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名古屋高等裁判所 昭和56年(ネ)493号 判決 1985年9月11日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴会社代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および立証は次に付加するほか原判決事実摘示の通りであるから、これを引用する。

一  控訴会社の主張

1  被控訴人の取締役および代表取締役の地位の存在確認請求について

(一)  仮に本件取締役辞任届が被控訴人自身の作成したものでないとしても、被控訴人は所用にかこつけ再々名古屋を離れ不在となり、控訴会社の経営をおろそかにし、業務に支障をきたすことが多かった。そのため訴外簡東緒は被控訴人に対し取締役の辞任と代表取締役の退任を申入れたところ、被控訴人はこれを受け入れ、右手続の一切を簡東緒に委任した。従って、右辞任届は被控訴人の意思に基づくものである。

(二)  仮に被控訴人の昭和四九年六月一〇日付の取締役の辞任が無効であるとしても、同六〇年一月三〇日に開催された控訴会社取締役会において被控訴人は代表取締役を解任されたので被控訴人の本訴請求のうち代表取締役の地位の存在確認を求める部分は理由がない。

2  簡東緒の代表取締役の地位不存在確認請求について

仮に昭和四九年七月一日の取締役会における原判決別紙目録第二記載の決議が存在しないとしても、前記昭和六〇年一月三〇日に開催された取締役会において簡東緒は代表取締役に選任されたので、被控訴人の本訴請求のうち簡東緒の代表取締役の地位不存在確認を求める部分は理由がない。

3  被控訴人が、訴外阿石から控訴会社の株式二〇〇〇株の譲渡を受けたとしても、右は株券の発行前になされたものであるから、控訴会社に対して効力を生じない。

二  被控訴人の主張

控訴会社の主張はすべて争う。

三  証拠関係(省略)

理由

一  被控訴人の取締役および代表取締役の地位存在確認請求について

当裁判所も右請求につき原判決の認定判断を相当と認めるものであって、その理由は次に付加するほか原判決理由一説示(原判決七枚目裏八行目から八枚目裏四行目まで)の通りであるから、これを引用する。

1  控訴会社は、被控訴人は取締役の辞任と代表取締役の退任を承諾し、その手続一切を簡東緒に委任したと主張し、これに添う乙第一七号証の三(原本の存在および成立に争いがない。)を提出するけれども、右書証の記載内容は原審および当審における被控訴本人の供述および弁論の全趣旨に照らしたやすく措信し難く、他にこの点の控訴会社の主張を認めるに足る証拠はない。よって控訴会社の右主張は採用しない。

2  次に控訴会社は、仮に右取締役の辞任が認められないとしても、被控訴人は昭和六〇年一月三〇日に開催された取締役会の決議によって代表取締役を解任されたと主張する。

成立に争いのない乙第一一号証ないし第一四号証および同第二二号証によれば、次の事実が認められる。

訴外簡東緒、簡徳和の両名は、本訴において被控訴人の請求が認容された場合にそなえ、被控訴人の代表取締役解任および新代表取締役選任を議題とする取締役会の招集を被控訴人に請求し、被控訴人はこれに応じて昭和六〇年一月二四日右訴外人らに対し取締役会招集通知を発した。右通知に基づき同月三〇日訴外人両名および被控訴人が東京虎の門所在共同法律事務所に参集した。簡両名の見解としては昭和四九年七月一日被控訴人退任前の状態における取締役および代表取締役が昭和六〇年一月現在においても控訴会社の取締役および代表取締役であるとして右取締役会を招集開催したものである。しかして、右取締役会においては、簡両名は被控訴人は上程議題についての特別利害関係人であるとして、同人を除外し、簡両名のみの決議によって被控訴人を控訴会社代表取締役から解任し、簡東緒を代表取締役に選任する決議がなされた。

しかしながら、成立に争いのない乙第一五号証によれば、昭和六〇年一月当時における控訴会社の取締役は簡東緒、簡徳和、簡美恵の三名であり、代表取締役は簡東緒である(いずれも昭和五九年一月三一日就任、同年二月七日登記)ことが認められるから、右昭和六〇年一月の時点においては、控訴会社の取締役会は右三名によって構成せられ、それ以外には存在し得ないものといわなければならない。従って、昭和六〇年一月三〇日にいたって、被控訴人が辞任した日とされる昭和四九年七月一日前の取締役の構成をもって取締役会を招集開催してみたところで、このような会議は控訴会社の取締役会というに由なく、取締役会として不存在であり、右会議においてなされた決議もまた取締役会決議としては不存在であることに帰する。よって、被控訴人が昭和六〇年一月三〇日控訴会社の代表取締役を解任された旨の控訴会社の主張は失当である。

二  臨時株主総会の決議および取締役会の決議の各不存在確認請求について

被控訴人が控訴会社の株主であることは後記認定の通りであるところ、昭和四九年七月一日に招集された臨時株主総会において原判決目録第一の1、2記載の各決議がなされたとしてその旨の登記がされていること、被控訴人は昭和四七年二月一日控訴会社の代表取締役に就任し、爾来その地位にあったことおよび控訴会社の取締役会議事録および商業登記簿によれば昭和四七年七月一日に招集された取締役会において原判決目録第二記載の決議がなされた旨の記載および登記がされていることは当事者間に争いがない。

