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名古屋高等裁判所金沢支部 平成21年(ネ)32号 判決 2009年7月22日

控訴人

福井信用金庫

同代表者代表理事

同訴訟代理人弁護士

杉原英樹

吉川奈奈

被控訴人

破産者 a株式会社破産管財人 X

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人の請求を棄却する。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

一  本件は、地方公共団体坂井市(以下「坂井市」という。)から公共工事を請け負った破産者a株式会社(以下「破産会社」という。)が、公共工事の前払金保証事業に関する法律(以下「保証事業法」という。)及び東日本建設業保証株式会社前払金保証約款(以下「本件保証約款」という。)に基づく東日本建設業保証株式会社(以下「本件保証事業会社」という。)の保証の下に、坂井市から前払金の支払を受け、その前払金を金融機関である控訴人に別口普通預金として預け入れていたところ、破産会社による公共工事の続行が不可能となったため坂井市により請負契約が解除され、その後に破産した破産会社の破産管財人となった被控訴人が、控訴人に対し、上記別口普通預金の残額六九九万三〇一五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成二〇年七月一一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた訴訟の控訴審である。

原審において、控訴人は、上記預金債権と、控訴人が破産会社に対して有する貸金債権との相殺を主張して争ったが、原判決は相殺の抗弁を否定して被控訴人の請求を全額認容したため、これを不服とする控訴人が控訴した。

二  本件の主な事実関係

争いのない事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が容易に認められる。

(1)  破産会社は、平成一九年一〇月二九日、坂井市との間で、坂井市工事請負契約約款に基づき、下記工事(以下「本件工事」という。)の請負契約を締結した(以下「本件請負契約」という。)。

発注者 坂井市長

請負者 破産会社

工事名 平成一九年度霞ヶ城公園整備工事(その四)

工事場所 坂井市丸岡町霞町三丁目地係

工期 平成一九年一〇月三〇日から平成二〇年二月二九日まで

請負代金 一八一九万六五〇〇円(うち消費税相当額八六万六五〇〇円)

(2)  破産会社は、平成一九年一〇月二九日、本件保証事業会社との間で、保証事業法及び本件保証約款に基づき、破産会社がその責により債務を履行しないために坂井市が本件請負契約を解除したときに、坂井市に対し、前払金額から本件工事の出来高を控除した額を本件保証事業会社が破産会社に代わって支払うこととする契約を締結した(以下「本件保証契約」という。その性質は、坂井市を受益者とする第三者のためにする契約である。)。

(3)  破産会社は、同日、本件保証約款に基づき本件保証事業会社があらかじめ前払金の使途の監査などにつき委託契約を締結した金融機関である控訴人を、前払金の預託金融機関として選定し、控訴人の丸岡営業部に破産会社名義の別口普通預金口座(口座番号<省略>)を開設した(上記預金口座を、以下「本件預金口座」といい、本件預金口座に係る預金を、以下「本件預金」という。)。

(4)  坂井市は、同年一一月二六日、前金払として本件請負契約の請負代金額の四〇パーセントに相当する七二七万円(以下「本件前払金」という。)を本件預金口座に振り込み支払った。

なお、坂井市が本件前払金の支払をしたことにより、本件保証契約の利益を享受する旨の意思表示があったものとみなされる(保証事業法一三条一項)。

(5)  平成二〇年二月二一日、保証料及び直用労務費として、本件預金から二八万二六九〇円が払い戻された。なお、本件預金には、同月一七日、利息金二六四六円が付された。

