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名古屋高等裁判所金沢支部 平成3年(ラ)1号 決定 1991年11月22日

抗告人 上村弘

相手方 上村一夫 外2名

被相続人 上村元吉

主文

本件抗告を棄却する。

但し、原審判添付物件目録(編略)(9)記載の土地の面積「1014平方メートル」とあるのを「1004平方メートル」に、同(11)記載の土地の面積「1004平方メートル」とあるのを「1014平方メートル」とそれぞれ更正する。

理由

一  抗告の趣旨及び理由

抗告人は、原審判を取り消す旨の裁判を求め、その理由として、別紙「抗告理由書」記載のとおり主張した。

二  当裁判所の判断

当裁判所も被相続人の遺産を原審判主文掲記の方法で分割するのを相当と判断するところ、その理由は、次に付加するほか原審判の理由記載のとおりであるから、ここにこれを引用する(但し、原審判添付物件目録(9)記載の土地の面積「1014平方メートル」とあるのは「1004平方メートル」の、同(11)記載の土地の面積「1004平方メートル」とあるのは「1014平方メートル」の誤記であることを明らかである。)。

1  抗告人は、原審判添付物件目録(7)記載の土地は、相手方上村一夫が被相続人及びその父の土地を勝手に売却することを苦慮した被相続人から、相手方川上圭介とともに各1枚ずつ生前贈与を受けたもので抗告人の固有財産であるから、本件相続財産に含まれない旨主張するが、右土地の登記簿謄本によれば、被相続人から抗告人に対して昭和49年6月13日付で同月12日付贈与を原因とし、農地法第5条の許可を条件とする条件付所有権移転仮登記がなされていることが認められるところ、家庭裁判所調査官による本件についての事前調査の際、抗告人は「抗告人は被相続人から、昭和50年ころ、上村家を守るため相手方の上村一夫が土地を売却しないようにして欲しいと頼まれ、上村一夫の売却可能な土地を抗告人名義に仮登記した。」と述べ、右仮登記は真実の原因によるものではない旨を認めていた。また、右土地は仮登記後、被相続人が交通事故で死亡した昭和51年3月15日まで、1年9か月間仮登記のまま放置されており、抗告人が理髪業のほか、土地建物の取引業及び測量、建築設計を行う上村土木商会を経営し、不動産の登記関係に通暁していることに照らすと、その後、農地法上の許可申請手続を進めなかったことは、不自然というほかなく、抗告人が被相続人から同物件目録(7)記載の土地を生前に、条件付にせよ、真実贈与されたものとは到底認められない。したがって、同土地は相続財産に含まれる。

2  次に、抗告人は、前記物件目録(21)記載の土地は抗告人が全部自分で資金調達して購入したのであって、その購入資金は被相続人から贈与を受けたものではないから、これは特別受益の対象とはならないと主張し、右土地代金支払いのために銀行から借り入れたことを裏付けるものとして株式会社○○銀行宛の約束手形2通(額面5万円及び12万5000円)及び同銀行作成の計算書2通を提出している。しかし、右約束手形等は、それ自体で抗告人が右土地代金に充てるために銀行から借入れをしたことを明らかにする内容でないばかりか、抗告人は昭和35年5月に右土地上に建物を建てており、その際、右建物及び土地に、同年6月10日付で、手形取引契約についての同日付根抵当権設定契約を原因とする根抵当権設定登記が株式会社○○銀行のために経由されているのに、右土地については、抗告人が購入した昭和33年当時には、担保権が設定された形跡は何らないから、抗告人は右土地の購入代金について他から借り入れたとは認めがたい。しかも抗告人は、銀行から借り入れたと主張するのに、その旨の契約証書等を提出してない。また、抗告人が同土地を購入した昭和33年当時、抗告人(昭和9年8月14日生)は理容学校を卒業して開業間もない時期であり、年齢もいまだ24歳であったことなどからすれば、右土地の代金を自己の借入れ金で支払ったとは認めがたく、相手方上村一夫が述べるように、被相続人がこの費用を支出したと認められる。

3  更に、抗告人は、相手方上村一夫は石山真澄に対し、昭和48年12月25日、被相続人名義の土地(○○市○○○×××番 田456平方メートル)を代金420万円で売却してその代金全額を取得したばかりか、昭和32年3月27日、被相続人所有の土地を売却し、その代金で土地(○○市○○○○××番)を購入し所有しているのであって、その土地の時価は400万円をくだらないと主張する。しかし、前者の登記簿謄本及び土地売買契約書等によれば、被相続人が石山文子との間で、昭和48年2月25日、被相続人名義の○○市○○○×××番の土地を代金115万円で売却した旨の契約書が作成され、同年12月27日付で所有権移転登記がなされていることは認められるものの、その売買代金全額を相手方上村一夫が自己のものとして取得したということを認めるに足る証拠資料はない。また、相手方上村一夫が、○○市○○○○××番 田1反9歩(内畦畔9歩)について、昭和31年1月16日付売買を原因として昭和32年3月27日付で所有権移転登記をしていることは、同土地の登記簿上明らかであるが、当時同人(昭和3年5月5日生)は28歳であり、昭和24年から被相続人とともに農業に従事していたこと、なにより同人がそのころ被相続人の土地を売却して、その代金をもって右土地の購入代金に充てたことを示す証拠資料等は何ら提出されていないことからすれば、右土地を相続財産とみなすべき特別受益とする根拠はない。

