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名古屋高等裁判所 昭和60年(ネ)43号 判決 1985年11月27日

控訴人(原告) 小田木準

被控訴人(被告) 日本トラツク株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人に対し、金五一一万一七三八円及びこれに対する昭和五五年三月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨。

第二当事者の主張

当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(控訴人の主張)

一  協約の不合理性・不当性について

(一) 暫定的に改訂された労働協約(以下暫定協定という)においても、退職金、奨励金、賃金、一時金等は引上げられ、労働者に支払われる給付は増大しているのに、ただ労災補償給付だけが引下げを受けた。これは労災療養者に対してのみ、克服不可能な犠牲を強いているものである。しかも、被控訴人が右補償基準切下げを回避するため努力をしたのか、それが他の方法ののちの最後の手段であつたのかなどは、一切明らかにされていない。組合の同意も、充分な試算や代替措置の検討を経てなされたという事実は認められない。かかる協定は不合理・不当というべきである。

(二) そもそも、被控訴人は、日本一の運輸企業である日本通運が九〇%以上の株式を握るその子会社であつて、倒産のおそれなど全くなく、経営危機にあつたことなど認められない。

二  就業規則八六条二項の解釈等について

(一) 同条項は、単に災害補償に関するだけのものではなく、会社(被控訴人)が、一般的に労災休業中の者に対して、それが業務に基因したことに鑑み、それ以上の不利益を与えず、労働者の生存権を保障する趣旨で定められたものと解されるのであつて、わざわざ「出勤とみなし」と定めているのは、使用者として、一般的包括的に当該労働者に不利益を与えず、充分に療養に専念できるよう、生活保障したものというべきである。

(二) 一時金協定における「長欠者」には、公傷休暇中の者は含まれない。即ち、一時金協定には「休職者及び六ケ月以上の長欠者」は支給対象者ではない旨の定があるが、右「休職者」「長欠者」の概念は、右協定上からは明らかでないから、これを労使の基礎的規範である就業規則に依拠して定むべきところ、就業規則によると、休職者とは同規則五〇条に該当して会社から「休職」を命ぜられたものであり、長欠者とは長期欠勤者のことであり、その欠勤とは私傷の場合を含むが、労災療養中で休暇を与えられている者はこれに当らず、従つて控訴人は一時金の対象者である。

三  就業規則の基準を下回る労働協約の効力について

特段の事情のない限り、労働条件の基準が就業規則と労働協約との間で食違う場合、個々の労働者の労働条件は、有利な基準に従つて決定されると解すべきである。

法は労働協約が就業規則を上回る基準を定めた場合は、協約が優先して適用される旨を定めるが、就業規則が協約の基準を上回る場合については明確な規定がない。しかし、就業規則は、使用者に作成させることによつて、労働条件の基準(最低基準)を明確にさせ、これを労働者に周知させることによつて、労働者自身に自らの労働条件を理解させ、これを届出させることによつて監督官庁の後見監督行政下におき、もつて最低限の近代的労使関係の確立と生存権理念を実現しようとするものであり、使用者として協約の有無にかかわりなく、これをもつて稼働させることを労働者に示し、労働契約を結ぶものであるから、たまたま、労働協約の基準が就業規則のそれを下回つていたとしても、就業規則の効力が協約の基準まで引下げられねばならないいわれはない。また、引下げなければ組合統制力の低下や団交機能の低下を招くものでもない。ただ、協約が就業規則の定める基準以上に合理的で、協約の定めを就業規則に優先して適用することが、むしろ、労基法の精神を活かすこととなるとか、又は、個々の労働者においても、就業規則に基づく権利主張より協約自治に拘束されることが正当で合理的だと判断される場合には、協約の優先的適用は肯定されるとしても、そうでない場合は、労働者は自己に有利な基準を主張しうべきものである。

(被控訴人の主張)

控訴人の右主張はいずれも争う。

第三証拠関係<省略>

理由

当裁判所も、控訴人の本訴請求は、原判決の認容した限度で理由があるからこれを認容し、その余を失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次に付加するほか、原判決の理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

一  原判決一七枚目表の二行目から三行目にかけて「規定があること」とある次に「(但し現規定であるかの点は除く)」を、同二三枚目裏一行目の「支払つたこと」の次に「(但し一時金の平均額の点は除く)」を、それぞれ加える。

二  控訴人の主張について

(一)  控訴人は、被控訴人はそもそも経営危機になかつたものであり、仮に、そうでないとしても、本件暫定協定は、労働者に支払われる給付は増大しているのに、労災補償給付のみが引下げられ、しかも、それが他に方法のないやむを得ないものであつたとも思われない不当・不合理なものである旨主張する。

