名古屋高等裁判所 昭和62年(ウ)276号 1987年10月02日
当事者および請求債権の表示
別紙目録記載のとおり
右当事者間の債権仮差押申請について、当裁判所は、債権者の申請を相当と認め、債権者に別紙担保目録の保証を立てさせて、次のとおり決定する。
主文
債権者の債務者に対する前記債権の執行を保全するため、債務者より第三債務者に対する別紙仮差押債権目録記載の債権を仮に差し押える。
第三債務者は債務者に対し、右差押に係る債務の支払をしてはならない。
債務者が前記の債権額を供託するときは、この決定の執行の停止、または、その執行処分の取消を求めることができる。
(裁判長裁判官 黒木美朝 裁判官 西岡宜兄 裁判官 谷口伸夫)
当事者目録
債権者 株式会社大隈鐵工所
右代表者代表取締役 大隈武雄
債権者代理人弁護士 佐治良三
右同 加藤保三
右同 後藤武夫
債務者 酒井光三
第三債務者 債権者に同じ
債権目録
(仮に差押えるべき債権の表示)
一、金一六一万一、八五三円
但し、債務者が別表事件番号欄記載の各仮処分事件の判決及び決定に基づき、第三債務者(債権者)に対し有する、毎月二五日限り合計金二二万二、二〇〇円の仮払い金の請求債権にして頭書金額に充つる迄。
請求債権目録
一、金一六一万一、八五三円
但し、債務者が債権者所有のグレープレナーを運転中、居眠りにより同プレナーに損傷を与えたことにより債権者が債務者に対し取得した損害賠償請求債権の元金九三万四、〇〇〇円とこれに対する昭和四八年三月一七日から昭和六二年九月二〇日までの間の年五分の割合による遅延損害金合計金六七万七、八五三円にして、名古屋地方裁判所昭和四八年(ワ)第五二五号、同年(ワ)第一五三七号事件の判決により認容された分。
債権仮差押命令申請書
申請の趣旨
債権者の債務者に対する別紙請求債権目録記載の債権の執行を保全するため債務者の第三債務者(債権者)に対する別紙債権目録記載の債権は仮に差押える。
第三債務者(債権者)は、債務者に対し差押にかかる債務の支払をしてはならない。
との裁判を求める。
申請の理由
一 当事者
債権者は工作機械、繊維機械等の製造販売を業とする会社であり、債務者は昭和三一年三月中学校を卒業と同時に債権者に養成工として入社し、昭和三五年三月右養成工としての教育期間四年を終了し、以後、主にプレナー作業に従事してきたものであるが、昭和四八年二月五日債権者より勤務成績不良等を理由に業務上都合解雇され、更に昭和五一年三月一六日には、債権者の業績不振から予備的に整理解雇されている。
二 債務者は昭和四八年一月六日午後八時から翌七日午前七時まで債権者の第四工場三七〇ラインにおいて、プレナーを使って、LA型旋盤のギアボックスの切削加工作業に従事していたのであるが、同月七日午前六時二〇分頃、切削速度毎分四〇メートル、返り速度毎分九〇メートル、切り込み量約五ミリ、送り量〇・四ミリで、同ギアボックス一〇個の端面を、自動送りにして、切削加工中、居眠りをしたため、バイトでプレナーのテーブル上面の深さ約三ミリ、幅約二〇ないし二五ミリ、長さ約五メートルの巨大な切り込みキズをつけるとともに、右加工物に対しても、角を落とすような形で幅八ミリ、深さ三ミリの切り込みすぎによる工作不良を発生させた。
三 債権者は、債務者が惹起した右居眠り事故により損害を被ったので、昭和四八年三月一二日債務者に対し損害賠償請求訴訟を提起し(名古屋地裁昭和四八年(ワ)第五二五号)、名古屋地裁は昭和六二年七月二七日債務者に対し金九三万四、〇〇〇円及びこれに対する昭和四八年三月一七日から支払い済みまで年五分の割合による賠償金の支払いを命ずる判決を言渡した。
右判決により認容された債権者の債務者に対する請求債権が、別紙請求債権目録記載の債権である。
しかるに債務者は右判決を不服として同年八月七日名古屋高等裁判所へ控訴の申立をなし、右事件は現在同裁判所に係属中である(同裁判所昭和六二年(ネ)第四四七号事件)。
四 一方債務者は第一項の各解雇の効力を争って、名古屋地裁に対し地位保全の仮処分を申請し(名古屋地裁昭和四八年(ヨ)第一一四号事件)、名古屋地裁は昭和五二年一〇月七日債務者勝訴の判決を言渡し、債権者はこれを不服として控訴し、同事件は現在名古屋高等裁判所に係属中で、近く判決言渡し予定である(同裁判所昭和五二年(ネ)第四八八号事件)。
債務者はその後、別表2ないし17の昇給・賞与の仮払いを求めて仮処分申請をなし、名古屋地方裁判所は同表認容額欄記載の仮払いを債権者に命じ、これによって債務者は別紙債権目録記載の債権を有するところとなった。
五 債権者としては前記第三項の損害賠償請求控訴事件勝訴後速かにその執行をなす予定であるが、債務者には不動産その他の見るべき資産はなく、債権者として捕捉し得ている債務者の資産は、前記第四項記載の債権者に対する仮払い金請求権のみである。しかして債権者においてこのまま右仮払い金の請求権を仮差押えすることなく、同仮払い金の支払いを続けた場合、右損害賠償請求控訴事件において勝訴しても、その実効を収め得ないおそれが極めて強い状況にある(前記第四項の仮処分控訴事件について、債権者は勝訴を確信しているが、その場合ですら、既払いの仮払い金の速かな回収もおぼつかない状況にある)。
よって本申請に及んだ次第である。