名古屋高等裁判所金沢支部 平成14年(ネ)183号 判決 2007年4月16日
主文
1 1審原告らの控訴及び1審被告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
2 1審被告は,別紙損害賠償額一覧表掲記の1審原告らのうち同表中に「期間B」欄のある1審原告らに対し,それぞれ,次の(1)ないし(3)の各金員を支払え。
(1) 同表「賠償額」欄に「賠償額合計」として記載した額の金員
(2) (1)の金員のうち,同表「賠償額」欄に「A期間総額」として記載した額の金員に対する,第3次訴訟1審原告らについてはいずれも平成8年1月19日から,第4次訴訟1審原告らについてはいずれも平成8年6月25日から,各支払済みまで年5分の割合による金員
(3) (1)の金員のうち,同表「期間B」欄記載の期間に発生した「慰謝料月額」欄記載の各金員に対する,各発生月の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員
3 1審被告は,別紙損害賠償額一覧表掲記の1審原告らのうち同表中に「期間B」欄のない1審原告らに対し,それぞれ,同表「賠償額」欄に「A期間総額」として記載した額の金員及びこれに対する第3次訴訟1審原告らについてはいずれも平成8年1月19日から,第4次訴訟1審原告らについてはいずれも平成8年6月25日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 別紙損害賠償額一覧表掲記の1審原告らの平成18年10月2日までに生じたとする損害の賠償請求中,その余の部分をいずれも棄却する。
5 別紙請求棄却原告目録記載の1審原告らの平成18年10月2日までに生じたとする損害の賠償請求をいずれも棄却する。
6 本件訴えのうち,平成18年10月3日以降に生じるとする将来の損害の賠償請求に係る部分,並びに自衛隊の軍用機の離着陸・エンジン作動の差止め及びその発する騒音の音量規制の請求に係る部分をいずれも却下する。
7 アメリカ合衆国軍隊の軍用機の離着陸・エンジン作動の差止め及びその発する騒音の音量規制に係る1審原告らの請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は,第1,2審を通じて,次のとおりとする。
(1) 別紙損害賠償額一覧表掲記の1審原告らと1審被告間に生じた訴訟費用は,その3分の1を同1審原告らの負担とし,その余を1審被告の負担とする。
(2) 別紙請求棄却原告目録記載の1審原告らと1審被告間に生じた訴訟費用は,同1審原告らの負担とする。
9 この判決は,第2項及び第3項に限り,本判決が1審被告に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 1審原告ら
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2)(差止請求)
ア 1審被告は,自ら又はアメリカ合衆国軍隊をして,小松飛行場において,毎日午後零時から午後2時まで及び午後6時から翌日午前7時までの間,一切の軍用機を離着陸させたり,そのエンジンを作動させたりしてはならない。
イ 1審被告は,自ら又はアメリカ合衆国軍隊をして,小松飛行場の使用により,毎日午前7時から午後零時まで及び午後2時から午後6時までの間,1審原告らの各居住地に対し70ホン(A)を超える一切の軍用機の発する騒音を到達させてはならない。
(3)(慰謝料等請求)
ア 1審被告は,1審原告らに対し,それぞれ,120万円及びこれに対する第3次訴訟1審原告らについてはいずれも平成8年1月19日から,第4次訴訟1審原告らについてはいずれも平成8年6月25日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 1審被告は,1審原告らに対し,それぞれ,第3次訴訟1審原告らについてはいずれも平成8年1月19日から,第4次訴訟1審原告らについてはいずれも平成8年6月25日から,1審被告が自ら又はアメリカ合衆国軍隊をして前記(2)のア及びイの各措置をなし又はなさしめるまでの間,毎月末日限り,5万円及びこれに対する各発生月の翌月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 仮執行宣言
2 1審被告
(1) 原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 1審原告らの請求をいずれも棄却する。
(なお,1審被告は,後記のとおり,本件訴えのうち,自衛隊機の離着陸等の差止めを求める部分につき,不適法であり却下されるべきである旨主張している。)
第2事案の概要
1 請求の要旨等
本件は,石川県小松市所在の小松飛行場(以下「本件飛行場」という。)の周辺に居住し又は居住していた者ないしはその相続人である1審原告ら(提訴時には1801名であったが,原審係属中に35名が訴えを取り下げ,原判決時には,原判決別紙当事者目録記載のとおり1766名となった。)が,本件飛行場を利用する自衛隊及びアメリカ合衆国軍隊(以下「米軍」という。)の航空機(以下,それぞれ「自衛隊機」,「米軍機」という。)の発する騒音等により身体的・精神的被害等を被っているとして,1審被告に対し,前記第1の1(2),(3)のとおり,夜間の航空機の飛行の差止め及び損害賠償等を求めた,いわゆる小松基地訴訟の第3次訴訟(金沢地方裁判所平成7年(ワ)第698号)及び第4次訴訟(同裁判所平成8年(ワ)第300号)を併合審理した事案の控訴審である。
1審原告らは,1審被告に対し,① 差止請求として,平和的生存権,人格権・環境権,昭和50年10月4日に防衛施設庁長官等と小松市長等との間で締結された協定(乙6〔111ないし114頁〕,乙7。以下「10・4協定」という。)及び憲法9条違反に基づき,毎日午後零時から午後2時まで及び午後6時から翌日午前7時までの間における自衛隊機及び米軍機の離着陸等の差止め,並びにその余の時間帯である毎日午前7時から午後零時まで及び午後2時から午後6時までの間における70ホン(A)を超える自衛隊機及び米軍機の騒音の差止めを求め,② 過去分(訴状送達日まで。すなわち第3次訴訟については平成8年1月18日,第4次訴訟については平成8年6月24日まで)の慰謝料請求として,国家賠償法2条1項に基づき,それぞれ,慰謝料100万円及びこれに対する上記各訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,③ 将来分(訴状送達日の翌日以降)の慰謝料請求として,国家賠償法2条1項に基づき,それぞれ,上記各訴状送達日の翌日から上記①の差止請求に係る各措置がなされるまでの間,毎月末日限り,慰謝料5万円及びこれに対する各発生月の翌月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,④ 弁護士費用相当額の損害金請求として,国家賠償法2条1項に基づき,それぞれ,損害金20万円及びこれに対する上記各訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
2 原判決の要旨
原審は,平成13年6月29日に終結した口頭弁論に基づき,次のとおり判決した。
(1) 1審原告A1の訴えについて
同1審原告を原告とする訴えは,提訴前に既に死亡していた者の名でなされた不適法な訴えであるとして,これを却下した。なお,原判決中,同1審原告に関する部分は既に確定している。
(2) 1審原告A1を除くその余の1審原告ら(以下,これを単に「1審原告ら」という。)の訴えについて
① 1審原告らの自衛隊機及び米軍機に係る離発着等差止請求をいずれも棄却した。
② 1審原告らの損害賠償請求のうち,原審口頭弁論終結日(平成13年6月29日)までに生じた損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分については,これを一部認容し(75コンター区域に居住する者については月額3000円,80コンター区域に居住する者については月額6000円,85コンター区域に居住する者については月額9000円,90コンター区域に居住する者については月額1万2000円を基準額とし,危険への接近が認められる1審原告らについては20パーセントの減額をし,住宅防音工事を受けた者について,最初の1室につき10パーセント,2室目以降は1室増加するごとに5パーセントずつ減額し,算出された額に15パーセントの弁護士費用相当額を加算して,認容額を算定した。),その余を棄却した。
③ 1審原告らが原審口頭弁論終結日の翌日以降に生ずべき将来の損害の賠償を請求した部分に係る訴えを,権利保護の要件を欠く不適法な訴えであるとして却下した。
3 原判決に対する控訴等
1審原告らのうち1746名及び1審被告が,それぞれ敗訴部分を不服として本件控訴を提起した。
当審において,1審原告らのうち190名(平成19年2月20日現在)が訴えを取り下げた。
4 なお,略語は,原判決に準ずるものとする。
また,当審口頭弁論終結の日(平成18年10月2日)の後の平成19年1月9日,「防衛庁」を「防衛省」と,「防衛庁長官」を「防衛大臣」とすること等を内容とする防衛庁設置法等の一部を改正する法律(平成18年法律第118号)が施行されたが,本判決及び本判決が引用する原判決中の「自衛隊法」の法条は,上記法律による改正前のそれである。
第3当事者の主張
当審における当事者の追加的主張を付加するほか,原判決の「事実」欄の第2に記載のとおりであるから,これを引用する。
当審における当事者の追加的主張の要旨は,次のとおりであり,その詳細は,別添「1審原告ら最終準備書面」及び別添「1審被告最終準備書面」(ただし,同準備書面の第2編個別原告論の4頁3行目の「甲」を「A2」と改め,同11頁21,22行目及び12頁17行目の「乙」を「A3」と改め,別冊Ⅰ第1表の130頁中原告A4の備考欄の「新姓:丙」を削除し,同頁中原告A5の備考欄に「新姓:丙」を加え,別冊Ⅱ別表Ⅱ―3(1)の原告「甲」を「A2」と改める。)記載のとおりである。
1 1審原告らの追加的主張の要旨
(1) 自衛隊及び在日米軍の違憲性について
本件飛行場についての公共性の有無を検討するためには,その前提として,自衛隊及び在日米軍についての憲法判断が不可避である。自衛隊及び在日米軍が憲法9条に違反する存在である以上,自衛隊機及び米軍機が離着陸する本件飛行場にも公共性はない。
(2) 侵害行為の継続について
1審原告らが,平成11年8月18日から平成15年10月8日までの間,28日にわたって行った騒音調査結果(甲E101)を1審原告らによる従前の調査結果(甲E44,47,49)と比較すると,丸の内定点での騒音状況は,全体として,この10数年間,質的にも量的にも変化なく,激しい騒音状況のまま継続してきたといえる。また,上記調査における中島コースの遵守率は20.53パーセントであり,従前よりも悪化している。さらに,小松市等が行っている平成7年度から15年度までの騒音調査結果(甲E76ないし78,116ないし120)によれば,騒音継続時間が平成7年度以降は若干減少傾向を示しているものの,全体的には暴露状況に変化は見られないことが分かる。このように騒音暴露の状況は,現在までほとんど変わっておらず,1審原告らは依然として激甚な騒音に暴露され続けている。
本件訴訟に先立つ第1次訴訟,第2次訴訟の判決において,自衛隊機及び米軍機の飛行等が違法であることが明示されているにもかかわらず,1審被告は,10・4協定で定められた騒音防止義務を全く遵守せず,上記のように違法行為を反復継続しており,1審被告の侵害行為の悪質性は明らかである。
(3) 健康被害について
B医師は,航空機騒音により具体的にどのように睡眠が障害されているかを明らかにする目的で,アクチグラフという睡眠と覚醒を客観的に判別できる機器を使って,W値85の地域に居住し,航空機騒音の多い昼間に睡眠をとらなければならない交代勤務者である50代の男性2名を対象に調査を行ったところ,航空機騒音の回数や秒数が寝る前に増加すると,それにより入眠が障害され,また,睡眠中の騒音の秒数が増えると睡眠時間が短くなることが確認された(甲E105,当審でのB証言)。これは,B医師らによる平成10年の調査(甲E50ないし53)により示された自覚症状を客観的に証明したものである。これらの調査結果は,1審原告らの陳述書の内容とも一致しており,航空機騒音による睡眠障害が住民の中でかなり起こっていることを示しているものである。
(4) 差止請求について
吉村良一教授作成の「騒音公害の差止めについて」と題する論文(甲E115)によれば,以下のとおり,公害訴訟における差止請求に関する学説,判例の発展は顕著であり,このような発展を踏まえれば,本件における差止請求は認容されるべきである。すなわち,① 最近の裁判例の流れを踏まえれば,民事訴訟によって1審被告に対して自衛隊機の飛行差止めを求め得るというべきである。② 加害者の主観的態様等を考慮せずに差止めが肯定される人格権侵害について,学説の大勢は,それを狭い意味での疾病に限定しておらず,疾病に至らない潜在的な健康侵害(比較的軽度の不眠等)や侵襲的苦痛も含まれるとしている。③ 裁判例上,平穏生活権に基づく差止法理が,暴力団事務所撤去訴訟や廃棄物処理場差止訴訟等で採用され,現に人格権に基づく差止めを認める多くの裁判例が現れている。④ 公害訴訟においては,被害を訴える原告が加害行為と被害との因果関係を立証するには限界があることを正しく認識し,原告側の立証責任の軽減を考えなければならず,空港騒音訴訟においては,一定以上の騒音暴露があれば健康被害を推認すべきである。以上によれば,本件における差止請求は直ちに認容されるべきである。