しかし、被控訴人が資本金を上回る累積赤字を抱え、所謂オイルシヨツクの不況の中で、なお、その膨大な増加が見込まれる経営危機にあつたこと、及び、被控訴人と組合との労働協約が昭和四九年六月六日及び同五〇年七月四日に暫定協定をもつて改訂された事情と経緯は、前認定(原判決理由説示二3(一)ないし(五))のとおりであり、かつ、原審証人長田孝光、同大森均、同鈴木千代博の各証言を総合すると、右改訂に当つては、一方では賃金の絶対値は従来どおり、また、業界他社並みに確保し、他方では経営改善のためこれを上回る生産性の向上を図る方策として、賃金に占める歩合給の割合が実質的に大幅増となり、結果的に収入の増加した者もあつたが、それに見合う労働は著しく強化され、賃金の実質水準は低下したものであり、また、協約上具体的な取りきめはされなかつたものの、組合は従来はなかつた通勤可能範囲外への配置転換や、希望退職の形態による人員整理を承認したことが認められるから、経営危機が存したのはもとより、暫定協定が労災補償給付のみを引下げたものでないことは明らかである。のみならず、このように現に就労している一般組合員が諸種の不利益の受容を余儀なくされることとなつたのであるから、公傷休暇の者についても、休業補償給付上或る程度基準切下げがなされることは強ち許されないこととはいえないというべきである。しかも、右基準の切下げは、所謂法定外の上積み給付分の減額であり、かつ、あくまで経営危機解消までの暫定措置であるに過ぎないことを考えると、暫定協定が不当・不合理であるとはいえず、控訴人の前記主張は採用できない。

(二)  控訴人は、公傷休暇を受けた者は、すべての点において「出勤とみなされ」、出勤者と同一に扱われるべきであり、従つて、控訴人は昭和五一年末以降も一時金支給の対象者に該当する旨主張する。

しかし、前認定のところに照らし、昭和五四年五月一七日改訂が所轄労働基準監督署長に届出られた以前及び以後の就業規則各八六条二項においても、また、同四九年六月六日及び同五〇年七月四日の各暫定協定においても、いずれも文言上は、業務上負傷し公傷休暇を得たものの休業補償については、法定補償の上積みとして一定額の追加給付を行うと定めるのみで、それ以外の点、殊に一時金の取扱いについては何ら触れるところがないこと、昭和五一年度末及び同五二年度夏季の一時金に関する各労働協約には「六ケ月以上の長欠者は支給対象者から除く」とすると共に、前掲乙第一〇号証の二及び三によれば、右一時金支給対象者確定の基礎となる出勤日数算定上、結婚・服喪・交通遮断の各休暇と異り、公傷休暇は出勤扱いされていないこと(これに反し、支給対象とされた者の配分額決定上欠勤控除をするときは、公傷休暇は出勤扱いとなりうる)、前掲甲第一号証によれば、就業規則の用語上「欠勤」と「休暇」は区別されているが、「長欠者」なる用語は用いられていないこと、昭和五二年末以降の一時金に関する労働協約においては「実出勤日数ゼロの者は支給対象者から除く」として表現を明確にすると共に、前掲乙第一〇号証の四及び五によると、昭和五二年末及び同五三年夏季においては、一時金支給対象者確定の基礎となる出勤日数算定上公傷休暇の全休者は出勤扱いしない旨明定していることが認められること、前掲長田、大森、鈴木各証言に照らすと、右のような用語の異りや変遷に拘らず、その間受傷者の過失の有無による差異の点を除いて、公傷休暇者に対する一時金の実際の取扱いについて別段の変化はなかつたと認められることに、前認定の事実(原判決理由説示三2、3)も併せ考えると、昭和五一年末以降の一時金につき控訴人を出勤とみなしてその受給対象者とみることは困難という他なく、この点の控訴人の主張も採用できない。

(三)  更に、控訴人は、労働条件の基準が、就業規則と労働協約との間で食違う場合は、個々の労働者の労働条件は有利な方の基準に従つて決定されるべきである旨主張する。

しかしながら、本件においては、組合は経営危機解消を目指す使用者(被控訴人)からの提案に対応し、これと折衝を重ね、一方組合員らに対して執行部の基本姿勢と交渉経過の周知徹底を図つて、組合員らに格別の反対意見もなかつたことから、暫定協定の締結に至つたものであり、その内容も、経営危機の中で雇傭の安定、賃金水準の維持を図りつつ、やむなく不利益な変更にも合意したもので、不当・不合理なものということはできない。また、被控訴人と組合とは、従前からユニオンシヨツプ協定を締結して、労働条件に関し、就業規則と労働協約が競合する場合は、労働協約が就業規則に優先するとの取扱いをしてきたものであること(なお、遅れながら、昭和五四年五月就業規則変更の手続が履践されたこと)は、前認定のとおりである。また、前掲長田、大森、鈴木各証言によると、本件暫定協定においても、被控訴人、組合とも右暫定協定によつて、就業規則の該当条項も同一内容に変更せられたものと認識していたことが窺われ、その限りにおいては、従来存した就業規則は、実質的には組合の同意のもとに暫定協定と同一内容に変更せられ、ただ形式的に変更の手続が遅延していたに過ぎないともいえなくはない。そして、本来就業規則を変更すること自体は、それが労働者に不利益な労働条件に変更する内容のものであつても、その内容が合理的なものである限り許されないものではないと解せられる(最高裁昭和四〇年(オ)第一四五号昭和四三年一二月二五日大法廷判決民集二二巻一三号三四五九頁参照)ことに鑑みても、右のような事実関係のもとでは、控訴人において改訂された労働協約(暫定協定)の適用を免れることはできないと解するのが相当である。

