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名古屋高等裁判所 昭和57年(ネ)698号 判決 1983年11月28日

控訴人(一審被告)

木村照子

右訴訟代理人

石川則

被控訴人(一審原告)

日立クレジット株式会社

右代表者

小林信市

右訴訟代理人

野島達雄

大道寺徹也

冨田俊治

中根常彦

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一まず、本件各契約が被控訴人と控訴人本人との間に締結されたか否かにつき検討する。

1  本件各契約が控訴人名義をもつてなされていることは当事者間に争いがないところ、右の契約書たる甲第一号証の控訴人作成名義の部分は、<証拠>によれば、田中の妻千代子において控訴人の承諾の下に同人名義をもつて作成したものであることが認められ、これに反する<証拠>は右証拠に照らし到底措信できないので、同部分は真正に成立したものと認められるところである。

しかしながら、右甲第一号証に記載の呉服類(大島、帯)を控訴人が実際に購入したことの確証がないこと、<証拠>によれば、右甲第一号証にローンの振込銀行として記載されている岐阜相互銀行池下支店の普通預金口座は控訴人のものではないこと、<証拠>によれば、控訴人主張の如く、田中は、昭和五五年一〇月頃から同五六年六月頃にかけて、顧客の承諾を得たうえで又はこれを得ないで、顧客の名義を用い、顧客がローン制度を利用して呉服類の商品を購入するかの如き契約書を作成し、金融機関から同契約による借受金として多額の金員を入手していた疑いが持たれること等の事実が認められ、これらの諸事実に照らすと、本件各契約の当事者が、その取引名義のとおりに控訴人であるとは、にわかに断定し難いといわなければならない。

2  もつとも、<証拠>によれば、上記甲第一号証の作成後、被控訴人の方から、控訴人に対し、電話で本件各契約を確認するとともに、そのクレジット代金支払明細書を送付したが、控訴人から何ら異議の出なかつたことが認められるが、そのようなことは、後記認定の名板貸の場合でもありうることと言えるから、右の事実は、未だ前記認定を覆し、控訴人が本件各契約の当事者であると認めるには不十分である。

なお、原審証人満藤太之は、「被控訴人の担当者が昭和五六年五月八日残高を確認した際、控訴人から『分割払だと金利が高くなるので、昭和五六年六月末に現金で残額全部を支払うから、金利相当分をまけてくれ。』と言われたので、右担当者は甲第二号証(残高確認書)にその旨記載した。」と証言するところ、確かに同号証には右趣旨の文言が記載されていることは認められるが、<証拠>によれば、同号証の控訴人の氏名・住所欄は鈴木において記名押印したものであることが認められ、他方、控訴人自身は原審において同号証は見たこともない旨供述しているので、これらの事実に照らすと、控訴人が右の如く確認したとはにわかに即断し難いものである。

3  以上のとおりであるから、本件各契約は控訴人本人との間に締結されたものであるとの被控訴人の主張は未だ認め難いところである。

二そこで次に、被控訴人の名板貸の主張につき判断する。

1 <証拠>を参酌すると、控訴人は昭和五一年頃より田中から時々呉服類を買うようになつたうえ、鈴木が昭和五五年五月頃田中方に就職したのも控訴人の紹介によることが認められるので、控訴人は田中と相当程度の交際があつたものと推認されること、加えて上記の如く、控訴人は自己名義の甲第一号証の作成を承諾していたうえ、同号証の作成後、被控訴人の方から控訴人に対し、電話で本件各契約を確認するとともに、クレジット支払明細書を送付したのに対し、控訴人から何らの異議も出なかつた経緯があり、しかも<証拠>によれば、控訴人は同証人に対し、田中に名義を貸した旨述べていたこと等の各事実が認められるので、以上の諸事実に照らすと、控訴人は、田中に対し、控訴人の氏名を使用して本件各契約を締結することを許諾していたものと推認しうべく、これに反する<証拠>は前掲各証拠と対比して措信できず、他にこの認定を覆すに足る証拠はない。

そして、<証拠>によれば、被控訴人は、控訴人が本件各契約の当事者であると誤認して同契約の締結に及んだものであることが認められるので、控訴人は、名板貸人として商法二三条の法意により、本件各契約により生じた債務につき、田中と連帯して弁済の責に任ずべきものである。

三右のとおり、控訴人は本件各契約につきその債務者としての責を負うものであるところ、<証拠>を総合すれば、被控訴人主張の請求原因3項の事実が認められるから、控訴人は被控訴人に対し、本件求償金五八万八五〇〇円及びこれに対する右弁済日後である昭和五六年一〇月四日から支払済まで年一割四分六厘の割合による約定遅延損害金を支払う義務がある。

四よつて、被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきであるから、これと同旨に帰する原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小谷卓男 寺本栄一 笹本淳子)

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