なお,本件飛行場の「公共性」を理由に差止請求を棄却することは許されない。すなわち,上記のような人格権侵害があれば,直ちに差止めが認められるべきであり,公共性などの利益の考慮は許されない。また,前記のとおり,自衛隊及び在日米軍が憲法9条に違反する存在である以上,自衛隊機及び米軍機が離着陸する本件飛行場にも公共性はないし,具体的に見ても,自衛隊機や米軍機の存在は,むしろ我が国の平和や国際平和を乱すものであり,1審原告らにとってはもとより,国民一般にとっても何ら利益がないから,公共性はない。
(5) 危険への接近について
近時の裁判例や学説には,危険への接近の法理の適用を制限,排除する傾向が見られる。横田基地訴訟の東京高裁平成17年11月30日判決においても,厚木基地訴訟の東京高裁平成18年7月13日判決においても,危険への接近の法理の適用が認められなかった。上記横田基地訴訟東京高裁判決は,騒音被害に対する積極的な容認の有無,原告らの騒音被害の認識,原告らの騒音被害からの回避可能性,被害の重大性,違法な騒音被害の継続,国民の生活環境を保全すべき1審被告の責務,以上の点を検討すべき要素としてあげており,相当であるが,本件においても,上記諸点を検討すると,危険への接近の法理は,減額要素としても考慮されるべきではない。
(6) 将来請求について
本件飛行場の代替施設の早急な確保は望み難く,ジェット戦闘機の飛行騒音の大幅な低減も困難な状況において,騒音地域は25年間以上も固定化しているところ,1審被告は,抜本的な改善策を採ることなく,騒音の発生を放置してきた。なお,1審原告ら各人の居住状況は,本件飛行場周辺のような地方都市では変動の余地は小さく,また,居住家屋に対する防音工事は,単に賠償額の減額要素となるにすぎない。したがって,権利発生の基礎をなす事実関係及び法律関係が継続する蓋然性は大きい。
また,1審原告らが損害賠償請求訴訟を繰り返し提起することは,消滅時効期間が3年であることに照らしても,労力的,金銭的に極めて困難であるのに対し,1審被告が1審原告らの移転等が生じた場合に請求異議の訴えにより事後的に争うことは容易であるし,1審被告が現に侵害行為を生じさせている主体である以上,この程度の負担を課すことは不当ではない。
したがって,将来の損害分の請求も認められるべきである。上記横田基地訴訟東京高裁判決も,判決言渡日までの将来請求を認めている。
2 1審被告の追加的主張の要旨
(1) 差止請求について
自衛隊機についてその離着陸等の差止めを求めることが民事上の訴えとしては不適法であることは,厚木基地訴訟の最高裁判所平成5年2月25日判決や福岡空港訴訟の最高裁判所平成6年1月20日判決が判示しており,既に判例として確立している。したがって,上記差止請求に係る訴えは不適法であり,却下されるべきである。
(2) 違法性(受忍限度)の基準について
1審被告が生活環境整備法に基づく区域指定の際に使用した騒音コンターは,周辺対策をできるだけ手厚くする趣旨の下に,厳しい仮定の状況を想定して作成されたものであるから,各指定区域内において,直ちにその指定に対応するWECPNLに応じた騒音に実際に暴露されていることを意味するものではない。告示コンターは,昭和52年に実施された8日間のみの調査を前提とするものであるのに対し,本件においては,比較的多数の測定地点における,ほぼ最新の,しかも比較的長期間にわたり継続的に行われた信頼性の高い調査結果が証拠として提出されているから,侵害行為の程度は,告示コンターではなく,実勢騒音に基づいて判断されるべきである。したがって,生活環境整備法により第1種区域に指定されているからといって,75コンター居住1審原告らについて騒音被害が著しいとすることはできない。
10・4協定は,1審被告が基地周辺の航空機騒音防止対策に関する総合的施策を有効適切に実施するに当たっての行政上の目的を示したものであって,騒音等についての具体的な数値,基準を定めたものではないから,1審被告の措置について具体的な数値等の違反は生じ得ず,10・4協定に違反するという事態もおよそ生じ得ない。
本件飛行場は,我が国の平和と安全を維持するために配置され,その公共性は極めて高い上,大規模災害などに対応すること(乙86ないし88)により,地域社会に多大の貢献をしているのであって,本件飛行場の周辺住民は,本件飛行場によって被害ばかりでなく利益をも受けているから,受忍限度の判断に当たっては,本件飛行場の公共的役割が重視されるべきである。
(3) 侵害行為の態様と程度について
本件飛行場における騒音の発生は,以下のとおり,全体的に減少傾向にあり,告示コンターのW値を大きく下回っている。すなわち,小松基地騒音防止対策協議会が実施している,いわゆる三者共同測定の昭和60年度ないし平成13年度の各測定結果(乙89の17の表14)によれば,小松市下牧町(W値85以上の区域)における測定結果のみが告示コンターに示されたW値と一致するものの,他の測定地点におけるW値は,告示コンターのW値より低いW値で推移しており,とりわけ,近年においては,いずれも告示コンターのW値より5ないし10も低い値となっている。1審被告の自動騒音測定点における騒音測定記録(乙91)や,1審被告が平成15年7月24日から同月30日まで本件飛行場周辺の10箇所で騒音測定を実施した結果(乙94)からも,上記三者共同測定の結果と同様の傾向が分かる。
控訴審における検証の結果からも,少なくとも告示コンターW値90未満の地域における航空機騒音は,いずれの箇所においても全体として通常の生活環境を破壊するほどの騒音ではないことが明らかである。
(4) 被害認定について
1審原告らは,本件訴訟において,共通損害のみを損害として主張しているから,各自が共通損害を被ったことを個別に立証する必要があり,その立証方法として,容易に陳述書を作成・提出することができる。したがって,1審原告らのうち被害の状況について陳述書すら提出しない者は,他に被害の個別立証がない以上,結局,被害の立証を欠くというほかない。
(5) 周辺対策について
1審被告は,住宅防音工事の助成を原審の口頭弁論終結日後も引き続き実施しており,平成17年度までに,約1万7千世帯に対して防音工事の助成を行っており,それらに対する補助金総額も多額に上っている(乙163の3)。住宅防音工事が施工された住宅の防音効果は,屋内外音圧レベル差で25ないし30数dB(A)程度の遮音効果があることが確認され,仕方書の計画防音量を上回っており(乙95,96),住宅防音工事が終了している住宅については,十分な被害の軽減が図られている。
さらに,1審被告は,平成14年度から,W値85以上の区域に所在する住宅について,新たに外郭防音工事(乙99)の助成を行っている。外郭防音工事は,防音工事実施済みの住宅であるか否かや世帯人員の数にかかわらず,浴室,トイレ,廊下等も含めた家屋全体を一つの区画として防音工事を実施するものであるから,同工事の助成を受けた1審原告らについては,これによって騒音被害が消失したというべきである。
また,1審被告は,住宅防音工事で設置した空気調和機器(冷暖房機等)の電気料金の負担を軽減するための新たな施策として,住宅防音工事の一環として太陽光発電システムの設置助成を実施することについて検討を開始し,平成15年度からは,そのためのモニタリング事業(調査事業)を実施している(乙102ないし104)。
上記の外郭防音工事や,太陽光発電システム設置助成に係るモニタリング事業を踏まえれば,少なくともこれらの措置を受けた住宅に居住する1審原告らについては,従来の住宅防音工事に伴う閉塞感等の心理的,物理的マイナス面や,経済的負担の問題は解消されているというべきである。
以上の住宅防音工事のほかにも,1審被告は,各種周辺対策を実施し,原審の口頭弁論終結日以降も施策の充実を図っており,住宅防音工事を始めとするこれらの各種周辺対策は,周辺住民の生活の安定及び福祉の向上を図るものであり,これにより,周辺住民の騒音源に対する好意的評価を高め,騒音によって被る精神的不快感を解消又は軽減する効果がある。
(6) 昼間騒音の控除(個別W値論)について
本件飛行場の周辺地域における騒音の主要部分は,平日の日中に集中し,平日の夜間及び土曜日,休日には航空機騒音の発生が著しく少ない。平成12年度ないし平成14年度の国の騒音測定データ(乙91の3)に基づき分析しても,騒音の主要部分は,平日の日中に集中しており,19時以後のものは僅少である。平成14年度のデータによれば,午前9時から午後5時までの1日当たり騒音発生回数が1日当たりの平均騒音発生回数に占める割合は62ないし72パーセントであり,その平均値は約68パーセントに及ぶ(平成12年度及び同13年度のデータによっても同様となる。)。一方,W値は1日24時間を通して騒音にさらされていることを前提に算出された値である。したがって,騒音コンター外通勤者等の騒音被害等を判断するに当たってW値をそのまま用いることは妥当でない。
ところで,統計的にみると(乙92,93),1審原告らのうち騒音コンター区域外の事業所で就労している有業者の多くは,少なくとも,平日の午前9時から午後5時までの8時間は,騒音コンター区域外に所在しているものと推定されるので,このような生活実態に即して平日の昼間時間帯(午前9時から午後5時まで)の騒音を控除したW値を算出したところ,騒音コンター75W区域におけるいずれの測定点においても,昼間騒音を控除した後のW値はコンター外と同程度の60台のW値にとどまっており,騒音コンターの基準値よりもはるかに低い数値を示しているから,騒音コンター外に通勤する者等については,少なくとも,当該居住地のコンター区分より1段階低いコンター区分をもって論ずるべきである。
(7) 危険への接近について
危険への接近の法理の適用については,各1審原告の転居の具体的事情の検討が必要であるから,陳述書を提出しなかったり,提出した陳述書に転居に至る具体的事情が記載されていない1審原告には,原則として危険への接近の法理を適用すべきである。
一度でも騒音コンター内に居住した者は,そのコンター内の騒音の存在を当然に認識しているから,コンター内における転居は,騒音による被害を受けることの容認といえる。したがって,コンター内における転居者には,原則として危険への接近の法理の適用があるというべきである。
個別の1審原告が以前に居住していたものと同レベルかそれ以下のコンター内に転居した場合について,そのことから直ちに,個別の1審原告ごとの具体的な転居の事情を検討しないまま,親元や郷里に戻ったという復帰型の転居であるとして,危険への接近の法理の適用がないということはできない。
第4当裁判所の判断
1 本件飛行場の概況等(本件飛行場の現況,沿革等,コンター区分)
本件飛行場の概況等(本件飛行場の現況,沿革等,コンター区分)についての当裁判所の認定は,次のとおり補正するほか,原判決の「理由」欄の第1の1に記載のとおり(ただし,「当庁」とあるのは,いずれも,「金沢地方裁判所」のことである。)であるから,これを引用する。
(原判決の補正)
原判決33頁8,9行目の「WECPNLと同様の値(W値)」を「WECPNLと同様の値(W値。もっとも,細部では異なることにつき後記参照。)」と改め,同頁14行目の次に,次のとおり加える。
「なお,前記「航空機騒音に係る環境基準」の定める基準(以下「環境基準方式」という。)によるWECPNLは,〔file_2.jpgdBA)+10log10N-27〕という算式によって求められるのに対し,自衛隊機の騒音の評価に当たっては,自衛隊機の特性を踏まえた各種の補正を加えたW値の算出方法(以下「防衛施設庁方式」という。)が用いられている(防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律施行規則,防衛施設周辺における航空機騒音コンターに関する基準について(通達)(乙56)参照)。その特徴の一つとして,防衛施設庁方式においては,W値の算定の基礎となる飛行回数として,単純に年間総飛行回数を365日で除した値ではなく,飛行しない日も含め,1日の総飛行回数の少ない方からの累積度数曲線を求め,累積度数90パーセントに相当する飛行回数を,その防衛施設における1日の標準総飛行回数として計算している。その結果,防衛施設庁方式により算出したW値は,環境基準方式によるものに比べ,高くなる傾向があり,本件飛行場について計算しても,2ないし5程度高い値となっている(弁論の全趣旨)。自衛隊機の騒音の評価に当たって,このような防衛施設庁方式が採用された理由は,1審被告自身が自認するとおり(1審被告原審最終準備書面52頁等),本来,環境基準方式によるWECPNLが年間を通して定常的な騒音量が存在する公共用飛行場(民間飛行場)を対象として考案された手法であるところ,自衛隊機については,比較的多く飛行する日がある反面,ほとんど飛行しない日もあるなど不定期的飛行を常態とすることから,周辺住民にとっては,静かな日はさほど強い印象が残らず,多数の飛行があった一部の日をとらえて「うるさい」という不快感を抱きかねないため,自衛隊機の飛行場に環境基準方式をそのまま適用するのは適切ではないからであると認められる。」
2 1審原告らの居住地及び居住期間,死亡1審原告の承継
(1) 争いのない事実及び弁論の全趣旨(当審第7回口頭弁論期日で陳述された訴訟手続受継申立書の内容)によれば,別紙「死亡第1審原告に係る承継人等一覧表」記載の1審原告らが同表記載の死亡年月日に死亡し,同表記載の承継人らがそれぞれ訴訟を承継したことが認められる。