以上の次第で、この点の控訴人の主張も採用できない。

よつて、右と同旨の原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 黒木美朝 西岡宜兄 喜多村治雄)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

被告は原告に対し、金五万三七四二円及びこれに対する昭和五五年三月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告のその余を原告の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(請求の趣旨)

一 被告は原告に対し、金五一一万一七三八円及びこれに対する昭和五五年三月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

(請求の趣旨に対する答弁)

一 原告の請求を棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求の原因)

一 当事者

1 原告は、昭和三八年一月一一日被告に入社し、以来名古屋支店において当初はトラツク等の整備工として、その後現在まで集配運転手として勤務してきた。また、原告は、入社以来、被告の従業員で構成されている日本トラツク労働組合(以下組合という)の組合員である。

2 被告は、貨物自動車運送事業等を業とする株式会社である。

二 労災事故の発生

1 原告は、左記事故(以下本件事故という)により業務上負傷し、昭和五一年一月二八日以来現在まで休務している。

(一) 日時    昭和五一年一月二七日午後一一時五〇分

(二) 場所    名古屋市中村区堀内町三丁目八番地

伊藤商事前路上

(三) 事故の態様 原告が右場所において積荷を降ろすため四トン積トラツクを停車させ、運転台から路上に降りるべく、後方を運転台から確認した後、運転台ステツプに右足を掛け、左足をホイールステツプに掛けようとしたところ、右後方を通行中の自動車が急にハンドルを左に切つて接近したため、危険を感じて右自動車を避けようと運転台のドアーを引いた途端、体のバランスが崩れ、右足が滑つて路上に転落し、腰部を挫傷した。

2 原告は、本件事故について名古屋北労働基準監督署長より労働者災害補償保険法(以下労災保険法という)に基づく休業補償給付を支給する旨の決定を受けている。

三 休業補償追加給付金請求権

1 被告には、昭和四九年一月一日から実施されている就業規則があるところ、その三六条に、「社員が業務上負傷し、または疾病にかかり休務療養を要するときは、会社は、その期間公傷休暇を与える。ただし、会社が法令の定めるところにより、打切補償または長期傷病者補償をおこなつたときは、この限りでない。」旨の、八六条二項に、「前項の規定にかかわらず、(社員が)第三六条の公傷休暇を与えられたときは、会社は、当日又はその期間は出勤とみなし、賃金の支払を停止して平均賃金相当額を休業補償給与金として給付する。ただし、労災保険法の休業補償の給付を受けるときは、その差額相当額を補償する。」旨の規定がある。

2 原告は、本件事故により被告から本件事故の翌日である昭和五一年一月二八日以来現在に至るまで就業規則三六条所定の公傷休暇を与えられている。

3 原告の平均賃金は、昭和五一年一月二八日から同五二年一二月三一日までの間は一日当り六三七三円、昭和五三年一月一日から同五四年一二月二〇日までの間は一日当り七六四七円である。従つて、昭和五一年一月二八日から同五四年一二月二〇日までの間の原告の平均賃金合計額は、別表1の「休業補償給与金平均賃金相当額」欄記載のとおり九九八万四七八五円である。

4 原告が労災保険法一四条に基づき昭和五一年一月二八日から同五四年一二月二〇日までの分として給付を受けた休業補償給付金は、別表1の「労災保険法による休業補償」欄記載のとおりであり、その合計額は五九七万八三一〇円である。

5 従つて、原告が就業規則八六条二項に基づき被告から支払を受けるべき昭和五一年一月二八日から同五四年一二月二〇日までの分の休業補償追加給付金は、右3項記載の平均賃金合計額九九八万四七八五円から右4項記載の休業補償給付金合計額五九七万八三一〇円を控除した四〇〇万六四七五円であるところ、被告から支払を受けた右期間分の休業補償追加給付金は、別表1の「会社追加給付金」欄記載のとおり合計九〇万一九三四円であるから、三一〇万四五四一円が未払となつている。

四 一時金請求権

1 被告は組合との間で、昭和五一年六月一八日に同年度夏季一時金について、同年一一月二五日に同年度年末一時金について、昭和五二年六月二八日に同年度夏季一時金について、同年一一月二九日に同年度年末一時金について、昭和五三年六月二六日に同年度夏季一時金について、同年一一月二八日に同年度年末一時金について、昭和五四年六月二二日に同年度夏季一時金について、同年一一月二八日に同年度年末一時金についてそれぞれ労働協約を締結し、これに基づき組合員に対し右各一時金を支払つた。右各一時金の組合員一人当りの平均額は、別表3の「一時金妥結額」欄記載のとおりである。

2 ところで、前記のとおり就業規則八六条二項には、「(社員が)第三六条の公傷休暇を与えられたときは、会社は、当日又はその期間は出勤とみなし」と定められているのであるから、前記各一時金に関する労働協約を解釈するに当つても、公傷休暇を与えられた組合員は、右規定に基づき、公傷休暇を与えられた当日又はその期間につき出勤したものとみなされるべきである。

