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名古屋高等裁判所 昭和63年(行コ)4号 判決 1990年3月16日

愛知県半田市七本木町六七番地の三

控訴人

西村東海

右訴訟代理人弁護士

原山剛三 外一名

愛知県半田市宮路町五〇番地

被控訴人

半田税務署長

西井隆

右指定代理人

深見敏正

佐野武人

花木利明

前川晶

主文

昭和五二年度ないし五四年度の所得の実額に関する当審における控訴人の主張および立証を却下する。

理由

一  控訴人は当審においてはじめて右の実額の主張をしはじめ、右の主張について立証をしようとしたところ、被控訴人は右について民事訴訟法一三九条に基づき却下されるべきである旨の申立をした。

二  しかし、本件記録及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は控訴人の昭和五二年度ないし五四年度の確定申告の所得税額について疑問をもち、控訴人の右期間の所得金額について調査をしようとしたところ、控訴人はこれに応じなかつたために被控訴人は右所得について推計をなし、これにもとづき更正処分をしたこと、控訴人は右の処分について異義の申立て及び不服審査の申し立てをなし、一部認められたものの、主要な部分について認められなかつたので、名古屋地方裁判所に昭和五七年一二月二八日本訴を提起したこと、爾来、原審において昭和五八年二月二日の第一回口頭弁論が開かれ、昭和六二年一一月三〇日に弁論が終結されるまでの間前後二九回わたつて口頭弁論期日が開かれて審理がなされたこと、原審において、控訴人は右の所得について、被控訴人の推計の当否のみを争い、自己の右年度における収入の実額については前記確定申告書に記載された金額が正当なものであると主張しただけで、右について具体的、積極的に主張も立証もしようとしなかつたこと、しかるに、原審において敗訴の判決を受け、昭和六三年に当審において、はじめて右の確定申告に記載された金額とも異なる実額の主張をしはじめ、その頃これの立証をしようとしたことが認められる。

しかして控訴審において民事訴訟法一三九条を適用するにあたっては、第一審からの弁論を一体としてその全過程を通じて考えるべきであると解される。

当裁判所は右の控訴人の主張立証について民事訴訟法一三九条にいう「時機に後れた攻撃防御の方法」であるか否かについて、甲第四〇号証(控訴人本人の陳述書)、及び証人西村ふき子の取調べをしたが、右の証拠調べの結果及び前記第一審における、また第一審からの口頭弁論の経緯、弁論の全趣旨に鑑みれば、右の実額を最もよく知っている者は外ならぬ控訴人自身であり、控訴人は第一審の早い時期において容易に右の点の主張、立証をすることができたことが明らかである。

したがって、控訴人又はその訴訟代理人は故意又は重大な過失によって、原審において右の主張、立証をせず控訴審において時機に後れて右の攻撃、防御方法を提出したものであることが明らかである。

そして当審における控訴人の右主張事実を被控訴人において争っていることが訴訟上明らかであるから、右事実の審理について新たな証拠調べが必要となること、そのためにより多くの開延期日を重ねなければならなくなること、したがって右により訴訟の完結が遅延せしめられることが明らかである。

右によれば、控訴人の当審における右の主張、立証は、控訴人又はその訴訟人代理の故意又は重大な過失により時機に後れて提出された攻撃、防御方法であり、訴訟の完結を遅延せしめるものと認むべきであるから、民事訴訟法一三九条によりこれを却下すべきである。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 海老塚和衛 裁判官 水野佑一 裁判官 高橋爽一郎)

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