なお,上記承継人らは,いずれも被承継人の損害賠償請求権を相続した旨主張するものであり,訴訟承継を契機として承継人独自の損害についての賠償請求をするものではない旨明らかにしている(上記期日調書)。
(2) 争いのない事実,証拠(甲E71,75,乙L1,2及び後記(3)記載の証拠)及び弁論の全趣旨(1審被告最終準備書面別冊Ⅱ添付別表Ⅱ―1)を総合すると,1審原告らの居住地及びそのコンター区分は,それぞれ,原判決別表1「居住状況一覧」(ただし,別紙「居住状況一覧修正表」により補正した後のもの。以下において,この補正後のものを「修正後居住状況一覧」という。)中の「居住地」欄及び「W値」欄各記載のとおりであり(「W値」欄が空欄の者はコンター外居住者である。),上記各居住地における居住期間はそれぞれ同別表「居住期間」欄中の「裁判所の認定」欄記載のとおりであると認められる。
したがって,原判決により過去の損害賠償請求の全部が棄却されて,控訴している別紙請求棄却原告目録記載の1審原告らのうち,第3次訴訟1審原告らについては平成5年1月以降における,第4次訴訟1審原告らについては同年6月以降におけるコンター内居住の事実が認められないものである。
(3) なお,居住地ないし居住期間に関する住民票等の公的資料上の記載と本人の申告内容との間にそごがあるなどの事情で,「修正後居住状況一覧」中に示した事実認定につき若干の補足説明を要する1審原告らは以下のとおりである(なお,以下の1審原告らは,1審被告から1審原告らの申告内容と公的資料上の記載との不一致等を指摘され,居住事実に疑義があるとされていたか,原判決で居住事実を認定されなかったにもかかわらず,これまで何らの釈明等もなされてこなかった者らである。)。
ア 3次亡A6承継人A7及び同A7
被承継人A6(平成8年9月15日死亡)及び3次A7の申告居住地は,小松市C町「a番地」とされており,当審において提出された3次A8作成の陳述書(甲A1662)でも,A6及び3次A7が小松市C町「a番地」に居住している(A6については死亡まで)とされているが,一方,公的資料上は,各居住開始時期として主張された平成元年4月(A6),昭和63年3月(3次A7)以降,いずれも小松市C町「b番地」に居住しているものとされ,原審で提出された3次A8作成の陳述書(甲A30)でも,3次A7が小松市C町「b番地」居住のA8らと同居しているものとされており(A6は,上記陳述書作成当時既に死亡していた。),かかるそごが生じたことについて合理的な説明もないことから,申告居住地における居住期間は証拠上不明と判断せざるを得ない。
イ 3次A9,同A10及び同A11
同1審原告らにあっては,公的資料上,平成13年11月2日から,共通の申告居住地である小松市D町c番地において居住しているものとされているから,上記居住の事実が認められるが,その余の期間について上記申告居住地での居住の事実を認めるに足りる証拠はない。なお,原審及び当審において提出された3次A12作成の陳述書(甲A105,1982)では,同1審原告らが平成3年から上記申告居住地にA12と同居している旨の記載があるが,これを裏付ける客観的証拠はない上,公的資料ともそごするから,上記陳述記載は採用できない。
ウ 3次A13
同1審原告の申告居住地は小松市E町「d番地」とされ,3次A14作成の陳述書(甲A171)上も同所でA14らと同居しているものとして記載されているが,一方,その居住開始時期として主張された昭和63年7月以降の居住地が公的資料上は小松市E町「e番地」とされており,当審において提出された3次A14作成の陳述書(甲A1683)でも,昭和63年以降小松市E町「e番地」に居住しているとされており,かかるそごが生じたことについて合理的な説明もないことから,上記申告居住地における居住期間は証拠上不明と判断せざるを得ない。
エ 3次A15
同1審原告にあっては,申告居住地が小松市F町f番地とされ,公的資料上も,昭和52年5月以降同所に居住しているものとされているが,原審で提出された3次A16作成の陳述書(甲A268,平成10年2月作成)には,同所での同居者として,3次A15の名が挙げられていない上,当審で提出された3次A16作成の陳述書(甲A1702,平成15年12月作成)には,3次A15が,平成8年に大学入学のため愛知県豊橋市に転居し,平成10年に就職のため上記申告居住地に転居した旨の記載があること,及び1審被告側調査員が平成15年1月28日に上記申告居住地において3次A17に対して質問をした際,同人が上記陳述書(甲A1702)の陳述記載と同旨を述べたと認められること(乙90の2)に照らせば,3次A15について,平成8年4月1日から平成10年3月末日までの間における上記申告居住地での居住の事実を認めることはできない。
オ 3次A18及び同A3(旧姓・丁)
同1審原告らにあっては,申告居住地が小松市G町g番地とされ,公的資料上も,昭和53年10月以降同所に居住しているものとされており(3次A3については,平成18年1月10日まで),当審で提出された3次A19作成の陳述書(甲A1704)にも同旨の記載があるが,原審で提出された3次A19作成の陳述書(甲A287,平成11年2月作成)には,上記申告居住地での同居者として,3次A18及び同A3の名が挙げられていないことに加え,1審被告側調査員が平成15年1月28日に上記申告居住地において3次A19,同A20に対して質問をした際,同人らが,3次A18及び同A3について,平成9年4月から平成13年3月まで,それぞれ金沢市と長野県松本市の大学に行っていたので上記申告居住地に居住していなかった旨述べたことが認められる(乙90の3)から,3次A18及び同A3について,平成9年4月1日から平成13年3月末日までの間における上記申告居住地での居住の事実を認めることはできない。
カ 3次A21及び同A22
同1審原告らにあっては,公的資料上,昭和60年12月まで,平成元年4月中の数日間,及び平成13年9月3日から平成17年3月14日までの期間,共通の申告居住地である小松市H町h番地において居住しているものとされているから,上記居住の事実が認められる。そして,原審で提出された上記A21作成の陳述書(甲A381,平成11年2月1日作成)には,上記申告居住地に居住を開始した時期に関する記載がなく,また,当審で提出された上記A21作成の陳述書(甲A1727)には,平成2年4月から上記申告居住地に居住を開始した旨の記載があるが,上記の公的資料による住所とは異なり,かかるそごが生じたことについての合理的な説明もないから,上記陳述記載は採用できない。したがって,3次A21及び同A22に関して,公的資料による上記期間以外の期間について上記申告居住地における居住の事実を認めることはできない。
キ 3次A23,同A24及び同亡A25承継人A23
3次A23,同A24及び被承継人A25(平成14年5月25日死亡)にあっては,公的資料上,平成9年7月30日以降,共通の申告居住地である小松市I町i丁目j番地に居住している(A25については死亡まで)とされているから,上記居住の事実が認められる。
しかし,これらの者について,同日前の期間における上記申告居住地での居住の事実を認めるに足りる証拠はない。すなわち,原審及び当審において提出された3次A23作成の陳述書(甲A797,1811)では,それ以前の期間も同人らが上記申告居住地に居住していた旨の簡単な記載があるが,これを裏付ける客観的証拠はない上,公的資料ともそごするから,上記陳述記載は採用できない。なお,上記申告居住地が住所として記載された同人らの住民票(甲E71)には,「住民となった年月日」として平成9年7月30日より前の日付が記載されているが,これは,同人らが小松市民となった日を示すものであり,必ずしも上記申告居住地での居住開始時期を示すものではないと解されるところ(住民基本台帳法7条6,7号参照),公的資料上,同人らが平成9年7月30日以前から小松市内に居住しているものとされていることも考慮すると,上記住民票の記載は上記判断を左右しない。
ク 3次A26,同A27,同A28及び同A29
同1審原告らにあっては,申告居住地は小松市「J町k番地」とされ,3次A26作成の陳述書(甲A944,1836)上も,同所で同居しているものとして記載されているところ,公的資料上も,3次A26及び同A27については,昭和62年4月1日から,同A28及び同A29については,昭和61年4月29日から,小松市「J町l番地(現:k番地)」に居住しているとされているから,同1審原告らはそれぞれ同日から申告居住地で居住しているものと認めることができる。もっとも,公的資料上,同1審原告らのうちA29は,平成15年9月5日に小松市K町m丁目n番地に転居したものとされているから,上記陳述書の記載はこれに反する限度では採用できず,同日以降の上記A29の申告居住地での居住は認められない。
ケ 3次A30
同1審原告にあっては,申告居住地が加賀市L町M「o番地のp」とされ,原審で提出された3次A31作成の陳述書(甲A1477)上も,A31らと同所で同居しているものとして記載されているが,公的資料上は,昭和46年8月以降,加賀市L町M「o番地のq」に居住しているものとされ,当審で提出された3次A31作成の陳述書(甲A1941)でも,加賀市L町M「o番地のq」に居住しているものとされているから,同1審原告について,上記申告居住地での居住の事実は認められないというべきである。
3 侵害行為(本件飛行場の使用状況等)
侵害行為(本件飛行場の使用状況等)についての当裁判所の認定は,次のとおり補正するほか,原判決の「理由」欄の第2に記載のとおりであるから,これを引用する。
すなわち,当審において提出された新たな証拠(騒音の測定結果に関する書証,1審原告らの陳述書,当審における検証の結果等)を踏まえても,自衛隊機の離着陸等及び騒音発生の回数ないし頻度,飛行騒音の程度には,従前と比べて,受忍限度の判断に影響を与えるほどの大きな変化はないというべきである。
(原判決の補正)
(1) 原判決44頁3行目末尾に次のとおり加える。
「具体的には,平成9年1月2日,ロシア船籍のナホトカ号が島根県隠岐島沖で海難事故を起こし,大量のC重油が流出した際,本件飛行場から発進した自衛隊機(ヘリコプターを含む。)が乗員を救出するとともに,回収した油が詰まっている土嚢を輸送するなどしたことが認められる(乙86ないし88)。」
(2) 原判決50頁14行目の次に,次のとおり加える。
「そして,平成11年度から平成15年度まで5年間の集計結果は,概ね次のとおりである(甲E116ないし120,乙89の15ないし17)。
まず,年間を通じた1日平均騒音発生回数についてみると,小松市小島町は平成11年度が約54回,平成12年度が約38回,平成13年度が約39回,平成14年度が約41回,平成15年度が約39回,加賀市伊切町は平成11年度が約41回,平成12年度が約36回,平成13年度が約38回,平成14年度が約44回,平成15年度が約42回であり,平成9年度及び10年度の傾向と概ね同様であるといえる。
次に,曜日別の1日平均騒音発生回数をみると,小松市小島町では平日(月曜日から金曜日まで)の平均は平成11年度が約69回,平成12年度が約50回,平成13年度が約51回,平成14年度が約53回,平成15年度が約49回であるのに対し,土曜日,日曜日は平成11年度が約17回,平成12年度が9回,平成13年度が約9回,平成14年度が11回,平成15年度が約14回で,加賀市伊切町でも同じく平日の平均は平成11年度が約49回,平成12年度が約43回,平成13年度が約46回,平成14年度が約53回,平成15年度が約50回であるのに対し,土曜日,日曜日は平成11年度が20回,平成12年度が19回,平成13年度が19回,平成14年度が約21回,平成15年度が23回となっており,これも,平成9年度及び10年度の傾向と概ね同様であるといえる。
さらに,両測定点の時間帯別の1日平均騒音発生回数についても,午前8時台から午後4時台の回数がやや低下し,平成12年度以降は概ね平均約2回ないし約5.5回程度であり,平成15年度には5回以上の時間帯がなくなったほかは,基本的には従前と同様の傾向である。
このように,平成11年度から平成15年度まで5年間の集計結果を見ても,従来と大きな変化はないということができる。」
(3) 原判決53頁16行目の次に,次のとおり加える。
「そして,1審原告団及び1審原告弁護団は,平成11年8月から平成15年10月まで調査を行い(以下「新調査」という。),その結果も奥村弁護士により報告書にまとめられている(甲E101ないし103)。なお,1審被告は,同報告書の信用性を否定する主張をするが,従前の報告書と同様に,大筋では信頼に値するデータが得られているものと評価すべきである。
新調査は,平成11年に7日間(8月23日,26日,31日,9月7日,8日,14日,22日),平成12年に5日間(4月24日,25日,8月23日,24日,25日),平成13年に5日間(4月17日,18日,19日,9月12日,13日),平成14年に5日間(6月24日,25日,26日,9月19日,20日),平成15年に6日間(6月16日,17日,18日,10月6日,7日,8日)の合計28日間行われた。
従前と比較するため,丸の内定点における調査日ごとの航空機騒音の発生回数についてみると,ピーク騒音レベルdB(A)値70以上の騒音発生回数が50回を超えたのは,平成11年が7日中6日,平成12年が5日中5日,平成13年が5日中4日,平成14年が5日中4日,平成15年が6日中6日とかなり多く,そのうち平成11年の3日(8月23日,26日,31日),平成12年の2日(4月25日,8月24日),平成13年の1日(4月17日),平成14年の1日(9月19日),平成15年の4日(6月18日,10月6日,7日,8日)は100回を超えた一方,30回を下回る日は,平成11年に1日だけあった。上記数値を従前のものと比較すると,数値上は騒音の発生回数が増加しているように見える。
