経過した後、昭和二六年一月には国は被控訴人加藤との間で本件土地につき国有農地貸付書を作成し、昭和二九年一月には同被控訴人から本件土地の貸付料を徴収したことを認定した上、同被控訴人は右の売渡通知書の交付を受けた時以後本件土地を自主占有していたが、昭和二六年一月あるいは昭和二九年一月本件土地が売渡の目的となつていなかつたことを認識し、これを他主占有するにいたつたので取得時効は完成していない、と判断していることが明らかである。また、<証拠>によれば、前記仮処分異議事件の判決も、右の点に関し、自主占有と他主占有との開始時期につき多少異なるだけで略前記確定判決と同様の判断をしていることが認められる。

そして、右の確定判決の認定した事実は、<証拠>によつてこれを認めることができる。被控訴人加藤の所持する昭和二六年一月一五日交付国有農地等貸付書には本件土地の記載がなく、控訴人ら提出の同一の文書には本件土地が記載されていることは、後者の記載が後に被控訴人加藤の知らない間になされたことを推認させるものであるけれども、ただそれだけでは右の認定を動かすに足りない。また、昭和三〇年に被控訴人加藤名義で作成された本件土地の買受申込書が同人の意思に基づかずに作られたものであるとしても右認定の妨げとはならない。

(五) そうすると結局、被控訴人加藤が本件土地の所有権を時効によつて取得した事実は認められないから、同被控訴人は被保全権利がないにもかかわらず本件仮処分申請をなしてその執行をしたものであつて、右仮処分とその執行は違法であるといわねばならない。そして同被控訴人及びその代理人であるその余の被控訴人らは他に特段の反証のない限り、右の違法を知つていたか少なくともこれを知らなかつたことにつき過失があつたものというべきである。

(六)  しかしながら、控訴人小幡が右仮処分によつてその主張のような損害をこうむつた事実はこれを認めることができない。すなわち、同控訴人は右仮処分の執行を受けた結果、昭和五〇年五月一〇日以降少くとも二年九ケ月の間本件土地(持分二分の一)を処分できなかつたために本件土地の時価の年一割の割合による損害をこうむつた旨を主張する。しかし、先ず<証拠>によれば、同控訴人が本件仮処分によつて本件土地の処分を禁止された期間は昭和五〇年五月九日から昭和五二年七月一日までの二年一ケ月余の期間であることが明らかであるし、右の期間内に同控訴人が本件土地を他に処分することを必要としその計画を有していた事実を認めるに足りる証拠は何もないから、結局、同控訴人主張の損害発生の事実、これを認めるに由ないものといわねばならない。そして、そのほかに同控訴人が本件仮処分の執行によつて何らかの損害をこうむつた事実につき何の主張も立証もない以上。結局、同控訴人の本訴請求は失当して棄却を免れない。

三次に控訴人鈴木は、本件仮処分申請によつて同人の名誉と信用が毀損された旨を主張する。

本件仮処分申請に際し、被控訴人らが、控訴人鈴木が本件土地の二分の一の持分について仮登記をしたことについて、同控訴人を背信的悪意者に該ると主張したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件土地について、名古屋法務局昭和五〇年五月九日受付第二三〇八七号をもつて控訴人鈴木に対する仮処分の登記がなされていることが認められる。

同控訴人は、被控訴人が同控訴人を目して背信的悪意者なりと指称したことは本件仮処分の登記がなされたことと相俟つて、一般世人をして同控訴人に何らかの非違が存するように思わせるに足りるもので、同控訴人の弁護士としての名誉や信用を著しく傷つけたものであると主張する。しかし、右の「背信的悪意者」という用語は、不動産の二重譲渡が行なわれた場合に先に登記を備えた者の対抗力の有無を論ずる際に用いられる法技術上の用語であつて、倫理的非難の意味を有しないことはいうまでもないから、右の用語を用いた主張が裁判所に対してなされたからといつて、これにより直ちに控訴人鈴木の名誉や信用が毀損されたものということはできない。また、不動産の所有権の帰属が紛争となつている場合に処分禁止の仮処分がなされることは日常見られるところであるから、本件仮処分登記(<証拠>によればその後昭和五一年一一月二〇日に抹消されていることが認められる。)がなされたからといつて控訴人鈴木に何らかの非違が存することを想像せしめるものということもできない。

よつて、控訴人鈴木の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

四以上の次第で、原判決はその理由において右と異なる部分があるけれども、控訴人らの本訴請求を棄却したその結論において相当であるから、本件各控訴を棄却することとし、民事訴訟法八九条九五条九三条を適用して主文のとおり判決する。

(秦不二雄 三浦伊佐雄 高橋爽一郎)

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