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名古屋高等裁判所 昭和63年(ラ)112号 決定 1988年12月09日

抗告人 三原信夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一抗告の趣旨

原審判を取消す。

本件を名古屋家庭裁判所へ差戻す。

第二当裁判所の判断

一  抗告人の抗告理由は別紙のとおりである。

二  当裁判所も抗告人の特別養子縁組成立申立は理由がなく、これを却下すべきものと判断するが、その理由は次に付加する他、原審判の理由記載と同一であるからこれを引用する。

1  民法817条の3第2項但書によれば、本件のように夫婦の一方がその配偶者の嫡出子である実子を特別養子とすることも可能であるが、特別養子制度はもつぱら子の利益を図るためのものであり、従つて子の利益のため特に必要があると認められるとき、いわゆる要保護性の存するときに同縁組を成立させるべきものである。しかし、本件においては、原審判資料によると、事件本人である三原由和が実の母である三原泰子及び養親である抗告人と同居して養育され、親子ともども平穏な生活を送つていると認められ、由和の監護養育が特に困難もしくは不適当な状況にあると認め難いところである。

2  たしかに、泰子の前夫であり、由和の実父である泊和義は既に死亡しているから、実方の父母の他の一方との親子関係の終了を特に必要とする事情については考慮を払う必要はないし、また、抗告人及び実母泰子が本件特別養子の成立を強く望んでいることが原審審判資料から十分に認められるのであるが、前記のとおり、由和に対する要保護性が認められない以上、本件申立を肯認することは困難である。

3  その他、本件記録を精査しても、原審審判に違法の点を見出すことはできない。

三  よつて、本件抗告を棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法95条、89条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 黒木美朝 裁判官 宮本増 谷口伸夫)

抗告の理由

一 (特別養子制度の趣旨及び目的)

特別養子制度は、専ら子の利益をはかるための制度である。即ち、実親による養育よりも、養親による養育が将来に渡り、子の福祉のため有益であると認められる場合に、本制度の適用があると解釈される。

二 本件は、事件本人由和の父が死亡しており、事件本人由和の母である事件本人泰子が抗告人と婚姻をし、事件本人由和(昭和60年4月16日生現在3歳)を特別養子とする事案である。事件本人由和は、3歳であり由和の将来を思うとき、普通養子であれば戸籍上、泰子と抗告人との子でないことが歴然とするため、特別養子にすれば由和にとり戸籍上抗告人らの子であると思われることから、抗告人は本申立に及んだものである。これに対して名古屋家庭裁判所は、「特別養子縁組は、父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であること、その他これに準じる特別の事情がある場合で、実方の父母との親子関係の終了を特に必要とするときに成立させるものである。」と認定し、抗告人の請求を却下した。しかしながら、事件本人由和の実父は死亡しており、実母は抗告人と婚姻したことから、少なくとも「実方の父母との親子関係の終了を特に必要とするときに成立させるもの」との認定は、不合理である。また、審判書によれば「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であること、その他これに準じる特別の事情がある場合」と認定しているが、その趣旨は本件にあてはめると、必ずしも明確ではないが、おそらく事件本人由和の祖父母及び泰子の叔母の養育監護を重視しての解釈と思われる。しかしながら、事件本人由和は、今後実母である泰子並びに抗告人の養育監護のもと、成長していくのであり、祖父母らの養育監護は受けない。

三 本件の背景

抗告人は、昭和62年5月10日事件本人泰子と婚姻をし、同時に事件本人由和と養子縁組をした。以来、抗告人の妻泰子は、子由和を監護養育し、現在に至つている。

ところで、抗告人と妻泰子の間に子供ができ、現在泰子は妊娠中であるが、昭和63年11月中旬頃には出産が予定されている。抗告人としては、子由和を自己の長男とし、子由和が将来養子であることで悩むことのないようにしたいことから、本件特別養子縁組申立に及んだのである。そこには、子由和の幸せを願い、由和が抗告人と泰子との間で温かく育てあげることをのみ願つているのであり、他に特別に考えがあつてのことではない。抗告人らの素直な心情が本申立に及んだのである。

四 昭和63年従来議論されてきた特別養子縁組制度が制定された。

右法は、子供の幸せを願つての法律であり、事案によつては養子にとつて、理想的な法律といえる。実子と同様な戸籍上の扱いを受けることにより、子供が養子という負い目のないよう養育されていくことができるのである。原審判は、抗告人らの有利な事情を認定しつつ、最後になり、「特別養子縁組は、父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であること、その他これに準じる特別の事情がある場合で、実方の父母との親子関係の終了を特に必要とするときに成立させるものであるがら、上記認定事実のみからは、抗告人の心情は理解できるにしても、かかる特別の事情の存在を認めることは困難である。他にこれを認めるに足る資料もない。」と認定しているが、その主旨が全く不可解である。本件では、実方の父泊和義は死亡しており、実方の父の意志を尊重する必要は全くない。実方の母はまさしく妻泰子であり、妻泰子こそ子由和の特別養子縁組を望んでいるのであり、原審が認定する「実方の父母との親子関係の終了を特に必要とするときに成立させるものである。」の事実は、全く考慮する必要はない。唯一考慮するとすれば、子由和の亡父和義の両親である祖父母が、本件特別養子縁組に不同意の意向を示していることであるが、子由和の幸せ並びに泰子の願いと亡父和義の両親の意向と比較衡量した場合、当然子由和の幸せ並びに泰子の願いの方に比重がかかるのであつて、これこそ特別養子縁組の主旨に合致するものである。

抗告審におかれては、速やかに原審判を破棄され、抗告人の申立を認容されるべく、強く主張するものである。

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