原本の存在および成立に争いのない乙第一七号証の三および原審における被控訴本人の供述によれば、控訴会社は被控訴人らがこれを主宰するようになってから、株主総会および取締役会を適式な手続で招集開催したことはなく、株主総会および取締役会の各議事録は司法書士に実際これが開催されたかのように適宜作成させていたにすぎないことが認められる。右事実関係によれば、乙第一・二号証の記載内容はたやすく措信し難く他に前記臨時株主総会および取締役会が招集開催されたことを認めるに足る証拠はない。

以上の通りであるから、昭和四九年七月一日に招集された臨時株主総会における原判決目録第一の1、2記載の各決議および同日招集された取締役会における同目録第二記載の決議は存在せず、従って訴外簡美恵は控訴会社の取締役たる地位を、また簡東緒は同会社の代表取締役たる地位をそれぞれ有しないことになる。

控訴会社は、簡東緒の代表取締役たる地位の不存在の点について、昭和六〇年一月三〇日招集された取締役会において同人は代表取締役に選任されたから被控訴人のこの点の請求は理由がないと主張するけれども、右取締役会およびその決議が控訴会社の取締役会およびその決議として不存在であることは先に一において認定した通りであるから、控訴会社の右主張は採用しない。

三  被控訴人の控訴会社の株主たる地位の確認請求について

成立に争いのない甲第四号証の一・二、第七号証ないし第九号証、第一〇号証の一・二、第一二号証、第一四号証、第一六号証の一・二、第二六号証の一・二、乙第六号証、原本の存在および成立に争いのない甲第一一号証、乙第八号証(後に措信しない部分を除く。)、第一七号証の一ないし四(後に措信しない部分を除く。)、第一八号証(後に措信しない部分を除く。)、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第五号証の一ないし四、第六号証ならびに原審および当審における被控訴本人の供述によれば、被控訴人は簡東緒と共同で別紙目録記載の土地(訴外阿石勇一所有)、建物(控訴会社所有)を買取り、これにより貸室業を経営することにし、その手段として控訴会社の全株式を買収し、同時に控訴会社をして右建物の敷地にあたる前記土地を阿石勇一から買取らせたこと、しかして株式買収については控訴会社の発行済株式四〇〇〇株を右阿石勇一ら数人から被控訴人と簡東緒とがそれぞれ二〇〇〇株宛譲受けたこと等の事実が認められ、右認定に反する乙第一七号証の一ないし四、第八号証、第一八号証の各一部、乙第一九号証および乙第七号証の記載内容は前掲証拠に照らしたやすく措信しえないし、他に前記認定を覆すに足る証拠はない。

控訴会社は右株式買収および土地の買取りは専ら簡東緒の出捐で行われたもので被控訴人は単なる名義株主にすぎないと主張するけれども、前掲証拠によって認められる簡東緒が銀行から融資を受け、控訴会社に更に貸付けた約四〇〇〇万円は、その後被控訴人と簡との間の当初の約束通り控訴会社のあげた利益をもって簡に弁済されている事実に本件会社の役員構成の推移や被控訴人の控訴会社に対する貢献を合せ考えると、前記控訴会社に対する投資が専ら簡東緒の出捐によったものとは認められない。かえって原審および当審における被控訴本人の供述によれば、被控訴人が控訴会社に対する投資において六〇〇万円を出資したのに対し簡東緒は実質上金融機関から融資を受ける為に自己の有する信用を提供したものと認められる。よって、被控訴人は実質的にも株主であるというのが相当であり、控訴会社の主張は採用できない。

さらに、控訴人は、被控訴人の訴外阿石らからの控訴会社株式譲受けは、株券発行前に行われたものであるから、商法二〇四条二項により控訴会社に対し効力を生じないと主張する。

前掲乙第八号証、当審における被控訴本人尋問の結果によれば、控訴会社の当初の株主であった阿石勇一らから被控訴人および簡東緒への本件株式の譲渡は昭和四二年六月二二日の契約によりなされたものであり、その際には控訴会社の株券が発行されていなかったことが認められる。

しかしながら、一方、前掲乙第一五号証によれば控訴会社の設立は昭和四〇年一〇 月二一日であることが認められるのであるから、昭和四二年六月二二日の本件株式譲渡の時点において株券の発行がなされていなかったについては控訴会社においてその発行を不当に遅滞していたものというほかはない(発行済株式の数は四〇〇〇株であり、株主の数も一〇名をこえない。)。そして、信義則上株式譲渡の効力を否定すべき特段の事情も他に見当らない本件においては、株主は意思表示のみにより会社に対する関係においても有効に株式を譲渡しうるものと解するのが相当である。よって、被控訴人の阿石らとの契約による二〇〇〇株の取得は控訴会社に対しても有効であり、控訴会社の右主張は採用できない。

よって被控訴人が控訴会社の二〇〇〇株の株主であることの確認を求める請求は理由がある。

四  結び

以上の通りであるから被控訴人の本訴請求はすべて理由がありこれを認容した原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条八九条を適用して、主文の通り判決する。

別紙

目録

一 名古屋市千種区田代町字岩谷三八番の四

山林 一〇一一平方メートル

二 同所 三八番四七

山林 一〇五平方メートル

三 同所 三八番地の四

家屋番号 同町三八番四の二

高床鉄筋コンクリート造陸屋根三階建共同住宅

一階 二二三・九八平方メートル

二階 二二三・九八平方メートル

三階 二二三・九八平方メートル

付属

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建共同住宅

一階 一〇五・六〇平方メートル

二階 一〇七・九七平方メートル

三階 一〇七・九七平方メートル

四階 一〇七・九七平方メートル

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