大判例

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名古屋高等裁判所 昭和59年(う)138号 判決

所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも参酌して検討するに,証拠に現れた諸般の情状,とくに,本件犯行は,被告人が普通乗用自動車を運転して原判示の前方が左方に湾曲し見通しのきかない道路を走行するに際し,安全な速度で進路を適正に保持しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,時速約80キロメートルもの高速度で進行したため左方への湾曲に沿って走行することが出来ず,右道路の中央線を越えて対向車線に進出した過失により,自車を折から対向進行してきた原判示林もと子運転の普通貨物自動車に衝突させて同車を道路右側の水田内に転落させ,さらに自車を右林運転車両に続いて対向進行してきた今井善徳運転の普通乗用自動車に衝突させて自車を転覆させ,よって,原判示のとおり,林もと子(当時39年)を死亡するに至らせたほか,右林運転車両の同乗者林晃弘,右今井善徳並びに自車同乗者杉山由行及び沢田忍に対して原判示各傷害を負わせたという業務上過失致死傷罪の案件であって,右事故は被告人の一方的過失に起因し,その過失の程度が重いのに加えて,その結果も極めて重大であって,とくに右林もと子の死亡により残された夫及び年若い子女三名の悲嘆は筆舌に尽くし難いものがあると認められること,その他,被告人は,昭和58年6月7日名古屋簡易裁判所において,道路交通法違反罪(速度超過)によって罰金1万8,000円に処せられたことなどを総合すると,被告人の刑責は極めて重いと考えられ,他方において,被告人が,原審審理中に,被害者林もと子に対する損害賠償に関して示談金3,343万円(内280万円は昭和59年4月から同61年6月までに分割して支払う。)で,また林晃弘に関して治療費のほか示談金60万余円で,それぞれ右林もと子の夫で右晃弘の父である林恒憲との間で示談を遂げ,右今井善徳及び右沢田忍に関しては自動車損害賠償責任保険等支給金額の範囲内で,それぞれ被害者各本人との間で示談し,右林もと子に関する分割弁償部分の一部を除き各示談金額の支払いを了し,その誠意を披瀝したことから,右林もと子の遺族及びその余の各被害者の被害感情も宥和し,右林恒憲及び原判決宣告当時示談がなお成立していなかった右杉山由行から,それぞれ被告人に対して寛大な処分を求める嘆願書が提出されていたこと,さらに当審における事実取調べの結果によれば,右杉山との関係においても自動車保険支給金額の範囲内で示談が成立したこと,その他,弁護人所論のうち肯認し得る被告人に有利な一切の情状を十分に斟酌しても,なお被告人に対しては禁錮刑の実刑をもって臨むのが相当であると思量され,従って被告人を禁錮1年6月に処したうえ,3年間該刑の執行を猶予した原判決の量刑は,軽きに過ぎて不当であると認められる。よって原判決はその刑を是正するため,破棄を免れない。論旨は理由がある。

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