もっとも,本件飛行場では,例年航空祭が行われ,その際に展示飛行が実施されるため,航空祭の直前の時期は展示飛行のための事前訓練が多く行われ,騒音状況も通常の時期よりうるさくなるところ,新調査の調査日28日のうち9日が航空祭の1週間前に当たり,これは従前の調査に比して多い日数であることが認められる(1審原告本人A32,弁論の全趣旨〔1審被告準備書面6〕)。このことを考慮すると,上記の数値の比較から,直ちに,航空機騒音の発生回数が従前よりも増加したということはできない。」
(4) 原判決56頁7行目の次に,次のとおり加える。
「そして,当審でも,平成17年10月13日,本件飛行場周辺地域6箇所において検証を実施したが,その際の自衛隊機の飛来状況は,以下のとおりである。① 安宅海浜公園(小松市安宅町第4区)では,午前8時49分から9時59分まで騒音測定が実施され,その間,自衛隊機13機が飛来した。② 1審原告A33宅(小松市城北町r番地)では,午前10時16分から10時35分まで騒音測定が実施されたが,10時25分から10時35分までの間は,居室内において当事者の指示説明が行われたため,航空機の飛来状況は確認できず,その余の時間において,自衛隊機3機が飛来した。③ 丸の内定点(小松市丸の内町s丁目t番地先路上)では,午前10時51分から11時58分まで騒音測定が実施され,その間,自衛隊機12機(その他,自衛隊機か民間機か不明な航空機1機)が飛来した。④ 小松市浜佐美町内集団移転跡地では,午後1時30分から1時37分まで騒音測定が実施され,その間,自衛隊機1機が飛来した。⑤ 本件飛行場滑走路南端では,午後1時43分から1時59分まで騒音測定が実施され,その間,自衛隊機16機が飛来した。⑥ 片野町公民館(加賀市片野町u-v-w)では,午後2時28分から2時46分まで騒音測定が実施されたが,飛来した航空機はなかった。」
(5) 原判決57頁5行目の次に,次のとおり加える。
「そして,当審において提出された平成11年度から平成15年度までの測定結果や,当審における検証の結果等を踏まえても,上記の自衛隊機の離着陸等及び騒音発生の回数ないし頻度に,従前と大きな変化はないということができる。」
(6) 原判決57頁10,11行目の「日WECPNLの年平均値(パワー平均)」を「日WECPNLの年平均値(パワー平均,環境基準方式により測定)」
と改める。
(7) 原判決58頁15行目の次に,次のとおり加える。
「そして,その後の平成11年度から平成13年度までの測定地点ごとの日WECPNLの年平均値(パワー平均,環境基準方式により測定)の推移についてみると,概ね次のとおりである(乙89の17〔表―14〕)。
まず,常時測定点のうち小松市小島町(85コンター)では,一貫して80前後の数値で推移してきたが,平成11年度が80,平成12年度が81,平成13年度が78と同様の傾向が続いている。一方,加賀市伊切町(85コンター)では,平成11,12年度が76,平成13年度が77と,平成3年度以降80前後で推移してきたのに比べ,やや低くなっている。
次に,他の測定地点の主なデータをみると,小松市下牧町(牧農協,85コンター)では,平成12年度には88と,平成6年度と並ぶ最高値を記録したほか,平成11,13年度が87と,従前に比しても高い水準で推移している。小松市日末町(日末地区学習等供用施設,80コンター)では,平成元年度以降は76以上79以下の範囲内の数値で推移してきたところ,平成11,12年度は76であったが,平成13年度は75となり,昭和60年度以降の最低値を示した。また,小松市高堂町(75コンター)では,平成3年度以降は71ないし74で推移してきたところ,平成11年度が71,平成12年度が73であったが,平成13年度は70となり,昭和60年度以降の最低値を示した。加賀市片野町(片野町公民館,75コンター)では,平成11年度が65,平成12,13年度が67と,平成9,10年度と同様の水準で推移している。川北町壱ツ屋(川北小学校,75コンター)では,平成11年度が67,平成12年度が65,平成13年度が66と,平成8ないし10年度と同様の水準で推移している。
このように,平成11年ころ以降,日WECPNLの年平均値(パワー平均,環境基準方式)の数値がやや低くなった測定地点もある反面,従前と同様かむしろ高い水準となった測定地点もある。したがって,上記測定結果から直ちに,1審被告の主張するように,従前に比べ本件飛行場周辺の騒音の発生が減少したと断定することはできない。」
(8) 原判決59頁18行目の次に,次のとおり加える。
「そして,奥村弁護士作成の新調査に係る前出報告書(甲E101ないし103)に現れた1審原告らの新調査結果を,調査日ごとの騒音測定時の状況についてみても,概ね従前の状況と同様である。」
(9) 原判決60頁21行目の次に,次のとおり加え,同頁22行目の「エ」を「オ」と改める。
「そして,前記のとおり,当審でも平成17年10月13日に検証を実施し,その際,1審原告,1審被告双方が騒音測定を行ったが,検証時の自衛隊機の離着陸等に伴う騒音の大きさは,概ね以下のとおりである(なお,原審における検証結果の検討と同様の理由により,1審被告の測定結果を基にみていくこととする。)。① 安宅海浜公園(小松市安宅町第4区)では,ピーク騒音dB(A)値で62が1回,65が1回,71が2回,75が1回,76が1回計測された。ちなみに,民間機の離着陸時には,54,55,57が各1回ずつ計測された。② 1審原告A33宅(小松市城北町r番地)では,61が2回計測された。③ 丸の内定点(小松市丸の内町s丁目t番地先路上)では,69が1回,70が1回,73が2回,75が1回,82が2回,84が1回,87が2回,91が1回(その他,海上自衛隊機の着陸に伴い,62が1回)計測された。ちなみに,民間機の着陸時に80が1回計測された。④ 小松市浜佐美町内集団移転跡地では,74が1回計測された。⑤ 本件飛行場滑走路南端では,88が1回,89が1回,90が2回,91が3回,93が1回(その他,測定不能が2回)計測された。⑥ 片野町公民館(加賀市片野町u-v-w)では,飛来した航空機がなかったため,測定結果はない。
エ 1審被告の騒音測定結果
(ア) 1審被告は,関係地方公共団体との共同調査のほかに,防衛施設庁が独自に,本件飛行場周辺6箇所(本件飛行場内を除く。)において,24時間常時測定を行っており,その昭和60年度から平成14年度までの測定結果に基づき環境基準方式及び防衛施設庁方式により算定したW値は,概ね以下のとおりである(乙91の1ないし3。防衛施設庁方式による数値を括弧内に併記した。)。① 片野公民館(加賀市片野町u-v-w,75コンター)においては,66ないし76(68ないし78)の間で推移し,平成6ないし10年度は70ないし74(71ないし76)であるのに対し,平成11年度以降は66ないし68(68ないし71)である。② 潮津保育園(加賀市潮津町x,コンター区域外)においては,65ないし70(69ないし74)の間で推移し,平成6ないし10年度は66ないし68(70ないし73)であるのに対し,平成11年度以降は65ないし67(69ないし70)である。③ 御幸中学校(小松市村松町y,75コンター)においては,65ないし73(69ないし75)の間で推移し,平成6ないし10年度は65ないし66(69ないし70)であるのに対し,平成11年度以降は66ないし70(70ないし73)である。④ こばと保育園(小松市上小松町z,75コンター)においては,66ないし70(70ないし76)の間で推移し,平成6ないし10年度は68ないし70(72ないし75)であるのに対し,平成11年度以降は66ないし69(70ないし74)である。⑤ 根上子供の家(能美市福岡町α,コンター区域外)においては,65ないし71(70ないし74)の間で推移し,平成6ないし10年度は67ないし71(71ないし74)であるのに対し,平成11年度以降は65ないし66(70)である。⑥ 粟生小学校(能美市粟生町β,75コンター)においては,66ないし72(69ないし75)の間で推移し,平成6ないし10年度は66ないし71(70ないし74)であるのに対し,平成11年度以降は66(69ないし70)である。
上記結果によれば,平成11年ころ以降W値が従前に比べてやや低い値を示す測定箇所が見受けられるものの,逆にそのころ以降W値が増加したり(上記・※),あるいはほぼ横ばい傾向が続いている(上記・※等)測定箇所もあるのであるから,上記結果から直ちに,1審被告が主張するように,本件飛行場周辺の騒音が減少傾向にあると断定することはできない。
(イ) また,1審被告は,平成15年7月24日から30日までの連続した7日間,本件飛行場周辺10箇所において,騒音測定を実施したところ,その測定結果に基づき環境基準方式により算定したW値は,① 篠原新町民会館(加賀市篠原新町γ番地,85コンター)では74,② 新保青少年会館(加賀市新保町δ番地,80コンター)では75,③ 浜佐美町内会事務所(小松市浜佐美町ε,85コンター)では82,④ 松崎町生活改善センター(小松市松崎町ζ,75コンター)では72,⑤ 向本折町公民館(小松市向本折町η,75コンター)では63,⑥ 小松市桜木体育館(小松市桜木町θ番地,85コンター)では73,⑦ 園町会館(小松市園町ι,80コンター)では72,⑧ 坊丸地区会館(小松市坊丸町κ,80コンター)では79,⑨ 長田会館(小松市長田町λ,75コンター)では77,⑩ 高坂町会館(能美市高坂町μ番地,80コンター)では75となった(乙94の1及び2,弁論の全趣旨)。」
(10) 原判決61頁5行目の次に,次のとおり加える。
「そして,当審において新たに提出された測定結果や,当審における検証の結果等を踏まえても,上記の自衛隊機の飛行騒音の程度に,従前と大きな変化はないということができる。」
4 騒音障害の防止軽減策
騒音障害の防止軽減策についての当裁判所の認定は,次のとおり補正するほか,原判決の「理由」欄の第3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
(1) 原判決67頁12行目の次に,次のとおり加える。
「(8) 平成13年度以降の状況(乙163の4ないし18,弁論の全趣旨)
1審被告は,平成13年度以降も(必要に応じて過去分についても言及する。),引き続き各種周辺対策を実施しており,その詳細は,別添「1審被告最終準備書面」別冊Ⅰの第4ないし18表記載のとおりであるが,その概略を見ると,以下のとおりである。
ア 障害防止工事の助成等(生活環境整備法3条)
(ア) 障害防止工事の助成(同条1項)については,用排水路改修工事に係る昭和52年度から平成16年度までの補助額が4億4105万1000円,テレビ共同受信施設設置事業に係る昭和51年度から平成14年度までの補助額が6億5700万4000円である(乙163の13及び14)。
(イ) 学校,病院等の防音工事の助成(同条2項)については,昭和35年度から平成17年度までの事業対象施設数が158,補助額が306億2178万2500円である(乙163の5)。また,防音事業関連維持費については,平成17年度から生活環境整備法3条2項に基づくものとなり,平成17年度の対象施設数は144,昭和48年度から平成17年度までの補助額は14億7980万9000円である(乙163の6)。
イ 移転の補償等(生活環境整備法5条)
対象家屋のうち平成13年度から平成17年度までに73戸が移転したことにより,移転済み戸数は571戸に達し,土地の買入れを含む補償に要した費用は総額224億855万8000円となった(乙163の4)。また,移転先地の公共施設整備事業に係る助成措置(同条3項)として,小松市が平成14年度から平成17年度まで実施した事業に対し,13億7618万1000円が支出されている(乙163の15)。
ウ 緑地帯の整備(生活環境整備法6条)
昭和46年度から平成17年度までに,56.32ヘクタールの緩衝緑地帯の整備について,4億8900万円が支出された(乙163の16)。
エ 民生安定施設の助成(生活環境整備法8条)
(ア) 防音工事の助成については,昭和41年度から平成17年度までの事業実績は,施設数が164,補助額が75億4137万8000円である(乙163の7)。
(イ) 一般助成については,昭和35年度から平成17年度までの事業実績は,件数が115件,補助額が179億4072万2000円である(乙163の8)。
オ 特定防衛施設周辺整備調整交付金(生活環境整備法9条)
昭和50年度から平成17年度までの支出額は,小松市について72億2883万5000円,加賀市について19億5425万円である(乙163の9)。
カ 損失の補償(生活環境整備法13条)
昭和42年度から平成17年度までの農耕阻害に係る損失の補償の実績は,対象者数が9964人,補償金額が7274万4000円である(乙163の17)。
キ その他
(ア) テレビ受信料の助成については,昭和45年度から平成17年度までの実績は,件数が延べ37万8113件,補助額が22億7940万9000円である(乙163の11)。
(イ) 小松市に対する国有提供施設等所在市町村助成交付金については,昭和32年度から平成17年度までの総額は84億6277万3000円である(乙163の10)。」
(2) 原判決69頁11行目の次に,次のとおり加える。
