名古屋高等裁判所 昭和56年(行コ)24号 判決 1983年3月30日
控訴人(一審原告)
権田邦雄
控訴人(一審原告)
野本弘幸
右両名訴訟代理人
長屋誠
高和直司
被控訴人(一審被告)
山本芳雄
右訴訟代理人
鈴木匡
大場民男
山本一道
鈴木順二
伊藤好之
鈴木和明
被控訴人(一審被告)
朝日開発株式会社
右代表者
萩原幹也
右訴訟代理人
野尻力
小澤三朗
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実《省略》
理由
一控訴人らが豊川市の住民であること、被控訴人山本が同市の市長として昭和五三年三月二九日被控訴会社に対し、ゴルフ会員権に関する預託金として金七〇〇万円を支出したこと、その他当事者間に争いがない事実は、原判決理由第二項1に記載のとおりであり、また、被控訴人らは、右支出は議会の議決を経ているから住民訴訟の対象適確性がないと主張するが、その理由なきことは、同第二項2に判示のとおりであるから、各これを引用する。
二本件支出の性格
1 まず、豊川市が本件ゴルフ会員権を取得するに至つた経緯等をみるに、それは、原判決理由第二項3の(一)に判示のとおりであるから、これを引用する。
控訴本人権田邦雄の当審供述中右に牴触する部分は、右(一)冒頭に掲記の各証拠と対比して、採用することができない。
2 そこで、右認定の事実関係を前提に、本件支出が補助か財産取得のためかを考えるに、右の事実関係によれば、右支出は、一面、ゴルフ会員権なる財産権の有償取得であると共に、他面、ゴルフ場の所在場所たる平尾地区住民の要請、豊川市の租税収入の増大などについての行政的・政治的配慮に基づく補助的支出の性格をも帯びるものといえよう。
しかし、元来、実定法の解釈・適用は、まずその文理を基本とすべきところ、本件支出は、地自法一四九条六号の「財産を取得すること」に文理上そのまま該当するのに対し、同法二三二条の二に用いられる「(寄附又は)補助」とは本来無償の金員供与をいうことは明らかであるから、右支出はそのままこれに該当するものでないのみならず、右事実関係によると、本件ゴルフ会員権は、預託金会員組織のもと、豊川市においてその交際手段ないし職員の福利厚生のため本件ゴルフ場施設を優先的に利用することができ、又将来退会等の際はその投下資金を回収する途も保証されているのであるから、それは十分に財産的価値を有するものであるうえ、豊川市は右会員権を公募で、即ち額面価額で取得しているのであつて、例えば時価よりも特に高額で取得した場合の如く、その差額につき補助等をしたとみうる余地も存しないのである。
従つて、豊川市の本件会員権取得の経緯、動機において、前記のような行政的ないし政治的配慮が事実上働いたとしても、それなるが故に、右取得をもつて被控訴会社に対する無償の補助と同視するのは、前記実定法の文言と隔たること遠く、又ゴルフ会員権の財産性を無視するに等しいものであつて、目的解釈に過ぎたものといわざるをえない。
尤も、地自法上、補助については公益上の必要性が要件とされるところから、その脱法手段として財産取得の形をとつた場合の如きは別異に解する余地があるが、本件については、上記引用にかかる原判決認定のように、豊川市は、すでに管内の東海カントリークラブの会員であつたところ、これとの権衡上も本件平尾カントリークラブの会員権を取得したこと、本件会員権は法人会員二口、その取得価額は計七〇〇万円であつて、豊川市の規模からみて社会通念上是認しうる範囲内のものであること、同市は右金員を全額払い込んでいること、<証拠>によれば、その後豊川市の職員による本件ゴルフ場の利用が現実に行われていることからみると、本件を脱法行為とみる余地はないものである。
また、控訴人らは、本件支出が豊川市の昭和五二年度予算歳出中、その二款一項七目二四節の「投資および出資金」欄に預託金の名目で計上されていたことをとらえ、被控訴人山本らは本件を財産取得ではなく出資金ないし補助と考えていた証左である旨、主張する。しかしながら、地自法施行規則一五条によれば、歳入歳出予算の款項の区分並びに目及び節の区分は一の「報酬」の節から二八の「繰出金」の節まで特定されており、同条の備考一には「節及びその説明により明らかでない経費については、当該経費の性質により類似の節に区分整理すること」と定められているところ、<証拠>によれば、被控訴人山本は、本件会員権が財産的価値ないし利益を有するとはいえ、不動産の如き通常の公有財産とはその性質を異にしていることから、一七の「公有財産購入費」の節ではなく、便宜前記二四の節に計上し、その説明の欄にかつこ書で(権利取得)と添え書きがされていることが認められるから、以上に照らすと、たまたま「投資及び出資金」欄に掲げられていたとの一事をもつて、即、補助に該当するとは到底いえないものである。
3 以上のとおりであるから、豊川市の本件支出及びこれによる上記会員権の入手は、法的にみると、地自法一四九条六号の「財産(の)取得」に該当するというべきであるが、しかし、右財産の取得といえども、地自法の規定ないし趣旨に照らし、違法な場合には、いわゆる住民訴訟の対象となるから(同法二四二条の二第一項、二四二条第一項)、以下、この見地から本件を検討する(なお、控訴人らは、仮に本件が財産の取得に該るとしても、補助に関する前記二三二条の二が準用さるべきであると主張するが、叙上のところより明らかなように、財産の取得に補助に関する条項を準用すべき理由はない。ただ、財産の取得というも、私人のそれでなく地方公共団体にかかわるものであること、殊に本件の場合には上記のように補助的な面をも帯有していることから、右に挙げた法の趣旨違背の有無をみる際に、公共的観点からもこれを検討するという限度でこれを考慮すべきである。)。
三本件財産取得の違法性の有無
本件会員権の取得が、手続的には、そのための支出につき議会の議決を経ていることは既述のとおりであり、又右会員権の取得が、豊川市自体にとつて、社会通念上許容される範囲内のものであることも叙上のとおりであるところ、更にこれを公共的観点からみても、上記引用にかかる原判決認定の事実関係にみられるとおり、右会員権の対象たるゴルフ場については、その開設は、所在地区たる平尾地区の絶対多数の賛成により始まり、開設後は、右平尾地区等の住民に稼働の場所を提供するなど地域社会の雇用促進ないし地域開発に寄与するところがあり、又豊川市には租税収入の増大をもたらしているのみならず、その造成工事に当たつては水害予防等につき十分な配慮を施すなど公害事業性も認め難いから、以上を総合すると、本件会員権の取得は、それが地方公共団体の且つ補助的色彩をも帯びた行為であるとの見地からみても、未だ地自法の規定ないし趣旨に悖るところはないというべきである。
四よつて、右行為の違法なることを前提とする控訴人らの請求は、その余の争点に立入るまでもなく失当として棄却を免れない。従つて、右と結論を同じくする原判決は結局正当であるから、本件控訴はこれを棄却することとし、行訴法七条、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(小谷卓男 寺本栄一 三関幸男)