名古屋高等裁判所 昭和62年(ラ)16号 決定 1987年4月23日
抗告人 江戸川富枝
相手方 香取保子 外4名
主文
本件抗告を却下する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 抗告人は、「原審判を取り消す。」との決定を求め、抗告の理由は、原審判別紙物件目録記載の物件(以下「本件物件」という。)は、すべて抗告人が代表者である有限会社○○○の所有に係るものである、というのである。
二 よって審案するに、本件は、相手方らを申立人とし、抗告人を相手方とする遺産分割審判申立事件が名古屋家庭裁判所に係属(同庁昭和62年(家)第25号)しているところ、相手方らは抗告人を相手方とし審判前の保全処分の申立をし、本件物件につき執行官保管、占有移転禁止等を命じる原審判がされたものである。
ところで、このように審判前の保全処分として特定物の占有移転禁止等が命じられた場合に、右特定物が第三者の所有に属するものとして、当該保全処分の効力を争う手続としては、当該第三者において保全処分を命じた審判に基づく執行に対して第三者異議の訴えを提起するのが本則であって、右保全処分の相手方は、当該目的物が第三者の所有に属することを理由として右保全処分を命じた審判に対して即時抗告をすることはできないものと解するのが相当である。もっとも、家事審判法14条は、審判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告のみをすることができる旨規定し、これを受けて家事審判規則15条の3第2項は、本案の申立てを認める審判に対し即時抗告をすることができる者は、審判前の保全処分に対し、即時抗告をすることができる、と定めているが、これは、右の者が通常審判前の保全処分についても本案に対すると同様の法律上の利害関係を有することに基づくものであって、不服事由が右の者の法律上の利害に係わらない場合にまで、右の者に即時抗告権を認める趣旨ではない。そして、本件のような保全処分を命じた審判は、単に相続財産を保全することを目的として発せられるもので、それ自体相続財産の範囲を確定するものではないから、抗告人の主張する不服事由をもっては、同人の法律上の利害に係わるものとすることはできず、即時抗告の利益はないものといわなければならない。
三 よって、本件抗告を却下し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 宇野榮一郎 裁判官 日高乙彦 三宅俊一郎)