「1審被告は,平成13年度以降も引き続き,住宅防音工事の助成事業を実施しており,その詳細は,別添「1審被告最終準備書面」別冊Ⅰの第3表記載のとおりであるが,その概略を見ると,以下のとおりである(乙163の3,弁論の全趣旨)。
生活環境整備法に基づく住宅防音工事については,平成17年度までに,1万6041世帯について新規工事が完了し,1万1843世帯について追加工事が完了しており,それらに対する補助額は600億8519万8000円に上る。また,特定住宅に係る防音工事助成事業については,平成17年度までに,467世帯の新規工事が完了し,347世帯の追加工事が完了しており,それらに対する補助額は24億5493万4000円であり,建替防音工事助成事業については,平成17年度までに237世帯が完了しており,補助額は11億1156万7000円である。さらに,空調機器機能復旧工事については,平成17年度までに1万1829世帯が完了し,補助額は33億7828万6000円であり,防音建具機能復旧工事については,平成17年度までに576世帯が完了し,補助額は5億4278万8000円である。
さらに,1審被告は,平成14年度から,W値85以上の区域に所在する住宅について,外郭防音工事(居室以外の廊下,階段,浴室,便所等も含めて,家屋全体を遮音構成上一つの区画となるようにし,その外郭について実施する防音工事であり,防音工事実施済みの住宅であるかどうかや世帯人員数にかかわらず,W値85以上の区域に所在する住宅であれば対象となるもの)の助成事業を開始した(乙99,100)。外郭防音工事については,平成17年度までに188世帯が完了し,補助額は10億2361万4000円である。
なお,1審被告は,平成14年7月に「飛行場周辺における環境整備の在り方に関する懇談会」が行った「飛行場周辺における幅広い周辺対策の在り方に関する報告」(乙101)を踏まえ,住宅防音工事の一環として設置された空気調和機器(冷暖房機等)の電気料金の負担を軽減するために,太陽光発電システムの設置の助成を実施することについて検討を始めるとともに,平成15年度から,原則としてW値が90以上の区域に所在する住宅を対象として,そのためのモニタリング事業を開始した(乙102)。太陽光発電システムとは,住宅の屋根等に太陽電池モジュールを設置し,発電した電気を家庭内で利用するとともに,余剰電力が発生した場合には,電力会社に売電することができるシステムである(乙103ないし105)。しかしながら,上記モニタリング事業は,あくまで調査段階にすぎず,その実施規模は,1審被告の主張によっても未だ111世帯に止まる(そのうち,1審原告らは11世帯34名のみである。)ものであるし,太陽光発電システムを設置した住宅において実際にどの程度の電気料金の負担が軽減されるのかを認めるに足りる証拠はない(なお,1審被告は,1審原告らのうち太陽光発電システムの設置を受けた者の世帯についての同システムの発電量及び余剰電力販売量を主張するが〔1審被告第7準備書面別表3〕,これらの数値は日照時間等の天候により大きく左右されるものと推認されるから,その平均的な傾向を把握するためにはある程度長期間にわたるデータに基づく分析が必要であると解されるところ,上記主張は,最長でも1年半にすぎない短期間の数値に係るものであるから,上記主張内容によっても,同システムによる電気料金の負担が長期的にどの程度軽減されるのかを認めるには足りないというべきである。)。」
(3) 原判決70頁2行目ないし11行目を次のとおり改める。
「争いのない事実及び証拠(乙106ないし125,137ないし161,乙163の1)によれば,1審原告らの居宅に関する防音工事助成措置(太陽光発電システムに係るモニタリング事業を除く。)の平成17年度末現在における実施状況は,別添「1審被告最終準備書面」別冊Ⅰ第1表のとおりであり,そのうち前記認定の1審原告らの各居住地に係る部分のみを示せば,別添「1審被告最終準備書面」別冊Ⅱ別表Ⅱ-2(1)「陳述書記載・危険接近・住防実績等一覧」中の「新規工事」「追加工事」「一挙工事」「建替工事」「外郭工事」欄に記載されたとおりである(ただし,3次A34の「新規工事」欄を「室数・2,完了年月日・昭和63年11月22日」と改める。)と認められる。
これによると,1審原告らの居宅は既に追加工事も終えて4室ないし5室の防音室を備えているものが多く,中には平成11年度から実施されている建替防音工事の助成措置や平成14年度から実施されている外郭防音工事の助成措置を受けた世帯も,多くはないが一部存するところである。」
(4) 原判決71頁9行目の次に,次のとおり加える。
「ウ 1審被告による防音工事効果の測定
1審被告は,平成15年7月2日及び3日,住宅防音工事済みの住宅2軒(1軒は,能美郡根上町高坂町の80コンターに所在し,もう1軒は,小松市浮柳町の85コンターに所在する。)において,防音室内と屋外とに騒音計及び記録計を設置し,騒音のピークレベルを同時に測定した。なお,測定は,① 屋外に設置したスピーカーから,防音工事の仕方書(乙95)に定められた500Hzの音響を発生させて測定する方法と,② 実際に計測時間中に飛来した航空機の騒音を測定する方法の両方により行われた。その結果,いずれの測定方法によっても,第Ⅰ工法の計画防音量である25dB(A)を上回る30dB(A)以上の防音効果が確認された(乙96)。」
(5) 原判決73頁22行目末尾に「新調査に係る報告書(甲E101)でも,同様の調査結果とされている。」を加える。
5 1審原告らの被害状況
1審原告らの被害状況についての当裁判所の認定は,次のとおり補正するほか,原判決の「理由」欄の第4に記載のとおりであるから,これを引用する。
すなわち,本件飛行場周辺における航空機騒音による1審原告らの共通被害として,睡眠妨害の発生や,身体的疾患・障害の発症,あるいはその罹患・発症の危険性の高い状態を惹起されたことまでは認めるに足りない一方,1審原告らのうち,いわゆるコンター外勤務者や,当審においても陳述書を提出しない若干名についても,騒音暴露地域に生活の本拠を置く住民が等しく被る共通被害が認められるものというべきである。
(原判決の補正)
(1) 原判決76頁2,3行目の「ただし,後述するとおり未提出の者も少なくない。」を「ただし,後述するとおり,陳述書を提出しない1審原告らも,原審段階では相当数に上っており,当審においてほとんどの1審原告らから陳述書が提出されたものの,なお若干名の者が陳述書を提出していない。」と改める。
(2) 原判決76頁15行目の次に,次のとおり加える。
「そして,当審においても,被害の実情に関して,1審原告本人A35,同A36,同A37の尋問が行われた。また,1審原告ら作成の陳述書が新たに多数提出されており(甲A1654ないし2124,甲B147ないし192),その具体的内容の要旨は,別紙「当審陳述書要旨」に記載のとおりである。これらの内容は,以下に整理した原審における1審原告らの訴えの内容と基本的に同様であるということができる。」
(3) 原判決99頁8行目の次に,次のとおり加える。
「ウ さらに,B医師は,85コンターに居住し,交代制勤務に従事するため昼間に睡眠をとる必要がある50代の男性2名を被験者として,航空機騒音の睡眠に与える影響を調査し,その調査方法,調査結果及び考察を意見書(甲E105)としてまとめ,それが当審に提出された。その内容は概ね次のとおりである。
調査期間は,平成17年10月24日から29日までである。騒音の測定は,被験者の家の近くで道路から離れた場所にデジタル騒音計を置き,1秒ごとに行った。また,10月25日の午前10時から12時までと午後1時から5時まで,被験者の家の近くで航空機の目視調査をし,上記騒音測定データとつきあわせを行った。一方,被験者には,入浴や洗面等を除いて,自宅にいる間,マイクロミニ型アクチグラフ(0.01G以上の加速度を0.1秒ごとにサンプリングし1分単位でカウントした加速度の回数を記録するもの)を左手に装着してもらい,身体活動数を測定し,その測定結果をアクチグラフ付属の解析ソフト「AW2」を用いて解析し,睡眠と覚醒の判別を行った。
そして,騒音測定の結果と目視調査の結果を比較すると,この地域では,騒音測定で70dB(A)を3秒以上超えた場合,その騒音の98パーセントが航空機(民間機やヘリコプターを含む。)による騒音であり,さらに,航空機騒音の90パーセントが自衛隊機による騒音であったことから,調査結果を導く前提として,騒音測定で70dB(A)を3秒以上超えた騒音の回数と秒数をすべて自衛隊機による騒音と扱った。
その上で,① 昼間睡眠の就寝までの1時間当たりの航空機騒音の回数及び騒音秒数が多いほど,就寝時刻が遅れており,非常に強い関連が見られた,② 昼間睡眠の睡眠中1時間当たりの騒音秒数が増えるほど,睡眠持続時間が短縮しており,有意で強い関連を示した,③ 頻回で長い航空機騒音と起床時とが一致することがあったことから,頻回で長い騒音のために睡眠が中断され,そのまま起床となった可能性が高いと考えられた,④ 睡眠中の航空機騒音の回数・秒数ともに増えるほど,覚醒回数が増える傾向が見られ,騒音秒数との関連が強かった,とし,結論として,航空機騒音が睡眠時間の短縮と睡眠の質の悪化という両面で睡眠障害をもたらしていることが明らかとなったとしている。」
(4) 原判決101頁18行目の次に,次のとおり加える。
「なお,当審において提出されたB医師作成の意見書(甲E105)及びこれと同旨の当審におけるB証人の証言について検討すると,上記意見書に係る調査は,前記のとおり,交代制勤務に従事するため昼間に睡眠をとる必要がある50代の男性2名を被験者としてされたものであるところ,このようにわずか2名を対象にした調査から疫学上有意な結論を導くことには問題があるといわざるを得ない(なお,B証人自身も,本来は,より多数者を対象にした調査を行うべきである旨を自認している〔当審証言39,40,55頁等〕)。また,1審原告らは,本件飛行場周辺における航空機騒音による共通被害を主張しているのであるから,交代制勤務に従事するため昼間に睡眠をとる必要がある者という,1審原告らのうちの多数の者の生活スタイルとは明らかに異なる生活スタイルによっている者を対象とした上記調査の結果をもって,上記の共通被害の立証があるということはできず,まして,上記判示のとおり,深夜から早朝にかけての通常の睡眠時間帯においては自衛隊機の離着陸・飛行により安眠を妨げられる頻度も大幅に減少していると認められることや,B証人自身も当審において証言するとおり,交代勤務者は睡眠が短くなったり浅くなったりする傾向があり,一般の生活スタイルによっている者に比較して,騒音に関して高感受性であること(当審証言36,37頁等)も考慮すれば,なおさらである。
したがって,上記意見書及びこれと同旨の当審におけるB証人の証言を検討しても,1審原告らの共通被害として睡眠妨害が発生していることを認めるに足りず,上記判示を左右しない。」
(5) 原判決103頁15行目の次に,次のとおり加える。
「この点につき,1審被告は,本件飛行場周辺の騒音は平日の日中に集中しているところ,1審被告による騒音測定のデータ(乙91の3)に基づき,1審原告らのうちコンター区域外の事業所での就労者(コンター外勤務者)の多くがコンター区域外に所在しているものと推定される平日の午前9時から午後5時までの騒音を控除したW値を算出すると,騒音コンターの基準値よりもはるかに低い数値を示しているから,上記の者については,少なくとも,当該居住地のコンター区分より1段階低いコンター区分をもって論ずるべきである旨主張する。
そこで検討すると,1審被告による騒音測定のデータ(乙91の3)に基づくと,平成12年度における午前9時から午後5時までの1日当たりの騒音発生回数が1日当たりの平均騒音発生回数に占める割合は,62ないし75パーセントであり,その平均値は約69パーセントとなり,平成13年度における上記割合は,64ないし77パーセントであり,その平均値は約71パーセントとなり,平成14年度における上記割合は,62ないし72パーセントであり,その平均値は約68パーセントとなることが認められる(弁論の全趣旨〔1審被告の当審第4準備書面別表4〕)。したがって,1審被告による騒音測定のデータによっても,1日当たりの騒音発生回数のうち約3割に上る部分が,1審原告らのうちの有職者であってもその大多数が職場の勤めを終えて夕刻帰宅し,休息・団らんし,夕食等を家族と過ごすなどして,翌朝出勤するまでの時間帯と考えられる午後5時から翌朝午前9時までの時間帯に発生しているのである。さらに,上記判示のとおり,生活の本拠である住居地の平穏を害されることがもたらす精神的苦痛の大きさは,単に,直接騒音に暴露されている時間の長短のみでは計り得ないものがあるというべきであることも考慮すれば(日中コンター区域外に通勤している者であっても,帰宅すれば,日中コンター区域内に生活していて自衛隊機等の騒音被害を被っている家族の下で生活することになるのであり,その際,同居家族から騒音被害の状況で不満を言われたりしても,これに対応して生活していかざるを得ないことを考えると,日中騒音被害を被る同居家族の精神的苦痛は,日中コンター外勤務者にとっては自己の精神的苦痛という面もあるのである。),1審原告らのうち有職者で,日中の騒音に暴露される機会の少ない者であっても,なお騒音暴露地域に生活の本拠を置く住民が等しく被る日常生活妨害を被っているというべきである。」
(6) 原判決103頁19行目の「相当数に上っており」を「原審段階では相当数に上っていたが,当審においてほとんどの1審原告らから陳述書が提出されたものの,なお若干名の者が陳述書を提出していないところ」と改める。