4  次に、抗告人は、相手方川上圭介は被相続人から、○○市○○町○○××番 田1036平方メートルの贈与を受けたから、これは相続財産とみなすべき特別受益であると主張するが、右土地については、同相手方名義で昭和50年8月3日付贈与を原因として同年9月10日付で所有権移転登記がなされていることは登記簿謄本によって認められるけれども、同人(昭和5年12月4日生)は、昭和27年6月21日に川上徹治及び同サヨの養子になるとともに、同人らの子である川上美鈴と結婚して、長年にわたり被相続人とは生計を別にしており、しかも右移転登記当時既に44歳であって、平成2年4月当時には県立養護学校校長という要職にあるなど、被相続人から生計の資本としての経済的援助が必要とも思えないことなどからすれば、被相続人が右時点で右土地を相手方川上圭介に贈与したと認定するのは相当でなく、かえって何らかの事情のため右移転登記をしたのではないかと推認されるのである。しかも、抗告人は、家庭裁判所調査官の事前調査の際、この点の指摘、説明を何らしていないことをも考慮して検討すると、この土地を特別受益に含まれると認定することはできない。

5  また、抗告人は、相手方上村一夫が昭和22年に結婚し、昭和24年に再婚した際の2度の挙式費用を被相続人に出してもらったと主張する。しかし、原審記録によると、抗告人も2度挙式しその各費用を、相手方川上圭介は婿入り道具を、相手方林田久子も2度挙式しその各費用並びに嫁入り道具を、それぞれ被相続人に出してもらったことが認められるから、特に相手方上村一夫のみが、その種の特別受益をしているわけではない。更に、抗告人は、被相続人は、被相続人死亡による保険金の配分金額が相違すると主張するが、原審認定額が間違いであると認められる証拠はない(なお、前記のとおり、原審判は、添付物件目録(9)及び(11)記載の各土地について、その面積を取り違えているが、その評価額の計算においては、それぞれ正確な面積を基にしており、計算結果に影響を及ぼすものではない。)。仮に仏壇購入費を相続人らの共益費用とみずに、相手方上村一夫個人の所有物件購入費用とみるとしても、その金額は280万円に過ぎない。そして、前記挙式費用等の費用を抗告人、相手方ら4名ほぼ同額の各200万円とみて、原審採用の計算式に当てはめてみても、抗告人の特別受益額2035万0770円を超える額の相続分が抗告人に生ずるとは認められない。よって、右抗告人の主張は、原審認定額に影響するものではない。

6  ところで、抗告人は、当審において、右1ないし5の各主張事実を立証するために抗告人本人の審尋を求めている。しかし、原審記録によれば、相手方らは、第3回を除きいずれも原審調停に出頭し、話合いによる円満な解決を求めているにもかかわらず、抗告人は原審調停第1回から不成立となった第5回まで不出頭を重ね、原審裁判所からの書面による照会に対しては、裁判所が介入する問題ではない、相手方上村一夫が誠意をもって、今後上村家の財産をきちんと守ること、抗告人に対しても他の兄弟同様差別なく交際することなどにつき、話し合い、感情問題を解消すれば解決するかのごとく述べて回答せず、右書類等の一切を原審裁判所に返送したばかりか、家庭裁判所調査官による事前調査のための呼出しにも3回目でようやく応じたという状況であったのであり、遺産分割に関する意見としても、右同様の発言を繰り返し、被相続人の遺産を貰う意思はない、相続分については何も主張するつもりはないと述べ、結局、原審においては、相続財産等に関して何ら具体的な主張ないし証拠を提出しようとはしなかったこと、しかも、その間、相手方上村一夫が仲介者を入れて、抗告人と話し合おうとしたが、全く相手にされなかったことが認められる。

抗告人は、このような原審における態度を原審判後一転させ、原審認定を争い、原審において何ら主張しなかった事実を主張、あるいは、記録に現れた諸資料に反する主張をするに至ったが、それらはいずれも原審記録並びに当審提出の書証によっても、理由があるとは認められないことは、前記のとおりである。すると、抗告人が当審で、主張・立証の補充として、更に抗告人本人の審尋を求めたことは、それが本件相続をめぐる紛争を他の相続人らと協力して解決すべき関係人として単に不誠実な態度であるというに止まらず、手続的には時機に遅れた申出であり、その遅れは、抗告人の故意または重大な過失によるものというほかなく、他方、抗告人のこうした申出を許すと、更に本件審理が遅延し、迅速な解決を欲する相手方らに不利益を与えるばかりか、裁判所の負担をいたずらに増大させ、適正かつ迅速な遺産分割審判の遂行を阻害する結果をも招来することとなる。そうすると、本件のような事案においては、裁判のための基礎資料の収集が裁判所の職権探知事項であるとされる遺産分割の審判手続、同抗告審においても、民事訴訟法139条の趣旨を類推適用することができると解すべきである。したがって、本件では、同条に基づき、抗告人の右申出を却下するのが相当であり、当審としては、抗告人の審尋を採用しないで判断するものである。