(6)  坂井市は、同月二九日、破産会社による本件工事の続行が不可能になったため、本件請負契約を解除した。

また、同年三月四日付けで、本件保証事業会社から控訴人に対し、本件預金の払出中止の措置の依頼がなされた。

(7)  破産会社は、同年三月一〇日破産手続開始の申立てをし、同月一四日破産手続開始決定を受け、被控訴人が破産管財人に選任された。

(8)  控訴人は、破産会社の破産手続開始決定当時、破産会社に対し、平成一九年一二月二七日の手形貸付(当初貸付額八〇〇万円)に係る残元金一四四万八一一六円並びに平成一八年九月二九日の証書貸付(当初貸付額二〇〇〇万円)に係る残元金一四三二万二〇〇〇円、利息金七〇六二円及び遅延損害金二万一四八三円(以上合計一五七九万八六六一円)の貸金債権(これらを併せて、以下「本件貸金債権」という。)を有しているとして、平成二〇年三月二四日付けで破産裁判所に対し破産債権の届出をした。

(9)  坂井市は、同年四月一日、被控訴人及び本件保証事業会社の立会いのもとで、本件工事の出来高確認を実施し、被控訴人との間で、本件工事の出来高が一五〇〇万四五〇〇円(八二・四五八パーセント)であり本件前払金七二七万円を超えていることを確認した。

坂井市は、同月四日、本件請負契約の債権債務の清算を行い、被控訴人宛に「相殺通知書」と題する書面を送付した。

(10)  本件保証事業会社は、同社の保証債務が発生しないことが確定したため、同月八日、控訴人に対し、本件預金口座からの払出の制限を解除した。

(11)  被控訴人は、同月一五日、坂井市に対し、本件工事の目的物を引き渡した。

(12)  控訴人は、同月二三日差出の内容証明郵便により、被控訴人に対し、本件貸金債権をもって、本件預金の払戻請求権(同日における本件預金残高は、同日の解約利息金二〇五九円を含め六九九万三〇一五円であった。)と対当額で相殺するとの意思表示をした(以下「本件相殺」という。)。

そして、控訴人は破産裁判所に対し、同月二四日付けで、本件相殺を理由とする破産債権届出の一部取下書を提出した。

(13)  坂井市工事請負契約約款によれば、請負者は、保証事業会社と保証事業契約を締結し、その保証証書を発注者(坂井市)に寄託することによって、一定額の前払金の支払を受けることができるとされ(三四条一項)、また、工事の材料費等に相当する額として必要な経費以外の支払に前払金を充当してはならない(三六条)とされている。

また、本件保証約款には、次の各規定がある。

ア 保証契約者は、前払金を受領したときは、遅滞なく、その前払金を本件保証事業会社があらかじめ前払金の使途の監査などにつき委託契約を締結した金融機関のうち保証契約者の選定する金融機関に、別口普通預金として預け入れなければならない(一五条三項)。

イ 保証契約者は、前払金を当該保証申込書に記載した目的に従い、適正に使用する責を負い、預託金融機関に適正な使途に関する資料を提出して、その確認を受けなければ、別口普通預金の払もどしを受けることができない(一五条二項、四項)。

ウ 本件保証事業会社は、前払金の使途を監査するために、必要に応じ何時でも、請負契約に関する書類及び保証契約者の事務所、工事現場その他の場所を調査し、これについて保証契約者又は被保証者に対し、報告、説明若しくは証明を求めることができるものとする(一五条一項)。

エ 前払金が適正に使用されていないと認められるときは、本件保証事業会社は、預託金融機関に対し別口普通預金の払もどしの中止その他の処置を依頼することができる(一五条五項)。

三  争点及びこれに関する当事者の主張

本件の争点は、本件相殺の有効性(破産法七一条一項一号の相殺禁止条項に該当するか否か)である。

(控訴人の主張)

本件預金の払戻請求権は、本件相殺により消滅している。

(1) 本件前払金を、坂井市を委託者兼受益者、破産会社を受託者とする信託財産と解することに異論はないが、委託者である坂井市から受託者である破産会社名義の本件預金口座への振込入金をもって、信託成立の要件である受託者への財産権の移転があったと解することになるから、本件預金の預金者(出捐者)は、あくまで破産会社である。ただ、本件預金を信託財産と解することにより、第三者の差押や相殺から免脱され、委託者は破産財団に対しても取戻権を主張できると解されるのである。