(7) 原判決105頁11行目の「簡潔な事項であり,しかも,先に判示したとおり」を「項目であるが」と改め,同25行目末尾に「当審におけるB証人の証言を検討しても,上記判示を左右しない。」を加える。
6 1審被告の損害賠償責任
1審被告の損害賠償責任についての当裁判所の判断は,次のとおり補正するほか,原判決の「理由」欄の第5に記載のとおりであるから,これを引用する。
すなわち,当裁判所も,1審原告らのうち第1種区域内に居住する者,すなわちコンター内居住1審原告らについては,75コンター居住1審原告らを含め,また,コンター外勤務者も含め,受忍限度を超える被害が生じているものと認めるのが相当であり,また,1審被告の助成に係る防音工事(外郭防音工事を含む。)の施された家屋に居住する1審原告らについても,その被害が受忍限度内に収まるとみることは到底できず,せいぜいその慰謝料額を算定するに際し防音室数に応じた一定割合の減額を施す程度のしん酌をするにとどめるのが相当であると判断する。
(原判決の補正)
(1) 原判決110頁25行目の次に,次のとおり加える。
「なお,1審被告は,10・4協定について,1審被告が基地周辺の航空機騒音防止対策に関する総合的施策を有効適切に実施するに当たっての行政上の目的を示したものであって,騒音等についての具体的な数値,基準を定めたものではないから,1審被告の措置について具体的な数値等の違反は生じ得ず,10・4協定に違反するという事態もおよそ生じ得ない旨主張する。しかしながら,10・4協定が行政上の目的を示したものであったとしても,そこには,前記のとおり,「航空機騒音に係る環境基準」に従って,公共用飛行場の区分第2種Bについて定められている期間内(昭和58年12月27日まで)に速やかに環境基準(WECPNL75以下)の達成を期すること等が定められているのであるから,この行政上の目的を示した定めが,10・4協定の締結から30年以上が経過した今日に至っても,十分には履践されず達成されていないことに何ら変わりはない。」
(2) 原判決111頁2,3行目の「見当たらない。」の次に,「なお,1審被告は,自らが周辺住民のために諸対策を講じ,努力していること自体が周辺住民の騒音源に対する否定的評価を解消又は軽減する旨主張する。しかしながら,1審被告が種々の周辺対策(住宅防音工事を除く。)を継続的に行っているからといって,本件飛行場周辺の住民の被る航空機騒音自体に変化があるわけでなく,住民の被害がなくなるわけではないから,侵害行為の違法性(受忍限度)を考えるに当たって,1審被告が主張するような主観的な要素を重視することはできない。」を加える。
(3) 原判決111頁16ないし18行目の「かえって,基地が存在することで外部からの攻撃対象にされるのではないかという不安感を周辺住民らに与える面を有しているのであって,このことも考慮すれば,」を削除する。
(4) 原判決111頁22行目の次に,次のとおり加える。
「この点に関し,1審被告は,本件飛行場が,大規模災害等への対応により,地域社会に多大の貢献をしている旨主張する。
そこで検討すると,たとえば,平成9年にタンカー沈没による大規模重油流出事故が発生した際,本件飛行場から飛行した自衛隊機が乗員を救出するとともに,回収した油が詰まっている土嚢を輸送するなどしたことは,前記のとおりであり,このような大規模災害等への対応も本件飛行場の公共的役割の一つであるというべきであるが,このような役割も,本件飛行場の周辺住民に限ってより多くの福利・便益をもたらすものとはいえず,周辺住民の騒音による被害と周辺住民が受ける福利・便益との間に,前者が増大すれば必ず後者も増大するというような関係があるとは認められないから,このような役割を考慮しても,上記判示を左右するものではない。
一方,1審原告らは,本件飛行場についての公共性の有無を検討するためには,その前提として,自衛隊及び在日米軍についての憲法判断が不可避であり,自衛隊及び在日米軍が憲法9条に違反する存在である以上,自衛隊機及び米軍機が離着陸する本件飛行場にも公共性はない旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件のうち損害賠償請求は,1審原告らが自衛隊機及び米軍機の発する騒音により身体的・精神的被害等を被っているとして,国家賠償法2条1項に基づき損害金の支払を求めた事案であり,あくまで通常の私法秩序に係る一般の民事訴訟であることは明らかであるから,そこにおいて公法秩序上,自衛隊及び在日米軍が憲法9条に違反するか否かを論ずる必要はない。本件のうち損害賠償請求についても,本件飛行場に付与されている役割(公共性)を考慮すべきであることは,上記判示のとおりであるが,そこでは,通常の私法秩序における一定の社会的有用性を有するか否かを判断すれば足りると解すべきである。そして,本件飛行場が,我が国の国防政策上,日本海側随一の航空自衛隊基地施設として枢要な役割を付与されており,また,大規模災害等への対応の役割をも担っている以上,上記の意味での公共性を有することは明らかである。したがって,1審原告らの上記主張は採用できない。」
(5) 原判決112頁1行目の次に,次のとおり加える。
「この点について,1審被告は,前記の1審被告と関係地方公共団体との共同調査結果,及び1審被告自身の騒音測定結果によれば,実際の環境基準方式によるWECPNLは,告示コンターに示されたW値を大きく下回る値となっているから,侵害行為の程度は,告示コンターではなく,実勢騒音に基づいて判断されるべきであり,とりわけ75コンター居住1審原告らについて騒音被害が受忍限度を超えていない旨主張し,コンター外勤務者についてもほぼ同様の主張をする。
しかし,前記第4の1の事実及び弁論の全趣旨によれば,本件飛行場周辺地域に関するコンター及びその区分(75コンター,80コンター,85コンター,90コンター及び95コンター)は,1審被告自身が,本件飛行場周辺地域に関する自衛隊等の航空機の離陸,着陸等による騒音の程度を調査し,関係する市町村の意見も参酌する等した上で,生活環境整備法に従って,本件飛行場周辺地域において自衛隊等の航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施による騒音障害が著しいと認められる地域を第1種区域(W値75以上であり,75コンター,80コンター,85コンターがこれに属する。)と指定し,そのうち同障害が特に著しいと認められる地域を第2種区域(W値90以上であり,90コンターがこれに属する。)と指定し,第2種区域の一部を第3種区域(W値95以上であり,95コンターがこれに属する。)と指定してきたもので,このコンター区域は昭和59年12月の告示後変更されていないのであるから,第1種区域に指定されている地域(第2種区域に指定されている地域を除く。)に居住する1審原告らは,本件飛行場で離着陸等する自衛隊機等によりそれぞれ上記各コンター区分に相当する著しい騒音被害を被っており,第2種区域及び第3種区域に指定されている地域に居住する1審原告らは,本件飛行場で離着陸等する自衛隊機等により上記各コンター区分に相当する特に著しい騒音被害を被っているものと推認するのが相当であるというべきである。1審被告の上記主張は,これに反するものであるが,第1種区域ないし第3種区域に居住する住民が本件飛行場で離着陸等する自衛隊機等により被っている騒音被害の内容及び程度は,当該住民が居住する住宅の構造,生活形態(就業者か否か,就業者であっても自営業者か勤務者か,さらに勤務者であっても,勤務場所や勤務条件がどうかなど)等の生活状況により,具体的な暴露の時間及び態様において様々であるのが通常であるところ,1審原告らの損害賠償請求は,1審原告らが,個々の生活状況の相違による暴露時間及びその程度を捨象して,コンター区分毎にそれに相応する騒音被害を被っているとして,それによる損害に対する賠償を求めているのであるから,このような本件訴訟の在り方に照らしても,上記各コンター区域に居住する1審原告らは,当該コンター区分に相当する上記騒音被害を被っているものと推認するのが相当である(なお,仮に,1審被告において,上記各コンター区分あるいは区域指定が本件飛行場における自衛隊機等による騒音被害の実情とそごし,到底維持すべきものでないと考えるのであれば,すみやかに生活環境整備法に従って告示改正手続を履践して,その是正を図ることができないではないのである。)。
加えて,既に詳細に認定説示したところによれば,本件飛行場の自衛隊機等による航空機騒音の実態等が上記各コンター区分が想定する騒音程度と近似した結果となっているものと認められるから,コンター内に居住している1審原告ら(承継に係る1審原告についてはその被承継人)は,75コンターに居住している者も含めて,等しく受忍限度を超える騒音被害を被っているものというべきであるが,1審被告の指摘に即して,さらに補足して検討する。
まず,前記のとおり,告示コンターに示されたW値は防衛施設庁方式により算定されたものである一方,1審被告が指摘する調査結果等に基づくWECPNLは,ほとんどが環境基準方式により算定されたものであるところ,そもそも,自衛隊機の騒音の評価に当たって防衛施設庁方式が採用されたのは,本来,WECPNLが年間を通して定常的な騒音量が存在する公共用飛行場(民間飛行場)を対象として考案された手法であり,不定期的飛行を常態とする自衛隊機の飛行場にこれをそのまま適用するのは不適切なためである。したがって,本件飛行場のように自衛隊機が使用する飛行場周辺のうるささを示す指標として,環境基準方式により算定されたWECPNLではなく,防衛施設庁方式により算定されたW値を使用することには,十分合理性があるというべきである。
次に,前記認定の1審被告及び関係地方公共団体の共同調査結果,並びに1審被告自身の騒音測定結果等によれば,これらに基づき環境基準方式により算定されたWECPNLは,防衛施設庁方式により算定された告示コンターのW値をある程度下回る傾向があることが認められる。しかしながら,前記のとおり,防衛施設庁方式においては,W値の算定の基礎となる飛行回数として,単純に年間総飛行回数を365日で除した値ではなく,飛行しない日も含め,1日の総飛行回数の少ない方からの累積度数曲線を求め,累積度数90パーセントに相当する飛行回数を,その防衛施設における1日の標準総飛行回数として計算している結果,本件飛行場についても,防衛施設庁方式により算出したW値は,環境基準方式によるものに比べ高くなる傾向があり,本件飛行場についても2ないし5程度高い値となっているのである。したがって,環境基準方式により算定されたWECPNLが,防衛施設庁方式により算定された告示コンターのW値をある程度下回っていても,そのことをもって直ちに,告示コンターのW値が実勢騒音と乖離したものであるということはできない。
なお,前記のとおり,1審被告自身が本件飛行場周辺6箇所において騒音の常時測定をした結果に基づき防衛施設庁方式によりW値が算定されており(乙91の1ないし3),それによれば,75コンターの片野公民館(前記・※),御幸中学校(前記・※),こばと保育園(前記・※)及び粟生小学校(前記・※)での平成11年度以降のW値は,順に,68ないし71,70ないし73,70ないし74,69ないし70であり,いずれも75に達していないものの,その中には73,74といった極めて75に近い値が含まれていることや,上記測定結果のうちコンター内のものは,75コンターのみについての4箇所しかないため,これらをもって直ちにコンター内全体の傾向を示すものとはいい難いことを考慮すれば,上記防衛施設庁方式によるW値をもってしても,告示コンターのW値が実勢騒音と乖離したものであるということはできない。
したがって,いずれにしても,1審被告の上記主張は採用できない。」
(6) 原判決112頁24行目の「若干のデータ」の次に「及び1審被告による防音工事効果の測定(平成15年7月2日及び3日実施)の結果」を加える。
(7) 原判決113頁19行目の次に,次のとおり加える。
「なお,1審被告は,平成14年度以降実施された外郭防音工事や,太陽光発電システム設置助成に係るモニタリング事業を踏まえれば,少なくともこれらの措置を受けた住宅に居住する1審原告らについては,従来の住宅防音工事に伴う閉塞感等の心理的,物理的マイナス面や,経済的負担の問題は解消されているというべきである旨主張する。
まず,外郭防音工事については,前記のとおり,居室以外の廊下,階段,浴室,便所等も含めて,家屋全体を遮音構成上一つの区画となるようにし,その外郭について実施する防音工事であるから,外郭防音工事を実施した家屋については,従前の住宅防音工事と異なり,防音工事が施された部屋に閉じこもらなくても防音効果が発揮されるため,従前の住宅防音工事に比較すれば,閉塞感がある程度緩和されるものと認められる。しかしながら,外郭防音工事を実施しても,1審原告らの前記訴えのうち,窓を開けられず室内を密閉することによる閉塞感,不健康さや空調機器使用に伴う経済的負担の重さ等の点については,従前の住宅防音工事と何ら変わるところはないというべきである。したがって,外郭防音工事を実施した住宅に居住する1審原告らについても,従前の住宅防音工事についてと同様に,その被害が受忍限度内に収まるとみることは到底できず,せいぜいその慰謝料額を算定するに際し防音室数に応じた一定割合の減額を施す程度のしん酌をするにとどめるのが相当である。