三  よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 井上孝一 裁判官 秋武憲一 田中敦)

(別紙)

抗告理由書

頭書遺産分割事件についての抗告理由は左記のとおりである。

一 事実誤認

原審判は、次の点で事実を誤認している。

1 「被相続人は相手方(抗告人)上村弘が昭和33年11月ころ別紙目録記載物件(21)の土地を他から購入するに際しその購入資金全額を同人に生前贈与した」とする点は事実誤認である。

(一) 別紙目録記載物件(21)(以下「本件土地」という。)は、当時、抗告人上村弘が自分の資力で買い受けたものである。

代金は、1坪当たり金1万5,000円で端数を切って金56万とし、手持資金で手付金5万円を支払い、残金は○○銀行○○支店から借り入れて支払った。○○銀行○○支店からの借入金は、抗告人上村弘が月々返済していたものである(約束手形等)。

(二) したがって、本件土地を特別受益とした原審判は重大な事実を誤認したものである。

2 「別紙目録記載物件(7)の土地には相手方(抗告人)上村弘のため主文掲記の仮登記がなされているが、この登記は被相続人が生前に財産を浪費されるのを防止するため形式的になしたものに過ぎず、実体を伴わない登記である」とする点は事実誤認である。

(一) 右土地は、抗告人上村弘が被相続人から昭和49年6月12日贈与により取得したものであり、抗告人上村弘固有の所有土地であり、相続財産には含まれないものである。

(二) 被相続人は、長男一夫が被相続人や被相続人の父(抗告人・相手方らの祖父)の土地を勝手に売却し、売却金を浪費するのを苦慮し、一夫が浪費して遺産を消失させる前に他の息子である弘・圭介に少なくとも田圃を各1枚確保させることを決意し、生前贈与をなしたものである。

(三) その結果、昭和49年6月に右土地が抗告人上村弘へ生前贈与され、翌昭和50年8月に○○市○○町○○××番田1036平方メートルの土地が圭介へ生前贈与された(不動産登記簿謄本)。

(四) したがって、右土地は抗告人上村弘固有の所有地であって、相続財産には含まれない。

二 上村一夫の特別受益

また、原審判は、相手方上村一夫の特別受益を看過している。

1 上村一夫は、昭和48年12月25日○○市○○○×××番田456平方メートルの被相続人名義の土地を石山真澄に代金420万円で売却し、その代金全額を取得している(不動産登記簿謄本)。(税務申告上は契約金額は115万円としているが、実際は420万円である。)

2 また、上村一夫は、昭和22年に初婚、昭和24年に再婚しておりその挙式費用等は全て被相続人が拠出している。

3 更に、上村一夫は、昭和32年3月27日、被相続人所有の土地を売却し、その売却代金で○○市○○○○××番の土地を購入し所有している。右土地の評価は400万円を下らない(不動産閉鎖謄本)。

三 結論

1 以上より、本件相続財産は原審判の物件目録(1)ないし(6)・(8)ないし(20)の土地(評価額37,076,700円)である。

2 みなし相続財産

(一) 上村一夫は生前前記二で記載した生前贈与を受けておりこれは価額にして1,000万円を下らないものであり、また、交通事故による保険金5,030,260円(賠償金8,842,260円から川上圭介受領分100万円・林田久子受領分100万円・上村弘受領分181万2,000円(預金通帳)を控除した金額)を受領しているので、右金額は合計で15,030,260円である。

(二) 川上圭介は生前一2(三)記載の○○市○○町○○××番 田の贈与を受けており右土地の評価は500万円を下らないものであり、また保険金100万円を受領しているのでその金額合計は金600万円である。

(三) 上村弘は生前前記一2(三)の土地の贈与を受けておりその評価は4,361,000円であり、また保険金1,812,000円を受領しているのでその合計は6,173,000円である。

(四) 林田久子は保険金100万円を受領している。

(五) したがって、みなし相続財産は、前記1の37,076,700円に前記2(一)ないし(四)を加算した金65,279,960円である。

3 上村弘の相続分

(一) 上村弘の相続分は

65,279,960円×1/4-6,173,000円 = 10,146,990円

である。

(二) また、○○市○○○×××番 田881平方メートルは上村弘固有の土地であって相続財産ではない。

4 それ故、上村弘に相続分(取得分)がないとする原審判は取消されるべきである。

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