3 仮に、就業規則の右規定が休業補償に関するものであつて、一時金に関する労働協約には直接適用されないとしても、「公傷休暇を与えられた組合員は、一時金の支給に関し、右休暇を与えられた当日又はその期間について出勤したものとみなして取扱う。」旨の労使慣行が存在している。右労使慣行の存在は、昭和五〇年以前の一時金に関する労働協約においても、「休職者及び六ケ月以上の長欠者は支給対象者から除く。」旨定められていたにも拘わらず、昭和四八年度夏季一時金以前は公傷者を一時金の支給対象者としていたことからも明らかである。

4 従つて、原告は、一時金の支給に関し、昭和五一年度夏季一時金についてはその支給対象期間(昭和五〇年一〇月一日から同五一年三月三一日まで)のうち昭和五一年一月二八日から同年三月三一日までの間、昭和五一年度年末ないし同五四年度年末一時金については、いずれもその支給対象期間(各年度とも夏季一時金については前年一〇月一日から当年三月三一日まで、年末一時金については当年四月一日から九月三〇日まで)の全期間出勤したものとみなされるべきである。

5 そうすると、原告には前記各一時金に関する各労働協約に基づき、別表3の「原告に支払われるべき額」欄記載のとおりの各一時金合計二一七万九四二〇円が支払われるべきところ(その算定方法は別表3の注1、2記載のとおり)、原告が被告から支払を受けた一時金は、同表の「原告が支払を受けた額」欄記載のとおり合計一七万一〇〇〇円であるから、二〇〇万八四二〇円が未払となつている。

6 仮に、右2、3項の主張が認められないとしても、少なくとも昭和五一年度夏季一時金については次の理由により原告に二一万二〇〇〇円が支払われるべきである。

すなわち、右一時金に関する労働協約には、「支給対象期間中の第三者行為による公傷休暇については出勤とみなして取扱う。」旨定められているところ、右の「第三者行為による公傷休暇」とは、第三者の過失により業務上負傷し、その結果休業のやむなきに至つた場合をいうと解すべきである。しかして、原告の本件事故による負傷が第三者の過失に起因するものであることは明らかであつて、本件事故により原告に与えられた公傷休暇は「第三者行為による公傷休暇」に該当するから、右一時金の対象期間のうち原告が公傷休暇を与えられた昭和五一年一月二八日から同年三月三一日までの間は出勤とみなして取扱われるべきである。

五 結論

よつて、原告は被告に対し、休業補償追加給付金未払分三一〇万四五四一円の内金三一〇万三三一八円と一時金未払分二〇〇万八四二〇円との合計五一一万一七三八円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五五年三月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求の原因に対する答弁)

一 請求原因一の1、2は認める。

二 同二の1の事故態様のうち「右後方の自動車が」から「右足が滑つて路上に転落し」までの部分は不知、その余は認める。

同二の2は認める。

三 同三の1中、被告に原告主張の日から実施されている就業規則があり、その三六条の規定が原告主張のとおりであること、昭和四九年六月六日改訂前の就業規則八六条二項の規定が原告主張のとおりであつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

後記のとおり就業規則八六条二項の規定は、昭和四九年六月六日と同五〇年七月四日に改訂されている。

同三の2ないし4は認める。

同三の5中、原告が被告から昭和五一年一月二八日から同五四年一二月二〇日までの分の休業補償追加給付金として九〇万一九三四円の支払を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

四 同四の1中、昭和五一年度夏季ないし同五四年度年末一時金の組合員一人当りの平均額が原告主張の額であるとの点は否認するが、その余の事実は認める。

原告主張の「一時金妥結額」は、いずれも支給対象者の区分Aに属する組合員一人当りの平均額である。

同四の2中、就業規則八六条二項の規定中に原告主張の文言があることは認めるが、その余は争う。

同四の3中、昭和四八年度夏季一時金以前は公傷者を一時金の支給対象者としていたことは認めるが、その余の事実は否認する。

昭和四八年度夏季一時金以前における右取扱は、その当時の労使協議の結果に基づいてしたものであつて、就業規則又は労働協約の規定に基づいてしたものではない。

同四の4は争う。

同四の5中、原告が被告から支払を受けた一時金が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。

同四の6中、昭和五一年度夏季一時金に関する労働協約に原告主張の定めがあることは認めるが、その余の事実は否認する。

(被告の主張)

一 休業補償追加給付金請求権について

1 昭和四九年六月当時、石油をはじめとする原材料価格の高騰と政府の財政・金融政策による経済活動の停滞並びに不況の影響を受けてトラツク業界はいずれも経営不振の状況にあり、被告も九億円を超す累積赤字という会社の死活にかかわる難題をかかえていたため、被告は同年六月六日組合との間で、当面の経営危機突破緊急対策の実施について労働協約を締結した。

ところで、労働協約一〇一条には、昭和四九年六月六日改訂前の就業規則八六条二項と同内容の規定がおかれているところ、右緊急対策の一環として前記労働協約により業務上災害による休業補償について左記のような暫定取扱いを定めた。

