大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和54年(ラ)208号 決定 1979年11月08日

抗告人

甲野太郎

右代理人

小久保義昭

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告の趣旨と理由は、別紙即時抗告申立書(写)に記載されているとおりである。

そこで審案するに、人間の性別は、性染色体の如何によつて決定されるべきものであるところ、記録中の鑑定人八神喜昭作成の鑑定書によれば、事件本人甲野二郎の性染色体は正常男性型であるというのであるから、同本人を女と認める余地は全くない。抗告人の戸籍訂正申立を却下した原審判は、もとより正当である(ただし、原審判一丁裏一三行目の「事件本人」の次に、「甲野二郎」を加える。)。

よつて、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(村上悦雄 小島裕史 春日民雄)

即時抗告申立書

抗告の趣旨

原審判を取消し、事件を名古屋家庭裁判所に差戻すとの裁判を求める。

抗告の理由

1 原審判理由中判示によれば、事件本人甲野二郎は本来正常な男性であつて、外見上女性型を示しているに過ぎない旨判示し、事件本人は依然男と認めるほかない旨認定している。

2 しかしながら、事件本人は性転換手術により男性部分を喪失し、造膣術により女性への転換を果したのであつて、上記手術により事件本人の睾丸は剔出され、その結果精子増殖機能は喪失し、外型的はもとより、内面的・機能的にも女性化しているのであつて、原審認定の如き、依然男性であるとは到底謂い得ない。

3 性転換手術により女性化した場合、戸籍訂正が可能であるところ、該「性転換」とは現在医学上可能な範囲の手術によりなされた性転換を謂うのであつて、性染色体そのものを女性のそれに転換し、或いは人工子宮を造型し、月経を誘致し、もつて受胎可能な程度に迄性転換を望むことは、現代医学上不可能なことであつて、性転換の程度につき上記の如き完全な女性化を求めることは不可能を強いるものと謂わざるを得ない。

4 事件本人の場合、現代医学において為され得る可能な限りの性転換手術を受けたのであつて、これをもつて性転換手術により女性化したものとみるべきが相当であつて、当然戸籍訂正の対象となるとすべきである。

如上の見地から、事件本人は「正常な男性である」との原審判の認定は事実誤認と謂うべく、取消しを免れない。

5 これを要するに、事件本人は現代医学において可能な限りの手術に因り性転換を遂げたのであつて、これ以上の性転換手術は望み得ず、事実事件本人は男性としての外型的特微のみならず、生理的特徴も喪失しており、それに伴い性格的にも女性化しているのであつて、正に理想的な性転換を遂げたものと謂うべきであり、事件本人が依然男性であるとする原審認定が誤りであること明らかである。

6 尚、申立人の抗告理由の詳細については、追つて提出する抗告理由補充書において主張する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例