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名古屋高等裁判所 昭和59年(く)4号 決定 1984年3月12日

主文

原決定を取り消す。

理由

本件即時抗告の趣意は、別紙申立人作成の即時抗告申立書(写)記載のとおりである。

そこで検討するに、中津川簡易裁判所昭和五八年(ろ)第五号本件被告事件記録及び当裁判所の事実取調べの結果によると、申立人(被告人)は、昭和五九年一月一九日中津川簡易裁判所において、頭書被告事件について罰金三万円に処する旨の有罪判決の宣告を受け、同年二月二日午後七時、右判決を不服とし控訴に及ぶ旨の名古屋高等裁判所あての控訴状と題する申立書を直接控訴裁判所である名古屋高等裁判所に持参して提出したところ、当直員がこれを受け取り当直受付の処理をしたこと、右申立書は、翌三日朝同高等裁判所刑事訟廷事務室に引き継がれたところ、その提出先の誤っていることが明らかであったため、同高等裁判所刑事首席書記官の指示に基づき、直ちにこれを中津川簡易裁判所に送付する措置がらとられ、同申立書は、同日午後三時四五分同簡易裁判所に受理されたこと、以上の経緯が認められ、他にこの認定を左右するに足りる資料はない。

ところで、控訴をするには、法定の提起期間内に申立書を原判決をした第一審裁判所に差し出さなければならないこととされているのであるから(刑事訴訟法三七三条、三七四条)、控訴権を有する者が法定の期間内に控訴申立書を控訴裁判所に提出しても、直ちに適法な控訴の申立があったとみることはできない。しかしながら、本件控訴申立書(控訴状)のあて先は名古屋高等裁判所御中と記載されており、右の表示は適正である。一般の人は、名古屋高等裁判所に対する申立書は直接同高等裁判所に差し出して差支えないものと考えるのが自然である。ことに、これを法定の期間内に持参して差し出した者は、同高等裁判所の窓口係員が何の注意も与えないでこれを受け取ったときは、適法な申立手続を終えたものと信じても無理からぬところである。もとより、このような事態を防止するため、有罪の判決の宣告をする場合には、被告人に対し上訴期間とともに上訴申立書を差し出すべき裁判所を告知しなければならないことが定められている(刑事訴訟規則二二〇条)。しかし、本件ではこの告知が徹底していなかったと考えることもできる。これらのことを考慮すると、本件控訴申立書を申立人から受け取った裁判所職員は、直ちにこれを中津川簡易裁判所に持参して差し出すよう申立人を指導することが望ましかったのであり、その措置をとることによって、申立人が法定の期間内にこれを同簡易裁判所に差し出すことは可能であったと認められる。また、同高等裁判所の職員は、右申立書を受け付けた以上、直ちにこれを同簡易裁判所に送付すべきものであって、それが法定の期間内に到達したとすれば、控訴申立はもとより有効とされたはずである。なお、刑事訴訟規則二九五条の三は、訴訟費用執行免除の申立についてこの種の場合を救済する周到な規定を設けているのであって、右規定の趣旨は、上訴申立についても一定限度類推するのを相当とする。

かように考えると、以上認定した本件の経緯及び特殊事情の下においては、本件控訴申立は、瑕疵のあるものではあるが、法定期間内にその申立があったものとしてその効力を生ずるものと解するのが相当である。そうしてみると、原裁判所が本件控訴の申立を明らかに控訴権の消滅後になされたものであるとして刑事訴訟法三七五条により棄却したのは失当であり、原決定は取消しを免れない。論旨は理由がある。

よって、刑事訴訟法四二六条二項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小野慶二 裁判官 河合長志 鈴木之夫)

<以下省略>

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