労働協約一〇一条の規定にかかわらず当面非常事態に鑑みて次により取扱うものとする。

(一) 休務期間中は出勤とみなし、賃金の支払を停止し、労災保険法による休業補償のほか次の定めによる追加給付を行なう。

区分

追加給付日額

入院療養の場合

一日に付き一二〇〇円

通院 〃

〃     八〇〇円

但し、業務上災害であつてもその原因が本人の重大な過失による場合、またはその災害が第三者行為による場合の取扱は、「災害補償法定外追加給付規定」の第四項に準じて行なう。

(二) 当面の期間とは、昭和四九年六月一〇日以降同五〇年六月九日までとし、それ以降の取扱はその時点で協議する。

2 ところが、昭和五〇年になつても経営危機突破の目処が立たず、依然として危機状態にあつたため、被告は同年七月四日組合との間で、前項記載の暫定取扱のうち追加給付日額に関し左記のとおり改訂する旨の労働協約を締結した。

(一) 追加給付日額は次のとおりとする。

区分

追加給付日額

休業日七日目まで

休業日八日目から

入院療養の場合

一日に付き一二〇〇円

一日に付き一〇〇〇円

通院 〃

〃   八〇〇円

〃   六〇〇円

(二) 追加給付に当つての条件等は現行通りとするが、労災保険法による休業補償給付日額に前(一)項の追加給付日額を加算した額が平均賃金日額相当額を超える場合は平均賃金日額相当額を限度として追加給付を行なう。

3 その後、昭和五一年四月と同五三年四月の二回にわたり被告と組合は、年次有給休暇と業務休暇の取扱変更に関する労働協約を締結したが、休業補償については右2項(一)、(二)記載の内容のまま取扱うこととした。そして、昭和五五年三月、被告は増資を行なうなどして何とか累積赤字を解消したため、同年四月一七日被告と組合は、休業補償を除く従前の暫定協定を廃止することとし、右休業補償については別途協議することとした。その結果、昭和五七年四月一四日、追加給付日額を左記のとおり改訂する(但し、支給条件は従前どおり)旨の労働協約を締結した。

区分

追加給付日額

入院療養の場合

一日に付き一二〇〇円

通院 〃

〃   一〇〇〇円

4 被告は、右1、2項記載の労働協約の締結に伴い、従前の就業規則八六条二項の規定を、昭和四九年六月六日に右1項(一)記載のとおりに、更に昭和五〇年七月四日に右2項(一)、(二)記載のとおりに改訂し、それぞれその頃直ちに従業員に右改訂を周知させた。なお、労働基準監督署長に対する就業規則変更の届出は昭和五四年五月一七日になしている。

5 前項記載の就業規則の変更は、前記のような合理的理由に基づくものであり、かつ、組合の同意を得ているから、原告は変更後の就業規則八六条二項の適用を拒むことはできない。

6 被告は、昭和五〇年七月四日改訂後の就業規則八六条二項の規定に基づき原告に対し、別表2の「会社追加給付金」欄記載のとおり休業補償追加給付金を支払つたから、原告主張のような追加給付金支払義務はない。

なお、昭和五一年一月二八日から同月三〇日までの分の追加給付金一万〇七三四円は、労災保険法一四条一項により休業補償給付が不支給となる待機期間の三日分であり、被告は労働基準法七六条の規定に基づき右金員を支払つたものであつて、その計算方式は次のとおりである。

3,578円(当初労災が決定した給付基礎日額5,965円の60%)×3=10,734円

また、原告は昭和五一年五月一七日から同年八月一四日まで入院したため、この間の追加給付金は一日当り一〇〇〇円である。

7 仮に、原告の本件公傷休暇について昭和四九年六月六日改訂前の就業規則八六条二項の規定が適用されるとしても、原告は労災保険法一四条に基づく休業補償給付のほかに、別表2の「特別支給金」欄記載のとおり労働者災害補償保険特別支給金支給規則に基づく特別支給金の支給を受けているから、就業規則の右規定に基づく被告の原告に対する休業補償追加給付金の額を算出するに当つては、原告の平均賃金額から労災保険法一四条に基づく休業補償給付金と右特別支給金とを控除すべきである。

二 一時金請求権について

1 昭和五一年度夏季一時金については、これに関する労働協約に基づき原告を支給対象者の区分Bの対象者と認定し、欠勤控除等により一一万一〇〇〇円を支給したものである。

右一時金の計算方法は、別紙の「昭和五一年度夏季一時金の計算方法」記載のとおりである。本件を過失公傷と認定したのは、原告には、運転台より降車するに際しては、後方ステツプ及びホイールステツプの位置を確かめ、これに足を掛けて安全に降車すべき注意義務があるにも拘わらず、これを怠つた過失があつたからである。

2 昭和五一年度年末及び同五二年度夏季一時金に関する各労働協約には、「休職者及び六ケ月以上の長欠者は支給対象者から除く。」旨の、昭和五二年度年末ないし同五四年度年末一時金に関する各労働協約には、「支給対象期間中の実出勤日数がゼロの者は支給対象者から除く。」旨の定めがあるところ、原告は昭和五一年一月二八日以降全く出勤していないため、右各一時金につき支給対象者から除外されたものである。