また,太陽光発電システムについては,前記のとおり,住宅の屋根等に太陽電池モジュールを設置し,発電した電気を家庭内で利用するなどするシステムであるから,これを設置した家屋については,空調機器使用に伴う経済的負担がある程度軽減されるであろうことは認められるものの,現段階においては,そのモニタリング事業が開始されたにすぎず,実際にどの程度の電気料金の負担が軽減されるのかを認めるに足りる証拠はないし,その他の1審原告らの訴えに係る点,たとえば,窓を開けられず室内を密閉することによる閉塞感,不健康さ等については,従前の住宅防音工事と何ら変わるところはない。したがって,現段階においては,慰謝料額の算定に当たって,太陽光発電システムの設置を減額要因として考慮すべきではない。」
7 危険への接近の法理について
(1) 1審被告は,① 1審原告らのうち,昭和41年1月1日(基準日)以降に本件飛行場周辺に居住を開始した者については,航空機騒音を容認して居住を開始したものと推認すべきであるから,免責の法理としての危険への接近の法理を適用すべきであり,② 仮にそうでなくとも,上記の者のうち本件飛行場の騒音を認識していたことが明らかな者,すなわち,基準日以降において本件飛行場周辺に居住した経験を有しながら,その後,いったん本件飛行場周辺地域外に転居したにもかかわらず,再び本件飛行場周辺地域に居住を開始するに至った者,より騒音レベルの高い区域に転居した者,及び何度もコンター内で転居を繰り返した者については,免責の法理としての危険への接近の法理を適用すべきであり,③ 仮に,これらの者について,免責の法理としての危険への接近の法理が適用されなくとも,少なくとも,減額の法理としての危険への接近の法理を適用すべきである旨主張する。
(2) 不法行為法における当事者間の衡平の観点からすれば,航空機騒音による被害に接近した者が,航空機騒音の存在について認識を有しながらそれによる被害を容認して居住したものであり,被害が騒音による精神的苦痛ないし生活妨害のごときもので直接生命,身体にかかわるものでなく,侵害行為に高度の公共性が認められる場合には,実際の被害が居住開始時に認識した騒音からの推測を超えるものであったとか,居住開始後に騒音の程度が格段に増大したなどの特段の事情が認められない限り,被害者からの損害賠償請求は許されないものと解するのが相当である(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁参照)。
また,仮に,航空機騒音による被害を容認していなくても,騒音の存在を認識し,あるいは,これを過失により認識しないで居住を開始した者については,損害賠償額の算定に当たり,相当額の減額をすべき場合があり得ると考えられる。
そこで,この観点から以下検討する。
(3) 前記1の本件飛行場の沿革,及び弁論の全趣旨(第1次,第2次訴訟における一,二審判決の内容等)によれば,昭和40年末ころまでには,本件飛行場にはジェット戦闘機が配備されているため,本件飛行場の周辺において航空機騒音が問題となっているという一般的な事実自体は広く知られていたことが認められる。
(4) そして,争いのない事実に証拠(甲E71,75,乙L1,2)及び弁論の全趣旨を総合すれば,1審被告により危険への接近の法理の適用が問題とされている1審原告らの居住状況は,次のとおりであると認められる。
ア 基準日後にコンター内に居住を開始した者
昭和41年1月1日(基準日)以降に初めて本件飛行場周辺に居住を開始した1審原告らは,別添「1審被告最終準備書面(第2編)」添付別表Ⅱ-4(1)記載の315名である。
イ コンター内に居住した経験があり,その後,いったんコンター外に転出したが,再びコンター内に居住を開始した者
(ア) 基準日以降にコンター内に居住を開始し,その後,コンター内外に転出転入を繰り返し,かつ,コンター内への転入が同一住所への再転居でない1審原告らは,同別表Ⅱ-4(2)記載の3名である。
(イ) 基準日以降にコンター内に居住を開始し,その後,コンター外に転居し,再びコンター内に転入し,かつ,コンター内への転入が同一住所への再転居でない1審原告らは,同別表Ⅱ-4(3)記載の8名である。
(ウ) 基準日時点でコンター内に居住し,その後,コンター内外の転出入を繰り返し,かつ,コンター内への転入が同一住所への再転居でない1審原告らは,同別表Ⅱ-4(6)記載の16名である。
(エ) 基準日時点でコンター内に居住し,その後,いったんコンター外へ転出したが,再びコンター内に転入し,かつ,コンター内への転入が同一住所への再転居でない1審原告らは,同別表Ⅱ-4(7)記載の36名である。
ウ コンター内を転居した者
(ア) 基準日以降にコンター内に居住を開始し,その後,コンター内のより騒音レベルの高い区域に移動し,かつ,下記(イ)に該当しない1審原告らは,同別表Ⅱ-4(4)記載の36名である。
(イ) 基準日以降にコンター内に居住を開始し,その後,コンター内の移動を3回以上繰り返した1審原告らは,同別表Ⅱ-4(5)記載の17名である。
(ウ) 基準日時点でコンター内に居住し,その後,コンター内のより騒音レベルの高い区域に移動し,かつ,下記(エ)に該当しない1審原告らは,同別表Ⅱ-4(8)記載の157名である。
(エ) 基準日時点でコンター内に居住し,その後,コンター内で転居を3回以上繰り返した1審原告らは,同別表Ⅱ-4(9)記載の75名である。
(5) しかしながら,まず,騒音の認識についてみると,上記(3)のとおり,基準日時点において,本件飛行場にはジェット戦闘機が配備されているため,本件飛行場の周辺において航空機騒音が問題となっているという一般的な事実自体は広く知られていたものであるけれども,一方,① 前記3で補正して引用した原判決説示のとおり,騒音の発生状況に常態性,定期性がなく,特に,住宅や土地の購入に際して一般に下見が多く行われる土曜日及び日曜日の騒音は平日に比べ大幅に減少すること,② 前記1で補正して引用した原判決説示のとおり,本件飛行場に係る区域指定(コンター区分)は,その告示のあった日の行政区画によって表示され,行政区画の一部にとどまる場合は,金沢防衛施設事務所に該当部分を示した図面を備え置き縦覧に供することとされたが,実際の区域指定の相当多くの部分は,行政区画の一部にとどまっており,上記図面を縦覧しなければ,コンター区分の内容を知ることができないこと,③ 1審被告がコンター図や飛行コース,騒音の実態等について,コンター外からコンター内に転入予定の住民に対し,積極的に情報提供を行っていることを認めるに足りる証拠がないこと等によれば,コンター外からコンター内への転入者は,住宅や土地の購入のための下見や情報収集をしたとしても,実際にコンター内に転居してきて一定期間生活をするまでは,転入地における航空機騒音の有無,程度,頻度等の騒音の詳細な実態を把握することは極めて困難であったというべきである。
したがって,上記基準日以後に初めて本件飛行場周辺に居住を開始した者(上記(4)ア)が,そのこと自体から,居住開始時に航空機騒音の実態を十分認識していたと推認することはできず,他に上記の者につき上記認識の事実を認めるに足りる証拠はない。また,上記事情に加えて,上記の者が,コンター内での居住開始時に,転入地における航空機騒音の有無,程度,頻度等の実態について調査義務を負っていると解する根拠はないことも考慮すれば,上記の者が航空機騒音の実態について認識していなくても,そのことに過失があるということはできない。
また,コンター内において転居した者(上記(4)ウ,コンター内転居者)や,コンター内からコンター外に転出しながら再びコンター内に転入した者(上記(4)イ,コンター内再転入者)についても,転居地・再転入地が従前のコンター内居住地と比較的離れている場合には,上記の説示がそのまま妥当するのであって,コンター外から初めて転入してきた場合と区別する理由はない。
(6) もっとも,コンター内転居者やコンター内再転入者のうち,転居地・再転入地が従前のコンター内居住地と近接している者については,転居・再転入の時点において,転居地・再転入地における騒音の実態に関する認識があったものと推認することができないわけではない。
しかしながら,いったんある土地に居住した者が,そこで生活基盤を形成することにより,その土地とのつながりを強めることは当然のことであり,とりわけ,本件飛行場のある小松市のような地方都市ないしその周辺部においては,大都市部に比べて地縁・血縁関係がより強いことも,当裁判所に顕著な事実であるから,そうであれば,いったんコンター内に居住した者が,そこで形成された生活基盤,地縁・血縁関係に基づき,騒音の実態を認識しながらも,再び従前の居住地と近接した場所に居住することには,一般に,やむを得ない事由,又はその程度に至らなくても,社会生活上そのことを必要とする相当な事由があることが推認されるのであって,このような者については,騒音被害を被りながらも従前と同一の場所で居住を続ける場合と何ら区別すべきではなく,「危険への接近」と評価するのは相当でない。
(7) そして,1審被告が危険への接近の法理の適用を主張する1審原告らについて,本件飛行場における航空機の離発着に伴う騒音を積極的に容認していた者がいることを認めるに足りる証拠はなく(なお,1審被告も,上記1審原告らについて,上記転居歴以外に,航空機騒音を積極的に容認していたといえるような個別事情を特段主張していない。),かえって,その転居の経緯をみると,引き続き従前の生活基盤の中で生活を続けている場合以外でも,地縁・血縁関係が強い本件飛行場周辺の地域性も反映して,婚姻を契機とした配偶者方ないしその実家への転居(いわゆる嫁入りあるいは婿入り)をはじめとして,私生活や職業上の都合等による必要に迫られたやむを得ない転居が多いことが窺われる(甲A,B各号証,乙L各号証及び弁論の全趣旨)。
(8) 他方,1審被告側の対応についてみると,前記6で補正して引用した原判決説示のとおり,本件飛行場については,既に昭和50年時点において,防衛施設庁長官等と関係自治体首長との間で「航空機騒音に係る環境基準」の達成を昭和58年までに期することとその方途が協定されており(10・4協定),その後,第1,2次訴訟において,本件飛行場周辺における航空機騒音が受忍限度を超える違法なものであるとして,周辺住民に対する1審被告の損害賠償責任を肯定する判決が一,二審を通じて言い渡され,これが確定しているのである。それにもかかわらず,1審被告は,今もなおジェット戦闘機の飛行騒音そのものを低減させるのは技術的に困難であるとの理解の下に,屋外騒音値の軽減,ひいては環境基準値の達成につながるような騒音抑制のための抜本的改善策を何ら講じていない。その結果,上記10・4協定の定めは,その締結から30年以上が経過した今日に至っても達成されておらず,本件飛行場の周辺においてジェット戦闘機による航空機騒音が問題となっているという一般的な事実が広く知られるに至った上記基準日から既に40年以上が経過した現在も,受忍限度を超えて違法な航空機騒音が引き続き発生し,コンター内に居住する住民は,現実にその被害を被り続けているのである。なお,上記(5)のとおり,1審被告がコンター図や飛行コース,騒音の実態等について,コンター内に転入予定の住民に対し,積極的に情報提供を行っている事実は認められない。
(9) 上記(3)ないし(8)に説示した諸事情を考慮すれば,本件において,1審被告主張の1審原告らについて,危険への接近の法理を適用して,1審被告の損害賠償責任を免責ないし減額することは,当事者間の衡平の観点に照らして,相当ではないというべきである。
8 消滅時効
消滅時効の成否についての当裁判所の判断は,原判決の「理由」欄の第7に記載のとおりであるから,これを引用する。
9 前訴1審原告の損害賠償請求
前訴1審原告の本件損害賠償請求のうち平成6年3月23日以前の被害に係る請求についての当裁判所の判断は,原判決の「理由」欄の第8に記載のとおりであるから,これを引用する。
10 当審口頭弁論終結日までの損害額の算定
(1) 共通被害に対応する慰謝料の基準月額
当裁判所も,1審原告らの受けている共通被害に対する慰謝料は,1審原告らの居住する区域のコンター区分(W値)に応じて一律に算定すべきであり,その居住期間1月当たりの基準月額を,75コンターにつき3000円,80コンターにつき6000円,85コンターにつき9000円,90コンターにつき1万2000円と定めるのが相当であると判断する。その理由は,原判決の「理由」欄の第9の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決118頁1,2行目の「並びに後記第11に判示する諸事情及び同所に判示するとおり」を「並びに後記のとおり」と改める。)。
そうすると,各1審原告の基準月額は,別紙損害賠償額一覧表の「基準月額」欄記載のとおりである。ただし,3次A38については,後記(6)イのとおりである。
(2) 防音工事施工済み家屋の居住者についての減額割合
防音工事の施された家屋に居住する1審原告らについての上記基準月額からの減額割合については,前記6で引用した補正後の原判決の「理由」欄の第5の3で検討したところに加え,各家庭で防音室が1室増えるごとに居住者各人の被害が比例的に軽減していくとまでは通常考え難いことにも照らして,工事室数が1室のみの場合10パーセントの減額とし,更に1室増えるごとに5パーセントずつ減額率を上げていく(したがって,計2室の場合15パーセント,計3室の場合20パーセント,計4室の場合25パーセント,計5室の場合30パーセントの減額とする)のが相当である。
そして,外郭防音工事がされた家屋に居住する1審原告らについては,前記4のとおり,外郭防音工事は,居室以外の廊下,階段,浴室,便所等も含めて,家屋全体を遮音構成上一つの区画となるようにし,その外郭について実施する防音工事であることを考えると,上記5室の場合と同様に,30パーセントの減額とするのが相当である。
