名古屋高等裁判所 昭和56年(行ス)4号 決定 1981年7月20日
抗告人 金聖秀
<ほか一名>
右両名代理人弁護士 原山剛三
同 浅井正
同 石上日出男
同 若松英成
相手方 愛知県教育委員会教育長 新美富太郎
主文
本件即時抗告をいずれも棄却する。
理由
一 抗告人らは、「原決定を取り消す。相手方が抗告人らに対して昭和五六年六月二九日付をもってなした同五七年度愛知県公立学校教員採用選考試験に関する願書受理拒否処分は、本案判決が確定するまでこれを停止する。申立費用は第一、二審とも相手方の負担とする。」との裁判を求め、即時抗告の理由は別紙即時抗告申立理由書に記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
当裁判所も、抗告人らの本件執行停止申立は申立の利益を欠くもので、いずれも不適法として却下すべきものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原決定理由に説示するところと同じであるから、これを引用する。
本件疎明によれば、抗告人らが相手方に対し昭和五七年度愛知県公立学校教員の採用選考試験の願書を提出したところ、相手方は昭和五六年六月二九日付をもって右願書の受理を拒否する処分をなしたことが認められるが、右処分の効力を停止しても、裁判所は行政庁に対し一定の作為を命ずることができないこととの関係上、抗告人らから相手方に対する受験の申請があった状態に復するだけで、抗告人らの提出にかかる願書の受理がなされた状態が当然には生ずることにならないと解すべきである(抗告人らは、右拒否処分の実質は願書受理の撤回処分に外ならないから、本件につき執行停止がなされればそれは受理状態を作出することになる旨主張するが、右拒否処分が抗告人ら主張のように受理の撤回であるとは認められないから、右主張は理由がない。)。
尤も、一般に拒否処分の効力を停止した場合にも、行政庁の特段の行為を要せずして、右の停止決定により申請人に何らかの法的利益を生ずるような場合には、右執行停止の利益を肯定すべきであるところ、この点につき、抗告人らは、国籍要件以外の受験資格を満しているので、本件執行停止決定があれば、相手方がこれを尊重して右受験申請を受理する可能性が高いから、本件停止決定を得ることにつき法的利益を有する旨主張するが、仮に相手方において抗告人ら主張のような措置に出ることの期待が考えられるとしても、それは相手方の態度いかんによる事実上のものにすぎなく、相手方において法律上義務付けられる結果としての法的利益とは到底認められない(なお執行停止については、行政事件訴訟法三三条四項により、行政庁が裁判の趣旨に従った処分をなすべき旨を定めた同条二項の準用のないことに留意すべきである。)。
以上いずれにしても、本件につき執行停止処分をなしたとしても、これに因り抗告人らが右受験申請を受理される、ないしこれと同様の法的可能性を有するに至るものとは未だ認め難いから、抗告人らについて本件執行停止を求める法的利益は生じないといわざるを得ない。
よって、抗告人らの本件執行停止申立を却下した原決定は相当であって、本件即時抗告の申立はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小谷卓男 裁判官 寺本栄一 清水信之)
<以下省略>