なお、昭和五一年度年末ないし同五二年度年末一時金として原告にそれぞれ二万円が支払われたのは、見舞金として支店長独自の裁量により支払われたものである。

3 以上の次第であるから、被告には原告主張のような一時金支払義務はない。

(被告の主張に対する答弁)

一 被告の主張一の1中、被告と組合が昭和四九年六月六日に業務上災害による休業補償について被告主張のような内容の労働協約を締結したことは認めるが、その余の事実は不知。

同一の2中、被告と組合が昭和五〇年七月四日に被告主張のような内容の労働協約を締結したことは認めるが、その余の事実は不知。

同一の3は不知、同4は否認、同5は争う。

同一の6中、被告が原告に対し被告主張のとおり休業補償追加給付金を支払つたこと及び原告が昭和五一年五月一七日から同年八月一四日まで入院したことは認めるが、その余の事実は争う。

同一の7中、原告が被告主張のとおり特別支給金の支給を受けたことは認めるが、その余は争う。

特別支給金は、被災労働者及び遺族の福祉の増進を図るため設けられたもので、労災保険法一四条所定の休業補償給付金とは性質を異にする。従つて、原告の平均賃金額から特別支給金を控除するのは相当でない。

二 同二の1中、被告が原告に対し昭和五一年度夏季一時金として被告主張の金員を支給したことは認めるが、その余は争う。

同二の2中、昭和五一年度年末ないし同五四年度年末一時金に関する各労働協約にそれぞれ被告主張のような定めがあること及び原告が昭和五一年一月二八日以降出勤していないことは認めるが、その余の事実は不知。

第三証拠<省略>

理由

一 請求原因の1、2、同二の1中原告主張の日時場所において本件事故が発生したこと、同二の2、同三の1中業務上災害による休業補償に関し原告主張のとおりの就業規則の規定があること、同三の2ないし4、同三の5中被告が原告に対し昭和五一年一月二八日から同五四年一二月二〇日までの休業補償追加給付金として九〇万一九三四円を支払つたことはいずれも当事者間に争いがなく、官署作成部分及び藤田公男作成部分については成立に争いがなく、その余については原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第一〇号証の一、原告本人尋問の結果及びこれにより成立の認められる甲第一〇号証の二によれば、本件事故の態様は原告主張のとおりであつたことが認められこの認定を左右するに足りる証拠はない。

二 休業補償追加給付金請求権について

1 被告は、前記就業規則八六条二項(業務上災害による休業補償に関する規定)が昭和四九年六月六日及び同五〇年七月四日に被告と組合との間の労働協約の締結に伴つて改訂された旨主張し、被告と組合との間に休業補償追加給付金に関し、被告主張のとおりの労働協約が締結されたことは当事者間に争いがない。

しかしながら、右協約の締結にともなつて、右就業規則が改訂されたことについては、これに副う乙第一一号証の二の記載及び証人鈴木千代博の供述もあるが、証人長田孝光の証言及びこれにより成立の認められる乙第一一号証の一、三によれば、右就業規則が昭和四九年六月六日及び同五〇年七月四日に改訂された旨の記載は、昭和五四年五月一七日に就業規則の変更を所轄労働基準監督署長に届出る際になされたものであつて、それまでは就業規則の成文に何らの変更を加えたこともなかつたこと、右鈴木証人の供述によつても、右協約の締結によつて、被告としては就業規則が改訂されたと同様に考えていたというに止まり、現実に成文としての就業規則に変更を加えたとまでいうものではないことが認められ、これらの事実に照らすと、前記乙第一一号証の二の記載及び証人鈴木千代博の供述は採用し難く、他に被告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

2 もつとも、被告の右主張は、労働協約の改訂により、右就業規則も改訂されたと同様の効力を認められるべきものであるとの趣旨にも解されるので検討するに、被告と組合との間には休業補償追加給付に関し、従来から就業規則八六条二項と同一内容の労働協約が締結されていたこと、同協約は前記のとおり昭和四九年六月六日及び同五〇年七月四日に改訂されたが、これら協約改訂はいずれも休業補償追加給付金日額を引き下げるものであつて、組合員中休業補償追加給付を受けるべき者の労働条件を切り下げる労働協約の締結であることが明らかである。

ところで、労働協約のいわゆる規範的効力(労組法一六条)が右のような労働条件を切り下げる改訂労働協約についても生ずるかについては、そのような労働協約を無効とする規定が存しないこと、労組法一六条の趣旨は、労働組合の団結と統制力、集団的規制力を尊重することにより労働者の労働条件の統一的引き上げを図つたものと解されることに照らし、改訂労働協約が極めて不合理であるとか、特定の労働者を不利益に取り扱うことを意図して締結されたなど、明らかに労組法、労基法の精神に反する特段の事情がないかぎり、これを積極的に解するほかはない。