なお,太陽光発電システムの設置を減額事由として考慮すべきでないことは,前記4のとおりである。
そうすると,各1審原告についての住宅防音工事に基づく減額割合は,別紙損害賠償額一覧表の「住宅防音・減額割合」欄記載のとおりである。ただし,3次A38については,後記(6)イのとおりである。
(3) 損害賠償対象期間
本件において慰謝料額の算定の基礎となる期間(損害賠償対象期間)は,1審原告らの当該居住地における居住月数によることとし,その最長限度は次のとおりである。すなわち,その始期は,前記8及び9で検討したところによれば,前記9に判示した前訴1審原告でもある1審原告らについては平成6年3月24日(前訴の控訴審口頭弁論終結日の翌日),その他の1審原告らのうち第3次訴訟1審原告らについては平成4年12月25日,第4次訴訟1審原告らについては平成5年5月21日(いずれも本件各訴訟提起の3年前の日)となる。また,その終期は,後記11で検討するところによれば,当審における口頭弁論終結日である平成18年10月2日である。
なお,居住月数の計算は,便宜上,当該計算対象期間に属する最初の月は暦月1日を含まない限り計上せず,逆に最後の月はすべて丸1月として計上することとする。また,本件各訴状送達日(第3次訴訟につき平成8年1月18日,第4次訴訟につき平成8年6月24日であることが一件記録上明らかである。)までの被害に係る請求とそれぞれその翌日以降の被害に係る請求とでは1審原告らの求める遅延損害金の起算日を異にすることから,前者を期間A,後者を期間Bに区分することとする。
そうすると,各1審原告についての損害賠償対象期間は,別紙損害賠償額一覧表の「賠償期間」欄記載のとおりである。ただし,3次A38については,後記(6)イのとおりである。
(4) 慰謝料額の具体的算定
上記(2)の減額事由の有無に応じて上記(1)の基準月額に一定の減額を施して算出される各人ごとの慰謝料月額(10円単位で四捨五入)は,別紙損害賠償額一覧表の「慰謝料・月額」欄記載のとおりであり,これに上記(3)の各人ごとの居住月数を乗じて算定した各1審原告についての期間A及び期間Bごとの慰謝料額は,別紙損害賠償額一覧表の「慰謝料A」及び「慰謝料B」欄記載のとおりである。ただし,3次A38については,後記(6)イのとおりである。
(5) 弁護士費用
弁護士費用としては,本件訴訟の経過,困難さ等を考慮し,各1審原告の慰謝料総額(期間A及び期間Bの各慰謝料の合計額)の15パーセント相当額(10円単位で四捨五入)をもって相当と認める。
そうすると,各1審原告についての弁護士費用相当額は,別紙損害賠償額一覧表の「弁護士費用」欄記載のとおりである。ただし,3次A38については,後記(6)イのとおりである。
(6) 損害額合計と認容額
ア 各1審原告についての損害額の合計(上記(4)の慰謝料額と上記(5)の弁護士費用を合計した額)は,別紙損害賠償額一覧表の「賠償額合計」欄記載のとおり(別紙損害賠償額一覧表の「期間B」欄のない1審原告らについては,同表「A期間総額」欄記載のとおり)である(なお,1審原告らは,損害賠償請求として,①訴状送達日〔第3次訴訟については平成8年1月18日,第4次訴訟については平成8年6月24日〕までの慰謝料100万円,②訴状送達日の翌日から差止請求に係る各措置がなされるまでの間,毎月末日限り慰謝料5万円,③弁護士費用相当額20万円の各支払を求めているところ,当審口頭弁論終結日は平成18年10月2日であるから,その時点までに発生したと各1審原告が主張して請求する弁護士費用を含む総損害額は,上記「賠償額合計」欄記載の金額を上回る。)。
イ 3次A38について,同1審原告の損害額を上記(1)ないし(5)に従って算定すると,次のとおりとなる。
W値は85,基準月額は9000円,防音工事による減額割合は0%,賠償対象期間は,期間Aが37月(平成5年1月から平成8年1月まで),期間Bが75月(平成8年2月から平成12年4月まで及び平成15年5月から平成17年4月まで),慰謝料額は,慰謝料Aが33万3000円,慰謝料Bが67万5000円,弁護士費用は15万1200円,賠償額合計は115万9200円
しかし,同1審原告からは不服申立てがなく,1審被告からの控訴があるのみであるから,不利益変更禁止の原則に従い,原判決の認容額をそのまま維持するにとどめることとし,別紙損害賠償額一覧表中の同1審原告の欄も原判決のままとしているものである。
11 将来の損害賠償請求について
(1) 将来の損害賠償請求についての当裁判所の判断は,原判決の「理由」欄の第10に記載のとおりであるから,これを引用する。
すなわち,本件口頭弁論終結の日の翌日以降に生ずべき損害の賠償を求める請求は,権利保護の要件を欠くものとして不適法であり,却下を免れないというべきである。
(2) 1審原告らは,将来の損害賠償請求が認められるべき理由として,① 本件飛行場の代替施設の確保や,飛行騒音の大幅な低減が困難な状況で,騒音地域は固定化し,1審被告も騒音の発生を放置している一方,1審原告ら各人の居住状況は,本件飛行場周辺のような地方都市では変動の余地は小さく,居住家屋に対する防音工事も,単に賠償額の減額要素となるにすぎないから,権利発生の基礎をなす事実関係及び法律関係が継続する蓋然性は大きいこと,② 1審原告らが損害賠償請求訴訟を繰り返し提起することは極めて困難であるのに対し,1審被告が1審原告らの移転等が生じた場合に請求異議の訴えにより事後的に争うことは容易であるし,1審被告が侵害行為の主体である以上,この程度の負担を課しても不当ではないことを主張する。
しかしながら,前記2及び7(4)でみたところからも明らかなように,現に,1審原告らのうち相当数の者が居住地を移転し,その居住状況が変動しているのであるから,1審原告らの居住状況の変動の余地が小さいと断定することはできないし,防音工事の実施された家屋に居住する1審原告らについては,損害額を減額するのが相当であるところ,前記4でみたとおり,1審原告らの居住する家屋についても引き続き防音工事が少なからず実施されているのであるから,これらの事情によれば,1審原告らの損害賠償請求権の成否及びその内容を予め一義的に明確に認定することはできないというべきであり,1審原告らの将来の損害に係る賠償請求は不適法であるといわざるを得ない。1審原告らにとって,損害賠償請求訴訟を繰り返し提起することが相当の負担となることは,容易に推測されるところではあるものの,そうであるからといって,上記のとおり,1審原告らの損害賠償請求権の成否及びその内容に影響を与えるべき事情の変動が少なからず予想される状況がある以上,1審原告らの将来の損害に係る賠償請求が適法であるということはできない。
12 自衛隊機の離着陸等差止請求について
(1) 防衛庁長官は,自衛隊に課せられた我が国の防衛等の任務(自衛隊法3条,6章)の遂行のため自衛隊機の運航を統括し(同法8条),その航行の安全及び航行に起因する障害の防止を図るため必要な規制を行う(同法107条5項)権限を有するものとされているのであって,自衛隊機の運航は,このような防衛庁長官の権限の下において行われるものである。そして,自衛隊機の運航にはその性質上必然的に騒音等の発生を伴うものであり,防衛庁長官は,同騒音等による周辺住民への影響にも配慮して自衛隊機の運航を規制し,統括すべきものではあるが,自衛隊機の運航に伴う騒音等の影響は飛行場周辺に広く及ぶことが不可避であるから,自衛隊機の運航に関する防衛庁長官の権限の行使は,その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務づけるものといわなければならない。そうすると,上記権限の行使は,上記騒音等により影響を受ける周辺住民との関係において,公権力の行使に当たる行為というべきである。
1審原告らは,自衛隊機の離着陸等の差止め及びその発する騒音の音量規制を民事上の請求として求めるが,上記判示に照らせば,このような請求は,必然的に防衛庁長官にゆだねられた前記のような権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるから,民事上の請求として不適法であり,同請求に係る訴えは却下を免れないというべきである(最高裁平成5年2月25日第一小法廷判決・民集47巻2号643頁参照)。
(2) この点につき,1審原告らは,まず,上記請求を民事上の請求として不適法とすることは,憲法の定める権力分立及び裁判を受ける権利に反するものである旨主張する。しかしながら,一般に,公権力の行使の取消変更ないしその発動を求める請求については,民事訴訟とは別に,行政事件訴訟の提起が可能である(もちろん,行政事件訴訟としての適法性が必要なことは別論である。)から,そのような請求を包含する請求について,民事上の請求としては不適法としても,そのことは何ら,憲法の定める権力分立及び裁判を受ける権利に反するものとはいえない。
また,1審原告らは,自衛隊の実弾射撃訓練や演習場への立入禁止措置については,公権力の行使に当たる行為ではないとされるところ(最高裁昭和62年5月28日第一小法廷判決),自衛隊機の離着陸等の運航も,これらと法的な性格を同じくするものであるから,公権力の行使に当たる行為ではない旨主張する。しかしながら,自衛隊の実弾射撃訓練は,公用財産である演習場をその供用目的に使用して行われる,職員に対する教育訓練であり,自衛隊内部の事実行為にとどまるし,演習場への立入禁止措置も,演習場の管理権に基づく作用であり,私的施設の所有権に基づく措置と本質的に異なるところはないのであるから,いずれも一般国民に対する命令・強制の作用を何ら伴わないのに対し,自衛隊機の運航に関する防衛庁長官の権限の行使は,上記のとおり,その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務づけるものであるから,両者は,その法的性質を異にする行為であり,同視することはできない。
(3) また,1審原告らは,自衛隊の存在自体が憲法前文及び憲法9条に違反しているから,上記(1)の判断の前提として,この点についての判断をすべきである旨主張する。
しかし,我が国の裁判所が有する違憲審査権は,具体的な事件の処理に必要な限りにおいてなすべき付随的な審査権であるところ,上記(1)で説示したとおり,本件自衛隊機の離着陸等差止請求に係る訴えは,訴訟物たる権利そのものが訴訟物としての一般的適格性を欠くために不適法というべきものであるから,上記(1)の判断の前提として,自衛隊の存在自体が憲法前文又は憲法9条に違反するか否かを判断するまでの必要はない。
なお,1審原告らは,本件自衛隊機の離着陸等差止請求を直ちに憲法9条に基づき認容すべきである旨主張するが,憲法9条が,国民に対して直接に本件自衛隊機の離着陸等差止めというような具体的な請求権を付与しているものと解することはできない。
したがって,1審原告らの上記主張は採用できない。
(4) そして,本件自衛隊機の離着陸等差止請求に関する1審原告らのその他の主張(有事関連3法及び有事関連7法に関する主張を含む。)も,上記説示に照らして,いずれも採用できない。
13 米軍機の離着陸等差止請求について
1審原告らの米軍機の離着陸等差止請求についての当裁判所の判断は,原判決の「理由」欄の第11の2に記載のとおりであるから,これを引用する。
すなわち,1審原告らの米軍機の離着陸等差止請求は,本件飛行場における米軍機の運航等を規制,制限する権限がない1審被告に対する請求として,主張自体失当であるため,棄却すべきである。
14 結論
(1) 1審原告らの損害賠償請求のうち,本件口頭弁論終結の日(平成18年10月2日)までに生じた損害賠償請求について
上記損害賠償請求については,別紙損害賠償額一覧表掲記の1審原告らが1審被告に対してそれぞれ主文第2項又は第3項掲記の金員の支払を求める限度で理由があるから,同限度で認容し(なお,3次A38については,前記10(6)イに記載のとおりである。),同1審原告らのその余の請求及び別紙請求棄却原告目録記載の1審原告らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却する。
(2) 本件訴えのうち,本件口頭弁論終結の日の翌日(平成18年10月3日)以降に生ずべき将来の損害賠償請求について
上記損害賠償請求は,いずれも不適法であるから,これを却下する。
(3) 本件訴えのうち,自衛隊機の離着陸等差止請求について
上記請求に係る訴えはいずれも不適法であるから,これを適法とした上で請求を棄却した原判決は不当であるので,職権により,原判決中上記請求に関する部分を取り消し,これを却下する。
(4) 1審原告らによる米軍機の離着陸等差止請求について
上記請求は,いずれも理由がないから,これを棄却する。
(5) 仮執行宣言について
民事訴訟法310条を適用して,主文第9項の限度でこれを付すこととし,仮執行免脱宣言の申立ては相当でないから,これを付さないこととする。ただし,仮執行宣言の執行開始時期については,本判決が1審被告に送達された日から14日を経過したときと定めるのが相当である。
(6) よって,原判決を上記の趣旨に変更することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長門栄吉 裁判官 沖中康人 裁判官 加藤員祥)
<編注:『※』部分は原文のとおり。>
別紙損害賠償額一覧表(省略)
別紙請求棄却原告目録(省略)
別紙死亡第1審原告に係る承継人等一覧表(省略)
別紙居住状況一覧修正表(省略)
別紙当審陳述書要旨(省略)