公共工事の前払金保証制度において、発注者が請負者に返還を求めることができるのは、前払金額から公共工事の既済部分の代価に相当する額を控除した額が限度であるから(保証事業法二条二項)、そもそもこれを超える部分は、差押の免脱や取戻権の対象外、すなわち、信託財産と解すべきではない。

(2) 本件の場合、坂井市が平成二〇年二月二九日に請負契約を解除したことにより、信託契約は終了した。信託契約の終了により、本件預金口座の残高のうち、本件前払金の額から本件工事の既済部分の代価に相当する額を控除した額(この時点では金額不明)が坂井市に帰属することになるが、同年四月一日に本件工事の出来高査定を行ったところ、破産手続開始時点ですでに出来高が本件前払金の額を上回っており、本件預金口座の残高から坂井市に返還されるべき金額(すなわち、信託財産と解すべき金額)が存在しないことが確認された。これを受けた本件保証事業会社は、同月八日、控訴人との間の委託契約を解除したものである。

このように、本件預金口座の預金者(出捐者)は、破産手続開始前から破産会社であり、破産手続開始時点で坂井市に返還されるべき信託財産は存在しなかったが、当該預金には相殺を妨げるべき委託契約上ないし信託法上の制約が存在したところ、この制約が後に解消されたため、控訴人は本件相殺をしたものである。

以上のとおり、前払金の過払が存在すれば、発注者ないし保証事業会社(以下「発注者側」という。)は信託法理を主張して当該預金からの優先的回収を図ることになるが、前払金の過払が存在しない本件の場合は、本件預金はまさに破産会社の通常の預金にすぎないから、控訴人が反対債権と相殺するにつき何の制限も存在せず、発注者側の権利を保護するための法律構成である信託法理を適用すべき余地はない。

(3) 前払金の過払返還請求権が存在するか否かは、請負契約が解除された時点における客観的事実により判断されるべきものであり、工事出来高が前払金の額を超えていればもはや過払返還請求権は発生しないのであるから、信託はすでに目的を達成して終了したといえる。そして、過払返還請求権が発生しない以上、たまたま預金残高が存在したとしても、発注者側はそれに対して何の権利も有しないのであるから、過払返還請求権が消滅した時に、預金の信託財産としての性質も失われると解すべきである。

(被控訴人の主張)

本件相殺は、破産債権者が破産手続開始後に負担した債務を受働債権とする相殺を禁止する破産法七一条一項一号により無効である。

(1) 坂井市と破産会社との間で、本件前払金が本件預金口座に振り込まれた時点で、坂井市を委託者兼受益者、破産会社を受託者、本件前払金を信託財産とし、これを本件工事の必要経費の支払に充てることを目的とした信託契約が成立したと解すべきであり、本件前払金を請負者の固有財産として把握することは許されない。また、本件の信託財産は前払金の全額であり、前払金から出来高を控除したものではない。

(2) 信託財産が破産会社の固有資産となるのは、信託の終了を経て、信託の清算の結了がなされた時点と解すべきである。

ア 本件において、本件保証事業会社は、平成二〇年四月八日、本件預金口座に入金されていた本件前払金の払出制限を解除したが、かかる事実により、信託の目的は達成されたか、又は達成不可能になったといえるのであり、この時点をもって信託の終了とみるべきである。

そして、出来高が前払金の額を超えるとき、地方公共団体は目的物の引渡しを受けることにより当該前払金を留保する根拠を失い、その結果、残余信託財産は反射的に請負者に移転することになるから、本件では、同月一五日、本件工事の目的物の引渡しに伴い、本件前払金が請負者に移転する。