3 そこで以上の見地から、更に検討を加えることとする。

原本の存在と成立に争いのない甲第一号証、第三一号証の一、成立に争いのない甲第一二号証、第一四号証、第二二号証、第二四号証、第二九号証、成立に争いのない乙第二、第三号証、乙第六号証の一ないし一四、第七号証の一ないし一二、第八号証の一ないし一〇、第一五、第一六号証、証人長田孝光、同大森均、同鈴木千代博の各証言及びこれら証言により成立の認みられる乙第一号証の一、二、第四号証の一、二、第五号証、第九号証、第一二号証の一ないし三、前顕乙第一一号証の一ないし三、原告本人尋問の結果(但し後記措信しない部分を除く)並びに弁論の全趣旨によれば次の事実が認められ、これに反する原告本人の供述はにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 被告は資本金四億円余、従業員一二〇〇余名を擁する自動車運送業者であるが、昭和四九年当時は、同四八年のいわゆるオイルシヨツクによる運送業界全体の不況の中で、九億円近い累積赤字を拘え、更に同四九年度上半期には五億円近い赤字が見込まれるという経営上、危機的な事態に見舞われていた。そのため組合の同年春闘における賃上げ要求に対しては、被告から、右緊急事態を打開するため、経費の節減、人員の削減、生産性の向上及びその一環として休業補償追加給付金日額の切り下げ等の対抗条件の提示がなされた。組合執行部としても、被告が緊急事態にあることは理解できたので、組合員の雇用の安定、賃金水準の切り下げの阻止を組合員の基本的要求としてこれを確保する観点から、被告の右提案に検討を加え、被告との折衝を重ねた。そして組合は、右執行部の基本姿勢と交渉の経過を、組合の情宣紙等を使つて、組合員に周知徹底するよう図つたが、組合員から格別の反対意見もなかつたので、従前どおりの賃金水準の確保という基本的要求を被告に承認させたうえ、同四九年六月六日、当面(同年六月一〇日から同五〇年六月九日まで)の緊急事態にかんがみ、休業補償について、前記のとおり労働協約の改訂を合意するに至つた。なお原告は当時は未だ本件事故に遇つていなかつたので、これが原告に対し直接不利益を及ぼす虞れはなかつた。また、右協約締結に当つて退職金については勤続年数による支給額の引上げがなされるなど、組合員にとつて有利な協定もあるが、実質的に各組合員の労働強化に連なる事項が種々合意されている。

(二) ところが、昭和五〇年度に入つても、被告の経営が好転する気配がなかつたことから、被告と組合は、前年度におけるのと同様に被告が緊急事態にあるとの共通の認識のもとに、折衝の結果、昭和五〇年七月四日右事態が解消されるまでの暫定措置として、基本的には前年の労働協約を踏襲する趣旨で、ただ昭和四九年から労災保険法による休業補償給付日額が特別支給金の名目で二〇パーセント実質的に増額されたことを考慮して、休業補償追加給付金日額を前記のとおり改訂する旨の協約を締結した。

(三) その後も被告と組合は、毎年それまでの労働協約について検討の機会をもつていたが、昭和五一年四月と同五三年四月に年次休暇、業務休暇の取扱いについて協約の改訂をしたものの、休業補償についてはなお前記昭和五〇年七月四日の協約を改訂する話までには至らず、従前どおりの取扱いとすることを了承していた。

そして、昭和五五年二月、被告は増資を行なうなどして累積赤字を解消し得たのを機に、同年四月一七日、組合との間に、前記暫定協約を廃止し、賃金増額等について新たな協約を締結することとした。右協約は、組合にとつて総じて有利なものであつたが、休業補償追加給付金についてだけは、前記昭和五〇年七月四日のそれと同一内容に止まつた。

(四) 組合は右一連の協約の締結について、前記のとおり、予め組合員に周知徹底を図つていたことのほか、隔年毎に組合員にとつて関心事と思われる事項を組合員手帳に印刷してこれを原告を含む全組合員に配布していたが、右組合員手帳には右休業補償に関する協約の締結、改訂の経過が印刷されている。

(五) 被告と組合は、従前から、ユニオンシヨツプ協定を締結しており、労働条件に関し、就業規則と労働協約が競合する場合は、労働協約が就業規則に優先するとの取扱いをしてきていたが、右一連の協約の締結についても同様に考えていたところ、原告から休業補償追加給付金及び一時金の未払について労働基準監督署長に対し申告がなされたことから、被告は昭和五四年五月一七日前記改訂労働協約に従つて、就業規則が改訂されたものとし、右規則の変更に異議がない旨の組合の意見書を付して所轄労働基準監督署長に対し、就業規則変更の届出をした。

4 以上によれば、休業補償追加給付に関する昭和四九年六月六日から昭和五五年四月一七日に至る一連の労働協約の締結、及び同五四年五月一七日の就業規則の変更には、特に原告を差別的に取扱う意図はもとより、その他格別合理性を欠く事情も認められない。なお、右就業規則の変更については組合の同意を得ていることになる。

したがつて、原告は右改訂労働協約及び変更就業規則の適用を免れることができないというべきであるから、変更前の就業規則による原告の休業補償追加給付金の請求は理由がない。

