大判例

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名古屋高等裁判所 昭和58年(う)316号 判決

所論は要するに,原裁判所は,石田ひとみの検察官に対する昭和58年4月19日付供述調書(以下「本件供述調書」という。)を刑事訴訟法321条1項2号該当の書面として採用したが,右書面は原審第2回公判期日における証人石田ひとみの尋問終了前には弁護人に開示されておらず,その後検察官から右書面が右条項に該当する書面として証拠調べ請求がなされる直前において,初めて弁護人に開示されたものであって,被告人及び弁護人は,右証人尋問の際には攻撃すべき供述調書の内容を知らず,本件供述調書についての反対尋問をすることができなかったから,被告人側に証人審問の機会が十分に与えられたということはできない。従って,原裁判所が本件供述調書を取調べ,事実認定の証拠として使用したことは,憲法37条2項に違反する,というのである。

よって考えるに,参考人の検察官に対する供述調書を同人に対する証人尋問終了後,刑事訴訟法321条1項2号により証拠として採用するためには,右調書につき弁護人に当該証人尋問終了前に閲覧の機会を与えるなどして反対尋問をする機会を与えるのが,被告人の証人審問権を保障した憲法37条2項の趣旨に沿う所以であると考えられるが,検察官が右供述調書を右のような時期に弁護人の閲覧に供さず,また当該証人の在廷中に右調書の取調べ請求もしなかった場合においても,検察官において,右供述調書の記載内容と同一事項について右証人に尋問をなしていた関係上,弁護人において,これに対し反対尋問の機会が十分に与えられ,また現に必要かつ十分な反対尋問がなされていると認められる結果,弁護人が右供述調書採用取調べの前後にわたって,右証人の再尋問の請求をしなかった場合においては,裁判所が同証人の再尋問をしないで刑事訴訟法321条1項2号に則り右調書を採用しても,憲法37条2項に違反しないと解するのが相当である。

そこで,右の見地に立って,記録を調査して検討するに,原審各公判調書,原判決書及び本件供述調書を含む石田ひとみの検察官に対する供述調書2通によれば,原裁判所が,所論指摘の経緯によって本件供述調書を取調べ,これを原判決書の証拠の標目に挙示していること及び弁護人は原審第5回公判期日において,右所論とほぼ同旨の意見を述べて前記供述調書の採用に反対していたことが認められるが,他方右各公判調書等によれば,原審第2回公判期日において,検察官は証人石田ひとみに対し,本件供述調書を含む2通の供述調書の記載内容と同一事項についても詳細な尋問をなし,同証人は基本的に各供述調書の記載内容と同旨の供述をなしたが,一部これに反する趣旨の供述をなしたので,検察官は同証人に対し右2通の調書の署名を示して同証人のものであることを確認させ,その成立の真正を立証しようとしたこと,弁護人は右のような主尋問に対し本件罪となるべき事実に関する争点について反対尋問をなしたが,本件供述調書を含む右2通の供述調書の作成過程についてはなんら反対尋問をしなかったこと,そして弁護人は,本件供述調書が取調べられた前後から,原審弁論終結に至るまで同証人に対する再尋問の請求をしなかったことが認められ,これらの事実を総合考察すると,検察官において弁護人の証人に対する反対尋問のために必要な供述調書の開示についてやや適切さを欠いた本件のような場合においても,弁護人において証人石田ひとみに対する必要にして十分な反対尋問をなし,その結果として同証人の再尋問の必要がなく,その請求をしていないと認められる以上,実質的に憲法37条2項に規定された証人審問権の保障に欠けるものとは認められないから,本件供述調書の採用が,同条項に違反するとは解されない。従って,論旨は理由がない。

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