仮にそうでないとしても、本件前払金が請負者に移転するのは、前記の信託終了時である同月八日以降である。

イ 本件請負契約が解除された時点で信託が終了したと解するとしても、破産会社の破産手続開始後、破産管財人である被控訴人は、破産会社の清算受託人としての職務を引き継ぎ、平成二〇年四月一日の出来高確認を経て、同月一五日に坂井市に対して本件工事の目的物を引き渡し、これにより本件工事の出来高に応じた報酬請求権を取得し、清算受託人の職務として管理していた本件前払金を本件工事の必要経費の支払に充当したことで、信託の清算が結了したというべきである。

(3) 前払金の過払返還請求権が残存したか否かは、平成二〇年四月一日、坂井市、本件保証事業会社及び被控訴人が立ち会った下での出来高確認により初めて判別できるものである。出来高確認において過払返還請求権が残存すれば信託法理が適用され、残存しなければ信託法理が適用されないということになると、後の事情によって遡及的に信託法理が妥当するか否かを決することになり、法的安定性を害する。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人の請求を認容すべきものと判断する。その理由は次のとおりである。

一  前払金の法的性質等

(1)  地方公共団体が発注する公共工事では、保証事業法に基づき保証事業会社による前払金保証がされた場合、請負者に対し、当該工事に要する経費を前払金として支払うことができるが(地方自治法二三二条の五第二項、同法施行令附則七条)、このような前払金の支払の制度は、請負者の工事資金の調達を確保することで、公共工事の完遂に支障を来さないようにするとともに、前払金の支払を受けた請負者が請負債務を履行しないために請負契約が解除された場合に、発注者である地方公共団体が確実に前払金の返還を受けられるようにする必要があることから設けられたものである。

(2)  そして、本件請負契約を規律する坂井市工事請負契約約款は、工事の材料費等に相当する額として必要な経費以外の支払に前払金を充当してはならないことを定め(前記第二の二(13))、保証事業法は、保証事業会社が保証契約の締結を条件として発注者が請負者に前払金を支払った場合に、請負者が前払金を適正に当該公共工事に使用しているかどうかにつき厳正な監査を行うことを義務付けている(二七条)。さらに、本件保証約款は、前払金を別口普通預金として預け入れるべきこと、前払金の払戻しの方法、本件保証事業会社による使途についての監査、使途が適正でないときの払戻し中止の措置等について規定している(前記第二の二(13)アないしエ)。

これらの規定に照らすと、本件前払金が坂井市から破産会社の本件預金口座に振り込まれた時点で、坂井市と破産会社との間で、坂井市を委託者兼受益者、破産会社を受託者、本件前払金を信託財産とし、本件工事の必要経費の支払に充てることを目的とした信託契約(以下「本件信託契約」という。)が成立したものと解される(最高裁判所平成一四年一月一七日第一小法廷判決・民集五六巻一号二〇頁参照)。

(3)  したがって、本件前払金が本件預金口座に振り込まれただけでは本件請負契約の請負代金の支払があったとはいえず、破産会社に払い出されることによって、当該金員は請負代金の支払として破産会社の固有財産に帰属することになる。また、信託財産に属する本件預金は、受託者が破産手続開始決定を受けた場合であっても、破産財団に属しない(信託法二五条)。

二  本件預金の破産財団への帰属時期

(1)  本件では、坂井市により本件請負契約が解除され、前記第二の二の経過を経て、本件相殺よりも前に、坂井市と破産会社との本件請負契約の債権債務の清算が終了しているところ、本件信託契約に明示的な終了事由の定めはなく、本件信託契約が明示的に合意解除されたものでもないが、信託は、その目的を達成したとき、又はその目的を達成することができなくなったときに終了するから(信託法一六三条)、前記の経過からすれば、少なくとも本件相殺前にはすでに本件信託契約が終了しているものと解される。