三 一時金請求権について

1 被告が組合との間で、請求原因四の1記載のとおり夏季及び年末一時金について労働協約を締結し、各組合員に対し右各一時金を支払つたことは当事者間に争いがなく、成立に争いがない乙第一〇号証の二、前顕証人長田孝光、同大森均、同鈴木千代博の各証言及びこれにより成立の認められる乙第一〇号証の一、三ないし八によれば、その際、右協約による支給対象者の区分Aに属する組合員に対してのみ原告主張の別表3の「一時金妥結額」欄記載のとおりの一時金が支払われたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

2 原告は、前記就業規則八六条二項に「(社員が)第三六条の公傷休暇を与えられたときは、会社は当日又はその期間出勤とみなし」と定められていることから、一時金に関する右各労働協約を解釈するに当つても、公傷休暇を与えられた組合員は右規定に基づき、右期間出勤したものとみなされるべき旨主張するけれども、右就業規則の規定は災害補償に関するものであつて、これを一時金に及ぼすことは右規定の文言上から無理というほかはない。のみならず前同証拠によれば、一時金の支給については、その都度、被告と組合との間で支給対象者及び配分要領等を協定して、これに基づき支給していることが認められ、これら事実に照らすと、一時金については右就業規則の規定の適用される余地のないことが明らかである。

3 また原告は、一時金の支給について「公傷休暇を与えられた組合員はその間は出勤とみなして取扱う」旨の労使慣行が存在している旨主張するけれども、そのような慣行を認めるべき証拠はなく、却つて、その都度の労使の協定に従つて支給されていたことは前項に認定したとおりである。

4 そこで、原告の主張する各一時金請求権の有無につき、前記労働協約の定めに従つてみてみるに、成立に争いのない甲第二号証、前顕乙第一〇号証の一ないし八、同証人長田孝光、同大森均、同鈴木千代博の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 昭和五一年度夏季一時金について

(1) 支給対象者は昭和五〇年九月末日現在の社員である組合員で引き続き支給日現在勤務している者。但し休職者及び六ケ月以上の長欠者を除く。

支給対象期間は昭和五〇年一〇月一日から同五一年三月末日まで。

(2) 支給対象期間の出勤日数が一三五日以上でかつ無事故無懲戒者を支給対象者区分Aとし、それ以外の者を区分Bとする。

右基準によると、原告は昭和五一年一月二七日本件事故により翌日以降出勤していない(この事実は当事者間に争いがない)ので出勤日数の点から対象者区分Aの要件に該当せず、区分Bの対象者ということになる。

(3) 配分要領については対象者区分Bの者についても区分Aの者と共通に、(イ)昭和五一年三月末日現在の基礎額に支給率一・二一を乗じた額とされ、(ロ)支給対象期間中の欠勤については欠勤一日につき右配分額の一五〇分の一を控除し、(ハ)但し、支給対象期間中の結婚、服喪、年次、交通遮断による各休暇、業務休日、第三者行為による公傷休暇については、右欠勤控除に関しては出勤とみなして取扱うとされている。

(4) ところで被告は、欠勤控除の対象とされない第三者行為による公傷(業務上災害のことと解される)とは、完全無過失公傷でなければならない旨主張するけれども、昭和四八年度の一時金の支給について、業務上災害であれば欠勤控除の対象としないで一時金を支払つた事例もあること及び昭和五二年度以降の協定書には欠勤控除しない場合として「無過失公傷」と明記されて、支給対象者に過失のある場合を除外していることなどに照らし、右(ハ)の定めの趣旨は、公傷休暇の原因となつた事故が第三者の行為によつて惹起されたものであれば足り、これについて支給対象者の過失の有無は原則として問わない趣旨に解するのが相当である。

そして、本件事故が第三者の行為による業務災害であることは前認定の本件事故の態様から明らかである。

(5) そうすると、原告の昭和五一年度夏季一時金の計算は、基本的には別紙昭和五一年度夏季一時金の計算方法記載のとおりとなるが、右計算のうち過失公傷を理由に欠勤控除をした(同別紙3(ロ)<b>)のは不当であるから、これを控除しないことにして計算すると、原告にはなお昭和五一年度夏季一時金につき五万三七四二円の請求権がある。

(二) しかしながら、昭和五一年度年末ないし同五四年度年末一時金については、その協定書に前項(1)但書に記載のとおり、六ケ月以上の長欠者は支給対象者とされない旨の定めがなされており、原告が昭和五一年一月二八日以降出勤していないことは当事者間に争いがないから、原告はそもそも一時金の支給対象者でないことが明らかである。

(三) もつとも、被告が昭和五一年度年末ないし同五二年度年末に原告に対し各二万円の一時金を支払つたことは被告の自認するところであるけれども、右金員は、右各年度の一時金に関する協定書にもあるとおり、いずれも一時金支給対象者とならなかつた公傷休暇者に対し、その者の勤務する各支店の支店長が裁量により、見舞金を支払うことができるとされていることに基づいて支払われたものであつて、これにより原告を一時金の支給対象者として認めたものではない。

他に原告の一時金請求権についてはこれを認めるべき証拠はない。

四 以上の次第で、原告の本訴請求中金五万三七四二円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五五年三月二七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においては正当であるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

別紙<省略>

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