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名古屋高等裁判所 昭和61年(ラ)3号 決定 1986年5月13日

抗告人 宮田悦子

相手方 武末政行

第三債務者 中南機工株式会社

主文

一  原決定を取消す。

二  本件を名古屋地方裁判所新城支部に差戻す。

理由

一  抗告人は、「一原裁判を取消す。二抗告人の相手方に対する別紙請求債権目録記載の調停調書に表示された別紙請求債権目録記載の請求債権につき、相手方が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差押える。」旨の裁判を求め、その理由は、別紙抗告の理由記載のとおりである。

二  本件記録によれば、抗告人と相手方間の名古屋家庭裁判所新城支部昭和60年(家イ)第4号離婚等調停事件につき昭和60年1月24日成立した調停調書の第6項には、「相手方は、抗告人に対し長女桂子、長男直彦の養育料として昭和60年1月から(ただし、昭和60年1月分は、同年2月分と併せて支払う)各人が高等学校を卒業する月まで、1人につき1か月金3万円宛、毎年7月と12月には、それに金3万円を付加し毎月末日限り、抗告人が指定する金融機関の預金口座に振り込み支払う。」旨記載されていることが認められる。

そして、右条項のうち争点となつている毎年7月と12月に付加して支払われるべき養育料の額については、文理解釈上では、(イ)原審が解したように、当該月付加分2人につき総額金3万円とも解しうるし、(ロ)抗告人主張のように当該月付加分1人につき金3万円宛、すなわち2人につき合計金6万円とも解しうるところである。

そこで、当裁判所は被審人下山操、同守山隆治、同渡貫勲、抗告人及び相手方を各審尋した。その各結果並びに本件記録を綜合すると、前記のように成立をみた右調停は、抗告人と相手方とが、調停成立の日に調停離婚すること、双方間の未成年の子2人(長女、長男)の親権者をいずれも抗告人と定めること、右両者の養育料の額、期間についての取りきめ等をその内容とするものであるが、右養育料の額の取りきめについては、右調停の席上当初家事審判官側から相手方の負担する養育料の額につき月額金7万円の割合で年総額金84万円の養育料としてはどうかという案が提示され、抗告人側はこれを受入れたが、相手方において月額金6万円以上を負担するのは困難である旨申出でたので、結局、右年総額金84万円は不変のままとし毎月の相手方の負担額を金6万円宛とし、一年を通じてのこれらの差額すなわち金12万円については相手方のボーナス時期である7月と12月に均等に振り分けることとして当事者双方間に合意を見るに至つた、すなわち、右各ボーナス時期に付加して支払われる養育料の額は当額月分につき、かつ未成年者1人につき金3万円とすることが右調停における合意の内容となつていた、以上の事実を十分に認定することができる。

右認定事実からすると、本件調停調書の第6項は、前記(ロ)のとおりに解すべきものであつて、前記(イ)のように解すべきものでないことが明らかである。

なお、念のためにいえば、右(イ)のような解釈は、子供1人につき終期が到来した暁には、同項に定める付加養育料の額が不明確になるという欠点をもち、この点で文理解釈上も右(ロ)の解釈方がより合理的であると考えられ、この点も右の認定、判断を支えるものである。

三  右の次第で、これと異り、右(イ)の解釈を前提とし、抗告人の本件債権差押命令申立を却下した原決定は取消を免れず、本件執行抗告は理由がある。よつて、原決定を取消した上、本件については本来の執行裁判所たる原審をして本決定に沿う審理、裁判をなさしめるのが相当と認め、本件を原審たる名古屋地方裁判所新城支部に差戻すことにし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 海老塚和衛 裁判官 高橋爽一郎 宗哲朗)

請求債権目録

一 金30,000円

ただし、名古屋家庭裁判所新城支部昭和60年(家イ)第4号離婚等調停事件につき昭和60年1月24日成立した調停調書の執行力ある正本のうち調停条項第6項に表示された養育料支払請求権で昭和60年7月分12万円の残債権

二 金6,765円

ただし、下記執行費用の合計

(1) 本申請書書記料および印紙代金3,375円

(2) 差押命令送達料金2,580円

(3) 資格証明書印紙代金400円

(4) 本申請書提出日当金410円

以上合計金36,765円

差押債権目録

一 金36,765円

ただし、債務者が第三債務者から支払期ごとに支払いを受ける給料(通勤手当を除いたその余の諸手当を含む)、賞与および期末手当より所得税、社会保険料等の法定控除額を差引いた残額の4分の1(ただし、この残額が28万円を越えるときは21万円を越える部分の金額)ずつ頭書金額に満つるまで。

抗告の理由

原決定には以下に述べるとおり債務名義の解釈を誤つた違法がある。

すなわち、原決定は抗告人が主張するとおり解釈するべき文理上の根拠がないと説示するが、かといつて原決定のとおり2人合せて3万円を支払う意味であると文理上一義的に解釈されるべきものでもないと考える。とすれば、原決定の真意は債務名義が支理上二義的に解釈される場合には債務者の不利にならないように解釈するべきであるというものであると考える。しかしこのような解釈の方法は文理に偏したものであつて相当でない。原審の解釈によれば、1人について終期が到来したときには、付加金の金額および性格が理解し難いものになるからである。そもそも家事事件において養育料を定める場合には、計算の都合上子供1人当りの給付金額を定めるのが通常であり、本件債務名義においても冒頭に「1人につき」という言葉があるからには、特段の事情のない限り、以後の条項は1人当りの給付を定めたものと解釈されるべきである。債務名義の解釈について合理性を斟酌するべきは当然であつて、原決定はこの点を軽視したものである。なお抗告代理人の知るところによれば、本件債務名義が作成された経緯は当時の担当書記官が記憶に留めているので、参考人として審尋されるよう希望する。

〔参照〕 原審(名古屋地新城支 昭60(ル)8号 昭60.12.19決定)<省略>

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