一般に、信託が終了すると清算が行われるが(同法一七五条以下)、信託は、当該信託が終了した場合においても清算が結了するまでは存続するものとみなされる(同法一七六条)。しかし、残余財産がその帰属すべき者に対して移転する時期については、信託が終了し、かつ、残余財産の帰属すべき者に対して帰属すべき残余財産が特定されれば、その時点で即時に、残余財産の帰属すべき者に対して権利移転が生じるものと解するのが相当である。本件における前記の経過からすれば、少なくとも本件相殺前までには、本件預金は破産財団に帰属しているものということができるところ、その帰属時期、すなわち、信託が終了し、かつ、残余財産が特定された時期が、破産手続開始決定の後である場合には、破産法七一条一項一条により、破産債権との相殺が禁じられることになる。

(2)  前記第二の二(6)及び(9)のとおり、平成二〇年二月二九日、本件請負契約が解除され、同年四月一日、坂井市、被控訴人(破産会社の破産管財人)及び本件保証事業会社の立会いの下で行われた出来高確認により、本件工事の出来高が本件前払金を超えていることが確認された。前払金の支払の制度は、前記一(1)のとおり、請負者の資金調達を確保するとともに、請負契約解除の場合に地方公共団体が確実に前払金の返還を受けられるようにすることが目的であるところ、本件請負契約が解除された時点では、出来高の金額が明らかであるとはいえないが、その後、上記の出来高確認が行われた時点で、坂井市に返還されるべき前払金が存在しないことが確認されたものである。この出来高確認の結果、破産財団に帰属すべき残余財産の額も確定したものといえ、また、出来高確認の時点までに請負者たる破産会社の公共工事にかかる資金確保の必要性及び坂井市に対する前払金の確実な返還の必要性は失われているものと解することができる。

よって、上記の出来高確認よりも前の時点では、本件信託契約の目的を達成し又は目的を達成することができなくなったとして信託が終了した上、破産財団(被控訴人)に帰属すべき残余財産が特定したものと解することはできず、未だ残余財産として破産財団には移転していないというべきである。

(3)  以上によれば、平成二〇年四月一日に行われた出来高確認より前の同年三月一四日の破産手続開始決定の時点では、未だ本件預金は破産財団に帰属していないものというべきであり、本件預金の払戻請求権の債務者である控訴人は、破産手続開始後に、破産財団に対して本件預金に係る債務を負担したものであるから、破産債権である本件貸金債権との本件相殺は、破産法七一条一項一号の相殺禁止条項に該当し、これを行うことができない。

したがって、本件相殺により本件預金の払戻請求権が消滅したとの控訴人の主張は採用することができない。

三  控訴人の主張に対する判断

(1)  控訴人は、発注者が返還を求めることができるのは前払金の額から出来高を控除した額が限度であり、これを超える部分は、そもそも信託財産と解すべきではないとし、前払金の過払が存在しない本件では、本件預金は破産会社の通常の預金にすぎないと主張する。

しかし、前記一のとおり、前払金制度の目的及び前払金の使途を厳正に規律するなどの前払金に関する各種規定に照らすと、本件前払金が本件預金口座に振り込まれた時点で、本件前払金の全額について本件信託契約が成立したものと解すべきであり、前払金に関する定めに従って本件預金が破産会社に払い出されるか、信託が終了し残余財産が特定するまでは、本件預金はあくまで信託財産というべきであって、通常の預金と同様のものと解することはできない。

(2)  また、控訴人は、前払金の過払返還請求権が存在するか否かは、請負契約が解除された時点における客観的事実により判断されるべきであると主張する。

しかし、本件請負契約の性質上、同契約が解除された時点では、本件工事の出来高を把握することは不可能であるところ、本件信託契約の当事者間において残余財産の有無及びその額につき認識不可能なまま、残余財産が破産財団に属すると解することは、前記の本件信託契約の趣旨・目的に反するものと解される上、前払金に関する法律関係を不安定にするおそれがあるから、相当ではない。

(3)  したがって、控訴人の主張は採用することができない。

四  結論

以上の次第で、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺修明 裁判官 桃崎剛 浅岡千香子)

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